日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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目が腐る小ネタと4コママンガを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜に更新!

邂逅ー第21話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

 ―四日目 昼―

 

 特にすることもなく、昨日はそのまま眠ってしまって今もベッドの上だ。

けっきょくセラードのブローチを作る気にもなれず、気づけば今日は作戦の遂行日。私は参加しないけど……。

 

 アルコたちは潜水艦でシュトゥルーヴェ方面の海へ向かい、相手にわざと気づかれる。

そして攻めてきたらゴレスターンで迎え撃ちながら脱出し、敵を潜水艦ごと沈める、という作戦だ。

 

 つまりは反撃の体勢ということになる。

攻めに行くよりも攻められるのを待つという、かなり捨て身の作戦だ。

ほとんど賭けの部分もあるけど、アルコたちなら大丈夫だと信じたい。

 

 コンコン。

 

 扉がノックされ、返事をする。

 

「セラード様? お客様が」

 

 扉の反対側にいる軍人がそう言った。

 

「は、はい。今から行きます」

 

 ベッドから降りて急いで支度する。髪の毛をセットして服を着替えて、諸々を準備する。

 

 でも、お客さん? この私に? ……セラードだって学校には行っている。

可能性としては、セラードの友達だろう。

もしそうだとしたら、辻褄を合わせるのが難しい。

 

 急いでセラードを完成させ、私は扉を開いた。

 

 扉の奥で待機していた二十代後半の軍人――たしかリヨン――が姿勢を低くして私を見た。

 

「お、お客さんって、誰ですか?」

 

「セラード様は、ルートとラウマをご存知ですか?」

 

 もちろん知っている。

高校生の娘がいるルートと、病気の高校生の妹がいるラウマだ。

どちらもゴレスターンの部屋を警備していた親しい関係だ。

セラードもよくお世話になったから知っている。

 

「は、はい。一緒にペルセポリスにも乗りましたから」

 

「実は、ルートの娘さんと、ラウマの妹さんが来ています。メリダ様かセラード様に会いたいと仰ったので……いかがいたしましょう」

 

 となると必然的に私、ということになる。

 

「会います。みんなが戦う前なんだから、今はやれることを」

 

「分かりました。案内いたします。食堂に待たせておりますので」

 

 リヨンに誘導され、食堂に到着した。もし私が断ったらどうするつもりだったんだろう。

 

「念のため武器を所持しているかチェックしましたが、問題ありませんでした」

 

 リヨンはそれだけ言い残して、その場を後にした。

 

 ルートとラウマの家族なら、問答無用で信用できる。

 

だから特に警戒もなく、食堂に入った。

端の席に無難な私服姿の女性が二人いた。

高校生くらいの雰囲気だ。

 

 私は二人に歩み寄って声をかけた。

 

「あの」

 

 二人がこちらを見る。一人は車イスで赤いメガネ。

知的をそのまま擬人化したような人だ。

もう一人は黒のロングヘアーでキリっとした目つきの意志が強そうな人だった。

 

「あ、あの、セラード様、ですよね?」

 

 意志の強そうなほうが立ち上がって興奮気味にそう言った。

私は急いで二人の前に座って落ち着かせる。

 

「い、いえ、そんなにかしこまらなくてもいいですよ。お二人はお客さんですし。とりあえず、座ってください」

 

 事情を訊いた。

意志が強そうな方は、ルートの娘さんのアニ・ヘンダーソンさん。

メガネのほうはラウマの妹さんのミディ・パースさん。

確かにどことなく似ている。

ミディさんは足が動かず声も出ないらしい。

ラウマにはある程度聞いてはいたけど、実際に会ったのは初めてだ。

 

 お客さんに敬語を使われるのは居心地が悪いから、二人には敬語をやめるよう言っておいた。

 

「それで、どういう要件ですか?」

 

「私、メリダ様に会いたいの。親父……父のこと、少し聞いておきたくて。メリダ様はどこに?」

 

「あ、姉様は……」

 

 私が死んだことはまだ公(おおやけ)にはなっていない。

ここで二人だけに報告するわけにもいかないし、隠すしかないだろう。

 

「ちょっと今は手が離せなくて、私しか空いてないんです。私じゃ、ダメですか?」

 

「い、いや、そんなことは……」

 

 と言いつつも、アニさんはどこか不服そうだ。それも当然だと思う。

姫とはいえ十歳のセ

ラードにはそこまで期待しないのが普通だ。

 ミディさんはノートに何かを書き始めた。

声が出ないから筆記しかないんだろう。

 

『兄さんのこと、私も知りたい』

 

 ノートをひっくり返してこちらに向ける。

書かれている一行には切実な思いが籠っているように見えた。

だから私も、少しでも期待に応えてあげたかった。

 

「ルートとラウマは、とても優秀な軍人です」

 

 “でした”とは言わなかった。

まだ生きていると信じているから。

 

「昔、私もよくお世話になりました」

 

「生きてると、思う?」

 

「もちろんです。私も姉も生きて脱出しましたし、あの二人のことですから大丈夫ですよ」

 

「じゃあ、どうして帰ってこないの?」

 

「それは……きっと遠いところに落ちたんです。通信機器とかも故障していて、帰るのに苦労しているんだと、思います」

 

 頼りがない発言だと思われたに違いない。

私自身も自分の発言をそう思う。

 

 アニさんは涙を流し始めた。

隣のミディさんもメガネを外して涙を拭っている。

 

「じ、実は」

 

 アニさんが若干の涙声で言った。

 

「実は、この前やって来た転校生が、転校してすぐに殺されちゃったの」

 

 こ、殺された? とつぜん槍のように突き刺さった言葉に、私は息を飲む。

 

「それで、その人と仲の良かった男子と犯人捜しの協力をすることになって。でも、その犯人と会ってみて、すごく怖かった」

 

 それだけじゃどういう話なのか分からないけど、アニさんの涙から緊迫した状況だけは分かった。

でも個人の殺人事件だなんて、今の私には大きすぎる話だ。

 

「ごめん。こんな話しても分からないよね。今のは忘れて」

 

 そう言ってアニさんは立ち上がった。目に涙を残したままだったけど、もう話は終わりらしい。

ミディさんも同じ意見のようで、ノートで語ることはなかった。

 

「じゃあ、もう帰ります」

 

 アニさんはミディさんの車イスのハンドルを握って歩き出した。

私は、これ以上かける声がなくなって黙ってしまう。

 

 何か、話題はないだろうか。

何か、重要な情報を得られそうな気がする。

 

「ま、待ってくださいアニさん」

 

 立ち上がってアニさんの背中に言った。

アニさんたちに失礼のない程度で、少しでも有力な情報が得られそうな質問。

これしかない。

 

「あの、デルフィ・ソルテアって、知ってますか?」

 

 同じエフェソス国の病院で亡くなったデルフィ・ソルテアのことだから、アニさんたちが何か知っているかと思った。

 

 アニさんが振り返り、

 

「今、なんて言ったの?」

 

「で、デルフィ・ソルテア、と」

 

「どうして知ってるの、転校生のこと?」

 

「え?」

 

 転校生? さっき言ってた、殺された転校生……?

 

「……その、姉の部屋にあったノートに、たまたまそう書いてあって」

 

 本当は姉である私じゃなくてセラードだけど、この際どちらでもいい。

 

「もしかして、デルフィと知り合い、とか?」

 

「いえ、そういうわけでは……と、とにかく姉がどうしてその人の名前をノートに書いたのかは分かりませんけど、同じ名前だったので、何か関係があるのかと……」

 

「関係、か。残念だけど、私には……」

 

 ミディさんも同様だったらしく、首を横に振った。

 

「デルフィ・ソルテアさんがどういう方だったのかもわかりませんか?」

 

「ごめんなさい。私、デルフィには会ったことなくって。なにせ転校初日が最後だったから」

 

「仲の良かった方とかは、いないですよね」

 

 最後の希望とばかりにダメ押しをしてみた。

もう情報を得られないだろうな、と期待はしていなかったけど、意外にもそうではなかった。

 

 人差し指をピンと立てたアニさんは、ポケットからスマホを取り出した。

 

「そういえば、一人の男子が仲良かった。今から電話かけてみる」

 

 アニさんは器用に画面を叩いて電話をかけた。

しばらく待つと、その人物が電話に出る。

 

「アニだけど、あのさ、今いい?」

 

 電話の向こうから話す声は私には届かない。

届いたとしても盗み聞きするつもりもないけど。

 

「デルフィ・ソルテアってさ、どういう人だった?」

 

「……いや、ほら、念のためさ」

 

「……え!? そうなの!? そっか……でも良かったね。ごめんね、力になれなくて。ミディもそう言ってたから」

 

「……それで、話を戻すけど、デルフィはどんな人だった?」

 

「……うん、分かった……」

 

「……うん。ごめん、急に訊いちゃって。じゃあまた」

 

 電話を終えたアニさんはスマホの画面を指で叩いてポケットに戻した。

 

 ミディさんをそのままに、アニさんはまた私の正面に腰かけた。

 

「デルフィと仲良かった男子と話したけど、とっても可愛げがあって、ゲームが好きで、まるで小学生みたいだなって言ってた。褒め言葉としてね」

 

 それだけ聞けて安心した。

私の心に巣くっていたモヤモヤしたものが晴れていくようだ。

 

「ただ一日だけしか会えなかったから詳しいことはよく分からないらしいけど、そう言ってた」

 

「そうですか……可愛げがあって、ゲームが好きで小学生みたい、ですか」

 

 まるでセラードをそのまま高校生にしたような感じだ。

もしかしたら、私よりデルフィさんの方が似ているかもしれない。

 

「それと、なんとかバッファローってマンガの動物が好きだって。なんか長い名前のやつ」

 

「それって、ヘッドスマッシュ&イン・バッファロージャンプのことですか?」

 

 密かに調べて覚えていた甲斐があった。

まさか役立つ瞬間があるとは。

 

 アニさんは弾かれたように指を突き出した。

 

「あ、それそれ。それのアルパカとシマウマのぬいぐるみをゲーセンで取ったって」

 

 具体的にどう繋がりがあって、なぜそこまでセラードとデルフィさんが近い存在なのか、私には掴めない。

だけど自信は確信になった。

セラードとデルフィさんは、無関係じゃない。

 

「ありがとうございました。なんだか、安心しました」

 

「安心? そう。じゃあ私たち、そろそろ帰ります」

 

 アニさんが立ち上がってミディさんの車イスを押しながら歩き出した。

デルフィさんとセラードが繋がった喜びが私にはあったけれど、アニさんたちは大事な家族が帰ってこなくて悲しんでいるんだ。笑顔で送るわけにもいかない。

どんな風に別れれば適切なのか整理できなくて、けっきょく何も言えずに背中を見送った。

 

 これでよかったのかもしれない。

残った私の役目は、作戦が終わるまで待機するだけだ。

 

 もう戦っているのかな。

それともまだ待機している状態なのか、今から出発するのか、私には関係のない話だけど、気にならないわけもない。

 

 そうだ、さっき私をここまで案内してくれたリヨンなら、きっとアルコのところまで連れて行ってくれるはず。

 

 食堂を出て少し歩くと、壁の隅に立って耳に付けた通信機でどこかと通信しているリヨンが見えた。すぐに近づいて要件を伝える。

 

「り、リヨン。私を、潜水艦のところまで連れて行ってください」

 

「え、いきなりそう仰られましても」

 

 リヨンは露骨に嫌な顔で首を横に振った。

きっとアルコにもあらかじめ止められていたんだろう。

セラードをこっちに連れてくるな、と。

 

「お願い、します。どうしても行かなくちゃならないの」

 

「危険です。あっちと通信をしたんですけど、まだ敵が攻めてこなくて待ちぼうけらしいです」

 

「ま、待ちぼうけ?」

 

「詳しくは言えませんけど、うまくいかないそうで」

 

「場所、どこですか?」

 

 アルコから作戦の場所を訊いておくべきだった。

どのみち教えてはくれないだろうけど。

 

「い、言えませんよ」

 

「お願い。どうしても気になるの。それに、私も戦いたいの」

 

「わ、分かりましたよ、訊いてみますよ」

 

 リヨンは背中を向け、耳に付けた通信機で通信を始めた。

相手の声は一切聞こえないけど、あっちへ繋がっているはずだ。

特に期待はしていなかったけど、やがてリヨンが「えっ?」と少し大きめな声で驚いた。

 

「せ、セラード様ですか?」

 

 リヨンがそんなことを言う。

どうして、私の名前が出るのか。リヨンは私に振り返り、

 

「はい、ここにいますけど……えっ!? 僕が連れて行くんですか? でも、さすがに危険なんじゃ……は、はい。急ぎます。大丈夫……です。え? 娯楽室? え、えぇ」

 

 リヨンは通信を切った。

きょとんとする私と同じ目線になるよう姿勢を低くし、苦笑いを浮かべる。

 

「あ、あのー。出動です。使うときが来るかもしれないから、いちおうこっちに連れて来い、とアルコさんが。車であっちまで向かいますけど、いいですよね?」

 

「あ、は、はい!」

 

 詳細は分からないけど、ようやく私にも役目が回って来た。呼ばれたのなら、行くしかない。

どんな仕事でもやってやる。

雑用でもなんでも、やってやる。

 

 セラードの体は傷つけたくはない。

だから心の痛みだけならいくらでも受けるつもりだ。

 

「それと、娯楽室の隣の壁の傷がどうのこうのって言ってましたけど」

 

「娯楽室、の、隣?」

 

 娯楽室の隣……そういえば、ペルセポリスが落とされる前に一度だけ確認した壁に少しだけマッチを押し当てたような焼けた跡があったんだ。

 

 セラードがあんな目にあって、それからすっかり忘れていた。

覚えていたとしても、ペルセポリスが落ちてしまったからもう意味はないはずだ。

 

 でも、アルコがどうしてそのことを、しかも今更言ったのか……?

 

「もしあれを見ていたら、迷ったときに思い出せ、だそうです。とにかく伝えましたよ。じゃあ、行きましょうか」