日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

目が腐る小ネタと4コママンガを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜に更新!

別れー第20話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

 

 

 周囲を取り囲んでいた遺跡のような風景は、勝負の終了とともに消え去った。

 

 目の前には、変身が解除され膝をついたアルベロの姿があった。

 

長い金髪に切れ長の目という爽やか全開な顔だけど、それはあくまでゲームでの姿だ。

 

 敗者らしい惨めな姿だ。

本当なら、好き勝手に罵倒を浴びせてやりたいくらいだ。

 

「や、やるじゃないか」

 

「うるせぇ。早くデルフィのことを教えろ」

 

「ふん。いいだろう……約束だからね」

 

 と、アルベロが説明を始めようとしたとき、ある人物がこちらに寄って来た。

 

「ナスカ、大丈夫か」

 

 そこには、まるで仲間のようにスライムマンがいた。

 

 やっぱりあの剣はこいつのものだったか。

 

「感謝するよ。まさかいきなり送られてくるとは思わなかった」

 

「まぁいい。それより、きみは姫と繋がりがあるそうだからな、黙っていられなかった」

 

 まだ勘違いしているのかこいつは。

むしろこいつは姫とどういう関係なんだ。

同級生か?

 

「いや、まぁいい。詳しくは分からんが、このアルベロという男と大事な話があるそうだな、席を外させてもらう」

 

 スライムマンはそう言い捨ててその場を去った。

最低限の空気を読むという技術は持ち合わせているらしい。

ようやく、アルベロと二人になれた。

デルフィの話を聞ける。

 

「アルベロ、話の続きだ、話せ」

 

「あぁ、いいよ」

 

 ようやく、聞きたかった話が聞ける。

聞いたところでデルフィが帰ってくるわけじゃないけど、それでもいい。

俺は真実を知りたい。

 

「――まず単刀直入に言おう。私はデルフィ・ソルテアのストーカーだ」

 

「は? 何言ってやがる」

 

「本当さ。あの子が死ぬ前から、ずっと見ていた」

 

「ふざけんな。死なせたのはお前だろ」

 

「いや違う。あの子は、私が殺す前に一度だけ死んでいるんだ」

 

 理解できない。

こいつ、おかしいんじゃないのか。

いや、頭のおかしくないやつはストーカー殺人なんてやらないだろうけど。

 

「まずあの子の本名のことだが、あの子はエトナ・ウルネスという名前」

 

「え、エトナ・ウルネス?」

 

「あの子が一度目の死を迎える前――私が殺す前日。学校帰りのあの子をつけていると、あの子は森に入った。何をするかと思えば、持っていた縄跳びを木にくくりつけて首を吊ったんだ」

 

「な、なんで自殺なんか」

 

「知らないよ。家庭の事情かなにかだろうけど」

 

「お前が何かしたんじゃないのか」

 

「バカを抜かすな。あの子を殺したこと以外に手を加えてはいない。ただ観察していただけさ」

 

 その“殺した”ことが一番重要なことだが、こいつにとって大きなことではないらしい。

 

「とにかく、自殺の動機は知らない、でも観察を続けた」

 

「お前、デルフィが自殺するってのに止めないのかよ」

 

「必要ないだろう? 自殺は個人の意思さ」

 

 アルベロを殴ってやりたかった。

でもやめた。機嫌を損ねて逃げられたら台無しだ。

だから仕方なく突き出そうとした拳を抑えた。

 

「それで、あの子は、エトナは死んだ。でも生きてた。縄跳びを引っかけていた枝は折れて、あの子は地面に倒れた。脈は確認したよ。すでに死んでいた」

 

「それで、死んだデルフィにお前はなにをした」

 

「なにもしてない。死んだあの子には興味がない」

 

 つくづく頭のぶっ壊れたやつだ。

 

「それでも気になってね。隠れてじっと見ていたんだ。そうしたら、動いた。だから私は思い切ってあの子に訊いた。大丈夫かい? って。そしたら、姉様は大丈夫ですか? って言った」

 

「は? 姉様?」

 

 まるでどこかの姫みたいだ。

セラード・エーランドもこんな口調で姉のことを呼ぶんだろう。

 

「妙だと思ったよ。急にペルセポリスだのメリダ・エーランドだのエフェソスだの、まるで姫みたいなことを言った」

 

 ペルセポリスは姫が乗っていた船の名前で、メリダ・エーランドは姉の名前。

エフェソスはこの国の名前だ。

 

 俺の、デルフィとセラード・エーランドが繋がっているという考えは、やっぱり間違っていないかもしれない。

 

「それから、あの子は急に自分のことをデルフィ・ソルテアと名乗った」

 

「急に名乗っただと?」

 

「名前を覚えてないんだそうだ。だから、自分が姉の誕生日に向けて作っていたブローチの名前を咄嗟に名乗ったらしい。ソルテアは没らしいが」

 

「な、なんでそんな名前を名乗ったんだ」

 

「知らないよ。真相は彼女しか知らない」

 

 いちいち殴りたくなるやつだ。

 

「とにかくあの子はそう言った。それからは、まぁ分かるよね。きみの学校に行き、きみと仲良くなり、そして私に殺された」

 

 デルフィの本当の名はエトナ・ウルネス。

自殺して生き返りセラード・エーランドらしきことを言った。

俺と出会うもストーカーであるアルベロに殺された。

まとめるとこういう感じか。

 

「ま、非科学的なことをあまり信用したくないんだが、まるでセラード・エーランドと死んだ直後のあの子が入れ替わったみたいだね。ペルセポリスでもトラブルがあったようだし、同じタイミングで二人が死んだってこともあるかもね」

 

 同じタイミングで死んだ――。

 

 アルベロに同意するのは悔しいが、そういうことかもしれない。そんなファンタジーなことを信じたりしないけど、そのゴレスターンとやらにそういう力があれば、可能性もある。

 

「話は終わりだ。さようなら、アトスくん」

 

 そう言い捨ててアルベロはログアウトしようとした。

このまま逃げたって構わない。

俺には秘策がある。

ここで、こいつを捕まえてやる。

 

「待てよアルベロ。まだ訊きたいことはある」

 

「なんだね」

 

「どうせお前は逃げるんだ。手土産くらいいいだろ」

 

「ほう、いいだろう」

 

「アルベロ、お前、ゲームの中でもデルフィと関わってただろ」

 

 デルフィは死に際に言っていた。

本当の名前は知らないけど、ゲームの中のアルベロという名前は知っている、と。

 

 本名を知らないのは当然だ。

こいつがデルフィを見ていただけなんだから、でもゲームでの名前を知っているということは、接触があったってことだ。

 

「お前、俺より前から……いや、デルフィがお前にやられる前からゲームしてるだろ」

 

「もちろんさ」

 

「ゲーム内でもデルフィと接点があっただろ。だから現実での姿を見てストーカーを始めた」

 

「それは違う。ゲーム内で雑談していたら、自然と住んでいる場所が分かった。ほとんどずっと見ていたからね、名前くらいなら情報は入ってくる」

 

「あぁアルベロ、それだけ聞ければ満足だ」

 

「満足?」

 

「――出て来い! 出番だ!」

 

 俺が叫びながら高く手を上げると、どこからかポン子とデュー子が現れ、ワイヤーアクションみたいに空を飛びながらアルベロの前に立ちはだかった。

 

「なんだ、これは」

 

 いきなりのことにアルベロは動揺することなく冷静に言った。

 

「アルベロ、俺はお前を逮捕するつもりだ。本当なら殴ってやりたいくらいだがな、でも最後にお前とデルフィの出会いを訊けて良かったよ」

 

「逮捕? どういうことかな?」

 

「お前はバカ正直にベラベラと自分の犯罪を口にした。俺はいつお前を見つけても対処できるように、ポン子とデュー子にチェックを頼んでいた」

 

「逮捕するのか。確かにゲーム内とはいえ、ここまで言ってしまえば逮捕もあり得るだろうね」

 

 なんだ、この妙な冷静さは。

 

「キャラクターネーム“アルベロ”さん。あなたの言動は確認しました。犯罪を行ったと認識してよろしいですね?」

 

 デュー子は機械的に言う。

見た目はリアルだけど、プログラム通りにしか言えないんだろう。

 

「アルベロ、諦めろ。もうお前はログアウトしても捕まる。IDとか位置情報とかですぐにな」

 

「アトスくん、きみはなにか勘違いをしているよ。私はね、別に逮捕されたっていいんだ。そんなこと、些細なことさ」

 

 アルベロの表情は一つも変わることはなかった。

それはゲームだからなのか、人殺しをするようなやつだからなのか、どちらにせよこいつが異常なのは十分に伝わった。

そんなこと伝わったって嬉しくないけど。

 

「“アルベロ”さん。もう警察には連絡したから、逃げてもムダだよ。その様子じゃ逃げるつもりもないみたいだけど」

 

 ポン子はいつになく真面目な口調だ。

しかし、ゲームなのにそんなに早く警察に連絡できるのか、まるで軍隊みたいだな。

 

「じゃあナスカさん、ありがとうございました」

 

「え? いや、そんな大したことじゃないよ」

 

「いいえ、高度なゲームほど、こういうのが多いんです。大事なのですよ、こういうことが」

 

 デュー子にそんなことを言われ、なんとなく居心地が悪くなった。

俺はあまり面と向かってお礼を言われるような人間じゃないから、慣れてないのかもしれない。

 

「あとはこちらでやりますので、現実の方でアルベロさんが逮捕されるのを待つだけです」

 

「え? ああ、じゃあ、俺はログアウトしようかな」

 

 あとはもうゲーム世界でやることもない。

アルベロについては解決したし、デルフィについても知ることができた。

そして、アルベロも逮捕できた。

 

 もう、俺がここでするべきことなんてない。

 

           ―四日目 昼―

 

 なぜだか、意外にもすんなり解決してしまった。

 

 アルベロのやつは、本当は逮捕してもらいたかったのかもしれない。

そうじゃなきゃ、ああもあっさり発見できるわけないし、無抵抗にならない。

 

 急にやることがなくなって、どうにも心に穴が空いてしまったような感覚になる。言

葉の正確な意味なんてよく分からないけど、そんな感じだ。

 

 俺は、デルフィと普通に友達になれればそれでよかった。

なのに、気づけば殺人事件に関わることになって、犯人を逮捕までしてしまった。

 

 俺は、これから何をしたらいいだろう。

 

 長年続いた映画シリーズを制覇したような、五十巻くらいのマンガを読み終えたような、そんな例えしかできないような虚無感が襲ってきた。

 

 

 でもそれでいいんだ。

 

デルフィは悔しかっただろうけど、全て解決した。

 

それで、いいんだ。

 

 

 俺は今、デルフィとの最後の場所――家の近くの駅にいる。

 

学校に行くための電車を待っているんじゃない。

 

なんだか、家にも学校にも行く気がなかっただけだ。

 

人と関わりたくなくて、ただ無駄に時間を浪費していただけだ。

 

 ぼうっと空を眺めていた時、急にスマホに着信。相手が誰でもどうでもよかったけど、無視しようとも思わなかった。

億劫ながらも確認すると、相手はアニだった。

 

『アニだけど、あのさ、今いい?』

 

「なんだ。お前か。なにか質問か?」

 

『デルフィ・ソルテアってさ、どういう人だった?』

 

 このタイミングでこの話題とは。少なくともアルベロの話なんかよりはいいけど。

 

「なんでそんなこと訊くんだ」

 

『いや、ほら、念のためさ』

 

「念のため、か。……そうだ。デルフィの件だけど、解決したよ。アルベロも捕まえた。もうあの件には関わらなくてもいい」

 

『え!? そうなの!? そっか……でも良かったね。ごめんね、力になれなくて。ミディもそう言ってたから』

 

「あぁ。いいよ。そっちにもやることあるんだろうし」

 

『それで、話を戻すけど、デルフィはどんな人だった?』

 

「可愛げがあって、ゲームが好きで、まるで小学生みたいだったよ」

 

 いま思うと、デルフィはやっぱり姫みたいな雰囲気だった。

それでいて、子供っぽくもあって大人にも見えた。

たったの一日だけだったけど、本気でそう感じた。

 

「それと、ヘッドスマッシュ&イン・バッファロージャンプってマンガが好きで、もっと仲良くなれる気がした、そんな人だよ」

 

『うん、分かった……』

 

「それだけか? 俺は、ちょっと休みたいんだ」

 

『うん。ごめん、急に訊いちゃって。じゃあまた』

 

 電話は終わった。

なんでそんなことを訊いてきたのか分からないけど、別にいい。

 

 スマホをポケットに戻し、また何もない空を眺める。

 

 デルフィは失ってしまったけど、俺は不幸ではない気がする。な

んとなくだけど、そう思える。

そうやって、無理やり納得した。

 

 ――俺は電車に乗った。

空っぽになった心のまま、学校に向かうことにした。

一人でいたら何も考えられなくなってしまいそうだったから。

 

 デルフィ、きみは、幸せだったのかい。

 

 どうして、自殺なんてしてしまったんだい。

 

 どうして、俺なんて男と一緒にいてくれたんだい。

 

 どうして、ここにいないんだい。

 

 俺とデルフィが一緒にいたことって、何か意味があったのかな。

いや、どこかで奇跡があったと思いたい。

俺の知らないような奇跡が、きっとあるって、そう思いたい。

 

 さようなら、デルフィ。