日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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目が腐る小ネタと4コママンガを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜に更新!

あいつは誰だー第12話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

 

 

 ―二日目 夜―

 

 ミスティミラージュ・オンラインでデルフィ――いや、ゲームでの名前はソルテア――と待ち合わせをしていたのに、時間になってもデルフィは姿を現さなかった。

 

 ゲームを中断してみると、デルフィから電話がきていた。

お腹を刺されて駅に辿り着いたデルフィに茫然自失になった俺だったけど、なんとか意識の首根っこを捕まえて家に戻った。

 

 それから、デルフィが口にした“アルベロ”なる人物から電話がかかってきていた。

 

『初めまして。私の名前はアルベロだよ。お友達は元気かな』

 

 知らない声だった。

というより、変声機のようなもので声を変えていて、まるでニュースに登場する目撃者Aさんのような妙に高い声だ。

 

「誰だよお前、なんで俺の携帯の番号を知っている……?」

 

「だから私はアルベロだ。

番号はきみのお友達の携帯から見てね、悪用しないから安心しなよ」

 

「ふざけんな……ふざけんなよお前!」

 

 危うくスマホを投げつけそうになった。

ぐっとこらえて電話の向こうにいるそいつに質問をぶつける。

 

「お前、あの子を刺したのか、どうなんだよおい」

 

「あの子、あの子とは?」

 

 あえて名前は出さない。

無関係の可能性も考慮したうえのことだ。

 

「とぼけるな。お前のせいで腹から血を流して救急車で運ばれたんだよ。お前がやったんだろ」

 

「やった、私がね」

 

「クソ!」

 

 俺は電話を切った。

急いでそいつの番号を紙にメモし、着信拒否の設定をした。

 

 これ以上あいつと話していても、しらばっくれるだけだ。

 

 汗ばんだ手でスマホをベッドに投げ、頭もくしゃくしゃにかき乱した。

わけがわからない。

なんで夕方まで平和だったのにこんなことになるんだ。

なんで俺やデルフィがこんな目に合わなくちゃならないんだ。

あいつは誰だ。

なぜ刺された。

いつ刺された。

デルフィは無事なのか。

なにがどうなっているんだ。

何も分からない。

誰か教えてくれ。

 

「そ、そうだ」

 

 警察。

警察だ。

あのアルベロとかってやつはバカ正直に電話番号を残していった。

これを使って警察に通報してやれば、すぐに追跡してくれるはずだ。

 

 ベッドに投げたスマホを手に取って警察にかけた。

 

「もしもし! 警察ですか!?」

 

 電話の向こうにいるやる気のなさそうな警官に要件を伝えた。

メモしたアルベロの番号を伝えると「調べときます」とだけ言われて電話は切られた。

かなり信用ならない雰囲気だったが、何もしないよりはマシだろう。

警察でもない俺にはこれくらいしかできない。

 

 ベッドに大の字に寝そべり、少しでも落ち着こうと目を閉じた。

心臓は爆発しそうなくらい動いている。

何度深呼吸を繰り返しても落ち着かない。

 

 大丈夫だ。

デルフィは大丈夫。

人間の体は意外と丈夫にできているんだ。

あれだけ細身で小柄でも、ハムスターや虫とはわけが違う。

人間なんだ。

今の医療技術だってバカにできない。

 

 ダメだ……落ち着かない。

今までの人生で一番落ち着かない。

 

「あー……クッソ!」

 

 なぜか、自分の顔を殴った。

そうすれば落ち着くと思ったからだ。

いや、そんなことしても無駄だ。

明日になればきっと落ち着く。

学校でトレドとバカ騒ぎしてればなんとかなるはずだ。

 

 そんな根拠のない希望をもって、風呂で汗を流してから今日は眠った。

でも頭の中はデルフィでいっぱいだった。

今日一日だけの付き合いしかなかったけど、俺にとってはもう友達だ。

 

 明日は病院に行って、腹に包帯を巻いたデルフィと会ってやろう。

それで、警察に通報したからもう安心だって伝えてやるんだ。

 

 ―三日目 朝―

 

 翌日。

心も体もすべてが疲れきっていて、予定より一時間も遅く起きた。

もちろん遅刻だったけど、学校に行く気力もない。

 

 もう大丈夫だろう。

と思って、デルフィに電話をした。

でも一回コールが鳴ったところですぐに切った。相

手は病院だ。

電話はダメに決まってる。

学校で直接会うしかない。

 

 憂鬱な身体に無理をさせて、億劫だけどベッドから下りた。

制服に着替えて家を出る。

今日使う教科書とかを把握してなかったけど、まぁいい。

 

 ――駅に着いた。

誰かが掃除したのか、ベンチの前にあったデルフィの血痕は消えていた。

それでもジュースをこぼしたような黒い染みが残っていた。

 

 デルフィの家はどこなんだろう。

家族は今、どういう状況なんだろう。

ものすごいパニックになっているに違いない。

でも俺にはそこまで踏み込む権利なんてない。

 

 

 

 遅刻して教室に入ったとき、すでに二限目だった。

ハゲ担任に怒られたけどどうでもいい。

 

 二限目は眠った。

いびきをかいていたかもしれない。

アトスによると堂々と爆睡していたらしい。

でも無理だ。今更まじめに授業を受けるなんて。

 

「おい、どうした」

 

 休み時間になり、トレドが背中を叩いて言った。

 

「転校生も休んじまうし、お前も遅刻するし、今日はどうなってんだよ」

 

「あ、いや……」

 

 この様子だと、まだクラスはデルフィの件を知らないらしい。

昨日の夜のことじゃそんなすぐに情報は回ってこないか。

つまり知っているのは俺だけ。

いやデルフィの家族もか。

 

「なんかあるんなら聞くぞ。っていうか、なんかあるだろ」

 

「あ……いや……」

 

 言うべきか言わずべきか分からない。

俺だけの問題ではないし、失恋や宿題を忘れた程度の話じゃない。

俺が言わなくてもいつか情報はやってくるだろうけど、こんな気分が落ちた顔をずっと晒し続けるのはイヤだったし、自分一人だけで抱えるのも辛い。

 

 せめてアトスにだけは伝えたほうがいい。

そう判断した俺は、それが最善かも分からないままアトスの肩を叩いた。

 

「な、なぁアトス。ちょっとこっち」

 

 教室にいたら誰かに聞かれるだろう。

それは困る。

アトスとそっと教室を抜け出し、廊下の端まで移動した。ここなら誰も盗み聞きするようなやつはいない。

 

「あ、あのさ。実は昨日、マズいことになった」

 

「あのデルフィって転校生と一緒にいただろ。お前らが一緒に外に出たとき、偶然目撃したのさ、学校の中からな。雨の中でも分かったよ」

 

 誰かには見られていただろうけど、やっぱり見られていたか。

 

「で? デルフィとのことか? さっそく失恋でもしたか」

 

 そういうことを冗談のレベルで言えるアトスは無神経だ。

 

「違う。真面目に聞いてくれ」

 

 真面目、という言葉に反応したのか、アトスはやや崩していた体勢を正した。

 

「まさか、デルフィがさっそく休んでいることと関係あるのか」

 

「あぁ」

 

「なぜ休んだ」

 

 なんとなく一緒に帰って、ゲームセンターでぬいぐるみを取ったこと。

その後に電車でゲームの約束をしたこと。

でも約束の時間になっても姿を現さなかったこと。

急に電話がきて、刺されて駅で見つけて救急車を呼んだこと。

学校が終わってからのことを全て説明した。

 

 だがアトスは冷静だった。

心の底から冷静だったかは分からない。

俺の手前だから無理しているだけかもしれないけど、その姿勢が心強かった。

 

 それと、俺が電車を降りるときに見つけた、デルフィの写真を持った黒いフードのヤツについても説明しておいた。

 

「大丈夫なのかデルフィは」

 

「救急車には乗ったけど、それからどうなったのかはまでは……」

 

「そうか。それじゃあ報告を待つしかないか」

 

「それより、犯人について話したい」

 

「お前の話だけじゃ断定できないが、ストーカーか通り魔か、強盗か……まぁその辺だろうな」

 

「やっぱり、そうだよな」

 

「だがまず疑うべきはその黒いフードの男だ。どう考えてもそいつが犯人だろう」

 

「でも証拠がないし、あの写真だって本当にデルフィなのか分からない」

 

「いや、女の子の写真を持って黒いフードって、どう考えても犯人だろ」

 

「警察に言ったほうがいいのかな」

 

「まぁ不審者として通報はできるだろうけど、犯人としてはムリだな。証拠がない」

 

 アトスの頭は意外と頼りになる。

犯人だと決めつけてはいるけど、警察に説明するには決定的な証拠が必要だと理解できている。

 

 警察、と自分で口にして、ふと思い出した。

あのアルベロという人物についてだ。

直後電話をかけてきたことと、番号を警察に伝えたことも説明した。

 

「アルベロか……」

 

「デルフィ曰くゲーム内の名前らしい。現実の容姿やらは分からない」

 

「ゲーム、ねぇ……」

 

 まさかここでゲームが入ってくるとは思わなかったのか、アトスは顎に指を当てて唸った。

 

「じゃあ、その男を探せばいいんだな」

 

「男かどうかは分からないけど。そうだと思う」

 

「番号を警察に伝えたって言ったな? たぶんそれ、ムダだと思うぞ」

 

「ど、どうして?」

 

「わざわざデルフィの携帯を見てお前に電話をかけてくるんだ。そんな簡単に足を見せるようなやつじゃないだろう。どうせもう番号は捨てられてるよ」

 

「そうか……」

 

 となると、あのやる気のなかった警官の努力はムダということだ。

最初から期待してなかったけど、番号からは辿れないか。

 

「じゃあどうやってアルベロを探す?」

 

「決まってるだろう。相手はゲーム内にいるんだ。ゲーム内で探すしかない」

 

 またあのゲームをやらなくちゃいけないのか。

 

「運営に問い合わせてみるっていうのは?」

 

「そりゃダメだ。運営側がプレイヤーについて教えてくれるわけない。やっぱりゲーム内で地道に探すしかないな」

 

 そうは言っても、昨日始めたばかりのド素人がたった一人のプレイヤーを探すのは厳しい。

あの世界で情報収集もいいけど、一人ずつ訊くしかないか。

スライマンってやつにも聞こう。

 

「俺も探してみるけどよ、俺らだけじゃ途方もない。だから仲間を増やすんだ」

 

 トレドが真面目な顔つきで言った。

 

「増やすって……だからどういうことだよ」

 

「そのまんまの意味だ。ちょっと時間をくれ、放課後までに集めておく」

 

「集めるって」

 

「戦士だ。転校生を救うためのな」

 

 

 

 放課後。

真っ赤な夕日が窓から射しこんで校舎を輝かせていた。

俺の心を嘲るように温かい光で、それがなんだか鬱陶しかった。

 

 トレドが俺を呼び出したのは一階の図書室だった。

古い本ばかりで埃臭い場所だけど、なんだか本のにおいというものは落ち着く。

 

 二メートルほどの本棚に囲まれた部屋。

その中心に二つある長方形のテーブルには、車イスに座った女子生徒がいて、トレドが向かい合って座っていた。

 

「おおアトス、こっちだ」

 

 手招きしたトレドの隣に座ると、車イスの女子生徒がノートに何かを書き始めた。

 

「トレド、この人は?」

 

 会ったことのない女子だった。

黒のロングヘアーに真っ赤なメガネという清楚で知的な第一印象だったけど、無口で元気がない。

 

「まぁ見てろ、今この子は自己紹介をしている」

 

「え?」

 

 女子生徒がノートを逆さまにしてこちらに向けた。

『私の名前はミディ・パースです』と書かれ、下には『私は声が出せません』とも書いてある。

なるほどそういう理由か。

 

「……ミディには軍人の兄貴がいたらしいんだが。ペルセポリスが落ちた件で消息不明らしい。ラウマ・パースって名前でな。妹思いの優しい男だそうだ。メリダ姫とも親しかったみたいだ」

 

「なるほど、兄は姫の関係者ってことか」

 

 するとミディはノートを戻して何かを書き始めた。

言葉を話せないというのは実に不便だ。

 

『私は病気で声が出ません。足も動きません。ごめんなさい』

 

 そんなことを書かれても、どう反応すればいいのか分からない。

 

「い、いや、謝らなくてもいいけどさ」

 

『五年ほど前に急に声が出なくなりました。同じタイミングで足も動かなくなりました』

 

「そうか……」

 

 同情すればいいのかはげませばいいのか、困る。

 

『アトスさんは手話はできますか?』

 

 両手でバツ印を作ってノーの返事をする。

 

『では筆記で会話します』

 

「それでいいよ」

 

『トレドさんから話は聞きました。転校生がケガをしたと。あのゲームの中に犯人がいるかもしれないから一緒に探してほしいってことですよね?』

 

 ミディもミスティミラージュ・オンラインをプレイしたのか。

確かに精神をダイブさせるゲームなら身体的な障害は関係ない。

声も出るし足も動くだろうから、ミディみたいな人からしたら夢のような世界だろう。