日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

目が腐る小ネタと4コママンガを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜に更新!

しばしの安息ー第10話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

 

 

隠し事がうまい方だと思ってなかったけど、初日でバレてしまうとは。

これ以上の誤魔化しは無意味だと判断し、正体を明かすことにした。本当はメリダだということは内緒にしておく。

 

「……うう、ごめんなさい、私、本当は妹なんです」

 

「なぁんだやっぱり! どうりで似てると思ったんだよね。ということは、あのおじさんはメリダのお父さん? なわけないよね。歳も合わないし」

 

「お、怒らないんですか?」

 

「怒らないよ。それより、どうしてウソなんてついたの?」

 

「それはその、警戒されると思ったからです」

 

「まぁ、私も今のがなければ信用しなかったよ。でもなぁ、メリダに妹かぁ、可愛いなぁもう」

 

 セラードの顔が褒められて、なんだか私も鼻が高い。

 

「でも、あの帽子は?」

 

 丸いテーブルの上、セラードにはまだ大きすぎるキャスケットがティカルの目に入った。

 

「あれは、姉様から授かったのです。その、なんでかは分かりませんけど」

 

「そっか。でもまだ大きすぎるよね」

 

「ええ、あと五年くらいだと思います」

 

メリダみたいなすっごい美人になれるよ」

 

 それから、ティカルは無数の質問をぶつけてきた。

プライベートではどうだとか姫としての生活はどうだとか、そういう話にあくまで妹だという前提で答えなくちゃいけないから疲れる。

 

 素性を偽っていたことに関して追求してこなかった。

アルコについても同様で、とりあえず信用してくれたようだ。

弾のない拳銃は預かったままだけど、明日には返してくれるらしい。

 

 こうしてベッドに入ったものの、まだ寝付けない。

やっぱり、セラードが死んだ事実を受け止めきれないし、ルートやラウマについても諦められない。

 

 落ち着かない。

ティカルは夢の中だけど、私はこっそりベッドを抜け出して部屋を出た。

 

 階段を下りて一階に行くと、ソファのそばで小さな灯りが点いていた。

どこからか持ってきた小さなシェードランプで手元を照らしながら、アルコが天井を見上げている。

 

「お?」

 

 アルコが下りて来た私に気づいた。

私と同じく眠れなかったのか、手を振って応えた。

 

「どうしたセラード」

 

「あの、眠れないんです」

 

「俺もだ。こんな状況ですぐにグースカ寝れる方がどうかしてるけどな」

 

 L字型のソファーに仰向けになったアルコのそばに行きたくて、もう一つのソファーに腰かけた。

シェードランプの灯りが心地よくて、少し気に入った。

 

メリダのことだろ」

 

「は、はい」

 

 本当はセラードのことが一番気になって眠れないけど、そこは口にしない。

 

「辛いよな。まだ十七歳でこんな目にあっちまうなんて。あと三週間で誕生日だったのにな」

 

「え? 姉様、あと三週間で誕生日だったんですか?」

 

「おいおい、誕生日になったら手作りのブローチをあげるんだって言ってただろ」

 

 セラードが、私自身も忘れていた誕生日を覚えていてくれたなんて、どうしていままで気づかなかったんだろう。

私のために、ブローチなんか作っていてくれたなんて。

 

「セラード、お前まさか自分の誕生日も忘れたのか?」

 

「私は六月二十六日」

 

 自分のは忘れてたけど、セラードのはハッキリ覚えている。

 

「俺は?」

 

「あ」

 

「ま、覚えてなくてもしょうがないな。七月二十八日だ。まぁ、セラードが二十歳になったら、一緒に酒でも飲もうじゃないか。それがプレゼントってことで」

 

 二十歳――今となってはその言葉は重い。

 

答えづらい質問が来そうだから、話を逸らした。

 

「あの、その、あのブローチってどこにやっちゃいましたっけ?」

 

「どこって、秘密にしてたんだから俺も知らないぞ。口を滑らすといけないから俺には内緒にするって言ってただろ」

 

「そ、そうでした」

 

 今は四月の二十四日。

確かにあと三週間もすれば私の誕生日である五月十五日だ。

そうか、あと三週間で私の体は十八歳になれたんだ。

 

メリダももうすぐ十八だったのか。早いな。子供だと思ってたのに、もう大人の仲間入りか」

 

「大人……?」

 

「そうだ。女なんて十八になったら大人だ。男はいくつになってもガキだからな、俺もそうだ」

 

「私は、どうですか。大人ですか?」

 

「なに言ってる。十歳はまだ子供だ」

 

「そうです、よね」

 

「ごめんなセラード。大人の俺が、しっかりお前らを守ってやるべきだったのに」

 

「そんなこと……心強いですよ」

 

「いや、あのとき俺は敵を倒しに行くんじゃなくて、お前らのそばにいてやるべきだった。これがあればある程度は戦えたのに」

 

 アルコはポケットからゴレスターンを取り出した。

私はあれで変身して警備ロボットを撃破できたけど、今思うとあれで人と戦える自信はない

アルコならもっとうまく扱えるはず。

 

「今日は疲れたな。もうヤメようか暗い話は」

 

「は、はい……」

 

 セラードの傷はゴレスターンで再生されたけど、一度は死んだ体だ。

私もシュトゥルーヴェ兵たちの前で死んだふりをしたときは心臓が止まるかと思った。

精神的な疲れがとてつもない。

 

 なのに、寝られない。

セラードの体にも慣れないし、食欲もなかった。

 

 これからどうしよう。

アルコにずっとウソをつき続けるのも嫌だし、これまでいくつもボロを出しているから、いつかは気づかれるだろう。

 

「さて、寝るぞセラード。お前も部屋に戻れ。明日はこの町でシルヴァンシャーの燃料を手に入れて、首都のアシャンティに戻らないと」

 

「あの」

 

「うん?」

 

「私もここで寝ていいですか?」

 

 ソファならもう一つ空いている。

寝るだけなら十分な長さだ。

 

「いいのか、ソファで」

 

 今だけは、セラードの体で甘えたっていいだろう。

私は十七歳だけど、まだ子供なんだ。子供が大人に甘えて何が悪い。

十歳の妹を失った姉が大人の手を握って寝たいと思って何が悪い。

 

 私はこくりと頷き、もう一つのソファをずらしてアルコのソファとくっつけた。

 

「おいおいどうした」

 

「だ、だめですか?」

 

「いいや、俺は構わないぞ」

 

 ソファで仰向けになると、アルコはシェードランプを消した。

暗闇が辺りに広がると、私はアルコの大きな手を握った。

 

「セラード、今はメリダの夢でも見てゆっくり休め」

 

 今は、セラードの夢を見てゆっくり休みたい。

 

「おやすみセラード」

 

「おやすみなさいアルコ」

 

 おやすみセラード。

そしてさようなら、十八歳になれなかった私。

 

―二日目 朝―

 

 翌日――ティカルの家で朝食を貰った。

セラードが私の妹だということはお父さんには内緒にしてもらったけど、ウソをついているみたいで罪悪感があった。

でも信頼は築けたようで、拳銃は返してもらった。

 

 その後はミストラで燃料を貰い、シルヴァンシャーの補給は無事に終わった。

私はてっきり特殊な燃料で動いているのかと思ったけど、普通に車と同じもので安心できた。

 

「セラード、十分に寝れたか?」

 

 アルコの操縦するシルヴァンシャーで首都のアシャンティまで戻る道すがら、私はアルコの後ろに座って大きなアクビをした。

ソファで寝たせいかまだ疲れはとれていない。

家に戻ってから今後どうするか、パニックになっているはずの首都をどうするか。

私の死をどう説明するか、精神を移したことを説明すべきか、どれもこれも十七歳の私には重すぎる話だった。

 

 それにもし私が生きていると公になれば、シュトゥルーヴェの兵士たちも首都を攻めてくる可能性がある。

このままやられっぱなしも癪だけど、せめてゴレスターンを完璧に調整して変身できるようにしておかないと戦うのは厳しいだろう。

 

 こっそりセラードの墓も作ってやりたい。

誰にも気づかれなくていいし形だけでもいいから、墓くらいはないと悲しすぎる。

 

「ところでセラード、あのティカルってお嬢さんから聞いたんだが」

 

「どうしたんですか?」

 

「あのお嬢さん、例のゲームやってるらしいぞ」

 

 ミスティミラージュ・オンラインというゲームのことだろう。

 

「正散のスライムマンだかって名前でやってるらしい。お前も気晴らしにやってみないか?」

 

「え、ええと」

 

「精神をゲーム世界に移動させて、感覚もそのままになるらしい。瞬時に変身できるゴレスターンもそうだけど、ずいぶんと活気的な技術だな」

 

 “精神”をゲームの世界に“移す”――。

 

 ゴレスターンと似ている気がする。

どういう技術かは知らないけど、精神を移して感覚までもゲームの世界に行けるなんて、もしかしてゴレスターンと何か関係があるのかな?

 

「まぁ、落ち着いたらでいいからやってみろよ。自分でキャラクターを作って、そのキャラを自分の意思で操作できるらしいから、大人の女にもなれるんじゃないか」

 

「大人の女……」

 

 たしかに十七の私から見てもそれは理想的だ。

 

「ゲームの話題は今はいいです。それより、これからどうしましょう?」

 

「まぁとりあえず首都に戻るしかないな。俺はできればシュトゥルーヴェの連中をぶっ潰してやりたいけど、賛同するやつがいるかどうか」

 

「あの……姉様に教えて貰ったのですけど、その指輪で変身すれば戦えるのでは?」

 

「そうだが、でもまだ不完全だし戦力も微妙さ」

 

「そう、ですよね」

 

 本当なら私が変身して戦いたい。

でも戦う技術はないし、セラードの体を傷つけたくない。

 

 歯痒い。

私が男だったらよかったのに。

 

「首都に着いたら甘いものでも食べるか。クレープとかさ。好きだろう」

 

「そうですけど、シルヴァンシャーで行くんですか? さすがに目立つのでは……」

 

「まぁ、丁度いいところで駐車すればいいさ。あとは人通りが少ないところを選んで戻る」

 

 森の中にシルヴァンシャーを停めた。

木々が邪魔をして周囲から見えないようになっているけど、もし見つかったらどうするんだろう。

 

 私は顔をブカブカキャスケットで隠しながらも、アルコと手をつないで商店街に入った。

左右にはアクセサリショップやイタリアンレストランなど多種多彩なお店が並んでいるけど、とても姫が死んだ後とは思えないほど活気に満ち溢れていた。

 

 途中の建物と建物の隙間に細い道があり、そこに隠れるようにクレープ屋さんがあった。

制服を着た高校生が何人か集まって大きなクレープを受け取って賑やかに歩いている。

 

 私たちはクレープ屋さんの前に立つ。

でも私は身長が足りていなくて店員の顔が見えない。

 

「セラード、何がいい?」

 

 紙のメニュー表を渡され、しばし迷った。

バナナチョコイチゴ、甘いものから鶏肉やマヨネーズなどのしょっぱいものまで多種多彩なものが並んでいる。

私が食べたい、というよりセラードが食べたそうなものをチョイスした。

 

「これ……」

 

 私が選んだのは潰したイチゴと生クリームがふんだんに使われたクレープだった。

 

 しばらくすると、宝石のように輝くクレープが目の前に現れる。

近くにあったベンチに腰掛け、しばし食べずに眺めた。

食べるのがもったいないくらい本当にキレイだった。

セラードだったら満面の笑みを浮かべてくれるだろう。

 

「食べろよセラード、溶けちまうぞ」

 

「え、ああ、はい」

 

 一口だけ食べた。

一口だけなのに、イチゴと生クリームが全身に駆け巡ったかのような衝撃が走った。

気づけば二口、三口と頬張っている。

 

「お、美味しい……アルコはなにを?」

 

「俺か? 俺はチョコだ」

 

「意外と可愛い物を食べるんですね」

 

「悪いかよ」

 

 アルコが私の頭に手を乗せた

ブカブカキャスケットを押し込み目のあたりまで下がる。

なんだろう。

セラードにとってアルコはお父さんみたいなものだったのかな。

じゃあアルコにとって、セラードは娘みたいなものだったのだろうか。

 

 私は、なんなんだろう。

アルコが私に砕けた接し方をしていたのは、娘みたいなものだと思っていたからなのかな。

 

 今となってはどうでもいいことかもしれないけど、セラードの立場になって急に気になり始めた。

私たちとは幼い頃から一緒にいるけど、未だにどう思っているのか分からない。

 

「アルコさんは姉様のことどう思っていました? 女として、姫として、姉として……とか」

 

「なんだよそれ。そうだな、まず女としてだが、俺からすればまだまだだったな。あと五年も経過して冗談と可愛げを覚えたら一人前かもな。次に姫としてだが、よくやってくれてるほうだと思うぞ。面倒って思ってただろうけど、ちゃんとペルセポリスでシュトゥルーヴェまで行こうとしてたし、学校との両立もよくできてたもんだ」

 

 よくやっていた。

とは語弊だ。

大半はやらなきゃいけない使命感のようなものだったし、私も本当は学生生活を充実させたかった。

 

「で、姉としてだが。そりゃセラードのほうが分かってるだろ」

 

 確かにその通りだけど、それじゃダメなんだ。

 

「アルコさんの意見を聞きたいんです。どう思っているんですか?」