日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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出会いー第9話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

気づけば服に少しだけ血をつけたまま自分の部屋まで戻ってきていた。

全てデルフィの血だったけど、心を中心にいろんな痛みが身体を駆け巡っている。

 

 すでに時刻は十時を過ぎている。

スマホ片手に、立ち尽くす。

 

 世界から色が抜けたような感覚になった。

たった一人がいないだけで、こんなに世界が違って見えるんだって、初めて知った。

 

「そうだ……」

 

 着替えなくては。

 

 僅かだが、服に血をつけた状態で家族に見つかったらどんなことになるか分からない。

 

 少しでも冷静になるため。

新しい服を取り出して着替えた

 

血だらけの服は適当な袋に押し込んでベッドの下に隠した。

そのうちこっそり捨てておこう。

 

 清潔な服になると落ち着きを取り戻してきた。

それでも心臓は爆発しそうなくらい鳴っている。

何度か深呼吸を繰り返したけど、心臓は穏やかにはならない。

 

 ブブブブブブブ……。

 

「え……?」

 

 スマホが振動した。

誰かから電話が来たらしい。

こんな時間にトレドの下らない話になんて付き合ってられない、と思いながら、トレドと雑談すれば落ち着けるかなという期待もあった。

 

 画面に表示された主を見る。

 

「ない?」

 

 表示されていない。

知らない番号だ。

嫌な予感がする。

間違い電話か、変なサギか、それとも相手が一方的に知っている人物か。

 

 緊張した手で、その電話に出た。

 

『やぁ、少年』

 

 変声機のようなもので声を変えていて、ニュースに登場する目撃者Aみたいな妙に高い声だ。

 

「だ、誰だ?」

 

 恐る恐る訪ねた。

彼は――男かどうか分からない――さも当たり前のように、冷静に答えた。

 

『初めまして。私の名前はアルベロだよ。お友達は元気かな』

 

 ― 一日目 夕方―

 

 ――アトス・エオリアがミスティミラージュ・オンラインを始める前日。

メリダとセラードたちが乗るペルセポリスが撃墜された後のことである。

 

「誰だ」

 

 黄昏の空の下。

アルコの点けた焚火はバチバチと燃えて火の粉を散らしている。

周囲は森で囲まれ、何者かが私たちの様子を窺っていた。

 

 アルコが向ける銃口の先は、その何者かの影だ。

薄暗くて姿を捉えることはできない。

 

「おいセラード」

 

 照準を人影にピタリと定めたまま、アルコは横に立つ私に低い声で言う。

 

「はい……?」

 

「頼みがある。お前にしかできない重要なことだ」

 

「重要な、こと?」

 

「指輪を預かっているだろう。ダイヤの指輪だ」

 

 指輪――ゴレスターンのことだ。

きっとアルコはパワードスーツを装着するつもりなんだろう。

 

でもここで私がゴレスターンのことを知っている、とバレれば、私が本当はメリダだということも気づかれてしまう。

セラードはゴレスターンのことを知らないから、指輪のことはあえて知らないふりをした。

 

「指輪? 確かにありますけど、どうして指輪なのですか?」

 

「頼む、目の前に誰かいるんだ。早く」

 

 私はポケットからゴレスターンを取り出し、突き出されたアルコの手に乗せた。

その間にも、アルコの目と銃口は人影にピタリと向いたままだ。

 

「おい、出て来い。十秒以内に出てこなければ撃つ」

 

 アルコの声音から察するに、その言葉は本気だった。

敵かどうかは分からず撃つのだからいきなり命中させたりはしないだろう。

おそらく地面に威嚇射撃だ。 

 

「十……九……八……」

 

 宣言通りにアルコはカウントを始める。

だが人影に動きはない。

 

「七……六……五……本当に撃つぞ」

 

 まだ動きはない。

ここまで動かないのは意地なのか作戦なのか、それとも人ではないのか、どれにせよこちらとしても居心地は悪い。

 

「四……三……うん?」

 

 人影が動いた。

人間だ。

暗くてよく見えないけど、私と同じ――メリダと同じくらいの、高校生くらいの女性だった。

黒い三つ編みに凛々しい目つきだ。

 

 女性は両手を上げている。

どうやら武器もなさそうだ。

シュトゥルーヴェの兵士ではないことが分かって、私たちは安堵した。

 

「止まれ、何をしている。お前は誰だ」

 

 女性が足を止めた。

 

「私はティカル・サンミシェル。ここに妙な灯りがあったから、誰かと思って」

 

 ティカル・サンミシェル。

その声と名前を聞いて、すぐに私の知っている人物だと確信した。

 

 同じ学校で、姫という立場に左右されずに平等に接してくれる友人だ。

人当たりがよくて、ちょっと泣き虫だけど頭が良くてとても優しい。

 

 でも、ティカルが知っているのはメリダ・エーランドであってセラード・エーランドではない。

セラードを会わせたこともないから、実の妹だとは気づかないだろうし、もちろん精神を移していることなど知る由もないだろう。

 

「どこの人間だ?」

 

「すぐそこのミストラから来ました。あの……ええと」

 

 敵意がないと判断し、アルコは銃を下した。

ティカルは泣きそうだった顔を引っ込めて、大きく深呼吸をする。

 

「あの、もう手をおろしてもいいですか?」

 

「ああ。だがきみが本当にミストラの人間なのか証明できてない。妙なことはするなよ」

 

 ティカルにはちょっと気の毒だけど、今は仕方ない。

 

「ティカルとやら、ちょっと頼みがある」

 

「は、はい?」

 

「きみがミストラの住人だという証明ついでに、俺らを助けてもらってもいいか?」

 

「助ける?」

 

 ティカルが私たちの後ろに待機しているシルヴァンシャーを見て、大まかな事態を察したようだ。

ペルセポリスが落ちたのも気づいているだろう。

ティカルは察しが良い。

 

「実はちょっとゴタゴタがあってね、一日だけでいいから宿を見つけてくれたら助かるんだが」

 

「ええと……あなたたちは……?」

 

 信用していないと言いつつも、アルコは名乗るのを忘れていた。

 

「すまない。俺はアルコ・バッサー。こいつはセラ――」

 

「セラードです」

 

 私はアルコの言葉を遮るように言った。

 

「セラード……バッサーです」

 

 私は嘘をついた。

“エーランド”などと紹介すれば、メリダの妹だと気付かれてしまう。

 

 そうなればティカルに私が死んだことがバレちゃうし、ティカルも悲しむだろう。

 

「親子、ということですか?」

 

「まぁそんなところだ」

 

 アルコは詳しく事情を知らないけど、私に合わせてくれた。

 

「本当ですか?」

 

 怪しむのも無理はない。

先に銃を向けたのはこっちなんだから。

 

「証明はできない。信用してくれ、としか」

 

「……条件があります」

 

 ティカルは私たちの前に踏み込んだ。

 

「あなたたちの身元も分からない、銃も所持している、親子というのも信用できない。だからまず、その銃を渡してください」

 

 強気に出たティカルにアルコはいくらか躊躇しながら、銃を逆向きに持ってティカルに渡した。

 

弾を抜いてポケットに入れたから、銃と弾は別々にされている。

 

 ティカルはずっしりと重い銃を手にし、本物だと確信した。

 

「アルコさん、でしたっけ。銃は預かりましたけど、あなたたちは何者なんですか?」

 

 普段から銃を持つ職業なんてそうそうない。

警察か警備員か軍人か、物騒な人か。

どれにせよ銃を所持していた状況で説明するのは難しい。

 

「エフェソスの軍人だ。ちょっと乗り物が故障してな」

 

 アルコはシルヴァンシャーを後ろ向きに親指でさした。

 

「では、そちらの娘さんは? どうして軍の乗り物に娘さんがいるんです?」

 

「見学させてたんだよ」

 

 ティカルは私とアルコを何度か見て、ようやく頷いた。

 

「とりあえず、分かりました。あなたのことを信用してもしなくても、そっちの子供を助けないわけにもいきませんし……」

 

 こうして私たちは、ティカルに警戒されながらミストラに向かった。

 

 畑や田んぼに囲まれた、自然が豊富な町だった。

建物も大きなビルなどはなく、一軒家程度のものばかり。

私はあまりこういう町には縁がないから、空気がキレイなところは新鮮だ。

 

 ティカルの家は大きなリビングがついた広い家だった。

L字型にソファが置かれ、その対角線には薄いテレビが置かれている。

 

奥には二階への階段が伸びていて、オレンジの間接証明がオシャレに部屋を照らしていた。

 

「いいのか? 自分の家なんて」

 

「……いえ、その子、どこかで会ったことがある気がして」

 

「え? 私ですか?」

 

「ううん。なんでもない……今、お父さんを呼んできますから、座っていてください」

 

 言われた通りに座っていると、階段の上から男性を連れてティカルが下りて来た。

四十代くらいの優しそうな人だ。

 

「ゴアといいます。さっき娘から大まかな事情は聞きました。一日だけならどうぞここで泊まっていってください」

 

 拍子抜けするほどあっさりと許可を取れて、私たちは驚いた。

 

 身元もよく分からない人間をこうも簡単に泊めていいものなのだろうか。

 

それはそれでありがたいのだけれど。

 

 

 

 お風呂と、ティカルが昔使っていたパジャマまで借りていいと言われた。

 食事も頂き、すでに時刻は夜になった。

 私は友人――本人は気づいていないが、ティカルのベッドで一緒に寝ることになった。

アルコは遠慮してソファで寝ると言ったけど、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 

「ねぇ、セラードちゃんだっけ」

 

 ティカルがベッドの上に座って濡れた髪を乾かしながら言った。

私もその隣に座り、一緒に髪を乾かしている。

自分で触ってみて驚いた。

セラードの髪、私のより何倍も柔らかい。

 

「はい?」

 

「きみさ、私の友達に似てるんだよね。もしかして、妹さんとか?」

 

「え」

 

「違うよね」

 

 そこでティカルはベッドの下から缶の箱を取り出した。

それがなにか、察しがついた。

 

「見て、これが私の友達、メリダ

 

 缶の中には私とティカルが写った数枚の写真があった。

忙しくてなかなか学校にも行けず遊びにも行けなかったけど、一度だけショッピングモールに遊びに行ったときにティカルに撮られたツーショットだ。

わざわざ印刷されていたその写真に、つい声を出してしまった。

 

「あ、これ、あのときの……?」

 

「あのとき?」

 

 口を押さえた。

うっかりとはこのことだ。

 

「それと、これも見て」

 

 ティカルは缶から小さな人形を取り出した。

木で出来た人型の人形で、頭に紐が付いているストラップのようなものだ。

 

 それも見覚えがあった。

あのショッピングモールで買ったものだ。

職人が目の前で作ってくれて名前も付けられる。

値段は三百エンだったけど、私にとってはそれ以上の価値がある。

ティカルのは青い物で、たしか名前は、

 

「あ、それってクルシュー?」

 

 また口を押さえた。

セラードが知るはずもない情報が自然と口から飛び出してしまったからだ。

なんでこう、うっかりが続くのか自分を呪った。

 

「どうして名前も知ってるの? クルシューっていうのは私とメリダしか知らないはず……」

 

 ティカルが疑い始めた。

無理もない。

 

「もしかしてセラードちゃんって、メリダの妹さんかなにか?」

 

 もうバレた。