日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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目が腐る小ネタと4コママンガを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜に更新!

命のやりとりー第8話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

「ルールは知っているな? 変身し、体力が底を尽きるまで戦う」

 

「知ってるよ」

 

 格闘ゲームもアクションゲームもどれも似たようなもんだ。

大きく違うのは実際に体を動かすってところだけど、身体能力はステータスに依存するからいつもより身軽な感じがする。

 

 と言ってもレベルは1のクソ素人だから、あんまり変わらない気もするが。

現実世界の俺ってレベル1と大して違いないってことか?

 

「ナスカよ」

 

「なんだスライムマン」

 

「スライマン・トウ! だ! 普通に戦っても面白くない、一つ賭けをしようじゃないか」

 

「賭け?」

 

 こいつ、現実世界でもギャンブルとかにハマるタイプと見た。

 

「きみが勝ったら、ソルテアなる人物について教えてやろうじゃないか! そちらが負ければ、俺と一緒にモンスター狩りに来てもらおう。今はキャンペーン中でな、パフォスという特別なモンスターがいるんだ」

 

「どんなやつだ?」

 

「十本の槍を使う甲冑の戦士だ」

 

 何が悲しくてこんなやつについていかなくちゃいけないのか、俺は早くデルフィ――いや、ソルテアを探すためにも、スライマンとの決闘を開始した。

 

「それじゃあ勝負をしよう、だがまずは変身したまえ」

 

「変身?」

 

「おいおい、パワードスーツを作っただろう。変身しなきゃ戦えないぞ」

 

「あぁ、あれか」

 

 俺はなぜか変身の方法を知っている。

おそらくゲーム内だから自動的に説明書みたいなものが頭の中に入って来たんだろう。だから俺は特に困ることはなかった。

 

 念じると、左手の人差し指にダイヤの指輪のようなものが現れた。これが変身アイテムだ。

 

 変身コードは――。

 

「ミラージュ・コーティング!」

 

 声と共に左腕を前方に突き出した。

 

 指輪から光の壁が出現し、プロテクターの形となって胸に張り付いた。黒いラバースーツ、手袋、ブーツ、フルフェイスのメットも形成され、瞬時に全身を包んだ。両肩には銀色の四角いマシンガンが装備されており、引っ張ればチューブに繋がれた状態で抜くことができる。

 

「さぁ、勝負と行こうか」

 

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 スライマンは大型の剣を構えて突進してきた。

このストレートなところ、おそらくこいつは公務員と見た。

 

 俺が肩に銃を装備していることを忘れてもらっちゃ困る。

 

 両肩からチューブに繋がった四角いマシンガンを引き抜き、バカ正直に正面突破を試みるスライマンに銃口を向けた。

夕日と相まってかなり画になっていたに違いない。

 

「食らえ」

 

 ちょっとカッコつけて呟き、引き金を引き絞った。

 

 ダダダダダダダダダ! 獰猛な野獣そのものを発射するような音に、発射した俺自身も驚く。

 

「ぐおおおおおお!!」

 

 半分以上は外して地面を抉ってたが、残りはスライマンの全身に浴びせかけてやった。

スライマンは俺の手前五メートルほどでみっともなく倒れ伏し、剣を落とした。

 

「ぐ……つ、強いな……ナスカよ……」

 

 1のレベル差はあったものの、どうやらこれで勝負アリらしい。

 

 え……? 終わり?

 

 スライマンが立ち上がるとその変身は解除され、冴えない感じの男が姿を現した。

「よくぞこのスライマンを打ち破った。凄いじゃないか、まだ始めたばっかりなのに」

 

「は、はぁ」

 

 こんな弱いやつに褒められてもちっとも嬉しくない。

 

「デュエルは終了だ。フィールドを戻すぞ」

 

 再び周囲が真っ暗になり、再構成するようにフィールドAの風景が戻って来た。

 

 メニューを出してみると、俺の現在経験値とポイントが2だけ増えていた。

そういや相手のレベルと同じ経験値とポイントが入るんだっけ。

こいつに頼んでわざと負けてもらうこともできないってポン子だかデュー子も言ってたから、地道に戦うしか道はないか。

 

「ぐ……ぐ……俺は、俺は悔しい……」

 

 なぜかスライマンが俺の目の前で泣き始めた。

何が悲しくて年上の男の涙なんぞ見なくてはならんのか、こいつは映画ですぐに泣く人間だと見た。

 

「泣かなくていいから、それよりソルテアの場所を教えろよ」

 

「いやすまない……実はそのソルテアなる人物については知らないんだ」

 

 ――なんだと。

 

 俺は変身を解除し、スライマンの胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、ウソついたのかよお前」

 

「いや、あの……ええと……」

 

 俺に勝負をふっかけるための口実でしかなかったのか。

こういうずる賢いことをするんだ、会社でも浮いていると見た。

 

「そ、そうだ!」

 

 スライマンは言い訳を思いついたのか、人差し指を立てた。

 

「キャラクターが見つからないんなら、検索してみればいい」

 

「検索?」

 

「メニューウィンドウのフレンドってところにそれっぽいのがあるだろう?」

 

 言われてメニューウィンドウを開いた、フレンドと書かれているところを選択する。

 

 もちろんフレンドの数はゼロ。

だが、右上にネット検索みたいな横長の箱があった。

 

「それだナスカ、そこにIDを打ち込め」

 

「あ? ID?」

 

「キャラクターを作るときにIDも設定しただろう、十二ケタの数字だ」

 

「あ、あのときか」

 

 キャラクターに関してはおまかせだったから、IDも勝手に設定されてしまっていたようだ。

 

 慌ててフレンドリストの上に出ている俺のIDを見ると、確かに十二ケタの数字が書かれていた。

815 929 667 734と。

 

 なんか、見覚えのある雰囲気だな……。

そもそもソルテアのIDなんか持っていただろうか。

 

 ……そこで、電車でデルフィと別れた時のことを思い出した。

ぬいぐるみの袋を渡し、引き換えに渡された二つ折りのメモ用紙――。

 

 やっべぇ、さすがにあんな数字は覚えてない……こうなると、紙の媒体で書かれた情報って不便極まりないもんだと痛感する。

いや、ゲームがリアルすぎるのがダメなのか。

 

 一度ゲームをやめるためにログアウトせねば、面倒だが仕方ない。

 

 フレンドリストを閉じ、詳細設定を開く。

端にはログアウトのボタンがあった。

 

「じゃあなスライムマン」

 

「お、おい! どこに行く!」

 

 スライマンを無視し、俺はログアウトのボタンを押した。

全身が光に包まれ、手や足の感覚が消滅した。

宙に浮いたような感じで少し怖かったものの、それもすぐに終わる。

 

 目の前に「BYE BYE」の文字が浮かび、そして、視界は完全にシャットアウトされた。

 

 ――。

 

「あっ……?」

 

 自分が柔らかいベッドに寝そべっていることに気づいた。

 

 手に持っていたスマホを見て、ようやく現実に戻って来たのだと理解する。

 

 時刻は九時半。

約束の時間などとっくに過ぎている。

やばいな、これじゃ約束をすっぽかしたも同然だ。

あのスライマンさえいなければ会えたのかもしれないが、邪魔しやがって。

 

 スマホに一件の着信が入っていたことに気づいた。

主はデルフィ。

着信が入った時間は九時ジャスト。

その一件だけ。

 

「九時? デルフィは九時にゲームにいなかったのか?」

 

 きっと、九時に行こうとしてたのに用事が出来て来れなくなったんだろう。

親に止められた、とか、そういう事情で。

 

 だが三十分遅れとはいえ、無視するわけにもいかない。

俺はデルフィに電話をかけなおした。

 

 ――数回のコールの後、やがて電話が繋がった。

 

 だが声がしない。

 

「デルフィ?」

 

 名前を呼ぶ、すると、数秒の間を開けてデルフィの返事が返ってきた。

 

『アトス、さん』

 

 妙にか細く弱々しい声だった。

今にも消え入りそうな小さな声だ。

 

『……ごめんなさい、行けそうにないです。ごめんなさい、約束、九時だったのに……』

 

「それはいいけど、どうした?」

 

『……ごめんなさい、駅に、来てください……』

 

「駅?」

 

 その声音は、ただ疲れているような感じではなかった。

最初に会ったときも小動物のようなイメージだったけど今は違う。

もっと弱い、もっと弱々しい、そんな雰囲気だ。

 

「駅って、どこの駅?」

 

『アトスさんが降りた駅……』

 

 俺が降りた駅――あそこまで歩いて数分だ。

でもどうしてその一つ前の駅で降りたデルフィが、ここの駅にいるんだ。

 

 只ならぬ何かを悟った俺は、スマホ片手に家を飛び出した。

何かがおかしい。

何かがデルフィの身にあったんだ。

まだデルフィとの付き合いは短い。

まだ一日すら経っていないじゃないか。

ようやく友達になれたのに、転校初日の転校生と友達になるなんて凄いことなのに。

普通に友達になれればよかったのに。

なんで、なんでこういうことになるんだ。

 

 

 

 人が十人も入れば窮屈になりそうな駅のホーム。

そのベンチの上に、デルフィの姿があった。

腹から血を流し制服を赤く染めている。

ベンチの下に、僅かに血の雫が落ちていた。

多量の出血だったら、俺は失神していたかもしれない。

 

「おい……なんだよこれ」

 

 すぐに駆け寄ると、デルフィはうっすら目を開けて俺を見た。

 

「で、デルフィ……?」

 

 死んでしまう――刺されたのか撃たれたのか、落ちる血の雫の量も増えてきている。

死ぬ。

このままでは、誰がどう見ても死ぬ。

 

「いま、いま救急車を……」

 

「待って……私は、一度死んでいるの。昨日、死んだ人間なの……」

 

「な、なに言って……」

 

「でもごめん……あのゲームは、もうやらないで……」

 

 デルフィの口から零れる一つ一つの言葉が、俺には理解できない。

 

「ど、どういうことだよ?」

 

「私、小さな部屋でマンガを読んでいる女の子を見た……近くにお姉さんみたいな人も……」

 

「見た? 見たって、そいつがデルフィを傷つけた犯人か?」

 

「違う……私……あれは、姫、私かもしれない……」

 

「あ、いや、これ以上は喋るな」

 

 血はとめどなく溢れている。

血だまりはなかったけど、時間の問題だ。

 

 すぐに持っていたスマホで救急車に繋いで、回らない呂律で必死に助けを呼ぶ。

応急処置なんてよく分からないけど、今は血を止めることを考えなくては。

 

 ポケットに突っ込まれていたくしゃくしゃのハンカチを使い、デルフィの腹に当てた。

すぐに血を吸収したものの、その下から次々と血が溢れる。

 

「待ってろ! いま救急車が来る! だから、死ぬな!」

 

「ねえ……アトスさん……」

 

 俺はデルフィの小さな手を握った。

ロボットのように冷たかった。

温もりなんてどこにも感じない、暖かい血が抜け落ちたんじゃないかってくらい、氷のように冷たい。

 

「ど、どうした……?」

 

「私、刺された……知っている人……知ってる……人……に」

 

「知っている人……? 誰だ? 誰なんだ?」

 

「名前は……知らない……でも、ゲームの名前なら……」

 

 ゲーム――? ミスティミラージュ・オンラインでのキャラ名ってことか?

 

「あの人は、アルベロって名前……その人に……やられ……た……」

 

 やっぱり喋らせるべきじゃなかった。

ハンカチだけで止血するのもそろそろ限界で。

それどころか出血量がどんどん増している。

 

 アルベロ――デルフィはうすぼんやりとした意識で確かにそう言った。

 

 でもゲーム初心者の俺にはそんな名前は見たことも聞いたこともない。

 

 そのアルベロなる人物のゲーム内の容姿や現実での容姿も聞いておきたかった。

けど、もうデルフィは本格的に喋れるような状態じゃない。

呼吸は弱くなり、目も開かず、今にも命の灯が消えてしまいそうだった。

 

 まだか、まだ来ないのか救急車――。

 

 それから俺はデルフィの冷たい手を握りながら救急車を待った。

来たのは五分後。

もうデルフィは虫の息と言ってもいいほどで、一言も発することができない状態だった。

 

 やってきた救急隊員に何かを質問されて俺は頷いていたけど、その辺の記憶はほとんど抜け落ちている。

喋ったことなんて覚えてない。

ただ、現実を受け止めるのに精いっぱいだっただけだ。

もちろん怒りや疑問もあったけど、それよりもショックが全身を支配していた。