日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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目が腐る小ネタと4コママンガを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜に更新!

全ての始まりー第6話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

「あの、傘、忘れちゃって」

 

「えっと、きみの名前はデルフィだっけ?」

 

「は、はい。デルフィ・ソルテアですけど、なにか?」

 

「あ、いや、なんとなく話かけただけ」

 

 ただし理由は“なんとなく”だけではない。

雨なのに帰れずに困っているから助けようと思ったっていう、微妙な正義感のようなものもあった。

それがおせっかいならそれでいいけど、放っておくのも落ち着かない。

 

「あの、すみません、まだちょっと覚えてないんですけど、もしかしてクラスメイトですか?」

 

 まぁ俺のことを覚えてないのもうなずける。

デルフィは最後まで席から動かず、ほとんど人と話さず一日を終えていた。

女子に囲まれてはいたけど、たぶん無口でつまらない人と思われたのか、今は人っ子一人周囲にはいない。

 

「俺、きみの二つ隣のアトスっていうんだ」

 

「アトスさん、ですか」

 

「ところで、傘が余ってるんだけど、いる?」

 

 俺は傘立てから昨日忘れた黒い地味な傘を引き抜いてデルフィに差し出した。

凄い申し訳なさそうな顔をしながら受け取ったけれど、俺は折り畳み傘もあるから問題ない。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いや、気にしなくていいよ。明日は適当に傘立てに入れておいてくれればそれでいいから」

 

 デルフィはリスのようにこくりと頷き、一緒に学校を出た。

外はバケツをひっくり返したような土砂降り。

集中豪雨というやつか、近くの川は海賊でも出そうなくらい荒れているだろう。

 

 俺の家は、ここから少し歩いた駅から電車で十五分のところにある。

駅と言っても大げさなものじゃなくて、こじんまりしたしょぼい駅だけど。

 

 偶然か奇跡か運命か、デルフィも同じ駅から帰るというので、一緒に帰ることになった。

もしも誰かにこの状態を目撃されたら、あらぬ噂が広まって面倒なことになるだろう。

けど、幸いにも周囲に知り合いらしい人はいない。

こんな雨じゃ無理もないが。

 

「あ、あの、話しかけてもいいですか」

 

 デルフィは体格に似合わない大きな傘を両手で持ちながら俺に言う。

雨の音ではっきりと聞き取れないけど、言いたいことは伝わった。

 

「あの、アトスさんは、ゲームって好きですか?」

 

 なんだと。

 

 この小動物系女子、端っこで本でも読んでそうな雰囲気だったのに、その一言で一気に評価が変わった。

なぜだろう、ゲームが好きと言われただけで好感度が上がるのはなぜだろう。

 

「ゲームなら好きだぞ。あらゆるジャンルに精通してるし、ゲームセンターも得意だ」

 

 俺の唯一誇れる部分だから、わざと胸を張って自慢気に言ってやった。

 

「あの、ミスティミラージュ・オンラインってやりました?」

 

「いや、まだやってないけど?」

 

「そ、そうですか」

 

 そこでいったん話題は尽きた。

雨音がうるさくて静寂にもならず、なんだか微妙な雰囲気になってしまった。家に帰ったらちょっとやってみよう。

 

「あ、あの……ゲームセンター……得意なんですよね?」

 

「まぁな」

 

「ちょっと、欲しいぬいぐるみがあって……クレーンゲームなんですけど」

 

 お安い御用だ。商店街のクレーンゲームなら、連続でニ十個を取った記録がある。

 

「取ってほしいものがあるってこと?」

 

「はい、迷惑だったらいいんですけど」

 

「おっけー、じゃあ行くか」

 

 商店街なら屋根もある。

まさか初対面の女子といきなりここまで親密になるとは思ってなかったけど、別に下心があるわけじゃないし、頼みごとを断るのも気が引ける。

 

 ――でも、このデルフィの頼み事によって、俺の運命は大きく動くことになる。……なんてことにならなければいいけど。

 

 デルフィが欲しがっていたのは、ヘッドスマッシュ&イン・バッファロージャンプって漫画に登場するマスコットキャラのぬいぐるみだった。

ゴロンゴロンという手の平サイズのシマウマと、カパックニャンという子犬サイズの猫耳のアルパカらしいが、よく分からない。

 

 当の本人も原作についてはよく知らないらしく、ただこのキャラを気に入ったからという理由で手に入れたいらしい。

 

 クレーンゲームの筐体には似たようなキャラが詰め込まれていて、狙いの二つはアームから一番離れた端の奥に鎮座していた。

俺にかかれば楽勝だな。

 

 デルフィからお金――百エン玉を預かり、投入する。

 

「宣言しよう。俺は二回のチャンスで二つを取る」

 

 なんて自信満々に宣言してしまったけど、いざ始まるとデルフィの視線が妙に突き刺さる。

 

 緊張するけど、よく考えたらここは屋根のある商店街だ。

俺らと同じく雨宿りついでにゲーセンに立ち寄っている連中もいるだろう。

……デルフィと一緒にいる状況を目撃されてしまう可能性もある。

転校初日の女子とゲーセンにいる瞬間なんて、誰が見てもせっかちなデートだ。

 

 ちらり、とデルフィを見る。

期待しているような輝いた目で、クレーンを眺めていた。

俺は横方向にクレーンを動かすボタンを押した後、デルフィに向き直った。

 

「な、なぁ。どうして、俺なわけ?」

 

「どうして、というと?」

 

「いや、だって俺たちって初対面じゃない? 別に迷惑ってわけじゃないけど」

 

「……なんだろう。アトスさんにミスティミラージュ・オンラインをやってほしいから、かな」

 

 そういえば、デルフィが出した話題は「ゲームって好きですか?」だった。

そこまで主張するほどだ。

あのスマホゲーにハマっているんだろう。

 

「そんなに面白いのあれ?」

 

「はい。最近配信されたゲームなんですけど、ちょっとハマってます」

 

 トレドに言われた、精神をダイブさせるゲームだ。

画期的な凄いゲームではあるけど、バーチャル空間でパワードスーツを装着するゲームだ。

女子がハマるゲームとは思えないけど。

 

「あの、時間ないですよ?」

 

「へ?」

 

 クレーンゲームのことをすっかり忘れていた。

後ろに動くボタンを押さないでいると、クレーンはその場で勝手に落ちるシステムだ。

筐体から時間切れを警告する音が流れている。

すぐさまボタンを押し、目的のゴロンゴロンのぬいぐるみを掴んだ。

 

「よし」

 

 あとは見るだけだ。

ぬいぐるみは出口に真っ逆さまに落ち、排出口に顔を出した。

それを取り出してデルフィに渡すと、子供のように輝いた目でそれを受け取った。

女子の手前、ちょっとカッコつけられて嬉しかったのはウソじゃない。

 

「ありがとうございます」

 

「いや、いいけど」

 

 その流れで残りのカパックニャンというぬいぐるみも入手すると、デルフィの笑顔はさらに輝いた。

喜んでもらったのならこちらとしても悪い気分ではない。

 

「凄いですね、アトスさんは。クレーンゲームは苦手だったから、欲しかったんですこれ」

 

「でも、そのキャラが出てくるなんとかバッファローってマンガのことは知らないんでしょ?」

 

「ヘッドスマッシュ&イン・バッファロージャンプです。名前しか知らないですけど、このゴロンゴロンとカパックニャンは気に入りました。でも……読んだことあるような、ないような」

 

「ほう」

 

 会話をうまく繋げられなくて、ゲーセンの奥に目をやった。

どこかの高校の制服カップルがプリクラに入ったり、各々イチャイチャしながらゲームに勤しんでいる。

デルフィと二人きりでここにいるのが急に窮屈になった。

 

「出ようか」

 

「あ、はい」

 

 俺らはゲーセンを出た。

ほとんど人のいない商店街から外の様子を窺ってみると、さっきまでがウソのように雨が引いていた。

 

 デルフィは俺に傘を返し、雨の匂いが残る地を歩き始めた。

ところどころに水たまりがあって歩きづらい。

靴を濡らさぬよう慎重に歩く。

 

 駅までは十分ほどでつく。

さてどんな会話をしようか、と頭を働かせていると、以外にもデルフィから話題を作った。

 

「あの、ゲームしませんか?」

 

「ゲームって、ミスティミラージュ・オンライン?」

 

「はい」

 

 どうやら、どうしてもデルフィはあのゲームをやらせたいらしい。

どうせプレイするなら帰ってからじっくりやりたいし、それに、ここまで勧められると断れない。

 

「いいけど、あれって精神をゲームにダイブさせるとかっていう、なんか凄いやつだよな」

 

「そうです」

 

 デルフィの話によると、プレイ中は肉体を動かすことができないらしい。

危険だから一人しかいないときにはプレイしないよう警告されているくらいだ。

そもそも周辺機器もなしにそんなことができるなんて、まったく技術の進化ってやつは早いもんだ。

 

「分かったよ。家に帰ったらやる。俺も少し気になってたからな」

 

「じゃあ、今日の九時にフィールドAっていうところで待ち合わせでいいですか?」

 

 おそらくフィールドAというのはゲームのエリアのことだろう。

なんとなく分かる。

 

「私は苗字のソルテアをそのままキャラクターの名前にしてますから、すぐ分かると思います。ピンク髪の女の子のキャラクターです。変身は解除しておきますから」

 

「ああ、分かった。こっちから話しかけるよ」

 

 

 

 そのまま駅に行き、一緒に電車に乗った。

 

 デルフィは俺の行きたい駅の一つ前で降りるらしい。

そこまでは他愛のない世間話でつなぎ、いくらか信頼を得ながら電車に乗れたのは我ながらグッドだ。

 

 オレンジ色の夕日が差し込む電車内は、眠くなるような温かい雰囲気が漂っている。

この雰囲気、なんか青春っぽくて好きだ。

 

 デルフィの目的の駅に到着した。

扉が開き、デルフィが一歩を踏み出して振り向く。

俺は預かっていた二つのぬいぐるみの入った袋を渡すと、ぺこりと頭を下げてくる。

その入れ替わりで、デルフィは二つに折ったメモ用紙を俺に差し出した。

 

 なんだ、この紙は。

 

「今日はありがとうございました。楽しかったです」

 

 どうしてデルフィとここまで仲良くなれたのかよく分からないけど、まぁ良い。

あわよくば付き合いたい、なんて考えたりはしないけど、友達が多いのは良いことだとも思うし。

 

 扉が閉まり、デルフィは手を振った。

電車が動き、すぐにその姿も豆粒のように小さくなる。

 

 俺が下りるのは次の駅。

ちょっとでもいいから、と空いている座席に腰かけた。

 

 渡されたメモ用紙を開いてみた。

まさかラブレターなのか――という期待を膨らませる。

でもそんなすぐに惚れるような軽い女子ではないから、すぐに期待は萎んだ。

 

 そこには、妙な数字が書かれていた。

 

 515 626 728 919

 

「なんだこりゃ」

 

 宝クジの番号……? いや、こんなタイミングでそんなもの渡すわけないし、何かの暗号か?

 

 いや、そんなものはゲームの中で会ったときに聞けばいい話だ。

 

 なんとなく隣で座っていたサラリーマンの持つスマホに目をやる。

ニュースを見ているらしく、ペルセポリスが沈んだ記事がデカデカと表示されていた。

 

 もしも中に姫がいて死亡していたら、これは歴史的な大ニュースだ。

正直言ってあまり実感は沸かないけど、これはかなり国を揺るがすような事件かもしれない。

今ごろ姫の親戚とかは、てんやわんやのパニックだろう。

 

「あれ?」

 

 と、気づけば扉が開かれていた。

どうやらいつの間にか到着していたらしい。

 

 俺は慌てて立ち上がり、電車から外に出た。

真っ黒なパーカーにフードを被った男も一緒に降りたからちょっと怖かった。

そいつは全身真っ黒な服装で、片手にスマホを持ってもう片方はポケットに隠れている。

見るからに怪しい風貌だった。

 

 ちら、と男のスマホに目をやった。

二メートル近くの距離はあったけど、そこにはある人物の写真が表示されていた。

 

 ぱっつんヘアーの金髪。

学校の女子制服――ちらりとしか確認できなかったから定かではないけど、まさかデルフィの写真――? それに僅かだが夕日に当たっているような写真だ。

 

 もしかして、さっき撮ったのか?

 恐る恐る男を問いただしてみようと肩に手を伸ばしたけど、男はすぐに全力ダッシュを決め込み目の前から姿を消した。

俺には気づいてなかったと思うけど、あの動作は怪しい。

 

 デルフィの親戚がたまたま写真を表示していただけか、はたまたストーカーか、真相はともかくあの男には何かがあると俺は睨んでいる。

 

 

 

 家に帰ってダラダラしていると、いつの間にか時刻は八時半になっていた。

 

「そろそろやるか」

 

 スマホを持ってベッドに仰向けになり、ミスティミラージュ・オンラインという真っ白なアプリを起動した。

 

 その瞬間――。

 

「なんだ!?」

 

 視界が真っ白になり、まるで天国にでも旅立ったかのような感覚に陥る。

無数の線が走る青白いトンネルを泳ぐように高速で潜った。

現実っぽくない風景なのに、しっかりと物理的に触れている感覚はある。

温度も湿気も、しっかりと身体に伝わっている。

 

 トンネルを抜けた。

手も足も、体もちゃんとある。

なのにゲーム画面みたいに文字やウィンドウが表示されていて、まさにゲームの中に入ったような感じだ。

 

「というより、マジで入ってるのか……」

 

 実感はないけど、どうやらそういうことらしい。

 

「すげぇ。本当にゲーム世界にダイブなんてできるんだなぁ」

 

 とりあえず表示されている文字を見てみる。

左上から「スタート」「装備」「フレンド」「詳細設定」と縦に並んでいる。

が、スタートは薄黒く表示されていて決定することができない。

 

「どうしたらいいんだこれ?」

 

 と腕を組んだところで、左右からスっと二人の女性キャラクターが姿を現した。

これは、人間なのか? この人たちがリアルすぎて、プレイヤーとゲームキャラの区別がつかない。

 

「初めまして、私はポン子!」

 

「初めまして、デュー子です」

 

「「二人合わせて、ポン・デュ・ガールズでーす」」

 

 右にいたのがポン子という赤メガネ赤ショートヘアのキャラ。

笑顔が素敵で元気なタイプ。

左のデュー子は青メガネ青ロングヘアーのキャラ。

控えめな笑顔が素敵でクールなタイプだ。

 

 どちらも服は近未来的なピチっとした服装で、それぞれのイメージカラーが使われている。

その服装のおかげか、データ空間っぽさが強調されていた。

でもゲームキャラとはいえ、ショートパンツから伸びた二人の生足を凝視するのは躊躇われる。

 

「あ、あの、どういうこと?」

 

 俺が質問する。

 

「私たちは、新規プレイヤーをナビゲートしたりヘルプを担当するキャラクターです。あなたの快適なゲームプレイの懸け橋になれば嬉しいです。ちなみにポン子が姉で、私が妹」

 

 元気なポン子が姉で、クールな妹がデュー子――普通ならクールな方が姉っぽい気もするけど、そこはあえての変化球なのか。

 

「それで? あなたは新規プレイヤー?」

 

 ポン子が妙に接近しながら質問した。ゲーム世界とはいえ、女子の顔が接近すると緊張する。

 

「ああ。今から始めるんだ。まずなにをすればいいんだ?」

 

「それなら、こっちです」