日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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目が腐る小ネタと4コママンガを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜に更新!

刹那の出会いー第5話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

          ―二日目 朝―

 

 俺、アトス・エオリアは学校の屋上で空を眺めていた。

 

 電車も少ないバスも少ない田舎の村、サラズム。

ほとんどが畑や田んぼに囲まれ、けれども空気は新鮮で星は綺麗だ。

学校の近くといえば、古い商店街の中にある最新のゲームセンターが強いお供だけど、それでも基本的には田舎だ。

 

 もうすぐ一限目の授業が始まってしまう。

時間そのものが鬱陶しい。

 

 コの字型で三階建ての、面白みのない普通の校舎。

そして俺は、面白みのない普通の高校生男子。

少し長めの黒髪に平均的な身長。

自慢できることはちょっとゲームが強いってことだけ。

 

 これまでも、これからも、面白いことなんてないだろう。

 

「そういえば、今日は転校生が来るんだっけ」

 

 誰もいない屋上、一人で呟く。

 

 どんな転校生なのか何も情報はない。

できれば女子であってほしいけど。

 

 ため息をつきつつも、屋上から校舎に戻った。

危ないと理解しつつも、歩きながらポケットからスマホを取り出して画面を見る。

 

 整理されてないホーム画面の端に、いつの間にか知らないアプリが入っていた。

真っ白なアイコンの下には、ミスティミラージュ・オンラインと書かれている。

ゲームは好きだけど、正直スマホゲームはあまり興味ない。

でも削除するのも面倒だから、なんとなく残しておいた。

 

 

 

  教室に入るのと同時にチャイムが鳴った。

間一髪のセーフだ。

 三十人ほどのクラスの、ど真ん中からちょっと窓側の席に座ると、後ろの席にいる昔からの親友、トレド・キナバルが肩を強く叩いた。

驚きと悲鳴がない混ぜになった声が口から飛び出す。

 

「うはっ!」

 

 振り返り、仕返しとばかりにトレドの頭を叩く。

 

 トレドは人差し指を突きつけながら、すまんと謝った。

まったく謝罪の姿勢ではない。

 

「アトス、今日は転校生が来るらしいぜ」

 

 なるほどそういうことか。

それなら肩を叩いた合点がいく。

 

「知ってるよ」

 

「さっきチラっと職員室を見たんだが……女子だ」

 

 トレドは転校生の存在を確認したからか、妙にテンションが高い。

絵に描いたような女好きで、あちこちの女子に声をかけては遊んでいる。

他の学校にも“そういう人”がいるらしいから、プレイボーイとしてちょっとした有名人である。

 

 だが仲の良い女子の数が多いから、その分悪い噂も多い。

でもトレドは気にしていない。

そういう無神経なところが、少し羨ましいとも思う。

 

 担任教師が入って来た。

その後ろには小動物のように小さい女子生徒がいる。

いきなり三十人近くはいる初対面の前に来たら、そりゃ泣きそうな表情で緊張するのもうなずける。

 

 小学生と紹介されても違和感はないが、学校の制服によって幼さはいくらか低減していた。

 

 きっとトレドは、いや、複数の男子は目を輝かせていることだろう。

俺もその一人だ。

 

「自己紹介」

 

 担任のハゲが転校生に素っ気ない指示を出した。

 

「デ……デ……デデ……」

 

 クラス一同、頭上にクエスチョンマーク

緊張で震えた唇からは、頭文字しか出てこない。

 

「デ、デ……デルフィ……ソルテア、です」

 

 デルフィ・ソルテア。転校生はそう言った。

 

 水平にそろえて切る髪型――いわゆる、ぱっつんの金髪だった。

肌の露出は嫌いなのか、スカートは膝上まで下げている。

 

 クラスメイト全員で拍手を送り、その瞬間からデルフィはクラスの一員へと早変わり。

 

 ああいう小動物系の女子を嫌う女子はいるだろうけど、まぁある程度コミュ力があればけっこうなアイドル的存在にはなれるんじゃないだろうか。

 

「じゃあ、あそこ座りな」

 

 ハゲ担任がこれまた素っ気ない指示を出すと、転校生は窓際に空いていた席に座った。

厳密には空いているわけではなく、ただ不真面目な奴でサボっているだけなのだが、まぁいいか。

 

 それから担任はいつもの調子で、いつも通りのつまらない授業が始まった。

 

 

 

 ――退屈の終了を告げるチャイムが響いた。

大あくびをして背伸びをし、クラスメイトたちは席から離れてほとんどが教室から消えていく。

 

 ふと転校生を見た。

俺の席から左に二つの席だから、ゲームで悪くした目でもわりと見える。

 

 数人の女子が転校生に群がり、マスコミよろしく質問を浴びせている。

緊張に弱いタイプらしく、その姿はなんとなく可哀そうにも見える。

 

「トレド、お前は行かないのか?」

 

 隣の机の上に座っているトレドに質問した。

スマホを弄っているところを見ると、あまりデルフィには興味がなさそうだ。

 

「俺はああいうの嫌いじゃないけど、もっと明るくて喋るタイプが好きなんだ」

 

 たしかにデルフィは女子に囲まれてはいたが、とても喜んでいるような雰囲気でもない。

きっと囲まれて話しかけられるのが苦手なんだろう。

犬か猫かと言えば猫のタイプだ。

 

「まぁああいう可愛い子はもちろん好きだが。付き合うのは無理だな」

 

「そうか」

 

「で、お前はどうなんだよアトス」

 

「まぁ、縁があれば話しかけてみるよ」

 

 興味がないと言えばウソになる。

俺だって男だ、美人は好きだし、ちょっとした仕草が気になったりはする。

でも転校初日で、しかも相手は初対面の女子で、よく喋るタイプでもない。

もしよく喋るタイプ――うるさいのはゴメンだが――ならば、少しは声もかけやすいが。

 

「ふん、俺みたいにもっと積極的なほうがいいぜ」

 

「はいはい」

 

 わざと素っ気なく返すと、トレドはスマホを手にしたまま机から立ち上がった。

いつになく真面目な顔つきになっている。

 

「ヤベーぞアトス。昨日、船が沈んだらしい。ペルセポリスってあんだろ? 知ってるか?」

 

「たしか、エフェソスのでっかい船だっけ?」

 

 我が国の姫様もよく乗るらしい大きな空飛ぶ船だ。

内部の構造は俺らのような一般市民にはほとんど秘密にされているから詳しくは知らないけど、どうやら兵器を格納できる場所もあって、船そのものも戦闘用に武器を装備しているらしい。

 

 あんな巨大隕石でも沈まなさそうな船が沈んだとなると、よほどの攻撃があったか、もしくは脆い内部を攻め込まれたんだろう。

攻めた敵はかなりの手練れだ。

 

 それが、まさか昨日の昼のことだなんて……。

 

「確か、開発されたのが……九月十九日なのは覚えてるんだが、何年だったのか思い出せん」

 

「いや、そんな詳しい情報はいらないよ。で? その船が沈んだ件がなんだって?」

 

「シュトゥルーヴェにまで向かうつもりだったらしい。あんな船で向かうってことは、おそらく姫も中にいたんだろうな」

 

 姫の姿はテレビでも見たことがある。

 

「なぁトレド、なんだっけ、姫の名前」

 

「バカ野郎、覚えてないのかよ。姫はメリダ・エーランド。俺らと同じ歳だ。けっこうな美人だからぜひ本物にお目にかかりたかったんだが、まさか死んだりしてないよな」

 

 姫が死んだとなれば大ニュースだ。

そうなると、姫の立場は自然と妹のものになるだろうけど、姉を失って姫になんてなっても複雑なだけだろうな。

 

「で、妹さんの名前は?」

 

「セラード・エーランド。あと五年だ」

 

「は?」

 

「セラードはまだ十歳。あと五年もあればメリダと肩を並べるべっぴんになれる」

 

 基準はそこなのか。

どうやらトレドとしては“姫”が死んだというより“美人”が死んだことのほうが大ニュースらしい。

 

「ほら、これ見ろよ」

 

 トレドがスマホの画面を俺に向けた。

延々と煙を吐き出しながら炎上するペルセポリスの動画が映っていた。

偶然下の海にいた漁師の船から撮影したものがニュースになったらしく、ペルセポリスとの距離がありすぎて鮮明には見えないけど、それでも嫌な迫力が伝わって来た。

 

「これ、映画じゃないよな」

 

「いいや、まぎれもなく本物だし、これはニュースだ。まぁ、俺らみたいな平民には姫様の苦労なんてよく分からねぇけどよ、エフェソスの船が撃墜されたんだから、エフェソス人の俺らも無関係ではないよな」

 

「う……そうだな」

 

 下手をすれば、テロとかが起きたりするのか。

そうでなくとも、エフェソス人がその敵の居場所を突き止めて攻めたりなんかしたら戦争にもなるだろう。

 

 いや……もし姫が死んでいたら、というより姫を狙って船を沈めたんなら、もうこれは戦争と捉えてもいいかもしれない。

 

 徴兵とかされるのかな。

戦場に駆り出されたって、五秒で死ぬだろう。

 

「心配なんかしたって戦争になれば戦争になるし、気楽に行こうぜ気楽に」

 

「戦争になれば戦争になるんだろ、どこが気楽なんだよ」

 

「こんなド田舎でテロなんか起きやしないって。もし起きるなら首都のアシャンティだろう」

 

 首都アシャンティ

こことは違ってしっかりとした都会。

大きな建物に囲まれて、観光名所のある場所にすぐアクセスできる。

芸能人もいっぱいいるし、若者にとっては憧れを具現化したような場所だ。

俺がテロリストなら、こんな田舎よりもアシャンティを狙うし、姫を狙って首都を狙えば完璧に国は終わる。

 

 って……冷静に分析している場合でもないな。

首都なんかやられたら、こっちだってヤバい。

 

「ところでよアトス、今度は明るい話題だ」

 

 また女絡みの話か。

などと身構えていたら意外とそうでもなかった。

 

「お前、スマホのゲームやったか?」

 

 俺はスマホを取り出し、アプリが立ち並ぶホーム画面を見た。

そこで真っ白なアイコンを見てようやく思い出した。

ミスティミラージュ・オンラインというものを。

 

「やらねぇよ、俺は据え置きか携帯機かゲーセンだ。スマホゲーは甘い」

 

「ポチポチやるだけのゲームだと思ってないか? 実はこのゲーム、すげぇ秘密があるんだ」

 

 そう言われては、とりあえず聞いておこうという気持ちにはなる。

 

「俺はちょっとプレイしてみた。女の子との話題作りのためによ。実はこのゲーム……精神をダイブさせることができるんだ」

 

「はぁ?」

 

「ゲームの中に精神をダイブさせて、本当にその場にいるかのような感覚になるんだとよ」

 

 冷静に考えれば、凄いし恐ろしいシステムだ。

心臓が弱い人なら失神するかもしれない。

 

「もちろん、少しなら痛みとかも感じられるらしいし、実際にそこにいる人と話すこともできる。自分の分身になるキャラ作って声も変えられるし、凄くね?」

 

「確かに凄いが、そのゲームはなにをするゲームなんだ?」

 

「戦うんだよ。全身武装のパワードスーツを身に着けて、相手と戦うんだ」

 

「つまり、変身みたいなものか」

 

「剣とか銃とか、武器もいっぱいある。それでバトルに勝ってポイントを溜めれば、新しい武器を買ったりもできるんだとよ」

 

 そこは普通のゲームと大差ないのか。

でもそれを現実と似たような感覚で体験できるなんて、ちょっと興味はある。

 

「まぁそういうことだ。もちろんメットを外して素顔も出せるらしいぞ。俺はパワードスーツなんて物騒なものじゃなくて、メットを外した女の子と語り合いたいけどな」

 

 やっぱりそっちが目的か。

いい意味でも、悪い意味でも、本当にコイツはブレないな。

 

「なぁ、ちょっとでいいからやろうぜ、なぁ」

 

「分かったよ。放課後にな」

 

 今日の最後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。

慌ててスマホをポケットにねじ込む。

 

 しかしこのゲーム、本当に大丈夫なのか?

 

 

 

 ――放課後。

 

 大あくびしながら掃除を終え、気づけば外の天気は土砂降りになっていた。

 

 そういえば昨日も雨だった。

傘を学校に忘れて今日は折りたたみ傘を持ってきたけど、傘が二本もあったって意味ないな。

 

 掃除が終わって机を戻し、これにて今日の学校は完全に終わりを告げる。

俺はゲームのことなんてすっかり忘れて、帰る支度を整えていた。

 

 トレドはどっかの女の子とどっかに遊びにいったらしく、一緒に帰宅できなかった。

 

 部活もやってないし友達は少ないほうだけど、ゼロってわけでもない。

でも友達の数なら、あの転校生にすぐに追い抜かれるだろう。

 

 面白みのない廊下を抜けて、一階まで下りる。

雨のせいか、大半の生徒は速攻で帰宅していて、学校の中にはほとんど人がいなかった。

もちろん下駄箱も例外ではない。

 

「あれ?」

 

 学校の制服を着た小学生がいたと思ったら、例の転校生だった。

 

 やはり一日で友達を作るのは大変だったのか、傘に入れてくれる人物がいなくて立ち止まっているらしい。

外に出たら一瞬でずぶ濡れになるような雨だ、あんな小動物系の女子ならカエルみたいに流されるかもしれない。

一応クラスメイトだし、なんとなく声をかけてみた。

 

「よう」

 

 驚きというか、若干の恐怖が入り混じった表情で見つめられ、転校生はすぐに目をそらした。

 

「どうした?」