日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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生きるため死ぬー第4話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

「おいビブロス、なにやってる?」

 

 こっちも男の声。

最初のビブロスという男よりも少し若い雰囲気の声だ。

 

「見てくれよバールベック、一発で二人とも仕留めたぜ」

 

「そうか、凄い凄い」

 

 二人目のバールベックという男は一人目のビブロスという男と違って冷静だ。

というより、冷酷という言葉のほうが合う気もする。

 

 死んだふりで目を瞑っているから、どんな姿かは詳しく分からない。

 

「しかもこの女、けっこう可愛いぜ。こっちの小さいガキもあと五年くらいでイイ女になる。ここで殺しとくのはもったいなかったなぁ」

 

「下らん。さっさと行くぞ」

 

「待ってくれよ。この女、高そうなダイヤの指輪をつけてやがる」

 

「アンジャルとティールも待ってる。遅れるならお前も船と一緒に落としてやろうか?」

 

「おいおい勘弁してくれよ~」

 

 二人の男は背を向けて歩き出した。

薄目を開けて完全にその場から去るのを確認する。

一人は小太りの男で、もう一人は細身で身長が高く手には刀のような武器を握っている。

 

 ようやく緊張から解放され、私はめいっぱいに酸素を取り込んだ。

しかし落ち着くことはない。

背けたい現実が、絶望となって目の前に広がっている。

 

 セラードの小さな背中には豆粒ほどの穴が空き、そこからじんわりと真っ赤な血が染み出ていた。

命が噴き出し、温度が失われてゆく。

 

 さっきまで繋いでいた手、そこには確かに温もりがあったのに――。

 

 苦痛にもがくことはなく、言い換えれば苦痛にもがく暇もなく、セラードは死んだ。

肩を掴んで揺さぶっても、虫の息一つしていない。

 

「あ……あ……あ……あ……」

 

 どうして、私が撃たれなかったんだ。

どうして、私は生きているんだ。

誰か答えを教えて。

せめて、セラードの体だけでも綺麗にして、ちゃんと埋葬してやりたい。

 

 こんな硬い船の中で爆発する最期だなんて可哀そうだ。

 

 せめて、体だけでも――。

 

 せめて、体だけでも……?

 

 私はゴレスターンのもう一つの機能を思い出した。

死んだ人物に精神を移し、いくらか肉体を再生させる機能だ。

 

 まだ実験段階のゴレスターンにそんな芸当ができるのか、おそらく不可能だ。

ミラージュ・ゴレスターンだってすぐに解除されたし、精神を移すのに失敗すれば私の精神も死にかねない。

 

 でも、やるしかない。

ここまでピンチになれば、私も命くらい賭けてやる。

セラードの体だけでも助けられるのなら、私の体なんて――いらない。

 

 後で回収できるよう、指からゴレスターンを外して両手で強く握りしめた。

死人に精神を移す方法なんて知らない、けど、祈れば道は切り拓けるかもしれない。

 

 一度ミラージュ・ゴレスターンに変身して分かった。

ゴレスターンは装着者の精神に強く影響される。

きっと、精神を移したいと願えば応えてくれるはず――。

 

「うっ!」

 

 ――また大きな揺れがペルセポリスを襲った。

一時的に大きく傾き、

 

私とセラードは通路の壁に叩きつけられる。

受け身の取れないセラードは頭を強打し、赤く細い血の線が頬を伝った。

 

 さっきのビブロスとバールベックという敵たちが、本格的に爆弾で沈め始めたのだろう、奥からはどす黒い煙が侵入してくる。

 

「お願い……お願い……お願い……! 急いで……!」

 

 ――手の中から、急に強い光が放たれた。

部屋一つを照らせるほどの光。

眩しい。

 

 意識がかき乱され、脳が狂ったように動き回る。

脳に針でも刺されたような、心を鷲掴みにされて絞られているような、理解できない苦痛が襲う。

それでも意識の首根っこを引っ張って強引に耐えしのぐ。

こんなもの、セラードの痛みに比べれば大したことはない。

 

 ………………………………あれ……?

 

 視界を塞いでいたゴレスターンの眩い光は引っ込み、代わりに黒い煙が通路を染めていた。

 

 腕の中には、セラードが、いない。

 違う。

誰かが、私のことを抱きかかえている。

 

 若干、背中と頭がズキズキと痛む。

きっと通路に転がったときにぶつけたからだろう。

 

 目の前には、私がいた。

 

 目を瞑り、力を失くした私がそこに倒れていた。

奇妙なことに私は私に抱きしめられている。

 

 自分の手を見た。

いつもより少し小さい。

まさか、これは……?

 

「成功した……?」

 

 半信半疑ながらも、正解を教えてくれる人物もいなければ、答え合わせする猶予もない。

 

 私は私――メリダキャスケットを被り、銃とスマホと握りしめられていたゴレスターンをポケットにねじ込み、煙と逆方向に向かって全力疾走した。

キャスケットはまだセラードの頭には大きく、少し後ろに被っている。

 

 頭から流れた血を拭い、ただ走る。

その先はシルヴァンシャーを待機させてある格納庫だ。

 

 振り向くと、煙に包まれてメリダの姿は完全に隠れてしまった。

でももう未練はない。

この体さえあれば、なにも文句はない。

 

 いつもより身長が低くて痛みもあり動きづらい。

でも転ばぬよう足を動かし続けて格納庫に通じる扉の前にまで来た。

幸いなことに自動ドアじゃないから、ゴレスターンの出番はない。

 

 階段を駆け下りる。

目の前には体育館ほどの広い格納庫が広がっていた。

シルヴァンシャーを出すための大きなハッチがあり、その端に人間サイズの穴が開けられている。

おそらくシュトゥルーヴェの兵士たちはあそこを爆破して侵入したんだろう。

 

 左右には五メートルほどの高さの箱があった。

左右で四つずつあり、本格的な戦闘時ではないため、閉まっているのは一つだけだ。

 

 私は手前にある【J・M・1】と書かれた箱の前まで走り、パネルから箱の開閉スイッチを押した。

重い音を響かせながら箱が開き、やがて銀色の巨人が姿を現した。

 

 約五メートルの身長。

ソロバン玉のようなボディ。

人間とは逆向きに曲げられた長い足。

頭頂部のコクピットはガラス張りで大きな席が一つ。

ヘリでも撃ち落とせるほどのバルカン砲が腕の代わりに装備された兵器だ。

これで格納庫から飛び出せば、ホバリングで降りられるはず。

 

「よし……」

 

 

 シルヴァンシャーの背中から伸びるフック付きのワイヤーに足をかけると、メジャーのように上がっていった。

そこから頭頂部まで手を伸ばすと、ドーム型のガラスが開閉する。

コクピットに潜り込み、ガラスを閉じる。

 

 そこには飛行機のような細かい計器類などは一切なく、あるのはケーブルが繋がれた十個のリングのみ。

操作は全てこれで行うことになる。

 

 両手を前方に突き出すと、それぞれのリングが指に嵌ってゆきサイズも自動的に調節された。

コントロールリング。

操縦は十本の指のみで行う。

 

 するとシルヴァンシャーが起動。

計器類が淡く光り始めた。

操作方法はあやふやだけど……。

 

「動いて……お願い」

 

 久々のシルヴァンシャーの操縦方法を頭の奥底から引っ張り出し、手始めに右足を前進させた。

イメージ通り足が前に出た。

しかしその調子で左足を動かそうとした、そのとき――。

 

 格納庫の入り口から、煙で薄汚れてしまったアルコが姿を現した。

弾切れで捨てたのか、手には銃もない。

軽く足を引きずりながらも、シルヴァンシャーの姿に気づいて手を振った。

 

 指で操作すると、搭乗用のワイヤーが背中から降りた。

これで下にやってきたアルコもこっちに入れるはず。

背中まで上ったアルコのためにガラスを開いた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 少し煙臭いアルコはそう言う。

 

「メ――あ、姉様は、その……」

 

 本当の報告をしたかった。

私の精神をゴレスターンでセラードに移し、そしてセラードは死んだ――そんなことは、口が裂けても言えない。

 

メリダは、もう無理なのは分かってる。セラードはどうなんだ?」

 

 その口調は冷静だった。

けど、私が死んだことに悲しみを帯びているような雰囲気があった。

 

「私は、その、大丈夫、です」

 

 確かセラードはアルコに敬語だったのを思い出した。

ここで気づかれたら、セラードが死んだことがバレてしまう。

それだけは避けたい。

 

「て、敵は? 敵はどうなったの、ですか?」

 

「分からねえ。

でも通路は煙が充満してるし、ペルセポリスは何カ所も爆破されている。落ちるのも時間の問題だ。

あいつらだってもう逃げる準備をしてると思う」

 

「じゃあ……脱出するしかないですね」

 

 艦長やルートとラウマは、きっと逃げているはず……。

 

「あぁそうだ。だが待てセラード。俺が操縦する」

 

 私が後ろに下がり、アルコが狭いコクピットに体をねじ込むと、リングが指に嵌っていった。

 

 席は大きいのが一つしかないため、アルコの背中に抱き着く形になって少し照れくさい。

けど、セラードの小さな体じゃなかったら厳しかったかもしれない。

 

 アルコは軽快にシルヴァンシャーを操縦し、特殊なコマンドを送って大きなハッチを開けた。

 

 地響きのような重々しい音をまき散らしながら鋼鉄のハッチが開き、景色は空へと変わる。

 

「準備はいいか? セラード」

 

「は、はい!」

 

 一歩前進すると、シルヴァンシャーは地を離れて真っ逆さまに落下した。

ただ落ちるだけではシルヴァンシャーは耐え切れず、ペチャンコに潰れてそのまま棺桶になるだろう。

もちろんそれくらいアルコも承知で、足から火が噴き出すブースターで速度を調節しながら降下する。

 

 真下にはエフェソスとシュトゥルーヴェの間に広がる海が見えた。

セラードの命を奪った敵国に上陸するわけにもいかないため、角度を調節してエフェソスまで戻るしかない。

 

 強力なブースターではないけれどギリギリ戻れる……はずだし、海に落ちても移動はできる。

 

陸海空に対応できるのが、シルヴァンシャーの魅力だ。

 

でもパラシュートはなく、ブースターだけの降下は心許ないけど、アルコの腕を信用しているから心配はない。

 

「とりあえずは、大丈夫だな」

 

 アルコはシルヴァンシャーを安定させた。

揺れは小さく、ブースターのブレもない。

この後エフェソスの地上でどういう算段で動くかはさておき、今は大丈夫そうだ。

 

 私は後ろを振り返って数十メートル上空を見上げる。

ペルセポリスから煙が噴き出し、焚火のように炎が吐き出されている。

半分は原型を成していない。

もはや鉄の爆弾だ。

 

「あ、アルコ、さん、ペルセポリスは、どこに落ちるのでしょうか」

 

「分からん。

けどこの調子なら海だろう。

あんな状態じゃシュトゥルーヴェの陸地までは落ちない。

まぁ陸地に墜落しようものなら、大爆発を起こすだろうが」

 

「そ、そうですよね」

 

 墜落後の被害も心配だ。

たとえ敵国だろうと、市民が大量に死んでしまうのは気分が悪い。

それに船はエフェソスの物だ。

間違いなく苦情はエフェソスに殺到するだろう。

 

「エフェソスには戻れそうですか?」

 

「進んできた方向を戻ってるんだ。ブースターでバランスを保ちながら長時間の移動は大変だが、まぁなんとかなるだろう」

 

「良かった……」

 

「なぁ、セラード……ごめん」

 

 アルコは俯き、顔を伏せた。

泣いているのか、私に涙を見せないようにしている。

 

メリダを助けられなかった。通路でメリダが倒れているのを見つけた。けど、煙が酷くて目を開けるだけでも必死だった。本当なら……あいつを一緒に連れていきたかった」

 

「アルコさんのせいじゃないです。私と一緒にいたときに、姉様は撃たれてしまいましたから」

 

「目の前で、撃たれたのか? 強いな、セラードは」

 

 ――違う。私は強くなんかない。私は妹も助けられなかった、弱いメリダだ。

 

「姉を目の前で亡くしたのに、涙も流していない。強いよ、本当に」

 

 ――違う。

本当は枯れ果てるまで泣きたかった。

でも泣いてしまったら、セラードの体に申し訳ないと思ったから我慢しているだけだ。

 

「泣きたいなら、いつでも泣けよ」

 

「え?」

 

「俺は頭も悪いし王とかの血筋もない。できるのは泣きたいやつに背中を貸すことだけだ」

 

 ――本当に、泣いていいのか。

セラードだったら、私が死んだときに思い切り泣くだろうか。

 

 気づけば、暖かい雫が顎から落ちていた。

決壊したように、とめどなく涙が溢れる。

 

 アルコの背中に額をつけ、体中の水分がなくなりそうなほど涙を流した。

 

 人間の体は、約七十パーセントが水分でできていると言われている。

あとどれくらい泣いたら全部を出してしまうのか、もし出し切ってしまったら、セラードはどう思うんだろう。

 

 私の、メリダ・エーランドの冷たい一日は、まだ終わらない――。

 

 

 

 目が覚めた。

大きめのキャスケットをどかして寝ぼけ眼を薄く開き、太陽の光を瞳に浴びせる。

涙が乾いて頬にくっついているのが鬱陶しくて、手で顔をくしゃくしゃにした。

 

 腕と足を伸ばして背伸びをすると、あることに気づいた。

 

 ついさっきまで座っていたアルコはそこにはいない。

 

 日も落ち、時刻はすでに夕方と呼べるほど変貌している。

セラードや仲間の兵士たちの気持ちを表したのか、青と黄の入り混じった黄昏空が広がっていた。

 

 ガラスが開きっぱなしのコクピットから立ち上がると、搭乗用のワイヤーで地上まで下りた。

 

 しっかり地面がある。

私が泣いて眠っている間に、アルコはうまいこと操縦してエフェソスの地上まで下りることに成功したらしい。

 

 周囲は木に囲まれていることから考えると、ここはどこかの森のど真ん中だろう。

 

 見渡すと、焚火のそばで座るアルコが見えた。

駆け寄って、隣で膝を抱えて座った。

 

「おおセラード。ぐっすり眠れたか?」

 

「はい。その、おかげさまで」

 

 アルコは疲れを見せず、私のことを気づかって無理に笑顔を作った。

 

「泣きたいときは泣け。子供が涙を我慢したっていいことなんかないさ」

 

「……子供、そうですよね」

 

メリダ……あいつは勇敢だ。お前を守るために命を張ったんだ。メリダ嬢なんて呼ぶほど子供じゃなかったな……いや、メリダの話はやめておこう。それより銃は持ってるか?」

 

「えぇ。キャスケットスマホと一緒に姉様から受け取った銃があります」

 

 ポケットから銃を取り出した。

セラードの手だといつもより重く感じる。

 

「セラードには危険だ。俺が預かる」

 

 安全装置をチェックして、ずっしりと重い銃をアルコに渡した。

 

「これから、どうしましょう」

 

 ここはエフェソスのどこなのか、太陽も沈んでいるから方角も把握できない。これほど太陽を引き上げてやりたいと思ったことはない。

 

「アルコさん、シルヴァンシャーで通信はできませんか?」

 

「シルヴァンシャー? なんでその呼び方を知ってるんだよ?」

 

 ――しまった。

あのジーフ・メージッヒをシルヴァンシャーと呼んでいるのは私とアルコだけで、セラードはシルヴァンシャーの存在すら詳しく知らない。

なんとか誤魔化さないと。

 

「あ、姉様から教えて貰ったのです。もしものときはあれで逃げるように、と」

 

「ああ、そういうことか。で、シルヴァンシャーで通信の件だが、残念ながらそりゃ無理だ」

 

「あれには通信機能があったはず……と姉様が」

 

「ここまで来るのにかなり時間を使ったからだ。

ほぼぶっつづけでブースターを酷使してたからな。

もう一歩も動けねぇよ。通信も厳しい」

 

 生きて大地に立てただけでも奇跡だから、不幸中の幸いではあるけど。

 

「でも、ペルセポリスから出てる微弱な電波なら捕まえられた」

 

「それって、もしかしてペルセポリスは無事ってことですか?」

 

「分からねぇ。望みは薄い。探す価値はあるかもしれないけどな」

 

「そうなんですか……」

 

「俺たちにも希望がないわけじゃない。ここからちょっと歩いて様子を見てきたんだが、ここはエフェソスの端っこだった。すぐそこに海があるし、ミストラの町もあった。一度も行ったことはないが、悪い噂を聞いたことはない」

 

「ミストラ……」

 

 その名前には聞き覚えがあった。

でもどこで耳にしたのか、よく思い出せない。

 

「今日はもう遅い。セラードはシルヴァンシャーの中で寝た方がいい」

 

「アルコさんは?」

 

「その辺で適当にな。心配すんな。バカはカゼを引かない」

 

 疲労困憊だろうに、私を気づかって寝床まで優先してくれるなんて。

 

 アルコの手前、出そうになったあくびを噛み殺してシルヴァンシャーの中に戻ろうかと立ち上がった、その時――アルコは私から受け取った銃の安全装置を外し、構えた。

 

 緊迫したアルコを見上げる。森の中に銃を向けていた。その銃口の先には、私たちをじっと睨んでいる人影があった。

 

「おいセラード」

 

 照準を人影にピタリと定めたまま、アルコは低い声で言う。

 

「頼みがある。お前にしかできない重要なことだ」