日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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戦場になった楽園ー第3話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

 

「大きな機械があるから、それに乗って。時間がないから、私は行く」

 

 セラードの肩を離し、私は背を向けた。

 

 私は、まだ弱かったんだ。

だからセラードを勇気づける一言さえ思い浮かばなかった。

アルコなら、そういう気の利いたことが言えたのかもしれない――。

 

 背後のセラードは涙を拭き、言われたとおりにイスの後ろに隠れた。

 

 弱い子供じゃない。

賢くて、心が強くて、勇敢な子。

私なんか、姉としても姫としても失格だ。

いつも姫の仕事を嫌だ嫌だと投げやりにして、普通の生活に憧れて立場など軽く考えて。

失格だと自覚していても、今でもそう思っている。

どうして、私たちは姫なんだろう、って。

 

 ――銃を構え、私は通路に出た。

左右を確認するも、敵どころか人すらいない。

どうやらまだシュトゥルーヴェの兵士はここまで到達していないようで、ゴレスターンの部屋との往復ならできそうだった。

 

 部屋の前に到着――分かってはいたけど、さきほどまで優しい笑顔を浮かべていたルートとラウマはそこにはいなかった。

 

 子供が産まれたばかりのルートも、病弱の妹のために働くラウマも、今頃はシュトゥルーヴェの兵士たちと戦っているのだろうか。

 

 今は無事でいるのか、すでに敵は全滅させたのか、それとも――。

 

「そんなこと考えちゃダメだ……」

 

 頭を振り、嫌な予感を頭の中から振り落とした。

今の私にはやらなくちゃいけないことがある。

そのためにセラードを一人残してここまで来たんだ。

 

 ゴレスターンに辿り着くため、カードキー、網膜認証、指紋認証、声紋認証、合言葉……。

その動作一つ一つがもどかしくて、地獄へのカウントダウンにも感じてしまう。

 

 いくつもの面倒な手順を終え、ようやくゴレスターンの前まで到達した。

 

 ガラスケースに封印された、リングのない指輪が輝いている。

これがパワードスーツを身に着けられる兵器だなんて、いくらシュトゥルーヴェでも探れるわけはない。

 

 ガラスケースを引きちぎるように持ち上げ、けれども音をたてないようそっと床に置いた。

 

 ゴレスターンを手に取ってすぐに部屋を出る。

帰る際のロックのかけなおしなど無視し、敵の存在に気を付けながらも通路を走り娯楽室まで戻ったが――。

 

「うわっ!」

 

 娯楽室の前にさしかかったとき――突如、上階から爆発音が鳴り響き、同時に強烈な揺れがペルセポリスを襲った。

 

 おそらくシュトゥルーヴェの兵士たちがどこかを爆破したからだろう。

アルコの予想通り、内部から破壊するつもりらしい。

早く逃げなければ、ペルセポリスごと墜落してしまう。

 

 バランスを保てなくなり、勢い余って壁に背中を強打した。

揺れと痛みで脳が震え、視界が揺らぐ。

くっきりと目に映っていた景色は一瞬だけ形を失って万華鏡のようにかき乱される。

 

 定まらない視界、地震のように揺れる足場、それでも娯楽室の前に到着した。

 

 なのに――。

 

 自動ドアが――開かない。

 

 通路の電気がチカチカと明滅を繰り返した。

ペルセポリスが揺れるほどの衝撃なのだ。

電気系統が狂ってもおかしくはないし、自動ドアが故障するのも自然だ。

 

 非常時に備えて全て手動にしておいてくれればこうはならなかったのに、ペルセポリスの設計の甘さに腹を立てつつも、無理やり冷静さを保つ。

 

 早くセラードを連れて一階まで逃げなければ。

 

 このペルセポリスにはエレベーターと一緒に階段も用意してある。

この様子だとエレベーターも使用できないはずだから、もしシュトゥルーヴェの兵士が来るとなれば階段を使うはず。

 

 でも私がシュトゥルーヴェの兵士なら、まずは一階づつ確認せずに先に上の階から攻めるだろう。

なぜなら、姫という立場は上の階にいると予想するからだ。

だからこそ敵は上から攻めたのだろうし、まだ二階には来ていないんだろう。

 

「猶予はある、けれど、急いで逃げるしかない」

 

 問題は、まずこの自動ドア“だった”鉄の壁をどうするか。

手元には爆弾もないし銃で壊して蹴破る――そんなパワーもない。

そんなものはないけれど、手には希望が握られていた。

 

「ゴレスターン……これでやるしかない」

 

 まだ試作段階のゴレスターンを左の人差し指の上に置いた。

銀色のリングが指の周りに出現し、ようやく指輪らしい形になる。

 

 イチかバチか、ゴレスターンの力でふっ飛ばされて死ぬかもしれない。

耐え切れなくて内臓とか脳みそがシェイクされるかもしれない。けど、やるしかない。

 

 変身コードは――。

 

「ミラージュコーティング!」

 

 声と共に左腕を前方に突き出した。

 

 ゴレスターンから光の壁が出現し、プロテクターの形となって胸に張り付いた。

それを起点として、全身を包む黒いラバースーツ、手袋、ブーツ、輝くフルフェイスのマスクもどこからか形成され、瞬時に全身をパワードスーツ、ミラージュ・ゴレスターンが包んだ。

両肩には銀色の四角いマシンガンが装備されており、引けばチューブに繋がれた状態で抜くことができる。

 

 体の内側から溢れるような底知れないパワー。

今なら自動ドアくらい簡単に突破できそうだ。

 

「変身……できた」

 

 ――でも、妙だ。

 

 ゴレスターンはまだ試作段階。

本格的に変身する実験なども行っていないはず。

それにしては拍子抜けするほどあっさり変身してしまった。

 

 頭の中に沸いた疑問を取っ払うため、頭を振る。

どうでもいい。

今やるべきことが優先だ。

 

「セラード! そこにいるの!?」

 

 沈黙した自動ドアを叩き、そこにセラードがいるか確認する。

 

「あ、姉様! ここ、開かないんです!」

 

「分かってる。今こじあけるから、離れてて!」

 

 セラードが離れるまで五秒ほど待ち、私は右足を後ろへ下げる。

 

 ゴレスターンは常人を遥かに超える身体能力を持つことができる。

おそらく、渾身のキックを一発でもぶつければドアは破壊できるはず。

 

 これに、賭ける!

 

「はっ!」

 

 力を込めた右足を自動ドアの中心に叩き込むと、自分でも驚愕するほどあっさりと蹴破ることができた。

キックを受け、アルミのようにひしゃげた鉄扉が無残に転がり、私とセラードを遮る障害物はなくなった。

 

 私の姿にセラードは驚いた様子だったけど、すぐにメットだけを外して安心させる。

 

「姉様……? それって……?」

 

 ミラージュ・ゴレスターンについてセラードは知らないから、気になるのも無理はない。

 

「説明は後、とにかく今は逃げよう」

 

 メットを被り、絶妙な力加減でセラードの手を握り、私たちは娯楽室を飛び出した。

 

 問題はここから。

どこから逃げればいいのだろう。

エレベーターは停止しているだろうけどゴレスターンならワイヤーを伝えば移動できるはず……でもセラードと一緒じゃムリだ。

 

 となると、自然と階段という選択肢しか残らなくなってしまう。

 

 シュトゥルーヴェの兵士は私たちを狙っている。

ゴレスターンで撃退することも不可能ではないと思うけど、試作段階のゴレスターンがどこまで実戦に耐えうるのか想定できない。

 

 しかしタイムリミットが訪れれば船ごと墜落だ。

今は敵がどこにいるのか。

私たちを探して四階を攻めに行ったのか……。

きっと敵は血眼になって別の階を探すはず。

私たちの息の根を止めた後に船を落とせば、確実に仕留めることができるから。

 

 意を決し、セラードから手を離さぬまま階段を駆け下りた。

目標は一階、格納庫にあるジーフ・メージッヒ――勝手にシルヴァンシャーと呼んでいる――手動操縦型起動兵器だ。

 

 アルコのことも心配だけど……そう簡単に死ぬような人じゃないことはわかっている。

それにアルコを迎えに行っても「なぜセラードと逃げないんだ」と、怒られるのがオチだ。

 

 右手でセラードの手を引き、左手で肩から四角いマシンガンを抜く。

肩とチューブで繋がれており、誤って落とすこともなく弾薬の補充も必要としない。

 

 これでどれほど対抗できるのかは未知数だけど、丸腰(武器がない状態)よりは頼りになる。

 

 今いる娯楽室は二階。

階段を下りて通路を走ればすぐに格納庫だ。

 

 壁に背を預けて隠れながら通路を確認する。

今は通路の真ん中にある階段だ。

左右には通路が伸び、右に折れて直進すれば格納庫に行ける。

 

 格納庫への通路を塞ぐ何者か――いや、何かがそこにいた。

 

 四本足で通路のど真ん中を占拠し、丸く大きなカメラで見つめている機銃付きの機械。

敵が設置した警備ロボットかもしれない。

少なくともペルセポリスにこんな警備ロボットはいない。

 

「セラード、ここで待ってて」

 

 セラードを階段の壁に隠し、私は警備ロボットの前に飛び出した。

 

『ウィーウィーウィーウィー』

 

 警備ロボットがけたたましいサイレンをまき散らし、カメラの下の緑色のランプが赤く変わった。

こんな音が鳴ったら兵士たちが駆けつけるだろうけど、その前に逃げればいい。

 

 左肩から抜いたマシンガンに加え、右からも引き抜く。

二つの銃口を警備ロボットに向けた。

 

「はあああぁぁぁあ!」

 

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

 

 一秒で何発を連射したのか撃った私自身も把握できない。

目の前で弾丸を放った警備ロボットに、ただ一心不乱に弾丸を浴びせ続けた。

 

 壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!

 

 撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て!

 

 いつしか警備ロボットは沈黙し、爆発――。

 

 爆炎と煙の中には、さっきまで脅威だった物が粉々のスクラップになって転がっている。

 

 いくらか相手の攻撃を受けたものの、ゴレスターンに変身していたためほとんど痛みはない。

もしなければ、間違いなく死んでいただろうけど……。

 

 私は右肩にマシンガンを戻して階段へ戻り、セラードの手を引いて格納庫への道をひた走る。

 

「姉様! 大丈夫なのですか!?」

 

「私は大丈夫……それより、後ろに敵は――」

 

 ふと、左手を見る。

さっきまであった手袋が、ない。

それどころか、手にしていたマシンガンも消えている。

チューブで繋がれているから落としたなんてことは、

 

「姉様! その服、消えています!」

 

 後ろのセラードが呼ぶ。

 

 手袋やマシンガンだけじゃない。

メットもプロテクターもラバースーツも、そのどれもが力をなくし私の体から消滅していつもの服に戻っていた。

ゴレスターンも輝きを失っている。

 

 ――いや、私はいちいち気にし過ぎだ。

そんなことはどうでもいいんだ。

ミラージュ・ゴレスターンがあろうとなかろうと、シルヴァンシャーに乗り込んでしまえばこちらの勝ちだ。

 

「姉様! 後ろ!」

 

 セラードに呼ばれ、走りながら振り返る。

 

 ――いた。

 

 もう少し警戒しておくべきだった。

無骨な銃を構えた複数のシュトゥルーヴェ兵が、確かにこちらに銃口を向けていた。

全身を真っ黒な戦闘服で固め、頭も漆黒のメットで隠している。

 

「いたぞぉ!」

 

 男が叫ぶと、一人が引き金を引き絞った。

その一瞬はスローにさえ感じられるほどで私がホルスターから銃を抜いて反撃する暇もなく、たった数グラムの小さな弾丸がセラードの背中めがけて飛んでいった。

 

 幼い背中に弾丸がねじ込まれ、セラードは人形のようにその場に倒れた。

 死んだ。

まだ十歳のセラードが、エフェソスの姫が、私のかけがいのない妹が、死んだ。

こと切れた、絶命した、他界した、永眠した、亡くなった、死亡した。

どんな表現をしてもセラードは命という灯を失ったただの屍になり果ててしまった。

なのに容赦なく、敵は接近を続ける。

後は私たちを仕留めたことを確認して、適当にペルセポリスを落とすつもりだろう。

こんなところで、死んでたまるか。

まだ二十歳にもなっていない。

 

 絶対に、死ぬもんか。

 

 私は撃たれたセラードと同タイミングで後ろに倒れて目を瞑った。

一発で二人を撃ち殺したと相手に思わせるためにだ。

ハッタリが通じるのか定かではないけど、これしかない。

 

 一歩――二歩――。

 

 敵の足音が響く。

足音が死へのカウントダウンへと変化して、冷たい床に倒れた私の体に浸透する。

息を殺し、眉一つ動かさぬよう耐えているのに、警笛を鳴らす心臓の鼓動が邪魔する。

 

 お願い――お願い――お願い――。

 

 足音が目と鼻の先に到達する。銃口を私たちに向け、じっくりと生死の確認をしている。

 

「あ……?」

 

 低い男の声。

おそらく三十代か。

その男が、なにかに気づいた――。

 

「おいおいおい」

 

 男は目を瞑る私の顔に手を触れた。

鼻息がかからぬよう、じっと呼吸を止める。

なにをするのかと思えば、男は私の髪にさらりと触れて顔を確認した。

 

「へぇー、近くでみると結構美人だな」

 

 こんな状況で褒められてもちっとも嬉しくない。

早くどこかに行ってくれ。

そればかり願う。

 

「それとこっちの指輪、なんだこれ」

 

 男は私の指を持ち上げ、ゴレスターンをまじまじとチェックしている。

火事を起こすだけでなく、火事場泥棒までするつもりなのだろうか。

 

 しかしゴレスターンは私の指にピタりと嵌められ、どれだけ引っ張っても抜けることはない。

スーツは消滅したけど、指輪だけは外れずに残ったらしい。

外すには引っ張るだけでなく、所有者の“外したい”という意思がなければ外すことができない。

 

 しばらくすると、男の背後から別の足音がやってきた。