日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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命のすれ違いー第2話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

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私はアルコの言う“すげぇ”の部分には興味なかった。

 

「さぁ。そういうデザインなだけだろ。まぁいらないなら消してもいいんじゃないか?」

 

「うん。そうする」

 

 と言っても、害がないのなら消すのすら億劫ではある。

もしセラードもこのゲームを始めようなら、私もやっておかなくちゃいけない気がするし、残しておいたほうがいいかも。

 

「アルコ、もしよかったらセラードと一緒にゲームしてあげて」

 

「あ? メリダ嬢が一緒にやればいいでしょ」

 

「私は……ゲームには疎いから。アルコの方が得意でしょ、そういうの」

 

「分かったよ」

 

 そこで話は終わり、私は通路に出た。

セラードには指令室に向かうと言ったけど、実は違う。本当は、エフェソスで研究されているある物を確認するためだ。

 

 この娯楽室から壁を挟んで反対側、私や艦長のフレーザーさんやアルコなど一部のみが入室できる特殊な部屋。

カードキーと網膜認証と指紋認証、声紋認証に合言葉がなければ開かない厄介な部屋だ。

他の部屋に比べて扉は頑丈で、よほどの爆弾でなければ破壊は不可能。

その存在すらほとんどの人間は知らずほぼ極秘である。

なぜそんな重要な部屋がこの船の、しかも娯楽室と同じ階にあるのか? 

それは海底のポストや砂漠の湖のように意外性をつくためらしい。

もしも存在そのものが外部に漏れても、見つけるのはそう容易ではないかもしれない。

 

 ――私は長い通路を抜け、扉の前に立った。

 

メリダ様、どうかされましたか?」

 

 扉の前には銃を所持した体格のいい二人の男性がいた。

どちらも中年男性ながらも柔らかい笑顔を浮かべている。

右が最近子供が産まれたルート・ヘンダーソン

左は病弱な妹のために働くラウマ・パースだ。

 

 二人とも子供の頃からの長い付き合いで、たまにセラードの面倒も見てくれる。

 

「ちょっと中を確認するだけ。ルート、お子さんは元気?」

 

「はい。そりゃもう可愛いもんですよ」

 

 ルートは胸ポケットから子供の写真を取り出した。

まだ産まれたばかりの幼い笑顔が小さな写真いっぱいに広がっている。

隣には私と同じくらいの姉もいる。

 

「ルート、軍人が子供の写真を取り出すのはよくないよ」

 

 戦いが終わった後に結婚すると宣言して戦場に向かえば、間違いなく生きては帰ってこない。

 

 そういうジンクスのようなものは昔からある。

 

「あ、なるほど、勉強不足でありましたね!」

 

 意味を察したのかどうなのか、ルートは大きく口を開けてガハハと笑う。

 

「ラウマ、病気の妹さんは?」

 

「ここ最近は特に問題ありませんよ。よく笑うようになりました。まぁ手話は難しかったですけど、五年もあればさすがに覚えられます」

 

「……そっか、良かった」

 

「俺たちの心配なんていいですから、メリダ様はご自身のことだけを考えていればいいですよ」

 

 でも、自由に遊べないとなると、なるべく平和な話をしたくもなる。

 

 私はカードキーをポケットから取り出し、扉の横のカードリーダーに滑らせる。

安っぽい電子音が鳴り、扉は開いた。

でもまだこれは一枚目でしかない。

次の扉で網膜認証と指紋認証――扉が開く。

次の扉で声紋認証と同時に合言葉を言わなければならない。

 

メリダ・エーランドの楽しい一日」

 

 なんて恥ずかしい合言葉か。

でもこれはフレーザーさんが考えた合言葉で、これも敵に気づかれにくいという理由かららしい。

でももう少し真面目なものにしてほしかった。

 

 中は、テニスコートほどの広さの四角い部屋、中央には黒い鉄の台があり、その上には小さなガラスケースがある。

防弾ガラスであり、戦車で踏みつぶしても壊れないらしい。

 

 中に入っているのは指輪――の宝石の部分のみで、リングはない。

それに真っ白で透き通っているダイヤのような宝石だけど、厳密にはダイヤではない。

 

 指に付ければ太さに応じて自動的にリングが出現するらしいけど、私は触れたこともない。

 

 指輪の名前はゴレスターン。

 

 この指輪には二つの機能がある。

まだ実験段階だから実際に使用されたデータはないけれど、たしか聞いた話によるとこんな機能があったはず。

 

 一つ――ゴレスターンを付け、ミラージュ・コーティングの掛け声とともに拳を突き出すと、一瞬で全身をパワードスーツが覆うらしい。

常人の数十倍のパワーで活動ができる。

戦闘や救助になれば重宝すると思うけど、いったいこれは誰が使うんだろう。

 

 そして二つ――精神を死人に移し、死人に身体的な傷があればある程度は再生でき、蘇生することができる。

 

 たとえば――目の前でアルコが銃に撃たれ、体も精神も死んでしまったとする。

そしてこの指輪を使うと、私の精神はアルコに移り、アルコの体は再生される。

私の元の体は精神が抜け、空っぽの状態になる。

つまり自分の体を捨てて、その人の体だけでも助けたいならば重宝する、というものだ。

 

 きっと宗教に関係する人なら神への冒涜だなんだって騒ぐだろうし、精神の移動や蘇生なんてことが実現できると公(おおやけ)になれば、戦争が始まりかねない。

 

 私はゴレスターンのケースに異常がないかチェックし、また扉にロックをかけて通路に出た。

 

 そこでふと、セラードの言葉を思い出した。

誰かに見られている気がする、と怖がっていた。娯楽室はしっかり調べたけど、左右の部屋はなにも調べていない。

 

 シュトゥルーヴェまでの到着に二時間もかかる。

まだ出発してから一時間も経過していない。

幸いにも時間なら、ある。

 

 誰かが隠れている、なんてことはないと思うけど、いちおう見ておいたほうがいいのかな。

 

 また長い通路を進み、娯楽室の左隣の部屋の前までやってきた。

たしかここは使われていない部屋だったはず。

前に軽く見たことはあったけど、空き部屋だった記憶がある。

 

 腰のホルスターから銃を抜き、自動ドアのすぐ横に背を預け息を整える。

 

 もし撃ち合いにでもなったらどうしよう……念のためにアルコに見てもらおうか、とも考えたけど、セラードに余計な心配をさせてしまう。

 

「やっぱり私が行くしかないか……」

 

 わずかにドアに近づくと、ドアが開いて中の様子が見て取れた。

自動的に部屋の電気も点灯する。

そこから顔だけ覗き込み、警戒態勢を継続しつつ確認する。

 

 飾り気のない真っ白な部屋。

ダンボール箱の一つもなく、とうぜん人の影なんて微塵も見えない。

使う予定が消えた銃をホルスターに戻す。

 

「あっ」

 

 私は、落胆した直後に天井の端にある監視カメラを見つけて、恥ずかしさでいっぱいになった。

 

 これは、最悪だ。

今のうちに言い訳を考えておいてあとでしっかり説明しないと、ただの痛い女だと思われてしまう。

それはさすがに嫌だ。

 

 飽きるほどため息をつき、私は部屋を出ようとした。

何気なく、白い壁に目をやる。

白い壁の一部に軽く焦げたような跡があった。

マッチの火が当たったような、ほんの数センチの範囲だけが灰色になっている。

 

 誰かがここでマッチを使った? でもこんななにもない部屋で誰がマッチなんか使うの? まさか花火なんかをこんなところでやるわけないだろうし……。

 

 そこで私はピンと来た。

よく考えなくても分かることだったけど、監視カメラがバッチリ見ていることを忘れていた。あとで監視係にでも訊ねてみよう。

 

 とりあえずその場を保留にして部屋を出た。

なにもトラブルがなかったからよかったかな。

 

 でも娯楽室の隣の部屋はここだけじゃない。

反対側にも部屋はある。

たしかここと同じくなにもない部屋だった気がするけど、あまり入ったことはないから詳細不明だ。

 

 でも見ないわけにもいかない。

娯楽室を横切って、次の部屋の前に行く。

安心はできなくて、腰のホルスターから銃を抜いて息を整えながら構える。

 

 幽霊より、占いより、私は人が怖い。

 

獰猛な動物はうまいこと躾(しつけ)をすればある程度は手なずけることができる。

けど、人間は欲望に塗れたら手が付けられない。

 

 同じ動物なのに、同じように手足や頭を持っているのに、人間だけ発達しすぎたせいで面倒な生き物になってしまった。

いっそのこと、知恵や言葉などなければよかったのに。

 

 正義を語って市民を虐殺するような人間は、この歴史の中には何人もいる。

でもそんなものはクモの巣に引っかかったチョウを助けるようなもので、自己満足の正義にしかならない。

チョウを助けたつもりでも、クモは損をしている。

そんなものは正義でない、意味のないことだ。

どうして、人間は時代が進むごとに愚かになるんだろう――。

 

 自動ドアの前に立ってドアを開ける。

銃口を突き出しつつ部屋に入ると電気がついた。

さきほどの部屋と同じく、そこにはなにもない。

 

 が――。

 

 リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!

 

 突如、けたたましい警報が辺りを浸食した。

引き抜いた銃をそのままに廊下へ飛び出してすぐに娯楽室へ向かう。

 

「セラード!」

 

 怯えた様子のセラードが、珍しく真剣な顔をするアルコに抱き着いていた。

 

「アルコ! いったいなにがあったの!?」

 

「俺にも分からん!」

 

 その疑問に答えるように、ペルセポリス内に設置されているスピーカーから声が響いた。

 

武装した何者かがペルセポリスに侵入! 数は四! 侵入経路は一階のハッチ! 総員、直ちに戦闘体勢に入れ!』

 

 慌てた様子でそう叫ばれても、すぐに動くことができない。

姫とはいえ、軍人の一人とはいえ、私は人を撃つ痛みも撃たれる苦しみも知らない。

情けないことに、足が震えてしまって体も言うことが聞かない。

手も小刻みに振動し、指が引き金に定まらない。

 

メリダ嬢! メリダ嬢!」

 

 アルコがなにかを叫んでいる、なのに、耳には入ってこない。

敵――武装している――私は死ぬの? セラードは助けられる――? どうしよう、どうしよう、どうしよう――。

 

メリダ!」

 

「えっ!?」

 

メリダ、お前がしっかりしないで誰がセラードを守るんだ。慣れてない状況だからかもしれないけどな、お前がセラードを守るんだ」

 

「アルコは、どうするの……?」

 

「俺は敵を倒す。俺の予想だが、おそらく相手はシュトゥルーヴェの連中だろう」

 

「シュトゥルーヴェが? どうして?」

 

「たぶん十六分の一だろうと大陸を渡したくない反対派がいたんだろう。アミスカメタルよりもご自分の領土が大好きな連中がよ。おそらく狙いは、船の内部からの撃墜と大将の首」

 

「つまり、私とセラード……?」

 

 シュトゥルーヴェを含むほとんどの人物は、あの指輪、ゴレスターンについては知らないはず。

それなら、シュトゥルーヴェがゴレスターンを奪取しにきた可能性は低いと見える。

おのずと私たちが標的だという信憑性が増してしまうが……。

 

メリダ、銃は扱えるな?」

 

 射撃にも対人にもあまり自信はないけれど。

 

「セラードと一緒にここで隠れてろ。隙が出来たら一階の格納庫から逃げるんだ。そこに空の上からでも脱出できる武器がある」

 

「武器? なんのことを言っているの……?」

 

「説明している暇はない。とにかく格納庫にあるそれっぽいものだ」

 

「あ、アルコはどうするつもりなの?」

 

「さっきも言ったろ。敵を倒す」

 

「まさか、ゴレスターンを使って……?」

 

 ゴレスターンは常人を遥かに超えるパワードスーツを身に着けることができる。

銃程度ならば、四方から撃たれてもほとんどダメージはないだろう。

 

「いいや、ゴレスターンはまだ実験段階だ。実戦に使うには早すぎる」

 

「銃一丁だけで向かうの? いくらなんでも……」

 

「無茶か? でもこういう状況で無茶するのが大人の男の仕事なんだよ」

 

 アルコは私に引き留められないようにするためか、それ以上のことは口にせず娯楽室から飛び出していった。

 

 私の膝は小刻みに震え、それを押さえようと手で触れると、伝染したように腕まで震えだし、やがて頭の先まで伝わった。

目の前に涙目のセラードがいるのに、私は全身の震えを抑えるのに必死になる。

生き残るためにはなにをすればいいのか、セラードを守り抜けるのか――。

 そんな、迷っている暇はない。

「セラード、よく聞いて」

 私はセラードの小さな肩を掴んで目を見据えた。

「私はこれからやるべきことがあるから、しばらくセラードは一人になる」

「い、嫌です、私一人など……」

 涙が溢れるセラードの目を見据えるうち、気づけば私の頬にも涙がつたっていた。

「セラードはイスの後ろに隠れていて」

「あ、姉様はどうするのですか?」

「娯楽室と反対側の部屋に行って、あるものを回収しなくちゃいけない」

 セラードを最優先にしなくちゃいけないけど、万が一に私も戦えるようゴレスターンは必要だ。まだ研究段階かもしれないけど、私にも扱えるはず。

 いっそのことセラードも連れて行って、ゴレスターンの部屋で息をひそめることも考えた。

あそこなら厳重なロックがあるし、扉そのものも頑丈だ。

でも、セラードを通路に出すわけにもいかない。

 

「もし私が戻ってこなかったら、セラードは一階の格納庫に向かって外に逃げて」

 

 アルコの言っていた脱出できる武器というのは、なんとなく見当がついた。

おそらく、アミスカメタルを用いた手動操縦型起動兵器のことだろう。

確か正式名称はジーフ・メージッヒ。

でも呼びづらいから勝手にシルヴァンシャーなんて名前を付けたりしている。

 

 五メートルほどの身長。

足から火を噴射することでその巨体のホバリングを可能にし、ヘリコプターでも撃ち落とせるほどの威力を誇るバルカン砲を装備した兵器だ。

こんな空中ではあまり役に立たないけど、ホバリングで地上に降りるくらいなら不可能ではないだろう。

自動操縦機能もあるから、セラード一人でも――かなり危険だけど――大丈夫なはずだ。