日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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悲劇の始まりー第1話 双肩銃ミスティ・ミラージュ マナビヤ特攻人

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――令和四十年

 

 エフェソス国が所有する巨大浮遊戦艦ペルセポリスは、高度数千メートル上空を移動していた。

だが楽しい空の旅とはいかず、平和な時は脆くも砕かれた。

 

 敵国の名はシュトゥルーヴェ。

全身武装の兵士数人が、爆弾でハッチをこじ開け土足で侵入したのだ。

警報が鳴り響き、エフェソス国の船員たちは銃を手に取り撃退を図る。

 

 兵士か、非兵士かなど無関係に、シュトゥルーヴェ兵たちは船員たちを銃で撃ち抜いてゆく

たったの数グラムの弾丸で命の灯が消えてゆき、容赦なく内部は破壊されていった。

 

メリダとセラードを殺せ! 姫を殺せば勝ちだ!」

 

 シュトゥルーヴェ兵たちは船内を破壊しながら、向かって来る船員たちを打ち倒してゆく。

たったの四人しかいない部隊だが、彼らにとっては十分だった。

目的は、メリダとセラードの二人の姫を殺害し、ペルセポリスを内部から破壊し墜落させること。

 

 メリダは十七、セラードはたったの十歳だが、重要なのは年齢よりも姫という立場にある。

 

 国を潰すのならばまずはトップから、作戦としては常套手段だ。

 

 通路を重い隔壁で封鎖しても、シュトゥルーヴェ兵の爆弾によりあっけなく突破されてしまい、もうエフェソス側には打つ手がない。

 

 ――シュトゥルーヴェ兵の一人が、手をつないで逃げるメリダとセラードを発見した。

 

「いたぞぉ!」

 

 シュトゥルーヴェ兵たちの銃口が一斉に、走るメリダたちの背中に向く。

そして警告もなく、引き金に力が込められる。

 

 冷たい弾丸が放たれた。

セラードの小さな背中にねじ込まれ、十年という短い生涯を終えた。

 

 倒れたセラードと繋いだ手はメリダから離れ、糸の切れた人形のようにその場にくずおれる。

 

 だが絶望に叩き落とされて諦めるメリダではない。

一か八か、メリダはその弾丸で撃たれたと見せかけるためセラードと一緒に倒れた。

動けない、戦えない、逃げるのも叶わない。

ただ冷たい床に倒れ、息を殺してじっと祈るしかない。

 

 ――生死の確認のため、シュトゥルーヴェ兵の一人が接近する。

 

 一歩――二歩――。

シュトゥルーヴェ兵の足音が近づく。

足音が死へのカウントダウンになる。

どうすればいいのか――。

妹のセラードを失い絶望的な状況に叩き込まれたメリダは、なぜ姫になど産まれてしまったのか――運命を呪い、時代を呪った。

 

 ここを切り抜けさえすれば、ある方法でセラードを助けることができるのに――。

 

 

―一日目 昼―

 

 

 シュトゥルーヴェ兵たちが攻め込む数分前――。

 

 巨大浮遊戦艦ペルセポリスの内部に私はいた。

 

 散髪を忘れた黒髪は肩まで伸び、少しでも洒落っ気を出したくてクリーム色のキャスケットを被り桃色のスカーフを首に巻いている。

味気ない群青色の軍服のせいで、派手さと地味さの両立ができていないのが悔しい。

 

 私はメリダ・エーランド。

まだ十七そこそこの未熟者で、十歳の輝かしい妹がいる。

権力や血筋などという面倒なものさえ取っ払ってくれればいたって普通の女であり姉であった。

 

 半円状の指令室。

周囲を囲むモニター類とコンソール。

それを叩く船員たち。

難しいことはよく分からないけど、大きな窓に囲まれたこの部屋から見る青空は気持ちがいいものだ。

 

メリダ様、どうされましたかな?」

 

 艦長のフレーザーさんが、外を眺めてぼうっとした私を見た。

長い髭を蓄えた、頼りになる艦長だ。

私はそれに対してそれとなく返事をし、また窓から外を眺める。

 

 ここは雲とほぼ同じ高さの高度数千メートル。

いくら外を眺めていても流れる景色は一緒で、一瞬で消え去ってゆく。

 

 でも、これが一番落ち着く。

船は風を切り、古くから交友関係にあるシュトゥルーヴェ国へ進んでいた。

エフェソス国で採取できる金属、アミスカメタルを分け与える代わりに、シュトゥルーヴェ大陸の十六分の一を貰う交渉のためだ。

 

 シュトゥルーヴェは国一つだけで大陸を占める大国であり、太平洋のど真ん中に鎮座している。

十六分の一でも土地を貰えれば、そこにエフェソスの兵器保管庫と軍事施設を建て、距離の離れたシュトゥルーヴェからでも臨戦態勢に入れるようになる。

 

もし交渉が成立すれば、シュトゥルーヴェに攻め入る輩にも対応できるし、入手した情報も共有しやすくなる。

 

 アミスカメタルは加工も容易で丈夫で兵器にも使える、エフェソスでしか採取できない貴重な金属。

でもエフェソスだけで使うよりは他国との交渉材料に使うほうが理にかなっている。

 

 シュトゥルーヴェまでは船で二時間はかかるから、本当なら電話で済ませたかったけど、大事な話だからと直接来るように言われてしまった。

正直、面倒だった。

ペルセポリスなんて大きな船を使わなくてもよかったのに“メリダ様のため”と、武装した兵士まで用意させている。

 

 姫なんて立場でなければ、セラードと軽く観光できたのに。

シュトゥルーヴェはその国の広さもあって貿易や商業が盛んだと聞く。

世界中の名物も取り寄せているらしい。

 

「私、ちょっとセラードの様子を見てきます」

 

 なんとなく妹のセラードのことが気になり、私は娯楽室へ向かうことにした。

何もない空を眺めてばかりいるのにもそろそろ飽きてきたし、到着まではまだまだ時間はある。

 

 指令室の銀色の扉を開き、私はまたもや銀色の通路へ出た。

私も十七の女子だ。

男の子が喜びそうな無骨な船よりも、カボチャの馬車にでも乗って海を渡れればどんなに楽しいことか。

 

 下らない妄想を振り払い、エレベーターに乗る。

 

二階のボタンを押し、娯楽室を目指す。

 

このペルセポリスは四階まである。

いちおう階段もあるけれど、今は運動の気分でもない。

 

 一階は武器などを保管する格納庫になっているけど、今は戦闘時でもないので武器の“ぶ”の字もないカラっぽだ。

でも心配性のフレーザーさんが一つだけ武器を入れておいたと言っていたけれど、おそらく使うこともないだろうし、どんな武器なのかも知らない。

 

 格納庫に武器はないけれど、船員たちはそれぞれが非常時のために小型の銃を携帯していて、私もあまり得意ではないけれど、腰のホルスターには銃が納められている。

 

 二階は娯楽室を含めた娯楽エリア。

他にもバーやジムなど、大人の男性なら好みそうな部屋ばかりある。

私は筋トレもしないし、お酒も飲めないから意味がない。

 

 三階は船員たちの自室があるエリア。

ここは行くことがないから、まぁいい。

 

 ふとポケットからスマートフォンを取り出した。

なんの意味もなく、ただなんとなく。

 

 ――ホーム画面、ほとんど使わないアプリたちが並んでいる中、一つだけ見知らぬアプリが追加されていることに気づいた。

 

 ミスティミラージュ・オンライン――真っ白なアイコンの下にはそんな名前が書かれていた。

 

 おそらく、ただのゲームだろう。

普段からスマホなんて仕事以外では使わないから、気づかないうちにインストールされていたのだろう。

ゲームならセラードにでもやらせてあげよう。

 

 気の抜けたベルが鳴ってエレベーターの扉が開き、二階の通路へ踏み出した。

 

 ペルセポリスはうんざりするほど広い。

一つのフロアだけでも旅客機くらい二機は押し込めるほどで、部屋の数はさほど多くないのに無駄に通路が長くて嫌になる。

エレベーターのすぐ横に階段。

右に曲がって突き当りを左に折れれば娯楽室。

廊下の左右にも部屋がある。

 

 道すがら、私はさっきのアプリをもう一度だけ確認した。

ゲームだとすると、アイコンが白いのは妙だ。

普通なら何かのキャラクターが描かれているものだけど、もしかしてバグなのかな? ゲームのことはよく分からないけど、なぜだか消すのも惜しい気がして残すことにした。

 

 娯楽室の手前、私がその自動ドアに触れようとした直後、不意にドアは開かれた。

 

 驚いて情けない声を出してしまい、出てきた人物に鼻で笑われてしまった。

 

「大丈夫か、メリダ嬢」

 

「アルコ、いきなり出てこないでよ」

 

 私よりは一回りは年上の、薄い髭の男。

彼の名はアルコ・バッサー

昔からよく私やセラードの遊び相手をしてくれた叔父のような存在だ。

娯楽室から出てきたことを考えると、今もセラードの相手をしてくれていたのだろうか。

 

「いきなりもなにも、自動ドアなんだからしょうがないでしょ。それとも、犬だと思ったか?」

 

 ――痛いところを突かれてしまった。

私は動物全般が好きなのに、犬だけは苦手だった。

よく覚えていないけど、幼いときに噛まれてしまった記憶があり、今でも犬嫌いは克服できない。

 

 対するセラードは犬を含めた動物全般が好きで、大きい犬に乗るのがちょっとした夢だとも語っていた。

私は大きいのも小さいのも苦手だから少し羨ましい。

 

「ごめんよメリダ嬢、ジョークだ」

 

「……まぁいいけど。それより、これからどこに?」

 

「あ? トイレだよトイレ。セラード嬢と遊ぶのは楽しいけど疲れるな」

 

 アルコは私の横を通り過ぎ、角を曲がって消えてしまった。

 

 私が姫という立場とはいえ、メリダ嬢という呼び方には抵抗がある。

まだ子ども扱いをされている気がして気分が悪い。

 

 ため息で気分を誤魔化し、娯楽室へ足を踏み入れた。

大きなビリヤード台が中央に鎮座し、壁際にはスロットマシンや多種多彩な本棚がある。

ガラスの冷蔵庫には炭酸飲料があるけど、正直あまり好みではない。

 

 ビリヤード台の横、ちょっと大きめのイスにセラードは座っていた

バタバタと足を揺らしながら、ミリタリーもののマンガを読んでいる。

 

「あ、姉様」

 

 メリダは私に気づき、太陽のような笑顔を向けた。

小さな身体。サイズは合っているのに袖の広いコートを着て、厚いズボンの上に大きなスカートという変わった服装。

でもセラードはこれが落ち着くらしく止めるつもりもない。

私のマネをしているのか同じく黒のロングヘアーで、桃色のスカーフが目立つ。

 

「姉様、そのキャスケット、やっぱり素敵ですね」

 

 群青色の軍服に反発するようにキャスケットを被っているけれども、思った以上にセラードからの評価は高い。

けど、まだセラードの小さな頭にはサイズが合わないし、被ったら顔まですっぽり隠れてしまうだろう。

 

「セラードがもう少し大きくなったら、お揃いの物でも買おうか」

 

「いいんですか!?」

 

 私はメリダの隣に立ち、イスの背に肘を置いた。

 

「そのマンガ、なんてタイトルだっけ?」

 

「ウォータートン・グレイシャー作、ヘッドスマッシュ&イン・バッファロージャンプってタイトルです。ちなみにお値段は六百エンです」

 

「な、長い名前だけど、わざわざ作者の名前や値段まで説明しなくてもよかったのに」

 

「これに登場するゴロンゴロンとカパックニャンというキャラクターがとても愛らしいのです。姉様もお読みになりますか?」

 

「ううん、私はいいや。それより、どういうお話なの?」

 

「前線で命を張る王子が戦闘機に乗って、国の領土奪還のために戦うお話です。一般人の女性がその王子に恋心を抱くのですが、身分の違いでうまくいかない、というミリタリーものとトレンディを併せ持つ傑作です」

 

「そ、そうなんだ」

 

 まさかそんな大人っぽい作品を読んでいたとは。

ちゃんと内容を理解できているのかな。

 

「ところで姉様、どんな御用ですか?」

 

「セラードの様子を見に来ただけ。元気そうならそれでいいよ」

 

 アルコも一緒にいるし心配はなさそう。

アルコはちょっと気が抜けたところはあるけど、信頼もしているし頼りにはなる。

きっと私にはついていけないマンガの話題も大丈夫だろうし。

 

 私は娯楽室を出るため、セラードに背を向けて自動ドアの前まで進んだ。

でも自動ドアが開く距離に到達する前に、セラードの言葉によってその足は止まった。

 

「待ってください姉様」

 

 振り返ると、マンガを閉じたセラードが真剣な眼差しで私を見ていた。

 

 真剣――というより、何か恐怖を感じているようにも見える。

 

「……誰かに、見られていませんか?」

 

 どこを見ても人などいない。

しかし、視線となりそうなものならあった。

天井の端、監視カメラがじっとこちらを見つめている

ペルセポリスはトイレやバスルーム以外の全部屋に監視カメラが設置されている。

もちろん娯楽室も例外ではなく、二十四時間の監視体制だ。

 

「あー、監視カメラだよ。あれが視線の正体じゃない?」

 

 それでも満足せず、セラードは怯えたような表情になる。

 

「そうではありません。紛れもなくどこからか人が見ています」

 

 そう言われても、通気口もなければ、壁に穴などもない。

 

「セラード、疲れてない?」

 

「はい? 私は大丈夫です」

 

「そう……じゃあ私は指令室に戻るから、何かあったら呼んで」

 

 セラードとアルコは仲良くやっている。

せっかくの楽しい雰囲気を壊すわけにもいかないし、セラードの様子を確認できたなら、私はそれで満足だった。

 

 今度こそ背を向けて自動ドアに向かおうとしたとき、また私は歩みを止めた。

トイレから戻ったアルコが入って来たからだ。

 

「よぉメリダ嬢、もしかして指令室に戻るのか?」

 

「そうだけど、いいかげんにその嬢って呼び方、子供っぽいからやめてほしいんだけど」

 

「やめろって言われてもお嬢はお嬢だ。俺にとっちゃメリダ嬢もセラード嬢も子供さ」

 

 私はつい頬を膨らませる。

おそらく、私が死んでもその呼び方はやめてくれないだろう。

 

「じゃあアルコ、セラードのことは任せるから」

 

「はいはい。……あ、それはいいけどよ、ちょっと待ってくれ」

 

「今度はなに?」

 

メリダ嬢のスマホ、変なアプリ入ってないか?」

 

 ミスティミラージュ・オンライン、という真っ白なアプリのことだろう。

 

「あるけど、ゲームには疎いから起動すらしてない」

 

「そうか。俺は携帯ゲームには興味なくてね、でも気になってネットで調べてみたんだ。このゲーム、怪しいと思ったけどすげぇゲームだ」

 

「アイコンが白いのはどうして?」