日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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目が腐る小ネタを土日。ゲーム実況を月火。小説を水曜。4コママンガを木金に更新!

これでサラバ!第23話(最終話) 暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

 

「貴様っ! 能力者の小娘っ!? 兵士たちはなにをしているっ!」

 

 グールドが入口へ振り向けば、待機していたはずの兵士たちはもれなく倒れ伏していた。

その兵士たちの側には、リンセンに倒された四天王たちがそれぞれの武器を手に立っている。

 

 もちろん兵士たちの命は奪っていない。

再起不能にしただけだ。

 

「四天王どもがぁぁぁ! ニッポン人に敗北し、裏切りまでぇぇぇ!」

 

 グールドは仲間を失い、力を失い、戦う術を失い、絶望した。

 

 頭を床にこすりつけ、部屋中に轟く彷徨をまき散らす。

 

 だがクローナは獣のような叫びなど意に介さず、背中のピアストルを回収してからグールドの額に人差し指を当てる。

 

「あなたのような殺人鬼が世界を掌握するくらいなら、口もヘソも曲がっているリンセンのほうがまだマシよ」

 

「は、ははは……究極の力を持つこの私がっ! 貴様ら生意気な小娘どもに敗れるとはっ!」

 

「そう、あなたは敗れたの。奥の手もピアストルが封じた。もう終わりでしょう」

 

「終わりっ……? 終わりだとっ!?」

 

「観念しなさい。……って、捕らわれていた私が言うことじゃないけど」

 

 不意に、リョウがグールドの前に立った。

 

 利用されていたことを復讐するためではない。

ただ、グールドの口から真実を聞くためだ。

 

「なんだ、ニッポン人の小娘」

 

「あっしは、知りたい。日本がどうなったのか、なぜあっしらがここに連れてこられたのか」

 

 グールドの口ぶりからして、ニッポン国のことを知っているようだった。

兄妹としての記憶を取り戻したが、まだ故郷のことは忘却の彼方だ。

それを聞かずに帰れるわけもない。

 

 観念したグールドは、大きなため息とともにそれに答える。

 

「ふん。いいだろう。負けを認めたからな、最期に教えてやろう、貴様らニッポン人とニッポン国の過去をな」

 

 ――ここに連れてこられる前、リンセンとリョウは日本の富本村(とみともむら)で平和に暮らしていた。

食べ物や水は豊富と言えるほどではなかったが、争いもなく村民たちの絆は深かった。

 

 だがそれも長くは続かなかった。

 

 村長に恨みを抱く別の村によって、富本村は焼き払われてしまったのだ。

 

 多数の犠牲者を出した大火事は、リンセンたちの両親や友人も奪い、家も畑も平和も全てが消し炭となった。

 

 生き残った数人は、相手の村に奇襲をかけて見境なしに襲い掛かり、多数の犠牲者を出す結果に。

それでもリンセンとリョウは、みんなのカタキを討つようなことはしなかった。

 

 生まれたころから両親に言われていた、あることを守るために。

 

 ――血で汚れた手では食べ物を美味しく食べられない。だから、なにがあっても人殺しはしてはいけない。

 

神である獅兵様(しへいさま)は常に見ているのだぞ。

 

 ケンカっ早いリンセンでも、頑なに人を殺めるようなことはしなかった。

たとえそれが親や友人の仇であろうと、敵であろうとも――。

 

 しかし、人を殺そうと殺すまいと、どのみちリンセンたちの村も仲間も全て消えてしまっている。

その絶望こそが、事実だ。

 

 村の外をあてもなく彷徨い、食べ物を探す毎日。

他の村は他人に食べ物を分けてやれるほど裕福ではなく、毎日のように空腹が続いた。

 

 餓死を覚悟したリンセンたちが、ふと故郷の村――廃墟となり果てた――に戻ると、村の隅に地下へ通じる階段を発見した。

どうやら村が焼けてなくなったおかげで地下への入り口が見えるようになったようだ。

 

 心も体もボロボロになったリンセンは、リョウを連れて階段を降りた。

 

「なんだよ……これ」

 

 地下は太陽の光が届かないほど深く、松明やランタンなどの用意もない。

にも関わらず、その地下空間は異常なまでに明るかった。

 

 十畳ほどの土の部屋の中心には黒い石で作られた祭壇があり、その上には左右揃った手袋が二セットあった。

光を放っていたのは、この手袋だった。

 

 食べ物でなくてもいい。

いっそのこと、安らかに死ねるならそれでもいい。

不気味な雰囲気と淡い希望を併せ持つその手袋に触れた瞬間、リンセンたちは自分ではない自分に変身していた。

 

「おい、まさか……これ」

 

 この国を見守る神――獅兵の力が宿った手袋。

 

 リンセンも日本人なら伝説くらい耳にしたことはあったが、こんな辺鄙な村の地下に隠してあるとは予想もしなかった。

 

 それもそのはず。

この時代の人間は誰一人としてこの手袋の存在を知らなかったのだ。

 

 もっとも、捉えられて以降の記憶は欠片も残っていなかったが――。

 

 その後、手袋の超パワーを見つけたナイラ国はリンセンたちを攫い、そして手袋のことを徹底的に調べ上げた。

もちろん、村の地下についても、だ。

 

 

 

「やっぱり、そうだった……」

 

 真実を知ったリンセンとリョウは、過去のことを完全に思い出した。

 

 絶望の断末魔。

暗い闇。

全てを焼き尽くす炎。

両親のこと――自然と、リョウの頬を涙が伝った。

 

 ――これはグールドのウソではない。

取り戻した記憶から、そう確信した。

 

「は、ははははは! 残念だったな! ざまぁみろニッポン人どもが! 貴様らは勝負に勝ったが、故郷は失われていたっ! もう全て終わりなのだよっ!」

 

 グールドは不気味な笑い声をあげながら床に頭をこすりつけた。

口ではこう言っているが、もう奥の手などない。

 

全てを出し尽くし、全てが打ち破られた。

つまりゲームオーバーなのだ。

 

 いや違うっ! この男はその程度で諦めるほどヤワな男ではなく、その程度の姑息さではないっ! もっと卑怯! 想像以上に姑息っ! それがこの男、グールドなのであるっ!

 

「ハハハハハハ! 奥の手が一つだけで終わると思ったか! このマヌケ侍どもがっ!」

 

 グールドは心臓の真横にフルパワーで手を突っ込み、四角い起爆装置を強引に引き抜いた!

最後の最期の最終手段として体内に隠し持っていたのだ!

これは衝撃!

 

 引き抜かれた部分はバチバチと電撃を迸らせており、複雑な機械類がはみ出していた。

最終兵器を隠すために体を改造するなど、まさに機械の体! サイボーグだ!

 

 起爆装置は引き抜かれることで動き出すっ! 同時にグールドの目から強烈なフラッシュが放たれたっ! その眩しさに目を封じられたクローナは、能力を発動できないっ!

 

「背中の爆弾は失敗したがなっ! こちらにも同威力のものを用意してあるんだっ!」

 

「くっ……! まだそんな武器をっ!」

 

「残念だったなクローナエスクード! 黙って聞いてないで能力で拘束すべきだったな! もう起爆装置は作動したから遅いがなっ!」

 

 突如、轟音とともに城全体が大きく揺れ動いた。

巨大な地震でも発生したかのような、脳を揺さぶるような派手な揺れを受けクローナたちはバランスを崩す。

兵士たちも同様、足元が狂いしりもちをつく者が続出。

おまけに天井からは崩れた細かい欠片がポロポロと落ち始める有様だ。

 

 この城は沈む――クローナたちも兵士たちも全てを犠牲にして、崩壊する――それがグールドの悪あがきだったのだ。

 

 だがクローナは動じることなく冷静に指示を出す。

 

「リンセン、お願いがあるの」

 

「なんだよこんなときにっ!」

 

「クローネと母さんを連れて、ここから逃げて」

 

「なっ――!? てめぇはどうすんだよっ!」

 

 クローナは崩壊してゆく天井を見上げた。

そして、精一杯の能力を発動させる。

 

「おいクソ女っ! 何をする気だっ!」

 

「城の崩壊を食い止めて、ここの兵士たちと町を守る」

 

「なんだとっ!?」

 

「私は、敵だろうと命を奪いたいわけじゃない。この能力を持って生まれたのも、きっと私にしかできないことがあるからよ」

 

「そんな大げさに能力を使ったら、てめぇの体力がもたねぇんじゃねぇのか!?」

 

「そうよ。私だって、かなりギリギリで能力を使う。もちろん死なない程度に。でも念のため、あなたはクローネと母さんを連れて先に逃げて」

 

「ちっ、ありえねぇほどのお人好しだぜ。……もし俺が止めたらどうする?」

 

「止めても止まらないわ」

 

「だろうな。じゃあ好きなだけやれ!」

 

 クローナは力強く頷いた。

 

 もしかしたら、自分はここで朽ち果てるかもしれない。能力発動中に力尽き、誰一人として助けられないかもしれない。

心配事は多々ある。

だが、ここでやらねば生まれた意味を見出せない。

 

 全ての迷いや葛藤なんてなんのそのと振り払い、クローナは能力を全開する。

 

 リンセンはフランとクローネとピアストルを脇に抱え、階段へ走った。

その間、二人は涙しながらクローナに叫んでいたが、リンセンはクローナの指示を優先した。

 

 階段を前にし、クローナへ振り向く。

 

「だが忘れんなっ! てめぇはこんなところでくたばるんじゃねぇ!」

 

「え……?」

 

「帰って俺のためにメシを作るんだよっ!」

 

「り、リンセン……」

 

「分かったら、さっさとここの連中を助けて戻ってきやがれクソ女!」

 

 それから一度も振り向くことなく、リンセンとリョウは階段を駆け下りた。

 

 揺れに恐れをなして逃げ惑う兵士たちもいたが、バカ正直にグールドと最期を共にしようと残る兵士たちもいた。

 

 だがもしもこの城が崩壊すれば、死ぬのは城内の兵士たちだけではない。

ここは途方もないほどの階段を駆け上がる必要がある巨大な城だ。

城の下に広がる町も巻き添えを食らうだろう。

 

 そんな罪のない人間たちが死ぬ様を、クローナはどうしても許せなかった。

 

 (お願い……お願いだから、この崩壊を食い止めさせて……無力な私にできる唯一のことなのだからっ……! この能力を持つ、私の使命なのだからっ!)

 

 

 

 エピローグ

 

 

 

 その後、クローナエスクードは城の崩壊を食い止め、兵士や町の住人を含む何百もの命を救った女神として、エンギルダ国とナイラ国の双方に銅像が建てられた。

 

 クローナが自身の銅像を見たらなんと言うだろうか。まるで私が死んだみたい。

と思うだろうか。

 

 だが女神クローナの力を持ってしても一人だけ救えなかった命がある――。

 

 グールドだ。

 

 戦いと副作用で満身創痍となったグールドは、崩壊を食い止めるクローナに絶望と希望を感じ取り、悔しさと喜びをない交ぜにした表情のまま息を引き取った。

 

 クローナは壮大に能力を使ったことで体力も精神力も限界を超え、その場で気を失ってしまった。

それから十数日、まだ目を覚ますことはない。

 

 フランもクローネも、クローナを助けなかったリンセンを少しは恨んだ。

クローナの指示を無視して助けていれば、眠り続けることなどなかったのだから。

 

 しかし、それは違う。

間違いではない

これはクローナ自身が人々を助けたいがために選んだ道なのだ。

自身を犠牲にしてまで命を助ける覚悟を、フランとクローネは心の底から尊敬した。

 

 故郷を失ったことを思い出したリンセンとリョウは、この地で生きていくと決めた。

いつまたグールドのような輩が現れても戦えるよう、エンギルダ国の用心棒として生きていくことを。

 

 エンギルダ国からは報酬も用意された。

だがリンセンたちはその全てを断った。

 

 ――俺たちはすでに報酬を貰っている。

け取るのに時間はかかるが。

 

 いつになるかは分からない。

それでも最高の報酬を貰うため、リンセンたちはひたすら待ち続けた。

 

 ベッドの側に立ち、リンセンとクローネはクローナの手を握った。

 

「お姉ちゃん、大丈夫だよね」

 

「こいつのメシを食うために俺は戦ったんだ。大丈夫じゃなきゃ困るんだよ。ったく、いつまで寝てやがんだこいつは」

 

 眠り続けるクローナは、氷で作られたかのように冷たく人形のように無表情だ。

その不愛想な顔は、皮肉に皮肉で返すいつものクローナと大して変わりない。

 

 

「可愛げのねぇ女だ。少しは笑えってんだ」

 

 そのとき。

 

 それに応えるかのように、ほとんど笑顔を見せなかった仏頂面が、わずかにほほ笑んだ。

 

 笑顔を軸にして、クローナは全身に力を取り戻してゆく。

握られていた二人の手を弱々しい力で握り返すと、リンセンも優しく微笑み返した。

 

「ようやく、報酬を受け取れるぜ、クローナ

 

 

 

 暴風荒 ミスティ・ミラージュ ラスティ 完