日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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涙!僕もあなたも感無量! 第20話 暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

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「ほう。あの小娘の料理はそれほどまでに。食べてみたいものだ。それで、その理由とは?」

 

「てめぇみたいにメシを粗末にする連中には、一生勝てねぇってことだよ。あいつはてめぇらのためにタマゴ焼き一つも作ったりしない。残念だったな」

 

「ほう。だが戦争ついでに料理を作らせればいい話だ」

 

「へっ。ついでねぇ……」

 

「もういい。この味が分からんやつと食事をしてもつまらん」

 

 するとグールドは指をパチンと鳴らし、周囲で待機していたシェフたちを呼んだ。

 

「料理を下げろ。お客様はご満足いただけなかったようなのでな」

 

 シェフの一人が、リンセンが一口しか食べていなかった皿に触れた。

その瞬間、リンセンの怒りの導火線に火がついた。

 

「おい! 俺はまだ食ってんだぞ! 勝手に下げんな!」

 

「貴様、美味しくないと言っただろう」

 

「だから言ってんだろ。てめぇらみたいにメシを粗末にする連中は気に食わねぇんだよ。俺は出されたものは全部食ってやる。決着はその後だ」

 

 リンセンは無限の胃袋と疲れを知らないアゴで次々と料理を平らげてゆき、数秒でテーブル上に出されたすべての料理を一網打尽にした。

 

 最後に一杯の水を飲み干したらKO!

 

「ふぅー。最後の水は美味かったな」

 

「満足かね? ニッポン人よ。私は少ししか食べていないのだが、私の分まで食べおって」

 

「へっ。食い足りねぇな。どいつもこいつも三流メシだ」

 

「そうか。ご満足いただけて嬉しいよ」

 

「あぁ。クソ不味いメシ、ごちそうさんした」

 

「シェフたちも修行が足りんようだな」

 

「そうだな。あのクソ女に教えてもらえよ、少しはマシになんだろ」

 

「考えておくよ」

 

 再度グールドが指を鳴らすと、シェフたちは食器類を片付け始めた。

まるで舞台上の場面転換のように迅速に動き、あっという間にそこは戦場になった。

 

 その素早さには、リンセンも素直に感心した。

 

「おいおい、メシよりも片づけるほうがうまいじゃねぇか」

 

「後片付けがきちんとできる人間は優秀だ」

 

「そうかい。じゃあ、邪魔な俺も片づけてみせろよ」

 

「お言葉に甘えて……だが相手をするのは私じゃない」

 

「あぁ? それはどういう――」

 

 ことなんだ。

と言い終えるより早く、変身済みのリョウがリンセンとグールドの間に割って入った。

 

 咄嗟の動きに思えたが、クローナの監視はリョウの代わりにラッツが務めているという抜かりのなさだ。

 

「あのナッツとかいう野郎にクソ女を任せてこいつを呼ぶとはな」

 

「お互いニッポン人だろう? せいぜい仲良くやるがいいさ」

 

「あぁ? てめぇは逃げるのかよ」

 

「逃げる? 何を言う。邪魔な貴様が消えたら、あの小娘を使って戦いを始めるのさ」

 

 そう言い残し、グールドは玉座に座ったままエレベーターで下降する。

ウィーンという機械音は、まるでリンセンをあざ笑うかのようだった。

 

 と、首のあたりまで隠れたところで、不意にエレベーターが停止した。

頭一つ分の隙間から腕を出し、ラッツを指さした。

 

「あぁそうだラッツ、一つ言い忘れていたよ」

 

「ハイ?」

 

「きみはたしか、列車の件で大きな失敗をしていたね」

 

「グギィ!? で、ですが、そ、それは……」

 

「それ以降も、これといった活躍はないようだねぇ」

 

「ぐ、グギィ!? で、ですが! そこのニッポン人の小娘も失敗を!」

 

「あの子は強い。まだチャンスはある。お前はダメ」

 

「な、なんとぉぉぉ!?」

 

「決めた。お前クビ」

 

「ええぇぇ!? クビ!? クビ!?」

 

「クビ」

 

「クビなのですか!? この! 私が!? クビぃぃいい!?」

 

「クビ」

 

「ホントに!? クゥゥゥビィ!?」

 

「うん、クビ。消えろ」

 

「消えろ!? クビクビ!? イィィィヤァァァ!?」

 

 まさかのクビ宣言! 突然突き付けられた真実を受け止めきれず、ラッツは阿鼻叫喚の限りを尽くし狂ったように頭をかかえてのたうつ! 

 

 その絶望! さながら悲しきピエロの哀れな嘆き!

 

 控えていた兵士たちは、クビになったラッツに見向きもせず、代わりにクローナが逃げぬよう押さえる。

 

 目も腕も自由が利かないクローナだが、ラッツに対してどうしても言わねば済まないことがあった。

 

「ラッツ。それがこのナイラ国に仕えたあなたの末路よ。ざまぁみろと言わせてもらうわ」

 

「のぉぉぉっ……! 貴様ら! 貴様ら!」

 

 クローナの一言でトドメをさされたラッツは、ふらつく足取りで階段を駆け下りて行った。

 

 邪魔者が消えて満足したグールドは、下降を再開し完全に姿を消した。

 

 これは、彼の言うとおり決して逃げではない。

これはあくまで、一時的に引いたにすぎない。

それほどまでにリョウの強さを確信しているのだ。

 

 少なくとも、ラッツよりは。

 

「おい、リョウ」

 

「ん……?」

 

 不意に名前を呼ばれたリョウは目を丸くした。

 

「お前いいのかよ。あのグールドとかってやつは仲間を平気で見捨てるやつだ。メシも粗末にする。あんなのについていったって意味ねぇぞ」

 

「……それは」

 

「分かってんだろ。なら俺と来いよ。お前、やっぱり俺の妹なんだろ」

 

 それは、あくまでただの直感に過ぎない。

心の底から思う、勘だ。

 

「こんなとこ抜けてよ。グールドをとっちめてよ、クソ女のとこで美味いメシでも食おうじゃねぇか」

 

「あ、あっしは……」

 

「それとも、この国に忠誠でも誓ったのかよ。違ぇだろ」

 

「忠誠……ちがう。あっしは、ただ、いつもの国に帰りたい。平和な、日本に」

 

「なら、俺と行こうぜ。ここで戦争なんておっ始めても意味ねぇよ」

 

「でも……それは……もう、日本は……」

 

「……あ?」

 

 リンセンは、その要領を得ないリョウの言葉に、なにか裏を察した。

 

 グールドになにかを言われている。

日本に逃げることを躊躇わせるような、鎖のような冷酷で無慈悲な言葉を。

 

「リョウ、お前、なにを言われた」

 

「……」

 

「答えないか。なら黙ってそこをどけ。俺はお前とは争いたくない。ぶちのめすのはグールドの野郎だけだ」

 

「あっしとは……争いたくない……それは、なぜ?」

 

「決まってんだろ。お前が俺の妹かもしれないからだ。いや、妹だ、絶対にな」

 

 そのとき、リョウの頭の中に鋭い痛みが走った。

 

 細い針を脳に差し込まれたかのような、鋭利な刃でゆっくり斬られていくような、徐々に行われる丁寧な拷問のように、リョウの頭を痛みが侵食する。

 

「あ、ああああああ、うううう」

 

 リョウの目つきが変わった。

 

 スイッチが切り替わったように、目の前にいるリンセンを完全に敵と認識する。

まるで鋭い痛みが敵意に変換されたかのようだ。

 

「あっしは……ナイラ国で生きるっ!」

 

 すかさず変身したリョウは、踏み込むと同時にリンセンへ強烈な拳を叩き込むっ。

 

「うっ!? お前、なに考えてやがるっ!!」

 

 バツ型に作ったガードで一撃は防いだ。

だがリョウは続けざまに拳を繰り出し、リンセンの鉄壁の防御を崩し蹴りを打ち込むっ!

 

 流れるような連撃は鉄板に穴が開くほどの威力と言っても過言ではない! だがリンセンは怯むことなく立ち続け、静かに攻撃を受け止めた。

 

「やるじゃねぇか、リョウ……」

 

「き、貴様……なぜ反撃しない!」

 

「言ったろう。俺はお前とは争わない。俺がぶちのめすのはグールドの野郎だけだってな。それで、クソ女のメシ食って、お前と日本に帰るんだよ」

 

「そんな、無駄なことをっ! あの国はもうっ……!」

 

「あいつになに言われたか知らねぇがよ。俺は意地でもお前を連れて帰るし、美味いメシがどんなもんかも知ってもらう。それまでは俺は倒れねぇし、一発も殴るつもりはねぇ」

 

 頭でも、心でも、リョウはすべてを理解していた。

この男は実の兄で、一緒に日本に帰るべきだと。

それなのに、頭の中を侵食する痛みが理解を許してくれない。

 

 無意識に、リョウは扇をリンセンへ向けていた。

 

「その扇、武器だったよな。やってみろよ。俺を殺す気で攻撃してみろ。俺は一歩も動かねぇ」

 

 望み通りにしてやると言わんばかりに、リョウは扇を持つ手に力を込める。

 

 自分の妹を信用したリンセンは、手袋に触れて変身を解除した。

いくらリンセンでも、生身で攻撃を受ければ一撃即死の大ダメージは間違いない。

 

「殺せよ、俺を。でもな、物を食う手が血で汚れちまったら、どんなメシも不味くなる。それでも構わねぇってんなら、遠慮なくやれよ」

 

 扇を構える手にさらに力が加えられる。

だが、リンセンを殺めるための力ではなく、殺めようとする心を抑えたことによる震えだ。

 

 希望を確信したリンセンは、トドメの一発をお見舞いするためクローナに人差し指を突き付けるっ!

 

「そこで縛られて袋を被せられている女がいんだろ……まぁ、お前は面識あるだろうが、あいつの作るメシは美味いんだ」

 

「う、美味い……」

 

「テンプラって料理があってよ。黄色くてサクサクして、贅沢に一匹まるまるエビを使ってんだぜ。それが格別でよ」

 

 リョウはテンプラなるものの味など未踏の領域だったが、一度は食べたことがあるはずのエビの味を想像し、生唾を飲み込んだ。

 

「他にもよ、食っても食っても飽きねぇほどの肉料理とか、いろんな香辛料を使った料理とか、チーズとかバジルってやつとか、とにかく美味ぇもんはいっぱいある」

 

「う、美味いもの……」

 

「血で汚れた手じゃ、どれも食えねぇぞ。まぁお前が俺を殺すってんなら、好きにしろ」

 

「あ、あああああ……」

 

 リョウは手にしていた扇を落とし、手袋に触れて変身を解除した。

 

 力をなくしてリンセンの胸に倒れる。実の兄に優しく抱き留められ、熱い雫が頬を伝った。

 

「うう……あっしは……ひぐっ……あっしは……」

 

「好きなだけ泣いてろ。面倒ごとは俺が片づけてやる」

 

「あ、あっしは……なんでこんなことを……」

 

「悪いのはお前じゃない。あのグールドとかってやつのせいだ。あいつをぶっ倒して、美味いメシ食って、日本に帰るんだ」

 

「で、でも……日本は、もう……あっしらの故郷は、もう……壊れている、と……」

 

「誰から聞いた」

 

「グールド……から」

 

「んなもんウソだろ。俺たちを騙すためのハッタリさ。そう言っときゃ駒にできると思ってんだよ」

 

「そう……そう、かもしれない」

 

「分かったらお前はここで待ってろ。俺は決着をつける」

 

 涙をひっこめたリョウは、無言でこくりと頷いた。

 

 リョウの頭の上にぽんと手をのせてやると、自然と笑顔が戻った。

 

「さて……グールド! お前のお楽しみは残念ながら中止だ。俺とリョウの対決は諦めて大人しく出てこいよ!」

 

 リンセンが部屋いっぱいに叫ぶと、再び玉座のエレベーターが上昇。

心底つまらなそうな表情で姿を現したグールドは、皮肉を込めた拍手を送っている。

 

「はいはいはい。兄妹の熱い愛。素晴らしいねぇ、実に素晴らしいよぉうん」

 

「てめぇ。リョウになにを吹き込みやがった。日本がどうのこうのって、つまんねぇことぬかしやがって」

 

「つまらないこと? はて? なんのことやら? 事実をありのままに伝えただけさ」

 

「はっ。誰がてめぇの言葉なんぞ信じるかよ」