日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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戦う前に食え! 第19話 暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

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 肉にかぶりついた体勢では、当然だが真下の人間の顔など視界に入らない。

 

「おい、降りてこい貴様」

 

「うるせぇな! 俺は肉で頭がいっぱいなんだよ!」

 

「いいから降りてこいって、そう言っているのだ!」

 

 真下からリンセンの足を引っ張り、強引に引きずり落とそうと試みるっ! さすがにアゴのパワーのみでは抗えず、みっともなく背中から落下した。

 

「ぐあっ! おいテメェ! あぶねぇじゃ! ……ね、え? だれだよおい」

 

 リンセンの目の前にいたのは、長髪で黒いスーツを着た細身の男、ラッツ!

 

 覚えているだろうか!? 列車内でクローナの額に銃口を突き付け、クワンザを使ってリンセンを攻撃したあの男だ。

 

 そんな彼の背後では、数人の兵士たちが仏頂面で槍を構えている。

 

「てめぇ、どっかで見たことあると思ったら、列車にいたやつか、おい」

 

「ほほう! 覚えていたとは、光栄だねぇ!」

 

「たしか名前は、ナッツだったか」

 

「そうそう。お酒のおつまみに丁度いい――違う、ラッツだぞ! このバカもの!」

 

「お前なんぞどうでもいい。それよりこのぞろぞろと集まりやがった兵士どもはなんだ。もしかして俺のファンか? 光栄だな」

 

「ボスに頼まれて捕まえにきたんだ。食いしん坊だと聞いていたが、まさかこんな低レベルなトラップに引っかかるとは、これはたまげた」

 

「へっ、そりゃあどうも。クソ固い肉、ありがとござんした」

 

「その肉は偽物だ。香りだけを再現した、ただのゴムだ。秘密の通路を使って侵入してくることは、想定済みだったからな。匂いで釣ったのさ」

 

「だと思ったぜ。この世に噛みちぎれない肉があってたまるかってんだよ」

 

「……ま、それはさておき、この状況をどうするつもりかね?」

 

「決まってんだろ、十把一絡げにぶっ潰して、あのクソ女を返してもらう」

 

「ほほう。クローナエスクードを助けに来た王子というところかね?」

 

「はっ、下らねぇな。あのクソ女には興味ねぇよ。ただよ、てめぇらみたいな卑怯な連中が心底ムカつくし、美味ぇメシが食いてぇんだよ」

 

「ほうほうほう。分かりやすくて実にいい! 実に、いい!」

 

 ラッツは両手を広げて全身で喜びを表現した。

小難しくない、シンプルな敵と相まみえたことに、心の底から快楽を得ているのだ。

 

「実にいいぞ!」

 

「だったらどうすんだ? おい」

 

「貴様をひっ捕らえる。適当に洗脳して、クローナエスクードと一緒に兵器になってもらう! 一度はクローナエスクードを捕まえた実力の持ち主である俺をナメるなよ!」

 

「はっ、俺を捕まえるのに失敗した実力の持ち主だろ?」

 

「黙れ! 兵士ども、このニッポン人をひっ捕らえろ!」

 

 待機していた兵士たちがリンセンへ一直線に突撃する。

だが所詮は人間並みの身体能力。

手袋で変身したリンセンの敵ではなく、兵士たちの肩を踏み台に部屋を脱出した。

 

「はっ! 先行くぜナッツさんよ! クソ女は俺が連れてくからな!」

 

 とは言うものの、リンセンにはクローナの居場所など検討もついていない。

無鉄砲で猪突猛進な頭で導き出した答えは、とりあえず高いとこ登っとく。

である。

 

 秘密の地下通路から侵入したため城の外観を入手できていなかったが、この城は十階建てである。

 

故に階段もバケモノ級に長く、普通の人間ならば引き返すだろう。

 

 だが今のリンセンは普通ではない。

 

 限界を超えた空腹によって食欲が倍増しているため、戦闘後のメシのことしか考えていない。

一刻も早くクローナを救出し、メシにありつきたいのだ。

 

 変身した肉体でズバ抜けた身体能力を披露し、あっという間に十階まで登り切った。

途中で数人の兵士が槍や弓矢やらをぶちかましてきたり、ロボットのクワンザが道を塞いだのだが、リンセンは気づいていなかった。

 

 十階には、象でも容易に入れそうなほどの巨大な扉があった。

空腹とイライラがピークを越えていたリンセンは、乱暴に扉を蹴破る。

 

「おらっ! クソ女! 出てこい!」

 

 勢い余って突入したものの、そこは気が遠くなるほど広いが人っ子一人いない寂しい部屋だった。

壁には金の装飾が施され、天井にも得体の知れない豪華な何かがぶら下がっている。

 

「来たか、自らここへ……」

 

「あぁ? 誰だ!」

 

 中央の床から、玉座がエレベーターのようにせりあがってきた。

そこで偉そうに足を組んで座るのは、鬼のような仮面をつけた大柄な男だ。

その仮面の下から覗く鋭い眼光は、真っすぐにリンセンを睨んでいた。

 

「私はグールド。このナイラ国のトップにして絶対的存在だ」

 

「へー。ってことは、俺が一番ぶちのめしてやりたいやつランキングトップが、てめぇってことでいいんだな」

 

「ほう! 喜んでくれて光栄だね!」

 

「どういたしまして!」

 

「いやはや、あの四天王を打ち破りここまで到達するとは、面白い男よ」

 

「はっ、てめぇだけ面白がってんじゃねぇぞ。さっさとあのクソ女を出せ」

 

「くそおんな……? はて、なんのことやら……あぁ、クローナエスクードのことか。彼女なら、ちゃんと連れてきている、ほれ」

 

 グールドが指をパチンと鳴らすと、変身していないリョウがクローナを連れて扉から現れた。

クローナは相変わらず手錠をされたままで、目隠しと麻袋で能力を封じられている。

 

「クソ女っ! なんて格好してやがる!」

 

「リンセン!? そこにいるのね!?」

 

「いちゃ悪いかよクソ女! てめぇこそ何やってんだ!」

 

「私だって好きでこんな格好してるんじゃないの! 好きでこんなところに来てるんじゃないの!」

 

「ピーチクパーチクうるせぇな。いいから、こんなとこさっさと出て俺に美味いメシでも作れ。黙って俺に助けられろ!」

 

「それが目当て!?」

 

「ほかに何があんだよ」

 

 リンセンが救出に来ることを信じてはいたが、脳みそまで空腹だったのは想定外だった。

颯爽と助けてくれる王子様のような心を僅かでも持ち合わせていると期待していたのだが、そう上手くおとぎ話のようにはいかない。

 

 理由はどうあれ、颯爽と助けにきてくれたことは変わりないから感謝はしているが。

 

「……そうね。私たちは、そういう契約だったわね」

 

「話が分かるようになったじゃねぇか、美味いメシ作れるクソ女」

 

「じゃあ、さっさと私を助けて。とびっきりのご馳走を作ってあげるから」

 

 リンセンはこくりと頷き、クローナに向かって一歩を踏み出した。

 

 だがここは敵の本拠地――それもボスの目の前だ。

はいそうですか、差し上げますよどうぞ。

と差し出すわけもなく、リョウはクローナの喉元に扇を突き付けた。

 

「そういや、お前とも決着つけてなかったな」

 

「……」

 

「お前、俺の妹なんだろ? 俺は覚えちゃいねぇが、そう感じる」

 

「……」

 

「ま、ここで語っても意味ねぇか。いいから大人しくそのクソ女を返しやがれ」

 

 その要求には、リョウではなくグールドが答えた。

 

「その小娘は我が国の戦に必要な勝利の女神だ。残念だが渡すわけにはいかないな」

 

「へっ、てめぇらの都合なんか知るかよ。ムカつくんだよ、自分勝手に人を利用してよ、それで偉そうにしてるやつらがな」

 

「ほう、さすが四天王と真の四天王を倒した男、言うことが違うな」

 

「はっ。そりゃどーも、嬉しいねそういう言葉はよ」

 

「貴様を真の戦士と見込んで、一つ頼みがある……その変身を解き、お互いに素顔を見せようではないか。正々堂々、とな」

 

「正々堂々、ね。俺は大嫌いなんだよ、そういうの。てめぇご自慢の四天王にもいたぜ、正々堂々野郎がな」

 

「そうか。なら自由にするがいい。私は貴様を歓迎して、特別に鬼の面を外してあげよう」

 

 そう言って、グールドは玉座から立ち上がり、鬼の面を外した。

 

 ――だが。

 

 その素顔は、鬼そのものだった。

 

 血塗られたように真っ赤な顔面。

斜めに刻まれた大きな斬り傷。

そして額には太い一本角が伸びた、まさに鬼のような形相と表現するのが的確だろうか。

 

 まさに鬼っ! 想像を絶する鬼らしさに、リンセン驚愕っ!

 

「てめぇ!? 人間かよぉぉ!?」

 

「私はね、四天王にも打ち込んだ究極の肉体強化薬を四つも打ち込んだのだ。最初は副作用が酷く、まさに地獄のような苦しみだったよ。でもね、地獄も住めば都さ。今じゃ薬を打ち込む前より心地いい気分さ」

 

「てめぇ、正真正銘イカれ野郎だな。そんな強さ、邪道だぜ」

 

「邪道! 結構! 大満足! 邪道! 結構! 大満足! ハハハハハ!」

 

「ハハハハハ! 面白いじゃねぇかお前!」

 

「ほう! 面白い、とな? 貴様もこの魅力に気づいたかね?」

 

「いいや違う。てめぇをぶちのめして、クソ女の作る豪勢なメシにありつけんだぜ? 楽しみでしょうがねぇぜ。強そうで倒しがいがあるってもんよ」

 

「ニッポン人の小僧、貴様は私に勝てる自信があるとでも?」

 

「てめぇに勝つ自信なんざねぇさ。あるのは勝つ確信だけだ」

 

「確信! 素晴らしい! これぞ戦士っ! まさに戦士の言葉!」

 

「ありがとよ、クソほども嬉しくねぇがな!」

 

 混を構えたリンセンがグールドを睨む。

これから戦闘が始まるかと思われた矢先っ!

 

 不意に、両者の、腹が、鳴った。

 

 つまり、空腹なのだ。

 

「ニッポン人よ……まさか貴様も」

 

「あぁ? もしやてめぇも……」

 

「腹が」――「腹が」

 

「「減った!」」

 

 意見が一致したことで、まさかの戦闘中断っ! まさかの延期っ! 両者にとっては、まずなによりもメシなのだ。

腹が減っては戦ができぬという言葉を体現している。

 

 グールドがパチンと指を鳴らすと、すかさずシェフたちが色とりどりの料理を持って階段を上ってきた。

扉の前にいるクローナたちの横を通り過ぎ、いつの間にか用意した長テーブルの上に並べていく。

 

 和洋折衷――一通り世界中の料理はそろっている。

イタリアンにジャンクフードに和食。

らに何かしらのホイル焼き、バター焼きも並び、極めつけに各種デザートが宝石のように輝いていた。

 

 どれもこれもが超一流の究極シェフによる究極の一品だ。

口にすれば舌は満足のし過ぎで悟りを開き、頬はとろけ、どれだけ食欲不振の人間でも食いしん坊にしてしまう、食の兵器だ。

 

 いつもなら目を輝かせているはずのリンセンだが、なぜか豪勢な料理たちを目にしてもリアクション一つない。

 

「どうしたニッポン人? 美味そうな香りだろう?」

 

「うーん。なんかなぁ、なんか違うんだよ」

 

「ほう?」

 

「ま、感想は食ってからだな」

 

 手始めに、リンセンは側にあったエビチャーハンを食べた。

 

「ん……? んー」

 

 だが相変わらずリンセンの表情は微動だにしない。

 

 続いて隣で湯気を立たせるボロネーゼ。

続けざまに手前にあったコーンポタージュ。

さらに奥にあるバジルソースとチーズのピザを数切れ。

さらにさらにワイングラスに盛り付けられたアイスクリームをペロりと平らげる。

 

 だが、だが……それでもリンセンの舌は満足せず、頬もとろけず美味の一言もない。

 

「どうかね。我がナイラ国が誇る百星シェフの料理の味は」

 

「……あぁ最高さ。てめぇの汚いツラを拝みながら食うメシは、最高にマズいね」

 

「ほう! あの小娘に負けず劣らず面白いことを言う」

 

「はっ。そりゃどうも」

 

「貴様にはこの味の素晴らしさが分からぬようだがな」

 

「分からんでいい。それより、このメシを作るのに、てめぇらはどれだけ苦労したんだ?」

 

「一つ一つの料理を何ヵ月も研究した」

 

「それで、失敗は?」

 

「当然、何度も失敗した」

 

「それで、失敗したのはどうしたんだ?」

 

「どうした、だと? 捨てたに決まっているだろう。失敗した料理など、食べる価値もない」

 

「そうかい。これで分かったぜ。苦労を重ねたてめぇらの料理より、あのクソ女の作る一品のほうが数倍も数万倍も数億倍も美味い理由がな」