日々を駆け巡るoyayubiSANのブログだよ。

日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア12

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 ――マセルサイド――。

 

「辿り着いたここがベオグラード遺跡だとは思うんだが、少し拍子抜けなことが一つある。難攻不落と言っておきながら、なにも起こらないぞ。どういうことだ」

 

 到着してからいくらか進んだ。

だがトラップの一つもない。

トレジャーハンターであり渡り鳥であるマセルには、少し物足りないのだ。

 

「でも、人がたくさん亡くなっているんですよ? やっぱりなにかあるんじゃ……」

 

 バレッタが、背後から何かの気配を感じ 警戒し振り向く。

 

 そこにはただのトラップより手の込んだ異常があった――。

 

「ま、マセルさん。なんか、マズくないですか?」

 

 釣られてマセルも振り向く。

 

「さっき真っすぐ歩いていた道が、変わってるんですけど」

 

 一本道だったはずの道はどこに消えたのか、背後にはだだっ広い空間が構築されていた。

 

 バスケットボールくらいなら余裕でできる空間で、壁や天井の模様も他と同じである。

置物や柱などの類はない。

 

 それこそ蜃気楼のようにいつの間にか出現し、帰り道を奪っていた。

 

 トラップが仕掛けられた遺跡なら、マセルはいくつも潜り抜けてきた。

しかし道そのものが変化する遺跡など、体験したことはない。

 

「気を付けろバレッタ、なんか嫌な予感がする」

 

「気を付けるっていうのは、その、なにから気を付ければ?」

 

「“なにか”からだ!」

 

 マセルはバレッタを庇う姿勢になり、身構えた。

 

 トレジャーハンターとしての、渡り鳥としての勘が危険信号を発している。

 

 並のトラップではない、別の危機。

ウイントフックがあっても耐えられるかどうかの、危険。

バレッタを守り抜きながら戦えるかどうかの、不安。

 

 突如、マセルたちの目の前に何かが現れた――。

 

「マセルさん! う、ウイントフックがいっぱいいますよ!?」

 

 広い空間には、ウイントフックと同じ姿の何者かが、地面から吹き出したように出現した。

 

 一目で数えきれないほどの数で、それぞれはウイントフックと同じ姿でありながらも色は黒一色で、武器も同じものを所持していたが、やはり黒一色だった。

 

 規則的な並びではなく、それぞれの場所から好き勝手に迫っている。

知恵がないような動きで、マセルたちを狙って迫ってきているのは本能なのか、それともベオグラード遺跡がそう命じているのか、どちらにせよベオグラード遺跡によって抹殺されかかっていることは、素人のバレッタでも容易に想像できた。

 

「どうやら、ここはウイントフックとソフィアを見つけたジャメナン遺跡となにか関係がありそうだな。今までのトレジャーハンターもこいつらにやられたんだ」

 

「そんな分析は後でいいですから! まずはこの状況を!」

 

「数は十、二十――いや、もう少しか。もしあいつら一体一体が俺のウイントフックと同じ力なら勝ち目はないだろうな」

 

「じゃあどうするんですか!」

 

 絶望的な状況。

 

 背中を向け、黒ウイントフック集団と逆の方向に逃げればまだチャンスはある。

 

 マセルを上回る速度で黒ウイントフック集団が追ってこなければ、だが。

 

「オーライ。イチかバチか、逃げるぞバレッタ!」

 

「うぇっ!? ええ!?」

 

 変身し、バレッタの手を引きながら黒ウイントフック集団とは逆方向に走り出した。

 

 逃げずに闘うことは恰好のつくことではあったが、命がなければお宝にも意味はない。

 

 幸い、速度はマセルのウイントフックと大差はなかった。

それでも数が数なので、果敢に立ち向かうのは無謀以外のなんでもない。

 

「走りながらでいいからよく聞けバレッタ! 俺の渡り鳥としての心構えだ!」

 

「そんなの! 逃げ終わってからでいいじゃないですか!」

 

「それは命よりもスリリング! お宝よりも命! スリリングよりもお宝だ!」

 

「圧倒的にどうでもいいですよ! そんなことより、追いつかれそうです!」

 

 厳密には、マセルたちの速度が落ちているのだ。

変身すれば通常よりも速く走れるのだが、バレッタの手を引いている以上は合わせなくてはいけない。

 

 そこでマセルはある秘策を閃き、すぐに実行した。

 

「すまないバレッタ! ちょっとすまん!」

 

「えっ!」

 

 マセルはバレッタの片腕を首にかけ、膝の裏から持ち上げた。

要するにお姫様抱っこの状態になり、メット越しではあったがバレッタとマセルの顔が一気に近づいた。

 

「な、なにするんですか! ちょっと!」

 

「いいからそのまま大人しくしてろ!」

 

 じたばたするバレッタを押さえながら、マセルは一本道をひた走る。

 

 順調に直進したところで出口や不老不死の歯車に辿り着けるとも限らない。

 

 それでも今は走り続けるしかない。

走りつつも、単純なトラップが設置されていないか確認しながら進まなければいけない。

 

「マセルさん! 前! 前!」

 

 一寸先が雑巾絞りのようにぐにゃりと歪み、迷う暇もなく歪んだ道をひた走る。

 

 そもそも道なのか、壁なのか天井なのか、判別はできていないが、道なき道だろうとも前進あるのみだ。

 

「覚悟しろよバレッタ!」

 

 突き進むと、道の歪みはやがて治まってゆき、通常通りの一本道に戻った。

 

 前進を続けながら後ろを振り返る。

まだ黒ウイントフック集団は追ってきていたが、歪みのせいでかなり数が減って三体にまで落ちた。

 

「降ろすぞバレッタ!」

 

 マセルはバレッタを降ろし、すぐにバレッタを庇う体勢になる。

 

「ど、どうするんですか?」

 

「敵はあと三体。何体かは消えたみたいだな。これならウイントフックでいけるハズだ!」

 

「ハズって! ぜんぜん根拠なんかないじゃないですか!」

 

「オーライ、そうかもな!」

 

 もう逃げるのに飽きたマセルはメットから歯車を外し、剣を伸ばす。

 

バレッタ、俺の後ろにいろ! 怖くても勝手に逃げるなよ!」

 

「分かってますよ! トラップがあるからですよね!」

 

 黒ウイントフックの一体が剣を握ってマセルに襲い掛かった。

 

 振り下ろされた剣を剣で弾き、次が攻めてくるよりも早く蹴り飛ばして距離を取る。

 

 続けて二体同時の猛襲。

流れるように、それでいて暴れるように受け流し、隙が出来た一体を横一閃に切り伏せた。

 

「消えた――?」

 

 煙を切ったように、一体が消滅した。人間のように血しぶきをあげられるよりマシだが、本当に撃退できたのかどうか怪しくなる。

だが油断するわけにもいかず、他の二体へ剣を向ける。

 

「しまった」

 

 攻撃を避けるのに必死になり、黒ウイントフックを挟んでマセルの反対側にバレッタが立つ状況になってしまった。

 

 黒ウイントフックの一体が、バレッタに刃を向ける。

 

バレッタ! 避けろ!」

 

 マセルは他の敵のことなど忘れ、一心不乱にバレッタへ手を伸ばす。

 

 届かない――。

 

「こうなったら!」

 

 届かないのならば、届かせればいい。

 

 マセルは握っていた剣を投げつける。

空を切り、刃はバレッタの眼前を通過して敵の胸を貫通した。

間一髪で敵が消滅し、バレッタは腰が抜けてしりもちをつく。

 

 しかし剣は壁に突き刺さってしまい、今のマセルは丸腰(武器がない状態)だ。

 

 脅威はまだ去らない。

最後の一体が背後で構えているのだ。

 

 エサを欲する獣が如く、全身をバネにして敵が襲撃を開始する。

 

「邪魔なんだよニセモノ!」

 

 マセルは壁でしなる剣を引き抜き、直後に壁キックで方向転換。

逆向きに勢いをつけて、敵を打ち砕く攻撃力に変換する。

 

 黒ウイントフックとすれ違う。

刹那の横一閃で切り伏せた。

 

 マセルが構えを解いて剣を戻す頃には、脅威という脅威は跡形もなく滅していた。

 

「よし」

 

 なんとか危機を潜り抜けたマセルは、腰が抜けたバレッタに手を伸ばす。

 

「す、すいません」

 

 敵は全滅させたが、けっきょくは一本道。

 

 振り出しに戻っているのか進んでいるのか、ベオグラード遺跡に弄ばれているのか、それすらも把握できない。

 

「あの、どうしましょうか、これから」

 

「どうする、ねぇ」

 

 視線を前方に向けても一本道。

背後に向けても一本道だ。

 

 意気込んで歩を進めたところで、道が歪んだり変化してしまえば、もうどうにもならない。

 

「どうする、ねぇ。じゃないですよ! 帰り道は後で探すなんて言ってましたけど、それって、とりあえず考えナシに進むだけ進んで、対策は後で練るっていうことですよね! そんなテキトーな感覚でよくこんなところ入ろうと思いましたね!」

 

「お前だって入ってるだろ」

 

「私は入るつもりなんてなかったんですよ!」

 

 どうしようもなく口喧嘩が始まり、ついにバレッタの目から涙が溢れてきた。

 

 初めて体験した、腰が抜けるほどの命の危機。

道なき道しかない謎の遺跡のどこかに二人きり。

バレッタの精神は限界だった。

 

「第一! マセルさんがこんなところに来たいなんて言うからいけないんですよ! なんだって男の人ってこういう変なところが好きなんですか!」

 

「いや、俺はお前についてきてほしいなんて言ってないぞ」

 

「だって、船を置き去りにして流されたらゴミになっちゃうじゃないですか! けっきょくバラバラになって海のモクズになりましたけど……」

 

「そりゃまぁ、そうだけど。行きたくないならハッキリ言えばよかっただろ」

 

「う……まさか、私だってこんな遺跡だと思いませんでしたよ……もうお終いです! 私も今までのトレジャーハンターたちみたいに死んじゃうんですよ! あー、もう……」

 

 自分でも少々子供っぽかったなと反省しつつも、すっかりやる気をなくしたバレッタは帽子を外し、涙目で膝をかかえて丸くなった。

 

「うう……あれ?」

 

「どうしたバレッタ

 

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