日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

ブログ小説(1)技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア

一章 冒険野郎と復讐少年 編

 

 さっそくだが彼はピンチである。

 

 渡り鳥――という男をご存じだろうか?

空から空へ飛びまわり、遺跡から洞窟から縦横無尽に駆け回って宝を集めるトレジャーハンターである。

 

 そんな彼の名は「マセル・エレバン

 

 丸いメガネに茶のジャケット。胸元には金に光る歯車のバッチが付けられている。

 

 ボサボサの黒髪に黒いスカーフは彼なりのオシャレのようだ。外見だけなら知的で優しそうな好青年だが、中身はまるで違う。

 

 正義感こそあるものの、とにかく冒険好き。そして何より危険ととなり合わせになるのが大好物という、変わった性格である。危険の種類にもよるが……。

 

 繰り返すが、マセルはピンチである。マセルにとって命の危機なんてものは、トーストからマーガリンがこぼれるくらいどうってことのない日常茶飯事なのだが、まぁ暖かい目で見守ってあげてほしい。

 

「またあいつらしつこく来やがって! 俺のトレジャーハンターライフを邪魔するな!」

 

 ここは海の上に存在する遺跡で、名はジャメナン遺跡。マセルがいる場所は海面より数十メートルは高い部分にある一本道である。遺跡の天井はなぜか光っていて照明の心配はない。

 

 半分に切ったタマゴに足が生えたような二メートルほどの機械が背後から迫っている。これがピンチの正体である。

 

「マセル坊や、今度こそその首とったげるわ!」

 

 機械に搭乗するわ悪のトレジャーハンター――その名も”キングストン”の”バンダル””スリブ””ガワン”

 

 リーダー格の女であるバンダルは偉そうにマセルを指さした。

 

 片目を隠した金のロングヘアーに、隠されていない目は切れ長。白と黒が縦に別れたカラーリングのネクタイでクールに決めている。化粧が濃く口調が古いため、二十代前半でありながら二十代後半に間違われることもしばしばなのがたまにキズ。どうやら大人の階段を駆け上りすぎてしまったようだ。 

 

「やってしまいなさいお前たち! あの坊やの持ってる箱を奪うのよ!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 狭いコクピットからむくむくと現れたスリブとガワンは、いわゆるバンダルの腰ぎんちゃくというか部下というか、家来である。

 

 スリブは細身で長身、ガワンは小太りで小さい。どちらも黒いジャケットにサングラスに黄色いネクタイという、非常に分かりやすい悪役らしい恰好である。よくいる悪役コンビだ。スリブの口癖が「ちょ」で、ガワンが「ですぜ」なので、それで覚えればよい。

 

「危ないですぜリーダー!」

 

「不安定なんですから、大人しくしててちょ!」

 

 調子に乗ったバンダルを二人で止めようとするもバンダルは止まらない。そんな三人を、マセルは後ろ向きに走りながら両手で指をさす。

 

「おいおいお前ら、よくも飽きずに俺の邪魔できるな!」

 

「あんたが邪魔したくなるようなところにいるからイケないのよ! 邪魔されたくなかったら、邪魔されないようにどっかに行ってなさいな!」

 

「リーダー! 発言が支離滅裂ですぜ!」

 

 マセルが向き直り真っすぐに走り続けると、その先はまさかの行き止まり。キングストン連中に押しつぶされれば絶体絶命だ。

 

「いや、まだ終わらねぇ!」

 

 マセルは天井を確認する。

 天井まで二メートル以上。この絶好の場所を利用しないわけが、ない。

 

「おほほ! マセル坊や、そのまま壁とキスして潰れちまいなさいな!」

 

 キングストンの機械が背後から迫る。当然、ブレーキをかける気もスピードを緩める気もなく、前進を続ける。

 

「そうかい、じゃあ、そうさせてもらおうかな!」

 

 マセルは垂直の壁に足をかけ、その流れで壁を登った。キングストン連中の目が点になり、口があんぐりと開かれる。

 壁を蹴って後ろへ一回転し、マセルがキングストン連中の真上まで飛び上がった頃、ようやく三人は壁と激突することに気づいた。

 

「リーダー! 前! 前! 激突するっちょぉぉぉ!」

 

「はやくブレーキしなさいな!」

 

「しまったですぜ! ブレーキをつけ忘れたんですぜぇえええ!」

 

 マセルは余裕の表情で背後に着地。後ろからキングストン連中に手を振った。

 

「また遊ぼうぜぇ! キングストン!」

 

 壁と激突――。

 そのまま倒れるだけならまだ良かったものの、壁を突き破り真っ逆さまに海へと落下していった。

 

「「「あぁああああああ!!」」」

 

 数十メートルは落下し、それぞれが着水完了。いくつかの大きな水紋が現れる。

 

 マセルが壁に空いた大きな穴から下を覗くと、全身に鳥肌がたった。

 

「うぅぅ……高っけぇ……そして海か、気の毒なキングストンだな」

 

 マセルにはトレジャーハンターとして決定的な弱点がある。それは空と海、すなわち高所恐怖症でありカナヅチ(泳げない)なのだが、怖いもの見たさでつい確認してしまうのだ。

 

「あーあ、空と海の遺跡だけは死んでも行きたくないね」

 

 それでも海や空を越えないと辿り着けない場所だってある。遺跡の中にいてもトラップとして水が流れることもあれば、地下遺跡かと思いきやトラップが動き出して天まで伸びることだってある。勘弁してほしいと思いつつも、お宝を求める探究心は収まらない。

 

 そんなこんなでまたもや危機をかい潜ったマセルは、遺跡の奥で発見したメロンほどのサイズの箱を二つカバンから取り出した。一緒に見つけたカギもポケットから取り出す。

 

「えーと、これこれ、これだな」

 

 箱に鍵を差し込もうとした、次の瞬間――。

 

「あっ」

 

 と口を開けた直後、手が滑り、片方の箱がカギが差し込まれたまま穴の穴へ飛んで行った。

 

「待て待て待て!」

 

 追いかけて穴から下を覗くも、時すでに遅し。せっかく見つけた箱は真っ逆さまに海へ吸い込まれていった。

 

 泳ぎが得意ならば飛び込んで回収するのも手ではあるが、あいにくマセルにそんな芸当を求めるのは野暮というものだ。

 

「ちくちょー……」

 

 仕方がないので、マセルは涙を浮かべながら残った箱に鍵を差し込んで回す。小気味の良い音が鳴る。フタを開くと、マセルの予想から外れたお宝が姿を現した。

 

「なんだ、これは?」

 

 中にあったのは、一言で言えば靴。

 

 膝下まで長いこげ茶色のブーツで、マセルの服とほぼ同じ色だった。青い宝石(のようなもの)で縁取られていて、サイズもマセルに丁度よさそうなものだった。

 

 なぜ、海の上に高くそびえる遺跡の中に靴があるのか? マセルの頭は疑問符で溢れる。

 

「とりあえず履いてみるか……?」

 

 履いた瞬間に呪われて脱げなくなるか、履きたい欲求こそがトラップの引き金となって足をもぎ取られるか、どちらかかと予想する。

 

 とりあえず、マセルは履くのは諦めることにした。箱にしまってカギをかける。そして、大きくため息。

 

 ハズレを引いてしまった。

 

 海に落としてしまったもう一つのほうは、きっと金銀財宝だったのだろう。そんな後悔をしても、箱は一つしかない。

 

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