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親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

ブログ小説(2)技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア

 

 

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 仕方がないので、箱はカバンに戻して遺跡の奥へ進むことにした。

穴の開いた壁には背を向け、走り抜けた道を引き返す。

 

 分かれ道は二本。

左は先ほど二つの箱を見つけた道。

箱以外にお宝はなく、隠し扉のようなものもなかった。

 

 右を真っすぐ進むと遺跡の入り口へ続く長い長い道。

階段や様々なトラップもあり、戻るのも簡単ではない。

入口への道に真っすぐ進まずにさらに右へ曲がると、そっちはまだ未踏の部屋だ。

 

どんなお宝が待っているのか知る者はいない。

逆に言えばどんなトラップが待ち受けているのか、誰も知らない。

 

 箱を落としたショックを引きずりながら、希望を求めて未踏の部屋へ歩きだした。

 

 奥に辿り着いたとき、ショックなど忘れて目を疑った。

もちろん、いい意味で、だ。

 

 そこは軽くスポーツくらいならできそうなほどの広い部屋で、湖のように水が張っている。水は光る天井によってキラキラと輝いていた。

 

「天井から照明みたいに光が出てるだけでも驚きだが、こんな湖みたいなものもあるとは」

 

 泳いで奥を調べるのは不可能だが、水に触れるくらいならカナヅチのマセルでもできる。

 

 しかしマセルには違和感があった。

ここに到達するまでは様々なトラップが行く手を阻んでいたのに、この湖の部屋にはなにもない。

トラップがないことが逆に怪しい。

 

 マセルは警戒しつつ、水に触れて確認する。

 

「ほどよい温かさだな。お湯とまではいかないけど、入っても問題なさそうだ」

 

 靴を脱いでカバンを降ろし、湖に足だけ入れてみる。

とくにこれといって異常はない。

 

 足で床を探ると、すぐ先が一部だけ深くなっていることに気づいた。進めば水の底にドボンは確定だが、そんなことで諦めるわけにもいかない。

 

「うううう、なんでよりによって水なんだよぉ」

 

 意を決して――厳密には決していないが――深いところへ――。

 

「あ?」

 

 進もうとしたところ、目を凝らすと水の底から何かが浮き上がってくるのが確認できた。

 

「まさか、水の中にあるお宝が浮いてきたのか?」

 

 ワクワク半分、ドキドキ半分で、マセルはその浮いてくる物体を見ていた。

 

 すると――。

 

 水の底から、少女が飛び出した。

歳は小学校高学年ほど、身長は百五十ほどの小柄である。

 

 大地を吸収したような見事なエメラルドグリーンのロングヘアー。

海を凝縮したような深い青の瞳。

空を張り付けたような、透き通るほどの白い肌。

右の頬には赤い塗料で太陽のマークが、左の頬には青い塗料で三日月のマークが描かれている。

小柄な身体の上に黒いワンピースは美しさを引き立てていた。

 

 マセルに“そっち”の趣味はないが、マセルから見ても美しい少女だった。

 

 驚きのあまり腰を抜かし、尻と手が水に浸かってしまう。

 そして驚くことに、少女は水の上に立っていた。

 

 マセルがずれたメガネを直してよく確認すると、少女はゆっくりと目を開き、しっかりとマセルを見据えた。

 

 そして一言。

 

「あなたは、誰?」

 

 質問の意味は分かっていても、質問の意図が掴めない。

 

「お、俺はマセル・エレバン。トレジャーハンター。渡り鳥って呼ばれている。高いところと水の中はキライだが」

 

「いいえ、そうではない。あなたは、誰?」

 

「は? 意味わかんねぇよ」

 

 再度マセルが質問をぶつけようとした、そのとき――。

 

「そのお宝、頂いたわよマセル坊や!」

 

 どこからか聞き飽きた声が響く。

天井の一部が丸く崩れ、先ほど海へ落ちたはずのキングストン連中が、また同じ機械に乗って出現した。

 

 二本の脚の先が丸く開き、機械はアメンボのように水の上に浮かび、背中からホースを伸ばして水を吸い始めた。

 

 この世界の火力や工学や電気技術というものはあまり発達せず、機械は全て水と歯車で動く。

水なくして機械は動かないのが、この世の常識である。

 

 という細かい説明は後回しでいいとして、とにかく下から上から現れるお客さんのせいで、マセルの頭はパンク寸前だった。

 

「その少女は頂いたわよ! そいつはきっとお宝よ! もしくはお宝の秘密を隠してる!」

 

 後ろのスリブとガワンも、うんうんと頷く。

実に根拠のない自信過剰である。

 

「っていうか、お前らはどっから来たんだ! さっき海へ落ちたんじゃないのか!」

 

「そんな細かいことはどーでもいいの。悪役は神出鬼没なのよ! 覚えときなさいな!」

 

「オーライ。そりゃ、今後も楽しみだね。次は水たまりからお出ましか? それともツボからジャジャジャジャンか? よろしくなゴキブリトリオ」

 

 あくまでジョークで返すマセルは、余裕の表情だ。

 

「余裕ぶってるのも今のウチよ! スリブ、ガワン、あの少女をこっちに連れてきなさい! できるだけ“丁重に”ね!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 スリブとガワンが機械から降り、少女に背後から近づく。

 少女の存在を知る人間はここにはいないが、なにか大きな秘密があることは、出現した場所からも想像ができた。

少女がキングストンに攫われるのはマズいということは理解できる。

たとえ少女でなくとも、キングストンの手に渡るのは阻止せねばならない。

 

 今は亡き、親友のためにも――。

 

 マセルは少女の手を引き、カバンを手に取って裸足のまま一目散に逃げた。