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親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

水曜ラノベ(13)技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア

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「なんだか風が当たって寒いんですよ。海に落ちて濡れたままだったから。まぁカゼなんかひいたところで、関係ないですけどね」

 

「風か……」

 

 マセルはまだ諦めてなどいない。

 

「風邪、引きますけど、どうせ死にますし」

 

「いや、そうじゃない。どっかから風が吹いてないか?」

 

「え?」

 

 前後どちらも長い一本道が続いているものの、風などは吹いていない。

 

 とすれば、風は壁か床か天井のどこかから出ていることになる。

 

バレッタ、さっき風が当たって寒いって言ったな? どこからだ?」

 

 バレッタは立ち上がり、風の位置を調べる。

 

 天井には手が届かないので、壁と床を徹底的に調べることにした。

 

 数分の間、二人で調べると――。

 

「あ、ありました」

 

 壁の下に数ミリもないほどの隙間があり、そこから風が侵入していた。

 

 突破口になるかもしれない。

バレッタにも希望が蘇り、なんとなく壁を叩いた。

 

「ここ、少し壁が薄くなってませんか?」

 

 言われて、マセルはすぐに壁を蹴る。

思ったとおり一蹴りで壁に穴が開き、やがて粉々に崩れて道が開いた。

 

 そこには、地下へ通ずる階段があった。

 

 下に伸びていて、一寸先は奈落の闇に溶けている。

何メートルまで進めるのか未知数だ。

 

「どうするバレッタ? 行くか?」

 

「圧倒的に賛成です。少し、怖いですけど」

 

 とバレッタが一段目を下りた、次の瞬間――。

 

「えっ――?」

 

 そこにあったはずの階段は幻のように消え去り、奈落へと続く落とし穴に変わった。

 

 踏み出した体を戻す暇もなく、バレッタは重力に任せて落ちていった。

 

 ――――ベルンサイド――――。

 

 遺跡に足を踏み入れたからというもの、バンが望むようなトラップは襲ってこない。

 

 もちろんベルンとしては、平和に帰れればなによりだが……。

 

「僕様の心構え、それは命よりもスリリング。お宝よりも命。スリリングよりもお宝だ」

 

 同じ遺跡内部で別の人物が同じことを言っているとは、彼らは知る由もない。

 

「ベルンくん。トラップの気配はないから安心したまえ。でも、盗賊団は信用するな」

 

「裏切るって宣言するんですか?」

 

「どうかなぁ僕様は気まぐれだから」

 

 バンは不敵に笑い、ただでさえ低いベルンからの信頼をさらに落とす。

 

「まぁ、こんな一本道の遺跡をただ歩いていてもつまらない。雑談でもしようか」

 

「なんですか。勝手にやっててください」

 

「男同士の話でもしようか。じゃあ訊くけど、きみのガールフレンドのことだ」

 

「僕はしませんよ」

 

アピアちゃんとはどこまでいったの?」

 

「ぐほっ」

 

 不意打ちのようなアピアの話題に、ベルンは仰け反ってむせ返る。

 

「付き合ってるんだろう? まさか結婚はしてないだろうけど、手くらいは繋いだか」

 

「ば、ばかな」

 

 女の話題には滅法弱いベルンには、アスンシオンがあってもダメージが大きい。

 

アピアとはただの友達ですよ。それ以上の何かなんてありませんよ」

 

「そうか。つまらないなぁ」

 

「それより、アピアのこと調べてるって言ってましたよね。どういうことですか」

 

「あの子は一千万人に一人のソウル病だ。興味深いからね、調べないわけもいかないよ」

 

「それって、プライバシーの侵害じゃないですか」

 

「病気以外はあまり調べてない。きみが知りたいあんな情報やこんな情報は知らないよ」

 

「ぐほっ」

 

 たまらずベルンは仰け反ってむせ返る。

 

「じゃ、じゃあ次は僕から質問です」

 

 反撃のために体制を立て直す。

 

「お、乗ってきたね」

 

「あのリンベルって人、あなたのこと嫌ってますよ」

 

「あぁ、知ってるよ。信用されてないんだろう? 何年か前に弟が……たしか名前はナウルだったかな、そいつが死んだ悲しみを忘れたくて盗賊団に入った、とか」

 

「聞いたんですか? 直接」

 

「いいや。女は見ていれば分かる。僕様が気に食わないことその七。それは女を甘く見ている男だ。女はトゲのある花ってだけじゃない。時には毒にも薬にもなる。扱いを間違えれば痛い目を見るし、共に支えあえれば幸福だ」

 

「わけの分からないこと言ってないで、ハッキリ言ってください」

 

「つまり、だ。僕様にとってはリンベルは毒で、きみにとってアピアちゃんは薬なんだよ。大事にしなよ。大人になってもね」

 

 ――大人になっても。

 

 ソウル病で二十歳まで生きられないことを知っているうえでの発言だった。

 

 バンを殴りそうになる衝動を抑え、握った拳を理性で引っ込めた。

ここでバンを失えば、それこそアピアは大人になれない。

不老不死の歯車を手に入れるためにも、バンの協力は必要不可欠。

バンはそこまで計算して、わざわざ冗談を言った。

 

「もういいです」

 

 気分が悪くなったベルンは、アピアの話題から離れるために話を断ち切った。

 

 ふと、後ろを振り向く。

 

 一本道だったはずなのに――道がない。

代わりに目の前には広い空間が構築されていた。

 

 マセルたちの見たものと同じく、バスケットボールくらいなら余裕でできる空間で、壁や天井の模様までもがそっくりそのまま同じである。

物はなにも置いておらず、柱などもない。

 

「気を付けろベルンくん。床から何か出てくるぞ」

 

 広い空間の床、そこから影のようなものがむくむくと沸き上がって床を飛び出し、やがて人の形を構築し始めた。

 

 奇想天外な一部始終を、二人はただ黙って見ていることしかできなかった。

 

 ただしベルンは恐怖、バンは好奇心が心を駆り立てており、同じものを目にしながらも違う光景として瞳に焼き付いた。

 

「まさか、アスンシオン……?」

 

 作られた影は、赤いラインのない真っ黒なアスンシオンとなり、数は二十を超えていた。

それぞれが持つ剣先が、一斉にベルンたちへ向く。

 

 さながら、影の兵士。

肉体や心を求めるかのような、無表情の威圧だ。

 

「ベルンくん、用意はいいかい? 相手は人間じゃないようだから、思い切りやってくれ」

 

「そうは言っても、僕のアスンシオンと同じ姿なんですよ。色は黒一色ですけど、なんか不気味ですし。それに、この数じゃどうにもなりませんよ」

 

 ベルンはあくまで冷静に分析し、戦いを避けることを選んだ。

 

「そうか。逃げるのか。無理もないな……でもその前に試したいことがある」

 

 バンは敵が目の前にいるというのに、カバンから黒光りする銃を取り出した。

六発装填が可能の、シンプルなリボルバーだ。

 

 黒アスンシオンの一体に銃口を向けた。

躊躇もなにもなく、発砲。

 

 銃口から煙が上がり、放たれた弾丸は一体を貫いた。

煙を撃ったかのように、消滅。

 

「なるほど、やっぱりそうなったか」

 

 ニヤリと笑い、バンは続けて放った二発目で一体を撃ち抜いた。

 

 広い空間に銃声が鳴り響くが、聞きなれないベルンには不快な音でしかなかった。

 

「なにやってるんです――」

 

 パーン! ベルンに構わず発砲を続ける。

 

「あんなの相手にしたって――」

 

 パーン!

 

「それなら僕がや――」

 

 パーン!

 

 銃の弾が切れ、新たな弾を装填(リロード)する。

 ようやく与えられた静寂だが、ベルンはそれ以上なにも言わず、アスンシオンに変身して残りを斬り伏せた。

 

 ベルンの背後より二体。

 

 一体に気を取られたベルンはそいつを回し蹴りで仕留める。

背後より迫る二体のうち一体も回し蹴りでねじ伏せた。

だが残りの一体が猛獣のような跳躍を見せ、一瞬のことに隙が生じたベルンに剣を振り下ろした。

 

「こいつっ!」

 

 そこで再び銃声が轟き、襲い来る黒アスンシオンは消滅した。

 

 同時に、ベルンの胸に微かな衝撃が走った。

 

「なっ――?」

 

 ピンポン球をぶつけられたような軽い衝撃。

痛みより驚きが大きく、一歩後退する。

 

 目の前には、煙を吐き出す銃を持つバンがいた。

ふっと煙を吹き消し、満足げにほほ笑む。

 

「あなた、僕も一緒に撃ちましたね?」

 

「大丈夫だろう? アスンシオンがあるんだからさ」

 

 ベルンはバンへ接近し、胸倉を掴んだ。

 

 バンは手を上げて降参のポーズを取るが、ニヤリと口元を緩めており反省の色はない。

 

アスンシオンがあっても、撃つことないでしょう!」

 

「落ち着きなよ。まだ敵は残っている。全部で二十体いたけど、倒したのは十体だ」

 

 ベルンは怒りを抑えてバンを解放し、残りの黒アスンシオン集団へ剣を向けた。

 

「ん……?」

 

 ベルンは、自分の手にある異常が起こっていることに気づいた。

 

 絵具をかけられたような、べっとりと赤い“液体”が右の手の平に付着している。

 

「血……?」

 

 銃で撃たれたときのものだ、と胸を確認するが、血どころかアスンシオンには傷一つない。

 

「じゃあどこから……!?」

 

 体中をくまなく確認しても、出血などはまったくない。

バンの血だとしても手の平に付着するのは不自然であり、バン自身もそんな様子ではない。

 

 左手でその血を拭おうとしても、一滴たりとも手から零れ落ちない。どころか、左手に付着することもない。

 

 ベオグラード遺跡のせいでおかしくなったんだ。ベルンは無理にでもそう思い、残る敵へ視線を戻した。

 

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