日々を駆け巡るoyayubiSANのブログだよ。

日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア11

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船を動かし始めて三十分ほどが経過。目的の遺跡にはまだ到着しない。

 

「ま、マセルさん、あのー、雨、降ってますけど」

 

 ポツポツと微かな小雨が海を叩いている。

 

 バレッタが確認のために手を広げると、雨が当たった。

 

「オーライ……マジかよ」

 

 マセル一世一代の危機、海と雨の挟み撃ちでまさに逃げ場がない。

 

「でも戻らない。たとえ嵐がやってきても、俺は絶対に戻らないぞ!」

 

 トレジャーハンターとしてのプライドと、カナヅチとしての闘争本能が相反して本心とは真逆の言葉が飛び出した。

 

 本当ならば一度戻って仕切りなおすのがベストだが、一度火がついたマセルの心は雨でも海でも消火できない。

いや、すでに何度も消火されているのだが、トレジャーハンターとしてのプライドが再度火をつける。

 

「マセルさん! やっぱりマズいです! どんどん雨が強くなってますよ!」

 

 小雨はやがて大粒になって、すぐにドシャ降りに切り替わる。

空は黒く染まり、波は怒り狂ったように激しく暴れ嵐が巻き起こる。

 

波が強いせいで、船が進むというより押し出されているようだ。

 

 縦横無尽、前後左右、縦横斜に振り回される船の上でも、マセルは失神していなかった。

 

 そこに、バレッタがいたからだ。

 

「ちゃんと掴まってろ! もし船がひっくり返っても掴まっていればなんとかなる!」

 

「あががががががが」

 

 横から数メートルの巨大な波が押し寄せる。

影ができるほどの高い波に、マセルは失神寸前の意識の首根っこを掴んで無理やり精神を保っている。

 

「俺に掴まれバレッタ! ウイントフックだ!」

 

 ウイントフックに変身し、バレッタに飛びついて荒れ狂う海に飛び込む。

叫び声も、何もかもが雨と海にかき消され、二人が消えた静寂をも飲み込む。

 

 迫る波が船にのしかかり、船は真っ二つにへし折れた。

直後に波で八つ裂きにされ、見るも無残な残骸へとなり果てる。

そして海に飛び込んだ後、マセルは二度目の失神をした。

 

 ……ルさん! マ……さん!

 ゆっくり瞼に力を込め、光を取り込む。

 海の底ではなく、石のような、硬い床の上にいた。

 

「マセルさん!」

 

 必死に呼びかけるバレッタの声で目を覚まし、マセルは起き上がった。

ようやく、どこかに流れ着いたことに気づく。

 

「ば、バレッタ。無事だったのか」

 

 ウイントフックもバレッタも実体として存在している。

 

 海に沈んでいたのは夢だったと気づき、マセルは胸をなでおろした。

 

「いえ、マセルさんがいなかったら私は沈んでました。私の帽子やマセルさんのメガネまで無事だなんて驚きですが、残念ながら船はどこかにいっちゃいました」

 

「それはいいけど、服とか大丈夫か?」

 

 バレッタの身体に濡れた服が張り付き、華奢な体つきがくっきりとしている。

思わずマセルは目を背ける。

 

「こう見えても体は頑丈ですからカゼはひきません。それより帰り道はどうしましょう? っていうかそもそも、私たちはどこから来たんでしょうか?」

 

 背後も天井も、どこにも入口らしき扉や穴はない。

正面には長い長い一本道があるが、そこから流れ着いたにしては長すぎる。

 

「まぁ、帰り道は後で考えればいい。それよりここ、ベオグラード遺跡か?」

 

 小太りな人間が手を広げて歩けるほどの広さの一本道に、天井までは約二メートルほど。

 

 壁や天井にある不規則な模様が、何をエネルギーにしているのか光を放っていて、本くらいなら読めるほどだ。

 

「まさか、ここがベオグラード遺跡か?」

 

 ご親切な看板はないので確信はなかったが、遺跡らしい雰囲気からそう推測する。

マセルもベオグラード遺跡とは初対面であるため、なにが起こるのか予想はできない。

 

 ――ベルンサイド――。

 

 マセルがベオグラード遺跡に無事(?)に到着する少し前、ベルンが乗った船での出来事の続きである。

 

 一通りの案内が終わったリンベルは、ベルンを連れて操縦席に戻った。

バンはすでにベオグラード遺跡へ向かうための準備を終えていて、待機していた。

 

「ところでベルンくん。きみに伝えておきたいことがある」

 

「なんですか?」

 

ベオグラード遺跡の周辺は、まるで守っているかのように嵐が巻き起こっている。もしも小さな船で近づくカナヅチで愚かなトレジャーハンターがいるのなら飛ばされて海に落ちるだろうけど、僕様の船は大砲を食らっても耐えられる」

 

「つまり、安心してもいいってことですよね?」

 

「そういうこと。僕様の船は完璧だからね。それともう一つ」

 

 バンはわざとらしく大きな咳ばらいをする。

 

「数分前、ベオグラード遺跡に近づくトレジャーハンターらしき船を見つけた。ずいぶんと小さな船だったけど、あれは沈むだろうね」

 

 それはまさしく、ベオグラード遺跡に向かうマセルたちの船だった。

 

「もしも、そのトレジャーハンターがベオグラード遺跡に入ったら?」

 

「そいつが奥までたどり着けるような人材なら、命のやり取りを覚悟してくれ」

 

 命のやり取り――尋常じゃないほどの危険に足を踏み入れようとしている自分に気づく。

 

 ――そうだ、この人たちは盗賊団なんだ。

 

 ――ただの遺跡マニアやトレジャーハンターなんかじゃない。

 

「ベルンくん、きみに覚悟はあるか?」

 

「覚悟は、ありません。僕が人の命を奪うだなんて」

 

「じゃあ、アピアちゃんは大人になれないな」

 

 ベルンは逃げ場のない選択肢に悔しくなり、拳を強く握る。

 

「もう一度聞く。きみは人を殺し、アピアちゃんを守る覚悟はあるか?」

 

 悪魔との契約をするような気分で、ベルンにはとても二つ返事などできない。

 

 アピアを守ること、即ち、不老不死の歯車を狙う敵を殺すということ。

 

 バンも約束を守るとは限らない。

用がなくなったベルンを使い捨てて、その手から歯車を奪うかもしれない。

隙を見てバンはベルンを抹殺するかもしれない。

 

 だが、不老不死の歯車――しかも本当にあるかは定かではない――がなければ、アピアも助けられない。

ベルンは、意を決して答えを出した。

 

「あ、あります。僕は、やります。それが、アピアを守るためならば」

 

「ふふ……ハハハハハハハ!」

 

 バンは腹を抱えて大笑いした。

何も面白いことなどなく笑われたベルンは眉をひそめる。

 

「いや、いやごめん。なんとも、神妙な顔つきで言うものだからついね」

 

「チッ……」

 

「相手はたかが小さな船だ。嵐に飲まれてお終いだよ。敵なんていないさ。もっとも、きみの靴と同じようなものを持っていなければ、だけどね」

 

「どういう意味ですか?」

 

「じゃあ、今度こそ行こうか」

 

 バンは髪の毛をかき上げ、パチンと指を鳴らして手を上げた。

 

「目的はベオグラード遺跡! 嵐は気にするな! 突き進め!」

 

 天井に取り付けられた歯車が高速で回転し、船のエンジンを活発に稼働させる。

 

 あとのことはリンベルたちに任せ、バンはもう一度ベルンへ振り返った。

 

「ベルンくん。僕様が気に食わないことその四、それは行動力のない人間だ。行動しない人間の立ち往生ほどつまらない劇はない。進むと決めたらどこまでも進むのが一番いい」

 

 無事に嵐を潜り抜け、ベルンたちはベオグラード遺跡に到着した。

 

 嵐さえ潜り抜けてしまえば、最初から嵐などなかったかのような雨一粒すら落ちていないエリアになる。

マセルたちのように沈むことも海に投げ出されることもなかった。

 

 バンは遺跡探索に必要な道具類を入れた大げさなカバンを背負って、ぽっかりと開いたベオグラード遺跡の入り口に足をかける。

 

 黒い四角形の入り口は海水がギリギリ入らないよう作られており、水位に合わせて入口の高さも変動する。

 

 いつから存在しているのか、人が手で作った物なのか、それは誰にも分からない。

 

「僕様が気に食わないことその五、それは探求心のない男だ。男は常に勝利への探求心がなければいけない。危険の最前線こそ男の立つ場所だよ」

 

 バンは迷いもなく“探求心”でベオグラード遺跡に入り、ベルンも勢いで続いた。

入るというよりは落ちるという表現が的確か、入ってすぐ高い段差になっていた。

 

 壁や床は不規則な模様が刻まれ、照明のような役割を果たしている。

遺跡よりも生物と説明されたほうがしっくりきた。

 

 次々と段差を降り、最後の段差を降りれば一本の長い道が続いている。

 

「なんだ。せっかくライトとか持ってきたのに」

 

 水を利用した二本の水電池(みずでんち)で動くライトだった。

 

 バンが四方八方を警戒しながら慎重に進む。

 

「トラップは大丈夫ですか? もうアスンシオンに変身してもいいですか?」

 

アスンシオン? なんだっけそれ?」

 

「靴ですよ。変身できる靴です」

 

「あぁそういう名前だったのか。でもそのアスンシオンとやら、いったいどれほどの性能があるんだい?」

 

「それは、まぁ」

 

 まだ変身したのは一回のみで、それもたったの数分だけ。

 

 具体的にどれくらいの性能(スペック)なのか、どれくらいの耐久力で、武器の強度や切れ味は如何ほどなのか、まだベルンはしっかりと把握していない。

 

 下手をすれば、もう二度と変身できないという可能性もある。

 

「よく知らないかい? それも面白いよ。僕様にとっては立派な冒険だ」

 

「不老不死の歯車を見つけたら帰りますからね。あなたを置いていってでも」

 

「そうか。好きにしていいよ。僕が気に食わないことその六、それは欲望に忠実でない人間だ。欲望は人間を形作る。きみがアピアちゃんを助けたいという欲望は、きみを強くする」

 

「あなたの気に食わないことなんてどうでもいいです。はやく行きましょう」

 

 しっかりアスンシオンを調べなかった後悔より、一刻も早く歯車を手に入れたいという欲望が上回る。

 

「しかし、妙だな」

 

 バンが周囲を見回しながら首を傾げた。

 

「今度はなんですか」

 

「幾多の人間を脱落させた難攻不落のベオグラード遺跡。開幕で足の二、三本は持っていかれると思ったけど、いざ入ってみればトラップのトの字もない。これは妙だ」

 

「たしかに、そうですね」

 

「ははは! 面白い。盗賊団である僕様を悩ませるとは!」

 

 面倒なやつに協力してしまった――後悔とはまさにこれだ、とベルンはしみじみ思った。

 

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