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日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア7

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お題「自作小説」

 

――なんだこれは。

 

「丁度いいところに! マセルさん、助けてください!」

 

「は? なんだよバレッタ。っていうかなんでキングストンがいるんだよ」

 

 暴れまわっている機械の上でバンダルをもみくちゃにするソフィアを見つけ、マセルの疑問符が増えた。

 

「そ、ソフィアじゃないか! 無事だったんだな!」

 

 と安堵している場合ではないと気づいたが、マセルは事の重大さを理解するのに時間がかかった。

 

「つまり、ソフィアがバンダルを操って、バレッタに襲い掛かかろうとしているのか」

 

 うんうんと頷くが、すぐに事態が急展開を迎える。

 

 ――機械のアームが、バレッタの上に振り下ろされようとしていた。

 

 バレッタは咄嗟に避けられない。

バンダルは制御不能

 

 だがここにはいる。

 

 ――渡り鳥が。

 

「危ねぇ!」

 

 マセルは俊敏な動きでバレッタに飛び、抱きかかえてアームの到達地点から回避させた。

 

 コンマ数秒のタイミング。

マセルの抜群の瞬発力がなければバレッタは危うかった。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

「礼なんていい。ただそこにいたから助けただけだ」

 

 自身についた砂を払い、バレッタの手からウイントフックを預かる。

 

 海に落ちるとき、僅かに見えたウイントフックの力をもう一度発動できる保証はないが、賭けてみる価値はあると直感が叫ぶ。

 

 ウイントフックの右の踝(くるぶし)にあるボタンに手をかけ――。

 

「ウイントフック!」

 

 急にコスプレのような鎧を身にまとい、さすがにスリブとガワンもバレッタも驚きを隠せない。

まるでマジック、もしくは夢だ。

 

「あ、あ、あ、圧倒的にすごい技術です! その頭の歯車、カッコいいです!」

 

 バレッタは感激のあまり涙を流す。

 

「おいバレッタ、ちょっと離れてろ」

 

 マセルは百メートル走のように、クラウチングスタートの姿勢になる。キングストン連中との距離は数メートルだ。

 

 ウイントフックの肘、膝、首の付け根から細い蒸気が噴き出し、口元がニヤリと歪んだ。

 

 マセルが地面を蹴り、弾丸の如く駆け出した。

 

 バンダルはようやっとソフィアを押しのけ、まともな操縦に戻る。

 

「その靴、もらったぁ!」

 

 伸縮自在の右アームが正面から襲撃する。

 

「よっ!」

 

 マセルは俊足のサイドステップでひらりと避け、速度を緩めることなく前進を続ける。

 

「まだまだ! 腕は二本あるのさ!」

 

 その流れで左アームが襲撃。

動きを読んだマセルには造作もない。

 

 天高く跳躍し、アームの上に足を揃える。

細いアームを一気に駆け抜け、バンダルとの距離を詰めた。

 

「おいソフィア、俺と来い。逃げるんだ」

 

 ソフィアに手を差し出し、比較的やさしく言った。

 

 だが。

 

「えぇー? あたし行かない。バンダルたちと一緒にいる~」

 

「あぁ?」

 

 マセルは頭をポリポリとかき――メット越しなので厳密には無理だが――首をかしげる

 

 少女の外見をしていても、遺跡から出現した人間なのだ。

マセルの予想から外れていてもおかしくはない。

 

「おいおい、こいつらは悪党だぞ。一緒にいてもつまらんだろ」

 

「えぇー? そうかなぁ? 面白い機械に乗せてくれたし、助けてくれたし」

 

 それにはバンダルも黙ってはいない。

 

「乗せたんじゃなくてあんたが勝手に乗ったの。助けたんじゃなくて攫ったの」

 

「もっといっぱい楽しい機械に乗りたいよぉ~」

 

「いいや、俺と冒険するほうが楽しい」

 

「ダメ! この人たちの方が面白い!」

 

「面白くない!」

 

 マセルとソフィアのイタチごっこにうんざりしたバンダルは、コクピットを拳で殴りつけた。

完全に忘れ去られている。

 

「マセル坊や! ちょっと、こっちを忘れないでくれる? こっちにはね、人質がいるのよ」

 

「あ?」

 

「後ろを見なさいな。マセル坊や」

 

 マセルが振り返ると、目の前に涙目のバレッタがいた。

 

 胸から下をアームで掴まれ、両手で帽子を押さえている。

さきほどのアームはマセルを襲撃するためでもあり、同時にバレッタを捕まえる動作でもあったのだ。

 

「なるほど、人質ってことね」

 

 またもやマセルはメット越しに頭をかき、ため息をつく。

 

「さぁどうするマセル坊や? この帽子の中学生を握り潰されたいか、その靴を置いてソフィアを連れてここから立ち去るか、どっち!」

 

「二十歳(ハタチ)です! っていうか手荒なマネしないって言ったのに! 卑怯者!」

 

「黙らっしゃいな! 卑怯は悪党の特権よ!」

 

 究極の選択。

 ほぼ初対面のバレッタを助ける義理などマセルにはないが、助けてもらった恩はある。

 

 かと言って、ソフィアとウイントフックを手放すワケにもいかない。

 

 マセルは決断を、すぐに済ませた。

 

「すまんバレッタ、お前は助けられない」

 

「えっ――」

 

「さっきあげた金の歯車のバッチだが、あれは一緒に墓に入れてやるよ」

 

 バレッタは帽子につけていたバッチを外し、強く握りしめた。

 

「そのバッチ、よく見ろよ」

 

「え?」

 

 バレッタはバッチをつまみ、裏までよく確認した。

 

 そこにはハッキリと“ミンスク商店街”と書いてあった。

 

「こ、これは……」

 

「さっきは五十万エンと言ったな。悪いな、あれは嘘だ」

 

 バッチを渡したとき、マセルは適当なことを言っていた。

本当は商店街で二十エンで買った安物のバッチだったと言うのだ。

 

「な、な、な、な、な、な、な」

 

「だってよ、ああでも言わないと入れてくれないだろ」

 

「こ……こ……こ……この……この男は……」

 

 温度計のように、真っ赤な怒りがバレッタのつま先から頭の先まで伸びあがる。

 

「最低です! もういい! 今すぐ私を握り潰してください!」

 

 さすがのバンダルも唖然とする。

 

 それもそうだ、人質を解放しろと頼むわけではなく、人質本人もはやく殺せと願っている。

もう、バンダルの頭はパンク寸前だ。

 

「え、あの、けっきょくどうするの? 人質は、いいの?」

 

「あぁ。自分でもこう言ってるんだ。好きにさせてやれ」

 

「マセル坊や、あんた、なんか凄い嫌なヤツだったのね……人質をとっている私たちが言うのもアレだけど、あんた最低ね」 

 

「オーライ、そりゃどうも。で、どうするんだ? やるのか? やらないのか?」

 

「え? でも、なんかちょっと」

 

 そう言われては、人質をとった本人たちもやりづらい。

 

「そうか。だったら第三の選択肢といこうか」

 

「第三の選択肢?」

 

 マセルはコメカミのあたりに手を当てた。

 丁度、メットの左右に付けられている、半分に切られた茶色い歯車のあたりだ――その歯車から、人が握れるほどの太さの棒が飛び出した。

 

 マセルはそれを握り、歯車を外す。

 

「どうやら、ウイントフックにはこういうものもあるらしいぜ」

 

 右腕を横に伸ばすと、歯車の中に収納されていた刃が出現した。

 

 ウイントフックの体と同じく、焦げた茶色の刃。

刃の長さは一メートルほど。

石のように見えても、鉄を遥かに凌駕する強度だ。

刃に刻まれているのは太陽のマークで、ソフィアの右頬にあった赤い塗料と同じだった。

 

 ソフィアは剣を見て大興奮。

バンダルはめちゃくちゃな行動をとるマセルに困惑。

バレッタはアームで掴まれたまま暴れて泣いて怒っている。

 

 めちゃくちゃな状況だが、その中心でも落ち着いているマセルは、怯むことなく地を蹴って高く飛び上がった。

 

「これが、俺の第三の選択!」

 

 落下を利用したパワーで剣を振り落とす。

バレッタを捕らえていたアームの付け根は火花をまき散らしながら切断された。

解放されたバレッタは泣きながら落下し、ようやっと自由になる。

 

 一瞬の出来事に困惑に困惑を重ねたバンダルは、つい操縦レバーから手を放した。

 

「飛んでけこんチクショーー!」

 

 剣をバットのようにスイングし、ボディに叩き込む。

ソフィアとバンダルたちは、重力を無視して弾き飛ばされ、空の果てまでホームランでカッ飛ぶ。

 

「リ、リーダァァァァァァアア!」

 

 スリブとガワンが手を伸ばすも、すでに目視は不可能な距離へ消えていた。

 

「き、貴様! よくもリーダーをふっ飛ばしてくれたっちょね!」

 

 怒りが煮えたぎり、二人はマセルに近づく。

だがマセルは剣を突き出して風を切った。

 

「許さない? どう許さないんだ?」

 

 威嚇すると、スリブとガワンのテンションがガタガタと落ちていく。

前進する足を止め、そのまま回れ右。

 

「に、逃げるっちょ!」

 

「逃げるですぜ!」

 

 訪れる静寂――二人は全速力でその場から消え去った。