日々を駆け巡るoyayubiSANのブログだよ。

日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア6

 

 浜辺を出たベルンはスリジャたちに呼ばれたいつもの場所へ向かっていた。

 

 いつもの場所とは、町の隅っこの廃墟になっている建物の裏である。

 

 ほとんど人は近づかないだろう。

つまりスリジャたちにとって、お金を奪う絶好の場所なのだ。

逆に言えば、ベルンがスリジャたちをボコボコにできる絶好の場所でもあるのだが。

 

 目的地が見えたところで、目の前にある人物が立ちはだかった。

 

「ちょっとベルン、どうするつもりなの?」

 

 幼馴染であるアピアニコシアだった。

 

 当然アスンシオンのことは知らないため、また殴られたらどうするの? という意味の問いだ。

 

 言わんとすることを察したベルンは横を通り過ぎた。

 

「ベルンはバイオリンが得意だから、それで見返したりできるかなって思ったの! わ、私もピアノで一緒に演奏するから、ね?」

 

 その背中に説得を試みるも、ベルンは無言で歩き去った。

 

 それでも、アピアはめげずにベルンの腕を掴んで止める。

 

「敵うわけないって! 相手は三人もいるんだよ!」

 

「うるさい!」

 

 言葉に押されて、アピアは掴んだ腕を放す。

 

「なんでいちいち報告しなくちゃいけないんだ。お前は母親か? 姉か? 違うだろ。確かに昔はアピアによく助けられた。でも、今はもう高校生だ。力になるって? なに下らないこと言ってるんだ。そんな細い腕で何ができるっていうんだ」

 

「べ、ベルン……?」

 

「僕は生まれ変わった。もう弱くない。誰にも僕に偉そうなことなんか言えない。僕を踏みつける人間も徹底的に叩き潰す。もしまだ邪魔をするなら、アピアでも容赦はしないぞ」

 

 ベルンから漂う雰囲気に、いつものひ弱な部分は一つもなかった。

 

 アピアも様子が違うことに気づき、一歩後退する。

 

 いや、それはただの後退ではない。

 

「あっ……」

 

 アピアの視界がぐらりと揺らぎ、空や地面が捻じ曲がったような感覚に陥る。

二十歳まで生きられないというソウル病による目眩のせいだ。

 

アピア。だ、大丈夫?」

 

 ふと、ベルンの足を見る。

いつもの靴がそこにはなかった。

 

「だ、大丈夫。ただの目眩だから。それよりベルン、その靴、なに?」

 

 アピアにはアスンシオンがちょっと変わった靴にしか見えていない。

それが凄まじい力を持っていることなど、想像もできない。

 

「……靴がなかったから代わりに履いているだけだ。それより、話は終わりか?」

 

「……分かった。もう、邪魔しないから」

 

「そうか」

 

 泣いて頼めば立ち止まってくれただろうか。

ビンタでもすれば解決しただろうか。

 

 去っていくベルンの背中を見て、アピアには諦めてしまった後悔と引き留められなかった無念だけが残った。

 

 すでに集まっていたスリジャ、ワルダ、ナプラの前にベルンは立ち止まった。

 

 いつもの場所は、レンガの壁で囲われたコの字型の狭い場所だった。

 

屋根はないものの、あまり太陽も入らず暗くジメジメしている。

 

「よーベルン。ちゃんと持ってきただろうな。三万エンはよ」

 

 それには答えず、ベルンは右足の踝(くるぶし)にあるボタンに手をかける。

 

 全身を覆う、露出ゼロの鎧。マジックのように現れたアスンシオンのスーツを目にしスリジャたちは目を丸くする。

 

 力を証明するため、ベルンは片手でレンガを拾って、そして。

 

 レンガは見るも無残に砕け、破片がスリジャたちの胸元に飛び散る。

額から冷や汗が落ち、歯が震え肩に伝染し、やがて全身が子犬のように震えだした。

 

「なぁ。頼むよ。僕に人殺しをさせないでくれ。だからさ、返してよ僕の靴」

 

 手袋で覆われた手のひらを突き出しながらジリジリと前進する。

 

 スリジャたちの喉からは、言い訳や謝罪や命乞いといった言葉が出てこない。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 

「返せよ、僕の、靴をっ――!」

 

 ベルンの手のひらが拳に切り替わり、スリジャの顔の数センチ横、レンガ造りの壁を殴りつけた。

粘土のように、レンガにはクレーターが出来上がる。

 

 恐怖が限界に達し、スリジャたちはベルンの横を走り抜け、全速力で逃げる。

 

「待てよ」

 

 しかしスリジャは首根っこを掴まれ、逃走劇は二秒で終わる。

 

「わ、わ、わワルダ、ナプラ、お前ら、助けろ! こら!」

 

 逃走に成功したワルダとナプラは一瞬だけふり返るも、すぐに見捨てる決断を下してその場から消え去った。

 

「黙れ」

 

 スリジャは前方から壁に押し付けられた。

アスンシオンの怪力の前では為す術がない。

 

「お、お、俺が悪かった、く、く、靴は返す。そこだ。そこの端っこ」

 

 スリジャの指の先には、靴が左右セットできちんと揃えられていた。

 

 ベルンはスリジャを乱暴に放し、靴を回収しにいった。手に取ってよく確認する。

 

「よし、たしかに本物だな」

 

 紛うことなき本物、手袋の上からでも分かる。

色も質も同じだった。

 

「おい、スリジャ」

 

 そのまま逃がすわけもなく、腰が抜けて行動不能のスリジャを睨みつける。

メットの上からでも、威圧は通じた。

 

「靴は返ってきた。僕はお前らを殺しはしない。ただし二度と僕に近づくな。学校にも現れるな。来たら今度こそ容赦はしない。アピアにも近づくな」

 

「わ、分かった。分かったよ」

 

「そうか。なら今すぐここから消えろ」

 

 震える足で小鹿よろしく立ち上がり、次にスリジャは上を指さした。

 

「な、なぁベルン、あ、あれを見てくれないか?」

 

 そう言われ、ベルンは上空を見上げる。

 ――そこには、なにもない。

 

「オラァ!」

 

 スリジャは愚かにもポケットに隠していたナイフを低く構え、ベルンに襲い掛かった……

だがナイフを目視することなく、ベルンはその刃を鷲掴みにする。

 

「うわ!」

 

「なんだ、ちょっと厳しくしたらビビって、優しくしたら牙をむいて」

 

 ベルンは二本指のチョップでナイフを根本からへし折り、スリジャの首を掴んだ。

 

「靴を返せば手加減するとは言ったけど、ナイフを持ち歩くような悪人は許せないんだ」

 

「ゆ……許せないって……な、なにを……」

 

「いま、お前の命をどういう風に終わらせるのかを考えている」

 

 ――マセルサイド――の続き。

 

「名乗る必要は、ない! そーれスリブ、ガワン、あの小娘から靴を奪いなさいな!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 あまりに唐突な事態に、バレッタは状況をうまく呑み込めない。

 

 性格の曲がった突然の来訪者に渡された靴を狙って、マセルを上回る妙な三人組に狙われてしまう散々な今日。

 

 どうしよう――と頭を回転させる。

 

 ここで、バレッタに一つの作戦が浮かび上がった。

 

「そ、そこのアナタ、凄い逸材ですよ! 美貌、スタイル、白いワイシャツに白と黒のネクタイ、とってもオシャレ!」

 

 そこのアナタとは、バンダルのことである。

 

「そ、そ、そう?」

 

「しかも、その機械もすごい出来栄え! 同じ機械好きとしては尊敬しますよソンケイ」

 

 とにかく褒めまくる。これが、バレッタが二秒で考えたとっておきの作戦だった。

 

「お前たち、こんなセンスのあるお嬢さんに手荒なマネするんじゃないよ」

 

「「しょ、承知でガッテン」」

 

 見事に作戦に引っかかったバンダルたちは、ガラっと態度を変えた。

 

「お嬢さん、私はバンダルよ。そっちの細くて長いのがスリブで太くて短いのがガワン」

 

 スリブとガワンは敬礼する。

 

 このまま丁重にお帰り願おう、とバレッタが次の作戦をひねり出そうとしたとき「はーい!」というヤケに明るい声が機械の中から響いた。

 

 コクピットの中から、黒いワンピースを着た、深く青い瞳と透き通るほどの白い肌を持った少女がエメラルドグリーンのロングヘアーを靡(なび)かせながら現れた。

 

 マセルが遺跡で出会い、海への落下中にキングストン連中に攫われた少女である。

が、マセルと出会ったときと違い、妙にハキハキしている。

 

「ソッフィアッだよー! 呼んだかなぁー?」

 

 大きく手を振り、太陽にも負けない笑顔でコクピットの上に立ち上がった。

 

 数分前、バンダルたちは、まず海へ落下するソフィアを攫った。

 

 その後ソフィアは「あなたは誰?」とマセルにした質問を、バンダルにもした。

正直に名前を名乗ったキングストン連中だったが、ソフィアは「そうではない」とあっさり却下。

 

 バンダルはなんとなくノリで「私はあなたのリーダー」と言ったところこれが正解だった。

 

 表情は満面の笑みに変わり「ようやく来てくれたんだね!」とバンダルに抱き着いた。

それからバレッタのところへ到着するまではしゃぎまわり、言うことも聞かず今に至る。

 

 遺跡にいたからお宝だと信じて同行しているものの、もうバンダルは限界だった。

 

 不意に、バレッタの持つウイントフックが、ソフィアの目に入った。

 

「あー! その靴! バンダルバンダル、あの靴を取り返して!」

 

「え、えぇ?」

 

「はやく! 急いで急いで急いで急いで急いで急いで急いで急いで~!」

 

 ソフィアは身を乗り出し、バンダルの頭を前後左右縦横ナナメに揺らした。

 

「やめなさいってこの小娘が!」

 

 釣られてバンダルの腕が操縦レバーを傾け、バレッタたちに前進する。

 

「リ、リーダー! 待ってくださいですぜ!」

 

 そんな言葉がソフィアの耳に入るわけもなく、機械はアームを振り回し縦横無尽に動き回り、止めるに止められない状況となる。

 

 そんなハチャメチャな状況に、風呂上がりで上半身ハダカのマセルが現れた。

 

 

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