日々を駆け巡るoyayubiSANのブログだよ。

日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア3

 

 

www.oyayubisan.com

 

f:id:oyayubiSAN:20190430231423p:plain

「あっ! 待つですぜ!」

 

「そいつは渡さないっちょ!」

 

 湖の部屋を出てすぐ右へ曲がり、遺跡の入口へ突き進む。

トラップなら全て解除済みだ。

少女を連れていても問題なく進める。

 

 はずだったが。

 

「なにっ!?」

 

 天井から壁が落ち、道は呆気なく塞がれた。

 おそらく遺跡の緊急防壁か、もしくは少女を連れたことで発動するタイプのセキュリティか――マセルは自分なりに分析しつつも次の逃げ道を頭の中からひねり出す。

 

 あとは二つの箱があった部屋か、もう一つはキングストンが激突して開けた大穴か。

 

「おいおい、マジかよ」

 

 箱があった部屋は行き止まり。

隠し部屋もない。

さきほど空いた穴から飛び出すならば、手始めに海へ落ちなくてはならない……つまり、高所から落ちるということ。

つまり、海へ落ちて自力で泳いで陸までたどり着かなくては命がないということ。

つまり高所恐怖症+カナヅチを組み合わせたマセルにはあまりにも無謀な冒険だということだ。

 

 それも、少女と一緒に、だ。

 

 そんなこんな迷っている最中にも、スリブとガワンは迫る。

 

「ど、どうするっ!? どうすりゃいいんだ俺は!」

 

 ――ところ変わって、とある少年ベルンの視点――。

 

 マセルが苦悩している一方、遺跡から少し離れた陸地にある町”アクラ”の路地裏では、別の意味で苦悩している少年がいた。

 

 少年の名はベルン・ロゾー。歳は高校一年生で、性格はマセルとは正反対のひ弱な少年だ。

短い金髪、平均的な身長。

バイオリンが得意ということを除けばこれといった特徴はない。

 

 ベルンは今、三人の少年によって攻撃を受けている。

つまりイジめられているのである。

 

「おいベルン、今日は持ってきただろうな」

 

 ベルンの制服の胸ぐらを掴んで壁に押さえつけたのは、ガキ大将のスリジャ。

その後ろにいる腰ぎんちゃくが、ワルダとナプラである。

 

「きょ、今日は持ってきてないよ。お金なんて」

 

「はぁ? たったの二万エンでいいんだぞ。親から盗んで持ってこいよ」

 

 二万エンもあれば、そこそこ身なりの良い服装を整えられる。

高校生にとっては、はした金などではない。

 

「そ、そんなの無理だよ……二万なんて……」

 

「だったら――」

 

 スリジャは拳を固く丸め、ベルンの顔にお見舞いした。

 

「うっ!」

 

 アザが生まれ、口と鼻から血がタラリと流れる。

それでも飽き足らず、スリジャは胸倉を掴

んで放り投げた。

 

「しょうがねぇな。たったの二万エンも持ってこれないんなら、こうしてやる」

 

 スリジャが二人に「やれ」と合図すると、ワルダとナプラはベルンの靴を脱がした。

 

「や、やめてくれ」

 

「これよ、良い靴らしいな。金持ちがよく履いてる靴なんだろ」

 

 ベルンが高校入学祝いに買ってもらった、黒い革靴。

それを盗まれるくらいなら、もう一発顔を殴られたほうがマシだった。

 

「か、返してくれよ。それは……」

 

「あ? なんだよ。返して欲しかったら二万エン持ってこい。いや、どうせなら三万エン持ってこいよ。そしたらこの靴を返してやる」

 

「そ、そんな」

 

「悪いなベルン、俺は手加減が苦手なんだ。用意できたらいつもの場所に来いよ」

 

 スリジャたちは靴を奪い、倒れるベルンを放置してその場を後にした。

 仕方なく、裸足のままベルンは立ち上がる。口と鼻から流れた血を拭い、路地裏から出た。

 

「……海に行こう」

 

 言われた通り三万エンを用意するのは不可能で、力づくで取り返すのはもっと無理だ。

迷ったときはとりあえず海に行く。

打開策が出るわけではないが、海に行くと心が安らぐのだ。

 

「あれ、ベルンだ。どうしたの?」

 

 海。ベルンの傍に来たのは、幼馴染である少女アピアニコシアだった。

 

 晴れ渡った空に引けを取らない白い素肌は、太陽にも負けず焼けることを知らない。

うるっとした瞳は、ベルンと同じく高校生ながらも大人びた印象を持ち、多少ベルンの世話を焼きすぎることとブレザーの制服を着ていることを除けば大人そのものだ。

 

 麦わら帽子の下に伸びる金のロングヘアーが風になびき、アピアは髪を押さえた。

 

ベルンは、その横顔が好きだった。

 

「ねぇ、ベルン、またスリジャたちに殴られたでしょ」

 

 ハッキリと顔を見たわけでもないのに、あっさりと見破られてしまった。

 

 できればベルンは傷について触れてほしくなかったのだが、バレてしまっては仕方ない。

 

「え、う、うん。少しだけだよ」

 

「ホント、卑怯だよね。三人で寄ってたかってさ。ベルンもガツンとやり返してやりなよ」

 

 と、言われても、ベルンにそんな度胸はない。

 

「私から言っておこうか?」

 

「ダメだ。危ないよあいつらは」

 

 口では強気でも、内心では女子に助けられることが何より嫌だった。

心を見透かされたくなくて、ベルンは話題を変える。

 

アピアはどうしてここに来たの?」

 

「どうしてって、海が見たくなったから。もしかして一人になりたかった?」

 

「い、いや、別に」

 

 本当なら一緒にいてほしいところだったが、傷だらけの自分を見せるのも気が引けた。

 

「分かった。一人になりたいのね」

 

 言葉の裏にある本心に気づき、アピアは背を向ける。

 

 どうしてこんなに自分は弱いのか。

 ベルンは答えのない疑問に対する答えがほしかった。

 

「病気、大丈夫?」

 

「うん。今はなんともない」

 

 アピアは幼い頃から病気だった。

二十歳までしか生きられないという、ソウル病だ。

生まれたとき、一千万人に一人だけが発症するという難病である。

 

 発見はできるものの、今の時代では治療できない。

ときどき軽い目眩がやってきて定期的に薬を飲み続けなくてはならないという点と余命以外には、これといった異常はない。

 

「そっか、じゃあまた今度」

 

 今度こそ、アピアはその場をあとにした。

 

「あれ? あれ、なんだろう」

 

 ふと、浜辺の端を見る。そこには見慣れないなにかがあった。

 

 小さな箱が石の隙間に引っかかっている。ベルンが近寄って手に取ったが、なぜかカギが差しっぱなしになっていた。

 

「もしかして、あの遺跡から来たのかな?」

 

 その遺跡とは、今まさしくマセルが決断を迫られている、目の前のジャメナン遺跡のことである。

 

 この国”プライア”では、未踏の遺跡がいくつも存在する。

いつから存在し、誰が作ったのか不明で危険も多い。

それこそ、マセルのようなトレジャーハンタ―でもない限り、足を踏み入れた直後にトラップの魔の手で八つ裂きにされてお終いだろう。

 

「でも、もしも箱が遺跡から来てたら、これはお宝なのかな?」

 

 ベルンは差さっているカギを回す。

 開いてみる――。

 

「なんだこれ?」

 

 幾何学的な赤い模様が描かれた黒いブーツが入っていた。

サイズはベルンに丁度よく作られていて、そして偶然にもベルン自身も裸足だった。

 

 何もなければそれでよし。

イチかバチか、ベルンはその靴を履いた。

 

「ん……?」

 

 予想通りサイズはピッタリだったが、お宝の呪いなどは特に感じなかった。

 

「なんだ……ただのボロ靴か」

 

 その靴を脱ごうと手をかけたが、靴に付いたボタンのようなものが目を引いた。

 

「これ、なんだろう……」

 

 右足の踝(くるぶし)のあたりにあるボタンを押すと、突然、誰の声が響いた。

 

アスンシオン キドウ キドウシャ カクニン】

アスンシオン キドウ キドウシャ カクニン】

アスンシオン キドウ キドウシャ カクニン】

 

「うわっ!」

 

 靴から謎の女の声が流れ、腰を抜かす。

 立ち上がろうと自分の足元を見ると、その足が自分の足でないことに気づいた。

 

「な、なななななんだよこれ」

 

 足の先からみるみるうちに黒く変化していく。

いや変化というよりは、靴を始点に服の上から別の服が出現しているのだ。

 

 なすすべなく、ベルンの全身に別の服が纏わりついてくる。

 

 海に写った自分を確認すれば、黒と赤のツートンカラーの手袋に、腰までは赤いラインの入ったウェットスーツのような黒いスーツが出現していた。

 

 ヘソのあたりには赤い宝石が光り、胸は赤を基調として黒いラインの入ったプロテクターが付けられている。

極め付けに、頭には全体を覆う黒いヘルメット。

口元は銀、鼻先から後頭部にかけて赤いVの字のツノが付けられていた。

メットの左右には半分に切られた黒い歯車がある。

 

 まるで漫画かなにかに出てくるような、コスプレ。

 

「たしか、靴から流れた声はアスンシオンって言ってたかな」

 

 詳しくは理解できなかったが、まずはアスンシオンとやらを解除したかった。

 

右でこうなるなら、と、左の靴のボタンを押すと、アスンシオンは無事に解除されてベルンはいつも通りの姿に戻った。

 

 恐ろしくなり、すぐに靴を脱いで箱に戻してカギをかけなおす。

 

「いったいなんなんだよ、これ」

 

 箱や靴のことは忘れて、まずは自分の靴を取り返す算段を練ろう。

そう自分に言い聞かせて、深呼吸をしてから、その場を後にした。

 

 のだが、すぐに戻ってきてしまった。

 

 アスンシオンが全身を覆ったとき、大きな力のようなものを感じていた。

 

 恐怖と、恐怖を凌駕する力――。

 

「もしかして、これって凄いものなんじゃ」

 

www.oyayubisan.com