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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア27(最終回)

http://blog.hatena.ne.jp/-/odai/9247541947915157485:title=お題「マイブーム」]

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 バンに問われた言葉がそのまま重くのしかかる。

自分だけでは答えを出せない。

 

「靴……アスンシオンは……」

 

 自分へのいら立ちや迷いを隠すため、ベルンは拳を強く握った。

 

 こうなれば、正直に話すほかない。

 

 ベルンは得た情報をアピアに伝えた。

 

 数千年前にアスンシオンの装着者が反乱を起こして大量に命を奪ったらしいこと。

 

 しかしそれがなければ戦う力がなくなってしまうこと。

 

 そして、ベルンは今アスンシオンについて迷っていること。

 

「僕は、この靴を使っちゃいけない。もう、血で汚れた右手は見たくないんだ」

 

「だから、私は助けられないって?」

 

「そうだ。僕には、アピアを助ける権利なんてないんだ」

 

「本気で言ってるの?」

 

 アピアはベルンの頬に触れた。少し身長差があってベルンを見上げる形になる。

 

「過去の人が何かしたからなに? それって、ベルンが悪いことしたわけじゃないでしょ? 右手に血が見えたからってなに? それって、ベルンが誰かを殺しちゃったの?」

 

「違う、けど」

 

「じゃあ、気にしなくていいんじゃない? 私がベルンだったら、ふーん。で済ませるけど」

 

「え、そんな軽い?」

 

「考えすぎだって。ベルンは、なにも心配しなくていいと思うよ」

 

 その説得だけで、ベルンの心に巣くっていたモヤモヤが一気に消え去った。

さっきまで悩んでいたのがバカバカしくなるほど、意外にもあっさりと解決できたことにベルンも驚いている。

 

「そ、そうか。心配しすぎなんだ……」

 

「うん、だから進もう? 私を、助けてくれるんでしょ?」

 

「ああ……もちろん」

 

 ベルンは拳を強く握り、再び勇気を取り戻した。

あとは進むのみ、そしてアピアを助ける手段を見つけて帰るのみ、簡単なことだ。

 

 ベルンは出口を塞ぐバンに視線を向けた。

 

 ――しかし。

 

「いない?」

 

 アピアも同時に視線を向けたが、やはりそこには誰も立っていない。

 

 バンの背後にあった鉄格子も開いており、ここの試練は乗り越えたのだと確信し、前に進んだ。

 

 今度は、アピアと共に歩きながら。

 

 と意気込んで進んだものの、さっそく行き止まりに当たってしまった。

 

 アピアは壁の一部が出っ張っているのを見つけた。

 

「これかな?」

 

 触れる――すると、ゴゴゴと重い音を響かせながら、壁がスライドして道が出来上がった。

 

 そこには、マセルとナウルが剣と剣を交えながら死闘を繰り広げていた。

 

「おいベルン! こっち手伝え!」

 

 呆気にとられるベルンに無茶な要求が投げつけられる。

 

 だが放ってもおけないベルンはナウルに狙いを定めてはね上がり、空中でアスンシオンに変身。

剣を構えて斬りかかった。

 

 ナウルは不意打ちを巧みにかわし、ベルンはマセルと並んだ。

 

「マセルさん、大丈夫ですか?」

 

「へっ……俺を誰だと思ってやがる。この程度でくたばるわけないだろ」

 

 マセルには勝機しかない。

体は傷だらけでも、動きさえすればどこにも問題はない。

 

「マセルさん、察しましたよ、こいつを倒せばいいんでしょう?」

 

「分かってんじゃねぇか!」

 

 二人の戦士。

剣を向ける対象はただ一つ。

ただ一つを崩せば、それで決まりだ。

 

「貴様らは、靴がなければここに辿り着けなかった弱者だ。だがその努力は認めよう」

 

 マセルたちとナウルは、ジリジリと距離を保ちつつ円を描く形で歩く。

だが目は離さない。

 

 僅かに変わる間合い。

継続する睨み合い。

 

その隙にマセルは作戦を立てる。

 

「ベルン、よく聞け。一度だけ言うぞ」

 

「……?」

 

 マセルはナウルの耳には入らない程度の声で言った。

 

「目標はお前のガールフレンドを助けることだが、あのナウルの口ぶりからしても助ける方法はここにあるみたいだ」

 

「えぇ。僕のほうにいた男からもそう聞いています」

 

「最初の試練、黒い影を思い出せ」

 

 槍と盾を持った、霧のように消える敵のことだ。

 

「あいつの弱点は背中だった。おそらく、あいつも同じだ」

 

「そこを狙えば……」

 

「保証はない。俺の勘だがな」

 

「あなたは本当に、勘や運任せですね……分かりました。行きますっ――!」

 

 ベルンは踏み込んだ。

背後を取るためスピード重視に動く。

 

 だが普通に背後を取りに行っても、防がれるのは目に見えている。

ならば、多少の変化球を交えて動かなければ一筋縄ではいかない。

 

 そして、跳躍。

体全てをバネに変え、ベルンはナウルの頭上を飛び背後に回った。

直後にナウルが水平に斬り、すかさずベルンは剣で防ぐ。

 

 マセルとベルンで挟み撃ちしている状況だが、ナウルはマセルに背中を向けているわけではなく、両者を左右に置いている状況だ。

これでは完全に背後を取ったことにはならない。

 

 ナウルが剣を持つ右手はベルンの攻撃を防いではいるが、押し負けることなく余裕の表情だ。

 

「マセルさん! こいつは左に武器を持ってません! はやく!」

 

「あぁ。そのまま押さえてろ!」

 

 たとえ背中を向けていなくても、一人が押さえている間に背中を攻めればいいだけのことだ。

 

 大きくステップを踏み込んで距離を詰める。

剣を持つ手に力が入る。

 

「そのナウルの皮、はいでやる!」

 

 今なら空いている左から攻められる。

左右なら正面よりは勝機がある。

 

 マセルが高く飛ぶ。

ベルンのように背後に回らず、ナウルに向かって飛び掛かるようにだ。

 

 だが、やはり甘くない。

 

 渾身の一撃はナウルの刀身を滑って受け流され、そしてマセルの鼻先に剣先が突き付けられた。

 

「お前たち、命を欲しているんだろう。なら差し出そう、アピアニコシアのために」

 

ナウル、どういうつもりだ」

 

「俺はこの遺跡の試練。人の記憶から姿を借りて試練を与えるんだ。もちろん、それ相応の褒美も用意している」

 

「お前、まさか命があるのか?」

 

「命はない。だが、人に命を与えることはできる」

 

 その言葉を耳にし、ベルンの腕に力が溢れる。

 

「本当なのか……?」

 

「お前らがそれにふさわしい強さを持っていればな」

 

「そうか……じゃあ……!」

 

 ベルンの持つ剣が光を放った。

闇すらも切り裂けるほどの強烈な光だ。

当然、ただの光ではない。

剣の威力、斬れ味が格段に増している。

 

「はぁぁぁああああ!」

 

 ベルンが疾風の如き敏速で一歩後退し、ナウルに破壊的威力を誇る突きを繰り出した。

 

 ギィィィィィン!

 

 剣と剣が火花を散らし、甲高い金属の音が周囲を揺らす。

 

しかしナウルは剣で払い、いともたやすく突きを防いだ。

 

「マセルさん!」

 

「分かってる!」

 

 マセルが懐に飛び込む。

バットのスイングのように、ナウルの腹に剣を叩き込んだ。

 

 が――。

 

「だから甘いと言っている!」

 

 確かに攻撃は命中した。

だが、キャビクレイに変身していることもありそう簡単には貫けない。

 

「どうしたマセル? 背中を狙うんじゃないのか?」

 

「なに言ってやがる? 背中を狙ってんだろーが」

 

 マセルはメットの下で不敵に笑った。

 

「お前ら二人は動けない。誰が背中を狙うつもりだ?」

 

「俺にはな、まだ一緒に冒険に来てる相棒がいるんだよ」

 

「――なんだと」

 

 そのとき、その場に新たな人物が乱入した。

マセルでもベルンでもソフィアでもアピアでもない、ずっとそこにいた、あいつが――。

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 駆けてきたその人物は、大きな金属の破片を手にし、隙が出来たナウルの背中を強打した。

弱点である背中をやられ、ナウルの体から力が抜ける。

 

「マセルさん! 今です!」

 

「あぁ!」

 

 マセルは背後に剣を放り投げ、ナウルの正面から正拳突きを打ち込んだ。

 

「ぐあっ!」

 

 拳を叩き込んだ部分からバチバチと電撃が迸り、纏っていた鎧が徐々に消滅していく。

キャビクレイの変身が解除されたのだ。

 

 ナウル本来の姿が露わになり、マセルたちとまともに戦う力は失われた。

 

「ぐ……なんだ、背中を攻撃した、お前は……」

 

 ナウルの背後、そこにいた人物は――。

 

「私のこと圧倒的にナメてもらっちゃ困ります!」

 

 そこにいたのは、紛れもなくバレッタ

圧倒的に、バレッタウェリントンだ!

 

 手にはかつてアテネ号の一部だった金属片がある。

フルパワーで振ったせいで肩が痛んではいたが、バレッタにとっては些細なことだ。

 

ナウルさんの皮を被った幻、気づかなかったの? 私、ずっっとみんなの後ろにいたの!」

 

「俺は気づいてたぜ」

 

 マセルは胸を張って言った。

 

「まぁ気づいたのはついさっきだがな。結果的になんとかなったならヨシとするか」

 

「適当ですねマセルさんは」

 

「その適当でなんとかなったのも、お前のおかげだけどな」

 

 二人はハイタッチをした。

 

 アピアもソフィアも駆け寄り、マセルたちの後ろに隠れる。

 

ナウルがキャビクレイに変身できない以上、脅威は去ったと見てもいいが、まだ油断はできない。

 

「素晴らしいな。試練を突破し、ついに俺を打ち倒した。その功績は誉めてやる。約束は守る」

 

 ナウルは光の粒子のようなものを空中から出現させ、そこからペンダントを出現させた。

金のように輝いていて美しい。

金の鎖の先には月と太陽のマークが刻まれたメダルがついていて、首から下げられるようになっている。

それを、アピアの目を見据えながら差し出した。

 

「これは俺の命の結晶。肌身離さず首にかけていれば病気なんてどうってことないさ」

 

 アピアとしては半信半疑ではあったが、疑うのは今さらだな、とも思った。

 

 変身できる靴に空飛ぶ遺跡、そこまで不思議なことがあるなら病気くらいなら治せるはず。

そう期待しつつ、アピアはペンダントを受け取った。

 

「本当に、これでソウル病が治るの? 二十歳まで……生きられるの……?」

 

「厳密には、きみの生命力を高めることで病気を消滅させることができる。このマジュロ遺跡の力を甘く見るなよ」

 

 ペンダントに力を与えて渡したことにより、ナウルは存在を保つ力を失ってしまった。

そのせいか、体から小さな光の粒子が溢れ出てきた。

 

「すまない。これでおわかれだ」

 

 ナウルの足先が消え、幽霊のような姿になった。

時間切れということだ。

 

スコピエ文明のためにソフィア王が戻ってきてくれなかったのは残念ではあったが、まぁ君たちのように強い人間がいれば王も必要ないか」

 

 溢れた光の粒子が頭の先にまで到達し、ナウルの体は完全に消滅。

物理的な姿は失われた。

 

 二人は変身を解除する。

訪れたのは静寂――アピアについてもソフィアについても、得る物は得た。全て解決だ。

 

 と思われたが、まだ大きな問題は残っている。

 

「ところでバレッタ、質問だ」

 

 マセルが背伸びをしながら言う。

 

「帰る方法、見つかったか?」

 

「あっ」

 

 ベルン、アピア、ソフィア、六つの目がバレッタに集中した。

 

「ここは空の上。飛行機もなしじゃ帰れない。お前は方法を考えると言って残ったはずだが」

 

「そ、そう言われても……でもほら、結果的に私がいたから勝てたじゃないですか!」

 

「そうなんだが、そうなんだが……どうする?」

 

 飛行機は大破。

遺跡が海に落ちる気配もない。

変身して落ちるにしても高さがありすぎる。

 

 まさに、打つ手がない。

 ソフィアはブンブンと首を横に振るばかり。

取り戻した記憶の中には答えはなかったようだ。

 

 さて、どうしようか。

みんなで答えを考えあぐねているとき、またトラブルが増えた。

 

 ドン! という音と地響きがやってくる。

音の位置は、上だ。

 上――すなわち、地上から何かが来るということだ。

 

「上……? まさか、こんなところに人が来るっていうのか?」

 

 マセルの疑問にバレッタが答える。

 

「いや、実際に私たちが来てるじゃないですか。他にも誰か来てたっておかしくないですよ。でも、誰かって、誰でしょう?」

 

 いつもいつも色々な場所に出現する相手。

なぜマセルたちのいる場所が分かるのか、なぜそこにタイミングよく現れるのか、いつも意味不明な敵。

 

 ――ここに来るとすれば、あいつらしかいない。

 

「まさか!」

 

 天井を破って現れたそいつらは、例によって例の如く、

 

「っほほほほほほほほ! このバンダル様を忘れてもらっちゃ困るわよぉぉぉ!」

 

 マジュロ遺跡の手前でマセルに撃墜されたはずのキングストン連中だ。

なぜそこにいるのか、どうやって襲来したのか、なぜ場所が分かるのか、細かいことは気にしてはいけない。

 

 とにかく、そこにヤツらはいるのだ!

 

 プロペラのついたヘリコプターのような小型のマシンに、窮屈そうに三人で乗っている。

 

 コクピットの下に武器らしきものはない。

どうやって天井を壊したのか考えてはいけない。

 

「お前ら! また懲りずに来やがったな!」

 

「懲りないのは悪党の専売特許よ! スリブ! ガワン! アレを用意しなさいな!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 スリブとガワンのコンビが意味ありげなレバーを引いた。

コクピットの下から巨大な大砲のような筒が現れる。

 

 それだけでマセルたちは察した。

 

「これでも食らいなさい! マセル坊やとその他のお嬢さん方!」

 

 バンダルはレバーの横にあった意味ありげな真っ赤なボタンを叩いた。

 

 そこからの展開はお察しの通り。

 

 大砲が火を噴く。

イカほどの鋼鉄の弾丸が放たれ、マセルたちのいる地面に、命中。

 

「や」「や」「や」「や」「や」

 

「「「「「ヤバい!」」」」」

 

 五人の声が重なる。

弾丸は爆発、周囲に爆風と熱をまき散らし、壁を破壊してマセルたちを吹き飛ばす。

 

 地から足が離れ、空に放り出されてしまった。

 

 下一面は海。

ただの海ではない、雲とほぼ同じ高さにあるマジュロ遺跡から落ちる海だ。

生身で落ちようものならまず命があると思わないほうがいい。

 

 マセルとベルンは変身。

マセルはメット左からワイヤーを取り出して四人に巻き付けた。

 

 バラバラに落ちていた四人はワイヤーに絡み取られて纏まった。

纏められていれば身動きをとることはできないが、海に落ちたときに離れ離れになることはない。

そこからはベルンがワイヤーを外して陸まで上がってもらう。

そういった計画をすぐに構築したうえでの判断だった。

 

「ベルン! そっちは任せた!」

 

「は、はい!」

 

 風向きも不安定な状況でベルンたちとの距離が離れ、すぐに豆粒のように小さくなる。

下からの風圧に耐えるだけでもやっとの状況に、お互いに場所を捉えることができない。

 

 バラバラに飛ぶという一つの問題は、まぁなんとなくではあるが片付いた。

 

 だが大きな問題は残っている。

 

「マセル坊やぁぁぁぁぁ! 逃がさないよぉ!」

 

 キングストン連中は落ちるマセルに狙いを定めた。

謎の乗り物で降下し、無防備に落ちるマセルを追撃する。

 

「お前ら! よくもやってくれたな!」

 

「やるに決まってるでしょ! そら、もう一発食らいなさいな!」

 

 コクピット下の大砲が再び火を噴く。

落ちるマセルに、無慈悲な弾丸が直進する。

 

 ダイレクトに命中すればひとたまりもないが、マセルはこの程度では怯まない!

 

「おらぁっぁぁぁ!」

 

 寸前、剣を垂直に振り下ろし、弾丸を真っ二つに切り裂いた。

切り裂かれた弾丸は左右を通り過ぎ、背後で爆発。

爆風で背中を押され、キングストン連中の乗り物へ前進しコクピットの下に張り付いた状況になる。

 

「コシャクなマセル坊や! これだからトレジャーハンターは!」

 

「うるせぇ!」

 

 剣を逆手に握りなおし、コクピットのど真ん中に下から突き刺して貫通させる。

電撃が迸り、乗り物のプロペラは活動を停止した。

 

「ひぃぃ! スリブとガワン、なんとかなさいな!」

 

「ムリですぜ! 下から剣が飛び出してますし、計器類は動かないですぜ!」

 

「もう落ちるっちょ! 終わりっちょ!」

 

 プロペラの付け根が爆発。

コクピットも火を噴き、ただの鉄の塊と化す。

 

 だがマセルは離れない。

離れれば、海に落ちたときに浮上しづらくなるからだ。

 

「離れなさいなマセル坊や!」

 

「お前らが粉々に爆発したって絶対に離れねぇ! だって俺は泳げねぇからな!」

 

 無力になった四人は、ただ落下を続けることしかできない。

海へ真っ逆さま――下に落ちたところで、助かる確率は絶望的だ。

 

 ――あの日から水と空に恐怖を抱くようになった。

 

 飛行機が燃料切れを起こし、友人のナウル・アルマトゥイが死んだあの日。

それでも遺跡を見つけ、冒険をした。

でも結局は海への落下という結末になってしまうのは、呪いなのか。

 

 見てたか、ナウル

 

 俺は、伝説って言ってもいいくらいのトレジャーハンターになったよ。

 

 

 

 それから三日後。

 

 ソフィアはバレッタとともに暮らしている。

だんだんといつものような笑顔も取り戻してきた。

 

度々海のほうを確認しているが、まだマセルは帰ってこない。

 

 ベルンもアピアも同じ気持ちだ。

命の恩人を放っておけるわけもなく、いつもバレッタの家の前に来ては海を見ていた。

 

 帰還を願うように、ベルンはバイオリンを奏でた。

 

 美しい音色が夕日の光る海に寂しく響き、どこまでも広がった。

 

「ねぇ、ベルン。私さ、なんだか前より元気になった気がした」

 

「元気? 薬は飲まなくていいの?」

 

「うん。目眩もしないし、薬を飲まなくても平気。きっと、このペンダントのおかげだと思う」

 

 ナウルから貰ったペンダントが夕日を受けて輝いた。

生命力を高めるという話はウソではなかったようだ。

 

 二人の間に、ソフィアがやっ

てきた。

 

 記憶を取り戻したソフィアは前のような無邪気さはなかったが、王という立場に縛られることなく、少なくとも安心した生活を送れていた。

 

「マセル、帰ってこないね」

 

 それに答えたのは後ろから入って来たバレッタ

 

「帰ってくるよ、渡り鳥だもん」

 

 渡り鳥。

 

 無鉄砲に突き進み、お宝を探す冒険バカのことである。

 

 脱出方法なんて後回し。

高いところが苦手でカナヅチで、トレジャーハンターになんて向かないような男。

だが勇敢で、困っている人は助ける、ちょっと不器用だけど根は優しい人。

 

「それって、俺のことか」

 

 どこからか声がした。

帰ってきた彼の声だ。

 

 バレッタは駆け寄り、どこからか帰って来た渡り鳥の胸に飛び込んだ。

 

 涙が夕日に輝き、頬を伝った。

 

「まだ、恩を返してもらってませんよマセルさん、圧倒的に……」

 

「じゃあ、また冒険にでも行くか」

 

 彼がどこから帰って来たのか、これからどこに行くのか、それはどこでもいい。

 

 お宝があって仲間がいれば、そこが冒険の舞台になるから。

 

 渡り鳥――という男をご存じだろうか?

 

 空から空へ飛びまわり、遺跡から洞窟から縦横無尽に駆け回って宝を集める、いわゆるトレジャーハンターである。

 

 そんな彼の名は「マセル・エレバン

 

 ということでマセルたちの冒険の幕は、まだまだ閉じることはないのである。

 

 技巧鎧 ミスティ・ミラージュ ギア 完

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア26

お題「マイブーム」

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記憶を取り戻したソフィアは、あまりの衝撃にしりもちをついた。

 

 思い出さなければよかった。

ソフィアから出た感想はそれだった。

 

「ソフィア、大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫……」

 

 マセルもソフィアと一緒に過去の記憶を見たものの、かなりの衝撃を受けた。

 

 ウイントフックはともかく、ベルンの持つアスンシオンについては言葉にできない。

 

 ベルンはいくつもの命を奪ったアスンシオンを使っている。

その事実を知れば、彼はとても受け止められないだろう。

 

「……知らなければよかったかもしれない」

 

「そう、かもしれないな」

 

 ソフィアはその場で膝を抱えて俯く。

少なくとも過去の記憶は、楽しい物語ではなかった。

 

「あんなこと思い出さずに、普通に暮らしていればよかった……苦しいだけだよ、あんなの」

 

 膝に頭を埋めて丸くなったソフィアになんと声をかけていいのか分からず、マセルは立ち尽くした。

共に記憶を見たとはいえ、ソフィアの感じる重みはマセルとは大きく違うものだ。

 

「マセル」

 

 重い空気に追い打ちをかけるように、ナウルがやってきた。

今はキャビクレイに変身しておらずナウルの姿だ。

 

ナウル、なんの用だ」

 

「もう満足したか? 自分の過去、罪、歴史、それらを思い出してどう思った? “元”王様」

 

「う……」

 

「過去を知りたいと思ってここまで来たのはいいことだ。それで絶望するのも勝手だ」

 

「う……う……」

 

「王の血筋があっても、もう王ではない。だがこのマジュロ遺跡やベオグラード遺跡、ジャメナン遺跡を司っているのは王の血筋だ。記憶を取り戻したのならやるべきことがあるだろう」

 

 ソフィアを追い詰めるナウルに、さすがのマセルも待ったをかけた。

 

ナウル、何が言いたいんだ」

 

「もう一度王に戻ってスコピエ文明を復活させてくれ。あのときから逃げたままでいいのか?」

 

ナウル――いや、お前はナウルの姿を借りたただの幻か。お前らは王に帰ってきてほしいと思っているかもしれんがな、肝心の本人が否定しているんだ」

 

「……ふん。やっぱりこうなるか」

 

 ナウルは片足を上げ、靴に触れる。

 

「ミラージュコーティング」

 

 瞬時にキャビクレイに変身した。

漆黒のマントが揺れ、マセルを睨む。

その姿を睨み返し、マセルもウイントフックに変身した。

 

 互いにメットから剣を抜き、互いに剣先を突き付ける。

すすり泣くソフィアを前にして、微動だにしない沈黙の勝負が繰り広げられる。

 

 しばしの沈黙の後、それを破ったのはナウルだった。

 

「文明は王がいてこそ成り立つ。王がいなければ、滅びたも同じだ」

 

「……でも、もう私は王様なんてイヤなの……あんな、あんなこと……」

 

「でも、あの真実を知りたくて、わざわざこんな空の上まで来たんだろう? なのに知ったら知ったで、また逃げるのか? 今度は何年だ?」

 

「もう……もう……」

 

 涙で顔がぐちゃぐちゃになるソフィア。

答えも出せず、その場から逃げる気もない。

というより、逃げる気力がない。

 

「――いい加減にしろよ」

 

 マセルの剣を握る手が怒りで震える。

 

「もう、スコピエ文明なんて古代の話は終わったんだよ。過去の時代でしかない」

 

「……」

 

「王や文明に縛られるなんてイヤだね。自由に冒険して、時には運任せでスリリングで爽快感があって面白いのがいい。王なんていなくても、世界は動くんだよ。まぁ、俺は王だとか文明だとかよく分からんけど、楽しく冒険ができないのは勘弁してほしいな」

 

「そうか、じゃあ勝負といこうかマセル」

 

「それしか、ないんだな」

 

 部屋の中、刃と刃が交差する甲高い音が轟いた。

 

 冒険のためか文明のためか――男同士の戦い、親友同士の戦いが、幕を開けた。

 

 

 

 その頃、バンと対峙しているベルンは――。

 

「なにもないな……」

 

 試練の部屋に辿り着いたベルンは、警戒しながらその部屋をざっと眺めた。

踏み込んだ直後に鉄格子が下りて退路を断つ。

しかし前の部屋と違い、塞がれたのは入口だけで、奥の出口はそのままだ。

退路を断たれた以外にこれといった変化はない。

 

「でも、鉄格子があるってことは、なにかをクリアしないとダメってことだよな」

 

 恐る恐る一歩を踏み出す。

 一番隙を突かれやすいのは、さきほどの黒い影のようにどこからともなく出現されることだ。

特に背後から攻められると、アピアに直撃する可能性が高い。

 

「ん……?」

 

 ベルンの目の前に、今度は白い光が集まり始めた。

 

 ぼんやりとしているが、人の形を形成している。

 

「敵……?」

 

 白い光は武器を持たず、歓迎するように両手を広げている。

あいにく表情はないため、敵意の有無も判別できない。

 

 高身長、細身な体系。

帽子を被った貴族のような風貌。

その姿に見覚えがあった。

 

 ――バンジュールフリータウン

 

 カストリーズ盗賊団のボスで、ベオグラード遺跡の歯車に命を吸われ遺跡と共に海の藻屑と消えた、あの男だ。

 

「僕の心を見透かして、幻を見せているのか?」

 

 ベルンの疑問に呼応するかのように、白い光は徐々に色を成し、人らしい肌とバンらしい白い服が現れ始める。

 

 やがて、完全にバンそのものになった。

幻や影とは違い、確かにそこに立ち、動いている。

 

「やぁベルンくん。久しぶりだね」

 

 その声も、バンとそっくりそのまま同じだ。

 

「あなたは死んだはずですよ。本物じゃない」

 

「失礼だなベルンくんは……僕様は本物だ」

 

 本物――その声や姿がどこまで本物なのか、ベルンには分からない。

 

 しかし、このアルジェ遺跡が生み出した試練だと理解している。

 

「ところでそっちの女の子、アピアちゃんじゃないか。ソウル病で死んじゃったとか?」

 

「く……」

 

 ベルンは唇を噛み、怒りを抑える。

 

アピアは生きている。少し眠っているだけだ」

 

「ははは……そうか。ここに連れてくれば助けられると思っているのかい?」

 

「分からないけど、アピアだってそれを望んで覚悟をしている。だったら僕がアピアを守って、助けるしかないだろう」

 

「賭け、か。なんだかトレジャーハンターらしい思考になってきたじゃないか」

 

 そんな褒めの言葉をぶつけられても、ベルンはちっとも嬉しくない。

 

「もういい。僕は先に進ませてもらう」

 

 どうせこのバンは幻だ。

そう決めつけ、バンを手で払ってどけようとした、

 

 しかし、バンに触れた手は幻を払うこともなければ、空を切ることもなかった。

確かに、物理的に触れたからだ。

 

「っ!」

 

 一歩後退し、メットから剣を抜く。

その鋭い剣先は、ほかならぬバンに向けられた。

 

「おいおいベルンくん。そんな風に怒るなよ」

 

「あなた、ここを知っているんでしょう? なぜここにいる? なぜ生きている?」

 

「僕様が生きているって? バカバカしい。すっごく苦しくて痛かったんだから、もちろん死んだよ。今は魚のエサにでもなっているだろうね」

 

「じゃあどうして目の前にいるんだ!」

 

「ここが、命を司る遺跡だとしたら?」

 

 それは、ついさっきもマセルに言われたことだった。

 

ベオグラード遺跡が死の遺跡で、このアルジェ遺跡が命の遺跡……? それって?」

 

「本当らしいね、だから僕様はここにこうして存在している。まぁ、きみの記憶から一時的に作り出された実体のある幻でしかないが」

 

「存在しない人間を実体にできるのなら、病気くらいなら治せるっていうのか?」

 

「さぁ。死人のカンオケはあっても、命ある人間のカンオケはないだろう? それと同じさ」

 

 バンはバンらしく、比喩表現で誤魔化した。

 

「僕様が気に食わないこと……えーと、いくつだったかな」

 

「あなたからはその下らない話をもう九回も聞いた覚えがある」

 

「僕様が気に食わないことその十。それは歴史から目を背ける人間だ。歴史は人間が積み上げた最高の塔だよ。その塔を登らない人間は、歴史に存在する価値はない」

 

「で、けっきょく何が言いたい?」

 

「つまり、この先にはアピアちゃんを助けられる秘密が、あるかもしれないってことさ」

 

「……本当だな?」

 

「本当さ。それと、血で汚れたきみの右手と呪われた靴についても、ね」

 

「なんだって――?」

 

 以前、ベオグラード遺跡の中で見た、右手に付着していた血――最初は黒アスンシオンを撃ち抜いたバンの弾丸が命中して出血したと勘違いし、その後もアピアの家で血のことを思い出し、ずいぶんと混乱させられた。

 

「あったよね、ベオグラード遺跡で見た血をさ」

 

「……覚えている。確かにあのとき、血が見えた……」

 

「どういう意味か、分かるかい?」

 

「意味……?」

 

 当然、ベルンには血の本当の意味など分かるはずもない。

 

「きみが変身しているアスンシオンはね、数千年前に、大勢の命を奪ったんだ」

 

「――え?」

 

 無数の血を吸い、無数の亡骸を積み上げた呪われた右手。

呪われた靴という強力な力を手にし、反乱を起こしたコロールという男。

それがアスンシオンの真相だ。

 

「反乱を起こし、いくつもの命を奪った。王の記憶ではそうなっている」

 

「そ、そうやって騙すつもりか?」

 

「騙す? 今頃きみのお友達は見たんじゃないかな? そのときの記憶を」

 

「そんなことが……」

 

「きみがイジメっ子を殺しそうになったのも、ベオグラード遺跡を冒険したのも、アピアちゃんを連れてここまで来たのも、全てが呪われた靴のおかげだ」

 

「や、やめろ……」

 

「やめろだって? その血塗られた靴のおかげでここまで来れたんだろう? その靴でここから先に進んでアピアちゃんを救うんだろう?」

 

「そ、それは……」

 

「さぁどうする? それでも先に進むかい? 血で汚れた手でアピアちゃんを助けるかい?」

 

「ぼ、僕は……」

 

 ベルンに迷いが生じたとき、背中で寝息を立てていたアピアが目を覚ました――。

 

 ゆっくり目を開き、周囲の状況を確認する。

 

「あれ……?」

 

アピア? 起きたか」

 

「え? え? うう……ここ、どこ? 飛行機は……?」

 

 アピアをその場に下ろすと、寝ぼけている二本足で立ち、鈍った体で背伸びをする。

 

 ベルンはアスンシオンの変身を解除し、アピアの両手を握った。

 

アピア、よく聞いてくれ。飛行機は壊れた。みんな無事だけど、バレッタさんは外で残ってる。きみは飛行機が壊れて以降ずっと眠っていたんだ」

 

「そういえば……飛行機から飛んだよね……」

 

アピアはコメカミをぶつけて血を流した。幸い大したケガではなかったけど」

 

 アピアのことを優しく抱きしめた。嫌がる様子もなく、ゆっくりとベルンの背中に手をまわす。

だが次第に恥ずかしさが姿を現し、目を合わせずに離れた。

 

「べ、ベルン、これからどうするの? 飛行機は壊れちゃったんでしょ?」

 

「ああ……帰り道に関しては、まだよく分からないけど……ここを進めば、アピアの病気も治せるかもしれない」

 

「ホントに?」

 

「ああ」

 

 本当はそこまでの確信はなかった。

遺跡の内部のことなど保障できるわけはないが、ここで頷いておかないと余計にアピアの不安を煽るだけになってしまう。

 

「その靴があれば大丈夫だよね? ベルンは、死んじゃったりしないよね?」

 

「く、靴」

 

 靴が過去にどんなふうに扱われていようが、血に染め上げられていようが、これから自分の身を守ることには変わりない。

そして、アピアの命を守れる力であることにも、変わりはない。

 

 だが本当にそれでいいのか。

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア25

お題「マイブーム」

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「うーんとね。昔ここにいたこととか」

 

「オーライ、マジかよ……」

 

「昔って言っても、うんと昔だからよく覚えてないけど」

 

「お前、どんな時代の人間なんだ」

 

 最初にジャメナン遺跡でソフィアを見つけてから、マセルはずっと疑問に思っていた。

遺跡の内部にいたことを考えれば、現代の人間ではないことくらい理解できていた

下手をすれば、超古代の人間かもしれない、ということも。

 

「あとは……うーんと。なんか、すっごい色んな人に見られていたような」

 

「色んな人に見られていた? となると、劇団とかそういうのか?」

 

「うーん。よく覚えてないけど、そんな感じだったような」

 

 ソフィアはまだまだあやふやにしか思い出せていない。

 

 無理に思い出させるのも厳しいと思い、マセルはそれ以上の追及はやめた。

 

 そのとき、ちょうど次の試練らしき部屋の前にやってきた。

 

 道が左右に伸びていた。

その先は曲がり角で、少し進んでみなければ先は見えない。

 

 右の壁には赤い太陽のマークが描かれている。

 

同様に、左には青い月のマークがある。

 

マセルとベルンは、同時にソフィアに視線を移す。

 

「? どうしたの?」

 

 ソフィアの頬にある太陽と月のマークと同じだ。

これでより遺跡とソフィアの関連性が深まったことが分かった。

 

 太陽と月、と言っても、モデルが同じの違うマークというわけではない。

ソフィアの頬のマークからそのままコピーしたような、まったくと言っていいほど同じマークだ。

 

「ベルン、俺はソフィアを連れて太陽の道へ行く」

 

 ウイントフックのボディは青だが、剣のマークは反対に赤い太陽のマークだ。

アスンシオンのボディは赤で剣のマークは青い月のマーク。

それならば、自分の剣と同じマークの道に進むのが当然だろう。

 

「じゃあ僕は、アピアを連れて月の道ですね」

 

 両者頷き合い、左右に分かれた。

 もしもそこで、新たな試練として敵が出現すれば、お互いにソフィアとアピアを守りながら戦わねばならない。

 

 しかもアピアは、まだベルンの背中の上で夢の中だが、果たして――。

 

 

 

 部屋に足を踏み入れたマセルは、ある人物と相対していた。

 

 ナウル・アルマトゥイ。

 

五年前に飛行機事故でこの世を去った、マセルの親友。

 

 命を司るこのアルジェ遺跡で、ナウルは一時的にだが蘇り、実態を成してマセルと五年ぶりの再会を果たした。

 

 入口も出口も鉄格子で塞がれ、道はない。

もちろん引き返すつもりもないが。

 

「信じらねぇよ、ナウル

 

 ウイントフックの変身を解除したマセルがため息と共に言う。

 

「信じても信じなくても、俺はここにいる。しかし、よくこのマジュロ遺跡に来れたもんだ」

 

マジュロ?」

 

 このアルジェ遺跡とはマセルが勝手に命名しただけだ。

本当の名前はマジュロ遺跡と言う。

 

「まぁ、せっかく登場してもらって申し訳ないんだが、そこを通してくれ」

 

 ソフィアの手を引き、ナウルを横切って進もうと試みる。

 

 しかし、

 

「なぁマセル。どうして、俺のこと助けてくれなかったんだ?」

 

「え――」

 

 目の前のナウルは作り者だ。

そう認識できていても、声も姿も本物であれば心に響く。

 

「あのとき、どうして飛行機が堕ちたか知っているか?」

 

「当たり前だろ。あれはただの燃料切れ。飛ぶ前に確認して水を補給しとけばよかった話だ」

 

「ふん。俺は無様だよなぁ。飛行機乗りが、たかだか燃料切れ程度で死ぬとはよ」

 

 自分の死について語るナウルだが、どこか楽しげな会話になっている。

 

「ところで姉さんは元気か?」

 

「リンベルさんか。お前を喪ったショックを忘れたかったからか、盗賊団になったよ」

 

「盗賊団……?」

 

「リーダーが死んだから解散かもしれんが。もしやリンベルさんがリーダーになるかもしれん」

 

「まぁ、元気にやっているならいいよ」

 

 そこからしばし沈黙が流れた。

親友同士の思い出話というわけにもいかず、所詮はこの世に存在しないまがい物でしかないのだと、マセルは改めて実感する。

その張り詰めた沈黙を破ったのはマセルだった。

 

「ここ、命を司る遺跡なんだよな」

 

「そうだな。俺もここにいるわけだし」

 

「同行している仲間に助けたい友人がいるんだ。この奥に命を救えるような何かはないか?」

 

「たしかに、この奥に辿り着いた者だけが手に入れられる物があるし、この遺跡とその女の子の秘密も知ることができる」

 

「え?」

 

 その女の子とは、ソフィアのことである。

本人も目を丸くしていた。

 

「俺はお前の記憶とこの遺跡の力で実体化している。だから、この遺跡についても詳しいんだ。まぁ、ちょっとした試練も出すがな」

 

 ナウルの足には、いつの間にかウイントフックと似たような靴が出現していた。

 

「お前、俺とやろうってのか」

 

「命を司る遺跡だ。それくらいの刺激はないとつまらないだろう?」

 

 ナウルは右足を上げ、滑らせるように靴に触れた。

 

「ミラージュコーティング」

 

 足先からマセルと同じシルエットの鎧が現れ始めた。

シルエットこそ同じだが、色は白を基調としていて装飾部分は黒い。

だがこちらには黒いマントが付けられている。

 

「悪いな。弱いやつを通すわけにはいかないんだ」

 

 表情こそ窺えなかったが、そのメットの下では確かに笑みを浮かべていた。

 

「名づけて……そうだな、キャビクレイとでも名乗っておこうか。カッコいいだろ? マセル」

 

「オーライ、カッコいいぜ」

 

 マセルも負けじと、ウイントフックに手を触れる。

 

「ソフィア、端にいろ」

 

「う、うん」

 

 どんな争いになるか予想はできないが、ソフィアが隠れる場所もない。

 

 ウイントフックに変身――メットから剣を抜くと、同じくナウルもメットから剣を抜いた。

 

「おっと、マセル。その前に、その子の過去について知っておけよ」

 

「お前を倒さないと通してくれないんじゃないのか?」

 

「俺とお前の仲だろう。命のことはともかく、その子についてなら先に見せてやってもいい」

 

 キャビクレイに変身したナウルの表情はうかがえないが、声色からウソはないとマセルは判断した。

 

「それを見たら、お前と決着か」

 

「それでもいいぜ。お楽しみは最後だ」

 

 マセルは変身を解除しないまま、端で丸くなるソフィアの手を取った。

 

「どうするソフィア?」

 

「えっと……」

 

 自分の失われていた過去を知る――。

 

 それは二つ返事で決断できることではない。

それに答えた直後、返事は決意へと変わることになる。

 

 壮絶な過去を生き抜いた奇跡の子供である可能性――実は大罪人で、存在してはいけない存在である可能性――いつもは考えるのが苦手なソフィアだが、今回ばかりは様々な可能性が頭に渦巻いてしまう。

それでも、なにも知らない自分は気味が悪い。

 

「行くよ。マセルが、守ってくれるんでしょう?」

 

「あぁ」

 

 ソフィアが立ち上がる。

二人が出口へ向くと、そこに確かにいたナウルが消えている。

 

 幽霊か、幻か、多少は蘇った可能性も考えて喜んでいたマセルだったが、やはり現実はそう甘くないな、と前向きに受け止めることにした。

 

 鉄格子も上がり、二人は前へ進んだ。

それからしばらくは、なにもない四角い通路だった。

 

隣の部屋にいるベルンのことも気になったが、戻ったところで手伝えることはない。

 

 足を動かし続けていると、やがてソフィアが何かに気づいて立ち止まった。

 

「思い出してきた……ここ、やっぱり見たことある」

 

 ソフィアはマセルの手を離れ、飼い主を見つけた犬のように一直線に駆け出した。

 

「ソフィア待て!」

 

 無鉄砲に走ればトラップに引っかかりかねない。

 

どうにかして捕まえようと、マセルは駆け出して手を伸ばした。

 

 が、その必要はなくなった。

ソフィアが奥に到着し、足を止めたからだ。

 

 辿り着いたのは、四角く狭い部屋。

通路と同じく石で出来た不愛想な部屋だったが、金色に輝く石板が中心に浮遊していた。

大きさはスケートボードほど。

ソフィアはそれに見覚えがあるらしく、震える手で触れようとする。

 

「待てソフィア」

 

 マセルは不用心に触れようとするソフィアの手を掴んで止める。

 

「これ、知ってるんだよな?」

 

「うん……これ見て、なんとなく思い出した。これは私の記憶を詰めた箱」

 

「これで思い出せるんだな?」

 

「うん。たぶん……」

 

 ソフィアに確信はなかったが、その自信を確認に変えるためにも記憶は必要だった。

 目を瞑り、二人の手が石板へ伸びる。

 そして、記憶が流れ込む。

 

 

 

 今から数千年前――。

 

 ソフィアはスコピエ文明における王だった。

 

 スコピエ文明は、超人的な力を手にすることができるウイントフックとアスンシオンを作り出し、その使用者にダッカとコロールという男を選んだ。

 

 鉄の槍や剣などはウイントフックとアスンシオンの前なら紙同然のもの。

肉弾戦ともなれば、どんな屈強な戦士が相手だろうと赤子の手をひねるようなものだ。

 

 靴の開発が滞りなく進んでいたとき、ダマスカスという盗人の男が捕まった。

 

男は五人の兵士に拘束され、ソフィアの前で地に押さえつけられる。

 

 ダマスカスは元医者で、隣の村にいるソウル病の十歳の少年を治療できると豪語した。

 

 だがここでソフィアにある取り引きを持ち掛ける。

 

 九年間の解放を条件にソウル病の少年を治療するか、自分を盗人として処刑し少年を見殺しにするか、どちらがいいかと。

 

 ソフィアを王として試したというわけだ。

仮に拷問をされたところで絶対に屈しないと自信たっぷりであるダマスカスを、ソフィアは半信半疑ながらも頼ることにした。

 

 それでもソフィアは命の天秤に悩んでいた。

罪人の男か罪なき子供か――正しい判断で子供を殺すか、誤った判断で子供を救うか――まだ子供のソフィアには、難しすぎる判決だ。

 

 それから半年後――ウイントフックとアスンシオンは完成し、ダッカとコロールを自分を守るための最強の兵士とした

町の治安なども靴の力で容易に維持し、悪党の数も激減した。

 

 だがダマスカスだけは捕まえることができなかった。

もし捕まえれば、ソウル病の子供を絶対に助けないと宣言したからだ。

 

 判断を見誤った――ソフィアは改めて自分の力不足と経験不足を呪う。

 

 さらに半年後――悪党と呼べる悪党はほとんどが処刑され、罪人はダマスカスのみとなった。

スコピエ文明の秩序と平和は、ソフィアのおかげで完全に保たれたのだ。

 

 だが、一年も迷い続けていたソフィアに隙が生まれた。

 

 ダマスカスを野放しにしたソフィアへのメッセージとして、コロールがアスンシオンで反乱を起こしたのだ。

 

 罪人を信じた罪。

それがどれほどのことなのか、身をもって――多くの犠牲という形でソフィアに思い知らせた。

 変身していなかったダッカも背後からや

られてしまい、止められる者はいない。

コロールとアスンシオンにより、市民たちは蹂躙され、町は血の海となった。

 

 そんなとき、一年ぶりにあの男――ダマスカスがソフィアの前に現れてこう言った。

 

「医者ってのは本当だが、よくもまぁあんな嘘に簡単に騙されたもんだ」と。

 

 ダマスカスは、ソフィアの王としての資格を試すと同時に、自分が罪から逃れるための嘘をついたのだ。

 

 一年の半信半疑は、確信へと変わった。

 

 当然、スコピエ文明の王であるソフィアにもコロールの魔の手が迫る。

 

 しかし、逃げてもいいものか。

 

 王として最強の武器に殺されるか、それとも市民を見捨てて自分だけ逃げ惑うか。

 

 いくつもの命を奪ったコロールがソフィアの目の前に現れる。

ソフィアの側近が、回収したウイントフックで抵抗する。

 

 そして、相打ち。

 

 ソフィアは死亡した二人から靴を外し、それからマセルと出会ったジャメナン遺跡まで逃げた。

そこで靴を箱に封印し、永き眠りについて王としての記憶を失った。

 

 ――それから、マセルと出会うまでの数千年間、今度は正しい決断のできる王に出会えると信じて、ソフィアはじっと孤独に待ち続けることになる。

 

 もう同じ悲劇を繰り返さないような、王に出会うため……。

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア24

お題「マイブーム」

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「階段の前に待機だ。ソフィア、アピアを頼む」

 

 この円形状のエリアに踏み込めば、何かが来る。

 

 入口と出口は完全にシャットアウトして、道を閉ざしたうえで、なにかが攻めてくるはず。

 

とマセルは予想した。

 

「ベルン、準備はいいか」

 

「大丈夫です」

 

 マセルたちは、円形状の空間に一歩を踏み出した。

 

 ――直後、マセルの予想通りに、入口と出口は封鎖されてしまった。

下りてきた冷たい鉄格子が退路を奪い、ソフィアたちとの間に壁を作る。

あまりに予想の範疇すぎて、マセルの心拍数が変動することはない。

 

 ここまで予想通りなら、この先も的中するはず――マセルたちはメットから剣を抜いた。

 

「来たぞ、ベルン」

 

 十メートルもある天井にブラックホールのような黒い靄が出現し、人型の影がゆっくり下りてきた。

 

 黒ウイントフックでも黒アスンシオンでもない、シンプルに、右手に丸い盾、左手に細身の槍を持った戦士のような風貌。

だが色は黒一色で、表情も生気も一切存在しない。

 

「マセルさん、こいつも遺跡を守るためのものですよね」

 

「だろうな。さっさと倒して次に進むぞ!」

 

 黒い影は槍を構え、戦闘態勢に入った。

 

二体一は少々卑怯ではあったが、相手の力量を把握できない限りそうも言っていられない。

 

 アルジェ遺跡の防御システムともなれば、まず拳銃などで対抗できるものではないだろう。

 

 マセルたちは挟み撃ちを狙い、左からマセル、右からベルンが回り込んだ。

黒い影は後退しつつ、槍と盾をそれぞれに向けて戦闘態勢を崩さない。

 

 ――マセルは地を蹴って飛び込んだ。

矛先は向いていたが、構わず特攻する。

 

「もらった!」

 

 突き出される槍を剣で絡め取り、巧みに受け流した。

訪れた隙を逃さず、黒い影の頭に右足で回し蹴りを叩き込む。

 

 盾は右――ベルンの方へ向いている、防がれることはない。

 

 が――。

 

 蹴りは黒い影を貫通――命中の感触はなく空を蹴る。

黒い影は武器ごと霧散し、その場から姿を消した。

 

「マセルさん、どうなっているんですか!?」

 

「武器も体も霧、でもあっちから攻撃はできる。そういう特殊なやつらしい」

 

「厄介な相手ですね……」

 

「たしかにそうだが、この状況も厄介だ」

 

 霧散してからというもの、黒い影はその場から姿を消したままだ。

かといって鉄格子が開くわけでも別の通路が現れるわけでもなく、部屋そのものに目立った動きはない。

 

 ――どこから来る……?

 

 ――いつやってくる……?

 

「ベルン、後ろだっ!」

 

 ――ふり返る――。

 

 目と鼻の先から槍が迫り、ベルンのメット横をかすめた。

 

寸前で直撃は免れたものの、バランスを崩したベルンに隙が生まれる。

 

 反撃する暇も、ない。

黒い影は槍を引っ込めて盾を突き出した。

鋭利ではないものの範囲は広く、またも大きな隙が生まれてしまう。

 

 盾を引き、連動するように槍を出す。

だがここでまんまとやられるベルンではない。

 

「させるか!」

 

 高速で迫る槍を、ベルンは両手でガッチリとホールドした。

 

「ベルン! 今行くぞ!」

 

 攻撃を受け止めて動きを封じることが出来れば、逆転に繋げることだって不可能ではない。

 

 黒い影はアスンシオンと同等――それ以上のパワーであり、押し負けるのは時間の問題だ。

 

 マセルは疾風の如く駆け、黒い影を正面から水平に薙ぎ払った。

 

 ――だがこれも失敗。

黒い影はまた霧散し、剣は空を斬る。

 

「あいつ、また隠れやがった……」

 

 どういった原理なのか、おそらく科学的に考えたところで答えを出せる者はいないだろう。

遺跡やお宝に科学的なことを追求するのは愚かなことだ。

この黒い影についても同様で、原理や現象など、人類に解明はできない。

 

「どこだ……?」

 

「どこに……いる?」

 

 二人は背中を合わせる。

ゆっくりと時計回りに回転し、警戒を三百六十度に行きわたらせる。

 

 ――来ない。

 

 逃げたのかと思えるほど、気配という気配はその場から消失している。

そもそも影に気配があるのか、という疑問もあったが。

 

「マセルさん、気になることがあるんですが」

 

「後にしろ」

 

「いえ、今でなければ――」

 

 ――出現。

 

 会話中の隙を狙ったのか、黒い影は頭上から現れた。

 

 背中合わせになっているマセルとベルンに落下しながら振り下ろされた槍を、マセルは一歩踏み込んで防いだ。

 

「こいつっ! 影のクセに、パワーはハンパねぇ! 拍手をくれてやるぜ!」

 

 土の地面なら何センチかは沈んでいただろう。

一本の槍から圧しかかった衝撃は凄まじい。

 

「ベルン! こいつを攻撃しろ!」

 

「いえ、ダメです。またさっきみたいに逃げられるだけです」

 

「じゃあ……どうしろっていうんだよ……!」

 

「さっきの話です。マセルさん、そいつを引きつけながら壁に背を向けてください」

 

「な……に……?」

 

 わけの分からないマセルだったが、説明を聞く暇も、疑問に思う暇もない。

 

 槍を剣で押さえ込みつつ、黒い影の体に触れぬよう壁に押し出した。

火事場のバカ力ならぬ遺跡のバカ力で、血管が切れる寸前でフルパワーで壁際へ押し込む。

 

 ジリリ、ジリリ、足から地面が離れず、しかし確実に前へ進む。

 

 また霧散して逃げぬよう慎重に、大胆に、しかしいつでも逃げられるよう気は抜かない。

 

 ベルンの作戦通り、マセルは黒い影を壁際まで追い詰めた。

 慌てて振り返り、ベルンに確認する。

 

「ベルン! これでどうだ!」

 

「違います! そいつを引き付けてマセルさんが背を付けるんです!」

 

「む、無茶を言うな!」

 

「ようするに、そいつの背中を僕のほうに向けてください!」

 

 無茶な作戦だとしても、今はやるしかない。

 

 位置を反転しつつも、黒い影に押されないようにしながら絶妙な加減で力を緩める。

壁の方向に向いたとき、さらに力を緩めて壁際まで押し込ませた。

 

「ベルン! これでいいか!」

 

「やっぱりか……!」

 

 ベルンは、まっしぐらに剣を構えて突進する。

 

 黒い影に気配を察知する能力があるのか不明ではあったが、なるべく静かに、かつ素早く前進し、黒い影の背後を狙う。

 

 動くな――動くな――動くな――。

 

 ベルンはただそれだけを祈り、足を動かす。

 

 ――そして。

 

 黒い影の背中に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

だが以前のように霧散して逃げることはなく、黒い影は原型を保ったままその場で力を失う。

当然だが、生物や固形物に刃を貫通させた感触ではなく、どちらかと言うと水に剣を突き立てたような感覚であった。

そのことに多少なりとも安心する。

もしも肉のような感触があれば、敵とはいえあまり心地の良いものではない。

 

「もらった!」

 

 力が抜けた隙を突き、マセルが黒い影を水平に薙ぎ払った。

 

 声も上げず、苦しむこともなく、黒い影は武器を離し、光に飲み込まれたかのようにゆっくりとその色を失って、やがて――消滅。

 

 霧散ではない。

つまり逃亡ではなく、撃退することができたのだ。

 

 勝利の報告のつもりなのか、入口と出口の両サイドを塞いでいた鉄格子が上がり、ようやく次に進めるようになった。

 

「倒した、よな?」

 

「大丈夫だと思います」

 

 一悶着を終え、二人は変身を解除した。

 

 さてソフィアたちを連れて次へ、というわけにはいかず、マセルは疑問を口にする。

 

「おいベルン、さっきのどういう作戦だったんだ?」

 

「いえ、戦っている最中に話そうと思っていたんですが……あの黒い影、僕らに一度も背中を向けていなかったんです」

 

「そうだっけ?」

 

 人間の常識で推測するのなら、敵に背中を向けずに動くのは当然のこと。

だが相手は剣を入れたところで命中せず、ニンジャのように別の場所から自在に攻めてくる。

命中しないのなら、そもそも背中を守る意味もない。

そこにベルンは注目した。

背中を向けないのは、おそらく背中に弱点があるからだ、と。

 

 それに関しても推測の域を出ることはなかったが、このまま無意味な空振りばかりするよりはマシ、というある意味賭けのようなものではあった。

まぁ結果オーライである。

 

「背中に弱点があったんですよ。あんな真っ黒な身体でしたけど、背中にだけ白く丸い模様があったんです」

 

「やるじゃねぇかベルン」

 

 二人の戦士は静かにハイタッチを交わした。

 

「でもマセルさん、まだ終わりじゃないみたいですよ」

 

「……あぁ、そうみたいだな」

 

 まだ一本道が続いている。

次も似たようなトラップが待ち受けている――というよりは、むしろ試練と言った方が適切かもしれない。

 

「あぁいう敵が出てくるとなると、やっぱり奥にはなにかが隠されていますね」

 

「もしかしたら、アピアの病気を治せるような何かもあるかもしれない」

 

 それが不老不死の歯車のような、名ばかりの呪いのお宝でないと祈るしかないが。

 

 だがベオグラード遺跡とアルジェ遺跡は、共にソフィアとの関連が強い。

アルジェ遺跡のお宝も、ベオグラード遺跡と同様に呪われたお宝が待ち構えている可能性が高いと懸念している。

 

「僕は行きますからね。どれだけ危険な道だろうとも」

 

「当然だ」

 

 マセルはソフィアの手を引き、ベルンはアピアをおぶった。

 

 奇跡を目指して、希望を目指して、次へ歩くのみ。

 

「しかし、妙だな」

 

 道を進みながらマセルが言う。

 

「妙? 何がですか?」

 

「さっきの黒い影だ。あいつ、そもそもなぜ襲ってきた?」

 

「それは……遺跡を守るため、なんじゃ?」

 

「それはなぜだ?」

 

「さぁ、そこまでは分かりませんよ。遺跡に関してはマセルさんのほうが詳しいのでは?」

 

ベオグラード遺跡は、おそらくトレジャーハンターの探求心をかきたてて前に進ませる必要があったからだ。俺やお前のような、あとあの盗賊みたいな強い人間だけをふるいにかけてな」

 

「なるほど」

 

 強い人間だけを奥に進ませるようにし、そして不老不死の歯車が強い人間の命を吸う

その頂点に立ち、犠牲になったのがバンだったわけだが。

 

「じゃあこの遺跡の目的は?」

 

「あっちが死を司る遺跡なら、こっちは生を司る遺跡だ。強い人間のみが辿り着いて命を与えるのかもな」

 

「命を与えるのなら、強い人間である必要はないんじゃ?」

 

「遺跡を作った連中……おそらくソフィアの親戚かなにかだと思うが、そいつらの意図は分からん。けど、なにか秘密があるのは間違いないだろうな」

 

「なるほど」

 

「なぁソフィア、なにか見覚えないか?」

 

 マセルはぼうっとした様子のソフィアに質問する。

 

「ここ、知ってるよ。だってここ、来たことあるから」

 

「は、え、え、ちょっと。ソフィア、お前、知らないって言ってなかったか?」

 

「言ったけど、なんか少しずつ思い出してきた気がするよ」

 

「たと、えば……?」

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア23

お題「マイブーム」

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アピア! おい! 返事をしてくれ!」

 

 ベルンは足を滑らせ、着地の際にアピアを離してしまった。

 

 ゴロゴロと転がるアピアは小さな石にコメカミをぶつけ、そこから血の線が伸びていた。

 

 何度も呼びかけていたが、呼吸をするだけで目を覚ます気配はない。

ただでさえソウル病で短い命の灯が消えるのを黙って見ているほど呑気じゃない。

 

アピア……アピア……!」

 

 呼吸はまだ続いているが、ここに医者はいない。

最善の策が、見つからない。

 

「ベルン!」

 

 叫んだのは反対側から来たマセルだった。

 

 ここで医者が駆けつけてくれたらどんなに心強いか、軽く残念に思うベルンだが、仲間が助けに来た感謝は忘れていない。

 

「ベルン、大丈夫か!」

 

「僕は大丈夫です。でも、アピアが」

 

「とにかくバレッタたちのところに運ぼう」

 

「運ぶって……どうするつもりですか?」

 

「俺に医療知識なんてない。でもとにかく血を止めて、呼びかければなんとかなるかもしれん」

 

 他に策もなく、ベルンはアピアを抱っこして移動させた。

少しでも煙に当たらないよう移動し、バレッタたちのところへ辿り着く。

 

 どうにか、どうにかしてアピアを救わねば。

幼い頃から世話になっているアピアを今ここで助けられなければ、ベルンは生きている意味の半分を失う。

わらにもすがる思いで、ベルンは助けを求めた。

 

「お願いします! 誰か、誰かアピアを!」

 

 ――その後、バレッタたちの助けもあり、辛うじて出血は止めることができた。

本格的な消毒や止血はできず、ほぼ自然に止まったようなものだったが、幸いにも大したケガでないだけでも皆は安心した。

 

 呼吸も安定し、眠っているのとそう変わりない。

しかし無防備なアピアだけをここに置き去りにするわけにもいかず、ベルンはアピアを背中におぶることにした。

 

「とりあえずは、大丈夫そうだな」

 

 マセルは額の汗を拭い、一息つく。

 

 だが本番はここからだ。

 

 まだ遺跡の入り口にすら立てていないことを忘れてはならず、そもそも入口があるのかどうかも定かではない。

 

「やっぱり……アピアは連れてくるべきじゃなかった」

 

 ベルンは力づくでも止めなかったことを後悔した。

 

 マセルたちは周囲を見渡し、アルジェ遺跡の確認に徹する。基本は短い草の生い茂る平面だが、突き出た岩がいくつか目立っていた。

 

 それだけならまだ地上にもありそうな景色だったが、一番の違いは空の上にあるということと、中心に四角形のブロックで囲まれた階段があったことだ。

 

「俺、ちょっと見てくる」

 

 マセルがそれだけ言い残して階段へ歩を進める。

だがその足は、バレッタに腕を掴まれたことによって止まった。

 

「待ってくださいマセルさん」

 

「なんだよバレッタ

 

「また無計画に行くつもりですか?」

 

 いつもの癖を突かれ、しばし迷いが生じる。

 

だがそれはマセルにとって小さなことで、今は何より前に進むことが目的となっている。

足を止めるわけには、いかない。

 

「俺は確かに無計画だ。でもここで止まってたって道は拓けない。ここまで来た以上は、進むか残るかの二択だ。バレッタ、お前はどうする?」

 

 バレッタはそれに質問で返した。

 

「……マセルさんは、いつもそうやって冒険しているんですか?」

 

「ウイントフックがないときからそうだった。トラップやらなにやらは自分の力で解除して、出口なんて後回しだ。そもそも遺跡なんて調べてどうにかなるものじゃないしな」

 

「それ、カッコつけてるつもりですか?」

 

「トレジャーハンターも盗賊も、ほとんどが運だ。実力だけじゃ生き残るなんて無理なんだよ」

 

「じゃあ、このアルジェ遺跡にも出口があるとは限らないですよね」

 

「絶対とは言い切れないな」

 

 高所のため、地上に比べて薄い酸素。

深呼吸をしても効果は薄いが、けれどもバレッタは落ち着かない深呼吸を繰り返した。

 

 死ぬ可能性は高い――バレッタはアルジェ遺跡への突入を反対こそしなかったが、やはり胸の中は薄黒い不安が充満していた。

 

 かと言ってここに残るのも心細く、安全とも限らない。

 

「でもバレッタ

 

 バレッタから答えが出るより早く、マセルは次の質問へ移行した。

 

「お前は来るな。危険だ」

 

「き、危険なのは分かってますけど……」

 

「お前はここまで俺らを運んできてくれた。それだけでも凄く感謝している。ベオグラード遺跡のときに、もう俺とは行きたくないって宣言したのに、それでも来てくれた。お前は凄いよ」

 

「わ、私は……」

 

 バレッタの目が、次第に涙目になる。

 

「どうする、バレッタ

 

「……残ります。私なんかが行っても役にたちそうもないですから」

 

「そうか。分かった」

 

 バレッタはマセルの手を離し、進めなかった一歩を踏み出した。

 

 まだ迷いの残るバレッタを背にして、階段を目標に地面を踏みしめる。

 

 油断すれば遺跡ごと落ちるのではないだろうか、そんな不安を抱きながらもマセルは前進をやめない。

振り返ることもしない。

振り返れば、きっと涙を浮かべたバレッタがいるはずだから。

 

 階段は人二人が横並びに歩いて丁度いいほどの広さで、左右は小刻みに草の生えた黒い石壁に挟まれていた。

 

 誰かが丁寧に点検しているのか、階段は石造りながらも綺麗に整っており、崩れたり割れたりといった目立った外傷はない。

 

階段の下、奥には同じような石の壁があり、おそらくあれが扉だろうとマセルの勘が告げる。

 

 まさか侵入してすぐに海水が流れ込むなんてことはないだろう、床が抜けて海へ真っ逆さまなんてことならあり得るが……。

 

半信半疑で階段を下りる。

 

 扉らしい壁に手をかけると、睨んだ通り真ん中には扉らしく細い隙間があった。

 

ウイントフックに変身し、隙間に指を入れて左右に力をこめる。

 

 だが、叩いても斬っても扉は口を開けなかった。

 

 ソフィアを扉の前に連れてきた。

具体的にどうするかはさておき、ここにいれば扉が開くだろう、といったマセルの予想でしかない。

 

「なぁ、ソフィア、なんとかならないか?」

 

「えー? わかんないよ」

 

「なんでもいいから」

 

 ソフィア自身にどうにかする算段などなかったが、とにかく何かをすることにした。

 

 とりあえず扉に触れてみる。

 

 ――すると。

 

「マジか!」

 

 二枚の扉に赤い太陽のマークと青い三日月のマークが浮かび上がり、重い音を響かせながら左右に開いた。

 

 中は太陽光が届くような場所ではなかったが、ベオグラード遺跡と一緒で壁や天井に不規則な模様が刻まれており、はっきりと通路が見えるほど光っていた。

 

 マセルの推測は当たっていた――ソフィアとベオグラード遺跡とアルジェ遺跡、この関連性は濃いものだと、いま証明されたのだ。

 

 未踏の遺跡に挑戦するつもりのマセルだったが、その前に確認するべきことがあった。

 

「なぁソフィア、お前、この遺跡のことは知らないんだよな?」

 

「分かんないよー」

 

ベオグラード遺跡についてもか?」

 

「べおぐらーど?」

 

「海に飛び込んで脱出した遺跡だ」

 

「うん。あそこも知らないところだよ」

 

「お前は知らないかもしれないが、その頬に描かれた太陽と月のマークは無関係とはいえない」

 

 本当に、ソフィアには何も分からない。

これほどの関連性を見せておきながら、ソフィアの脳内には欠片も情報がない。

 

「俺とお前が会った、ジャメナン遺跡の記憶もないか?」

 

「うーん。気づいたらあそこにいて……」

 

「気づいたらキングストン連中と一緒にいたのか?」

 

「うん。あそこにいるより前のことはサッパリ分からないよ。でも、なんか、大きな決断をしたような気がする……いいや、よく覚えてないや」

 

「なぁ、もしもこの遺跡でお前の謎が解けるとしたら、どうする?」

 

「うーん。知ることができるなら知りたいかなぁ」

 

「分かった。ソフィアがそう言うなら、進むしかないな」

 

 戻るにしても頼みの綱であるアテネ号は完全に大破した。

いつものマセルのように、帰り道は後で探すほかない。

となると、どんなことになろうとも遺跡を進むしかない。

 

「ベルンを連れて、アルジェ遺跡を探索する。でもソフィア、ここからはどんな危険があるか分からない。この入口を見る限りは、お前の存在は必要不可欠になると思うが」

 

「……よーするに、一緒に来てほしいってこと?」

 

 話の分かるソフィアで助かった、とマセルは頷いた。

 

「マセルさん、どうですか?」

 

 まだ扉の件を知らないベルンが進捗具合を確認しにマセルたちの下へやって来た。

 

 背中には眠ったアピアをおぶったままだ。

 

「あっ」

 

 すぐに状況を理解し、冷静な表情で階段を下りる。

 

「どうやって開いたんですか?」

 

 マセルがソフィアを連れてきたとき、ベルンは扉については聞いていた。

 

「ソフィアのおかげだ」

 

 それには冷静さを保てなくなり、さすがのベルンも目を丸くする。

 

「その子、いったいなんなんですか?」

 

「俺にもソフィア本人も分からん。それを探るためにも遺跡に入る必要がある。ベルン、ここからはおそらく危険な冒険になる。アピアを連れてでも行くか?」

 

「もしもアピアが眠っていなければ、絶対に行くというはずです。そのために同行してますし」

 

「その子のことはお前が守るんだぞ……って言われなくても分かるか。じゃあ行くぞ」

 

「その前に一つ」

 

「なんだ? 手短に頼む」

 

バレッタさんはどうするんです?」

 

「あいつは行かないって言った。十分に活躍してくれたよ、ここまで連れてきてくれたんだ」

 

「そうですね。危険ですし」

 

「じゃあ、今度こそ行くぞ」

 

 マセルたちは意を決して、アルジェ遺跡内部へ一歩を踏み出した。

 

 どのトレジャーハンターも盗賊団も知らぬ未知の領域。

 

 どれほど危険なのかも予測できない、謎だらけの場所へ――。

 

 

 

 ベオグラード遺跡と違い、不意に道が歪んだりはしなかった。

マセルはその点を少し残念に思ってはいたが、仲間の支えがあって順調に進めるのは幸運だった。

 

 長い階段――一本道でも用心し、すでにウイントフックとアスンシオンには変身している。

 

けれでも、何も起こらないのが逆に不安を募らせる。

 

「マセルさん、トレジャーハンターとしての勘でいいんですけど、ここってどんな危険がありそうですか?」

 

「この様子だと、行けば何かが正面から襲って来ると思う」

 

「なにか、とは?」

 

「獣か、石でできた兵士か、予測できんな」

 

 どこからなにが襲撃しても対処できるよう、上下前後左右に警戒センサーを張り巡らせる。

一番に守るべきなのは、ソフィアと眠っているアピアだ。

 

 ――だが警戒の甲斐もなく、階段はそこで終わった。

 

「マセルさん、なにもありませんでしたね」

 

「喜べ、傷一つつかずに進めたことをな」

 

 階段から下にはこれまた広い空間があった。

 

 黒ウイントフックたちが出現したベオグラード遺跡の空間と違い、円形状で縦長。

高さは十メートルほどあり、見上げても天井と壁しかない。

正面には先に進める道があり、まだまだ長い一本道が続いている。

 

「マセルさん、素人の僕にも分かります。これ、なにかトラップがありますね」

 

「だろうな。すんなり進めるとは思わないほうがいい」

 

アピアたちはどうします・・・?」

 

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お題「マイブーム」

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距離があるおかげでアテネ号には直撃しないものの、弾丸を受けて無傷とはいかない。

 

「二人とも! 頭を下げてください!」

 

 バレッタは視線を逸らすことなくアピアとソフィアに指示を出す。

 

 それでも操縦は怠らず、速度も高度も落ちることはない。

 

 だがそれも時間の問題だ。

 

 もし燃料タンクや羽が破壊されれば、五人も乗った飛行機は耐え切れず墜落は間違いない。

 

 しばらく耐えるとバルカンは止んだ。

だが弾切れというわけではなく、オーバーヒート防止のために長時間の発射を控えただけだ。

 

 マセルは、ここから追撃する決断をする。

やられる前にやるしか、助かる道はない。

 

「ベルン! 俺らであいつらを落とすぞ!」

 

「どうやるんですか!? こっちには銃も爆弾もないんですよ!」

 

「銃も爆弾もないが、ウイントフックとアスンシオンがあるだろが!」

 

「でも、どうやってあんな距離にいる敵を倒すっていうんですか!? まさか、飛んで戻ってくるなんて、言わないですよね」

 

「勘が良いじゃないかベルン。その、まさかだ」

 

「無茶だ……ここはあなたの嫌いな空中ですよ。正気ですか!」

 

「だったら、お前のガールフレンドを守る作戦がなにかあるのか?」

 

「それは、ないですけど!」

 

「なにもないのか? そりゃ名案だな!」

 

 マセルは軽く準備運動をし、背後から迫るキングストン連中へ向く。

 

「俺が落ちたらバレッタたちを頼む」

 

「なにを……?」

 

 迷いもせず、マセルは陸上のようなクラウチングスタートの体勢になる。

 

 心の中で数字を数え、

 

 一――。

 

 二――。

 

 三――。

 

 蹴る。

 

 アテネ号の上を全速力で駆けだした。

かなりの短距離で助走を作り、飛行機の端に到達したところで両足をバネにする。

 

 下を見ない下を見ない下を見ない下を見ない下を見ない。

 

 下を見た瞬間、失神する。

それだけ注意し、とにかく前へ前へと突き進むことだけを考える。

 

「とどけぇえっぇぇ!」

 

 手を伸ばし、足を伸ばし、それでもまだ距離はある。

 

 だが相手の飛行機も前進を続けているため、確実に距離は詰められているが。

 

「無駄なあがきよマセル坊や!」

 

 冷却が終わったバルカンを連射し、空中にいるマセルを問答無用で襲う。

 

 それが幸か不幸か、マセルのおかげでアテネ号に命中しないのも事実だが、ウイントフックも無敵というわけではない。

 

「ぐおおおお!」

 

 生身ならハチの巣は間違いない威力と命中率――。

 

 だがこんなところで止まるわけにもいかない。

 

 マセルはメットから剣を抜き、弾丸を弾きつつ目標へ突き進む。

 

 剣を掲げ、弾丸などなんのそのと速度は落とさず、飛行機に片足が到達した。

プロペラと操縦席のギリギリのラインを足場にして踏ん張る。着地の勢いと組み合わせ、マセルは大きく振りかぶった。

 

「食らええええ!」

 

 真下に剣を突き刺して船体を貫通させると、破裂音とともに煙と火が噴き出す。

 

「やめなさいよマセル坊やぁぁぁぁ!」

 

 涙目になるバンダルに「じゃあな」と手を振り背を向けた。

 

 墜落前に飛行機を蹴り、アテネ号へ戻るための跳躍を試みた。

 

 だが行きと違い、アテネ号は前進をし続けてぐんぐん距離が離れてゆく。

 

 その差、約十メートル。

 

 一度のジャンプだけで届くのか――否、届かなければならない。

 

 ――爆発。

 

 背後では不規則な爆発とともにキングストン連中の飛行機が海へ墜落していく。

 

 それが助力となったのかマセルの背中は爆風で押し出され、それこそ爆発的な加速を見せた。

 

「届きやがれぇぇぇぇぇ!」

 

 ウイントフックのジャンプでもまだ届かない。

それでも容赦なく距離は離れてゆく。どうすればいい、どうすれば、アテネ号に辿り着ける……?

 

「こうなったら、一瞬の賭けだ……!」

 

 メットの右に剣を戻し、今度は左の歯車を外す。

ベオグラード遺跡の脱出の際に見たワイヤーを思い出したのだ。

 

「おりゃぁぁぁぁぁ!」

 

 鉄球を投げんとする勢いで歯車を振ると、フックのついた細いワイヤーが飛び出す。

 

 伸びる、伸びる、伸びる――。

 

 だが届かない――。

 

 あと数センチ、というところでワイヤーは終わり、マセルの頭の中が真っ白になった。

 

 これ以上の策は、ない。

 

 ――もしも仲間がいなければ、の話だが。

 

「落ちないでっ!」

 

 ベルンが手を伸ばし、ワイヤーを掴んだ。

 

 急に重力が逆流したように感じたマセルは、何事かと見上げる。

 

「こ、ここで落ちるような人なんですかあなたは! 引っ張り上げます! だからくれぐれも下を見ないで!」

 

 ワイヤーを掴んだベルンは、綱引きの要領で引き始める。

 

 アスンシオンのおかげで幾分は力に余裕があるものの、前方から吹く風で押し出されてしまい一筋縄ではいかない。

 

「うおおお! だから高いところは嫌なんだぁ!」

 

 マセルの叫びなど、大空では風に流されて空しく消えるのみである。

いくら叫んだところで前進するわけもなく、マセルはただ耐えるのが精々だ。

すぐ目の前に陸地があれば別だったが、あいにくとそんなものはない。

しかも高所だと、どうしてもマセルは本気を出せない。

 

「弱音を吐いている場合ですか!」

 

 ベルンは引きながら、マセルの行動力を尊敬していた。

 

 帰り道の算段は立てていなかったにしろ、アテネ号を死守するためにキングストン連中の飛行機を自ら接近戦で落としに行くという勇気に。

 

「うぉりゃぁ!」

 

 大型魚の釣りの如く、マセルを空中から救い出した。

 

 綺麗な線を描きながらマセルは天高く舞い上がり、アテネ号に背中から叩きつけられる。

 

 ジャンプ、落下、停止、急上昇の空中コンボを体験したマセルの目はグルグルと回転し、もはや地上なのか把握できていない。

 

「マセルさん、マセルさん」

 

「おおお……どこだここは……」

 

アテネ号の上ですよ。もう空中じゃありません」

 

 マセルは辺りをキョロキョロと見回し、直後に口を押さえ、頬が膨れ上がる。

 

「うう……気分が悪い……」

 

「マセルさん、あなたは凄いですよ」

 

「えぇ? なにが?」

 

「さっきのです。おかげでみんな助かりました。マセルさんがいなかったら、あいつらに撃たれて堕ちていましたよ」

 

「あ、あぁ……」

 

 無我夢中で飛び出し、今は体調不良の四文字が頭の中を支配している。

ベルンの言葉などまともに耳に入らず、その場にぐったり気絶するように仰向けになった。

 

 

 

「マズいですよこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 バレッタの悲痛な叫びによってマセルは叩き起こされる。

 

ただならぬことを察したマセルは、すぐ前方を確認した。

 

「マセルさん! 見えましたよ!」

 

 前方数十メートル先には、不自然にも空中に浮遊した地面が見えた。

すでにアルジェ遺跡よりも高度は高く、目視だけでも地表が確認できる。

 

バレッタ! 速度を下げて着陸だ!」

 

 下にいるバレッタへ向けて叫ぶ。

 

「そ、それが! さっきの攻撃でダメになったみたいで……」

 

「ま、まさか……!」

 

「速度と高度の調節がうまくいかないから着陸できません!」

 

 慌ててマセルがチェックをすると、羽の付け根から細い煙が噴き出している。

 

 まだ火が出ていないだけマシではあったが、とても安全と言える状態でもない。

 

「おいバレッタ! とにかく突き進め! とにかく地面に到達することだけを考えるんだ!」

 

「分かってますけど! 分かってはいますけど!」

 

 羽の煙は次第に大きくなり、やがて火を吹き始めた。

 

 もうシャレにならないところまで来てしまい、マセルはがむしゃらモードに入る。

 

 満身創痍のアテネ号は確実に高度を落とし、しかし速度は不規則に上下している。

もしアルジェ遺跡に到達できたとしても、胴体着陸できれば運が良いほうだろう。

 

「おいベルン、俺に作戦がある」

 

 崩れ落ちそうな心を無理やり引っ張り、そう提案する。

 

「どうするつもりですか」

 

「あと一分と何秒かで着陸――いや、地面に突っ込むだろう。俺は羽の下に行ってバレッタとソフィアを抱える。お前は」

 

アピア、ですよね」

 

 ベオグラード遺跡の脱出の際も同じ構図だったのをベルンは思い出し、素早く理解する。

 

 抱えて着地して無事かどうかの保証などないが、アテネ号ごと爆発されるよりかはマシと判断し、二人はその作戦で行くことにした。

 

 もう時間はない――。

 

 マセルは下の羽に下り、説明することなく、有無を言わせずソフィアとバレッタの首根っこを掴んだ。

 

 ベルンは、丁寧にアピアの手をとってからお姫様抱っこの体勢になる。

 

 少々乱暴ではあったが、できるだけ安全に状況を打破するにはこれしかない。

 

「マセルさん! なにを!」

 

「黙れバレッタ! 覚悟しとけよぉぉっぉ!」

 

 真下にはアルジェ遺跡の陸地がある。

だが操縦者を失ったアテネ号は止まることを知らず進み続ける。

羽から噴き出した煙も手が付けられないレベルまで炎上し、もはや飛行機と呼べない鉄クズになり果てていた。

 

「ベルン、三、二、一、で飛ぶぞ!」

 

「はい!」

 

 アテネ号――だった鉄クズが直進する先には大きな岩。

 

 激突すれば大爆発することくらい、子供にでも分かる状況だった。

 

 三――。

 

 二――。

 

 一――。

 

「飛べっ!」

 

 マセルを合図に、二人は斜め前方に飛んだ。

 

 うまく着地できたとしても、抱えているバレッタアピアを死守できなければ無意味だ。

しかし、ただ落ちる他に選択肢はない。

 

 ――直後に爆発。

 

 アテネ号だったものは岩に激突し、火炎と砕けた岩の粒をまき散らしその役目を終えた。

 

これでまたもや帰る道は消え去った。

 

 Y字に枝分かれた二人はなんとか着地したが、足を滑らせてしまいお世辞にも成功とは言えない着地をする。

 

抱えていたバレッタたちは腕から離れ、二、三回は転がって、ようやくまともに立つことができた。

 

「おい、大丈夫か」

 

 マセルはウイントフックを解除し、倒れたバレッタとソフィアを揺り起こす。

 

「う、ううう」

 

 軽く頭と肩を打ったバレッタは、頭を押さえながら立ち上がった。

 

 ソフィアも足を負傷したが、めげずに立ち上がる。

 

「大丈夫、みたいだな」

 

「はい」

 

「うん」

 

「それで、ベルンは?」

 

 マセルはバレッタたちを残して、爆発を挟んだ反対側へ向かうことに。

 

 黒い煙が立ち上る残骸――もはやアテネ号は原型を留めていないが、ここまで連れてきたことを考えればかなりの功績だ。

 

 だがお別れの挨拶をしている暇はない。

 

 煙を潜り抜け、マセルはベルンの下へ急いだ。

 

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お題「マイブーム」

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 マセルの予想通り、バレッタは港にある車を回収しに行っていた。

 

バレッタもマセルのことを忘れていたわけではなく、ちゃんと心の隅では心配をしている。

 

 しかし、まだバレッタはマセルのアジトなど知らないため探すこともできず、トレジャーハンターならそこまで心配する必要もないだろう、と考えていた。

 

 車のカギを開き、扉に手をかけた。

後は家に戻り、危険な冒険とは無縁の生活をするだけ。

 

 だがバレッタの冒険は、まだ終わらない。

 

バレッタさーん!」

 

「ん? アピアちゃん?」

 

 アピアとベルンは大急ぎで走り、ようやくバレッタに追いついた。

車に乗られていたらアウトだった。

 

「どうしたの? そんなに急いで」

 

「よかった……まだ、帰ってなかった……」

 

「何か用事?」

 

「その、実はお願いがあって来たんです」

 

 ベルンが言った。

 

「え? 私に?」

 

「たしかトレジャーハンターと知り合いでしたよね、あの人はどこです?」

 

「どこ? どこって言われても。だって、遺跡から流されたから、無事かどうかも分からないし……大丈夫、だとは思うけど。あの、それでどんな用事なの?」

 

「いえ、トレジャーハンターと知り合いなら、アピアの病気を治せるお宝とか知ってるかなって思ったんですけど」

 

「うーん。分かんないけど……もしかしたら、マセルさんなら何か知ってるかもしれないなぁ」

 

「せめてその人の家が分かれば――」

 

 ベルンたちが立ち尽くしていると、遠くからバレッタを呼ぶ声がした。

 

 まさに噂をしていたマセルの声だった。

 

「おーい! バレッタ!」

 

「もしかして、ま、マセルさん?」

 

 マセルはソフィアと一緒に走り、バレッタの下へ到達した。

 

 息を整えるより早くバレッタの肩を掴む。

 

バレッタ! 無事、無事だったんだな」

 

「マセルさんもソフィアちゃんも、無事だったんですね。大丈夫だとは信じてましたけど」

 

「当たり前だろ……あれ、お前もいたのか」

 

 マセルに視線を向けられ、ベルンは顔を背ける。

先ほどまで剣を交えていたのだから無理もない。

 

「それときみ、アピアだったかな。こいつと知り合いだったとはな」

 

 アピアは悠長にあいさつなどせず、堂々とマセルの前に立って手を取った。

 

 マセルも困惑するほど輝かしい瞳で目を見据える。

 

「お願いがあります、マセルさん」

 

「ああ? なんだよ急に」

 

「不老不死の、いえ、病気を治せるようなお宝って知りませんか?」

 

「いや、さすがにそこまでの物は分からないが……」

 

「もしあるのなら、私だけ連れて行ってください。どんな危険な場所でも必ず行きますから」

 

「いや、落ち着けよ。なにを焦っているかは知らないが、心あたりならある」

 

「ホントですか!?」

 

 一番驚いていたのはアピアだったが、ベルンとバレッタも目を丸くする。

 

「そこでバレッタ、お前の出番だ」

 

「え、私ですか?」

 

「新しい冒険に出発する。飛行機を用意してくれ」

 

 

 

「ちょっと古いですけど、こんな飛行機です」

 

 マセルたち五人はバレッタのガレージへやってきた。

 

 車を収納するガレージの下にはリモコンで上下する別のリフトがあった。

 

 ハイテク機能で隠されていた飛行機は、少し塗装が剥げていたがオンボロとまではいかない。

 

 六年前の写真のように歯車がむき出しではなく、しっかりとボディが出来上がっていてプロペラも健在。

羽は左右と、その上にも細い柱を挟んでもう二枚つけられているため上に乗ることも不可能ではない。

 

 白とオレンジのツートンカラーで、大きな席が二つという、トレジャーハンターにはたまらない逸品である。

 

 高いところが苦手でなければ。

 

「なぁバレッタ、この飛行機は乗ったことあるのか?」

 

「いえ、まだちゃんと乗ったことはないですけど」

 

「操縦はできるか?」

 

「まぁ、少しなら大丈夫ですよ。必ず、たぶん、きっと、おそらく、多少は」

 

 少しづつ失われていく自信の無さに、他の四人の表情が曇り始める。

そんな薄暗くなった空気を割いたのはベルンだった。

 

「そもそも、これに五人も乗れるんですか?」

 

 席は大きめなのが二つで、かなりムリをして乗っても三人が限界だろう。

 

 しかしメンバーはマセル、バレッタ、ベルン、アピア、ソフィアの五人。

どう考えても席は二人分足りていない。

 

「いや、問題はない」

 

 マセルはキッパリと言い切った。

 

「俺とベルンは変身して羽の上に立つ。落ちても、まぁ死にはしないだろう」

 

 その言葉にアピアは黙っていなかった。

 

「ちょっと待ってくださいよ! ベルンをそんな危険なところに立たせるなんて!」

 

「僕は大丈夫。僕は盗賊団と遺跡に行ったんだ。飛行機の上くらいがなんだ」

 

「……」

 

「俺がトレジャーハンターとして訊きたいのは一つ。ベルン、行くのか? 行かないのか?」

 

「もちろん行きますよ……それはいいんですけど、そもそもどこに行くんですか?」

 

 まだアルジェ遺跡について説明していなかったことにマセルは気づき、四人に説明をした。

 

 空の上に島があるらしいとのこと。

出現時期がソフィアと関係しているらしいこと。

もしかしたら、そこに病気を治療できる何かがあるかもしれないということ。

 遺跡に疎いベルンたちでも、さすがに空の島には驚愕した。

ましてやそこに行くとなると、ますますアピアの不安は膨れ上がる。

 

「俺はトレジャーハンターとしての好奇心で行くんじゃない。ソフィアのため、アピアのため、それと……」

 

 マセルはバレッタの頭にポンと手を置いた。

 

 といっても帽子越しではあったが、唐突のことに上目使いになって頬が赤く染まった。

 

「まだバレッタに、助けてもらった恩返しをしてない」

 

「そ、そうですよ! 安物のバッチじゃなくて、本物の金銀財宝じゃないと許しませんから!」

 

 恥ずかしさを隠すように、バレッタは叫んだ。

 

「そ、それより問題なのはどうやって乗るかですよ。大きい席が二つなら私たち女子メンバーが乗るのは……まぁムリをすればいけますけど。マセルさんは本当に羽の上でいいんですか?」

 

「俺らはさっき大丈夫って言ったはずだぞ」

 

「いや、私が言ってるのは高さのことですよ」

 

 高所恐怖症+カナヅチのマセルに、海の上を飛んでいけるのか、ということである。

 

「俺だって平気ではないがな。やるしかないだろ」

 

「じゃあ、これから整備を始めますから、ちょっと待っててください」

 

 マセルたちの手伝いもあり、飛行機の整備はすぐに終わった。

 

 六年もまともに起動していなかったが、特に目立った異常はなくパーツの不足もなかった。

 

 さて出発、というとき、マセルはどうしても確認しておきたかったことを質問する。

 

「なぁバレッタ、この飛行機、燃料である水はちゃんと入っているか?」

 

「はい。燃料の重さとかも考えてマックスではありませんけど」

 

 マセルは安心した顔もせず、「そうか」とだけ返した。

 

「どうしたんですか? 神妙な顔で」

 

「いや、重要なことだろ。燃料切れで落ちたらシャレにならないし」

 

「そう、ですけど」

 

「それともう一つ、この飛行機、名前はなんという?」

 

「ないですけど、飛行機に名前なんて必要ですか?」

 

 マセルは「男のロマンだ」と言わんばかりに頷く。

 

「こいつの名前は、アテネ号だ」

 

 

 

 アテネ号による飛行は順調だった。

 

 天気や風についてもこれといった問題はなく、故障なども見られない。

 

 ただ、やはり問題になったのは搭乗に関してだ。

 

 大きな席とはいえ、二つの席に女子メンバーが三人は快適とは言えない。

前で操縦しているバレッタは一人だが、後ろにはアピアとソフィアが密着しながら無理やり乗っている。

 

 それでも二人は文句一つも言わない。

それよりも問題なのはマセルである。

 

 飛行機は左右の羽の他に、細い柱を挟んでさらに上に二枚がつけられており、マセルとベルンはそこに立っていた。

 

 意気込んで出発したものの、下を覗きこむだけで失神寸前だ。

トレジャーハンターの素人であるベルンに心配されるほどである。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 お互いが靴で変身しているとはいえ、怖いものは怖い。

 

「うう、大丈夫だ。到着すれば陸地そのものだし」

 

「それについて訊きたかったんですが、空の島だなんてどういうことですか?」

 

「どういうこともなにも、行ってみなきゃ詳しくは分からないよ」

 

「まったく……盗賊団といいトレジャーハンターといい、どうしてこう無計画なんだか」

 

 両手をあげて、やれやれ、といったポーズを取るベルン。

 

「調べようにも下からじゃ見えないんだ。お前のガールフレンドの病気を治せる保証もないし」

 

「分かってますよ。僕らだって、ほぼ賭けみたいなものですから」

 

「お前はしっかりガールフレンドを守れ。バレッタとソフィアは任せろ」

 

「ガールフレンドって……またそれか。言われなくても守りますよ」

 

 マセルは無言で肩に手を置く。

頼んだぞ、という意味だ。

 

 しかし。

 

「うっ……すまん。気分が悪くなってきた」

 

 顔色も悪くなり、マセルは口を押さえて空を仰ぐ。

このまま下を覗きこめば嘔吐は間違いない。

 

「ちょっと! 大丈夫なんですか? そんな調子で」

 

「大丈夫だ! 男はお宝を目の前にしたら目の色が変わるんだ」

 

「目の色より顔の色をなんとかしてくださいよ!」

 

 それでも無事に到着できれば誰も文句はなかったのだが、やはりトレジャーハンターたちの冒険はそう一筋縄にはいかない。

 

「マセルさぁぁぁん!」

 

 バレッタが飛行機の音に負けないくらいに叫ぶ。

 

「どうしたバレッタ!」

 

「う、後ろから別の飛行機が接近してます!」

 

「なななななにぃ!?」

 

 すかさず振り向く。

 

 そこには、マセルに見覚えのある連中がいた。

 

「おほほほほほほ! 久しぶりね、マセル坊やとその他大勢!」

 

「久しぶりっちょ!」

 

「久しぶりですぜ!」

 

「お前らは、キングストン連中!」

 

 どこから用意したのか、小型のプロペラ機に無理やり三人で乗ったキングストン連中が、悪魔のような形相で追跡をしていた。

 

 アテネ号よりも数メートル後ろから同じくらいのスピードで接近中である。

 

「マセルさん、だ、誰ですかあれは?」

 

「あいつらはお宝を悪用する悪党どもだ。俺にしつこく付きまとってきやがる」

 

「盗賊団みたいなものですか?」

 

「まぁ似たようなもんだ」

 

 危機を察し、マセルはキングストン連中を観察した。

その飛行機には、明らかに危険な物がぶらさがっていた。

 

「おい、あれはまさか、バルカンか?」

 

 遠くてマセルたちにはよく見えていないが、キングストン連中の飛行機の羽の下からは小型のバルカンが現れていた。

 

 バンダルは大きく口を開け、高く手を挙げる。

 

「落ちなさい! マセル坊やとその他大勢!」

 

 バンダルの手が発射スイッチを叩く。

直後に豆粒のような弾丸がバルカンから連続で吐き出された。

 

「あいつら! 撃って来やがった!」

 

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア20

お題「マイブーム」

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急にやってきた重い話を受け止めきれず、バレッタは押し黙る。

 

「ソウル病って言って。あと五年もしないで死んでしまうんです。薬も治し方もよく分からないらしくって」

 

「そ、そうなんだ」

 

 バレッタには慰める言葉も見つからない。

 

 すでに二十歳まで生きることができたバレッタには、どうにもリアリティがない話だった。

 

「あ、しんみりする話なんて聞いても面白くないですよね。すみません、話題を変えます」

 

「うん」

 

「ベルンの靴について、なにか知ってますか?」

 

「靴? と言うと」

 

 バレッタベオグラード遺跡でのことを思い出した。

 

 ベルンが靴を使ってマセルのように変身し、そしてマセルのウイントフックと戦う一部始終。

 

 そしてウイントフックの剣とぶつかり、ソフィアの頬にある太陽と三日月のマークが光って地下への道が出現した。

ベルンの靴はウイントフックとは無関係とも思えず、両者はベオグラード遺跡とソフィアとの関連性も濃厚だ。

 

 そう推理したバレッタは、即座に質問の意図を理解した。

 

 アピアはあの靴に感づいている、と。

 

 だが安全なお宝という保証もないため、アピアを危険に巻き込む可能性もある。

そこまで深く考えたうえで、バレッタは「知らないよ」と首を横に振った。

 

「そうですか。いえ、知らないならいいんです」

 

 アピアはポットを手に取り、バレッタの空のカップへ紅茶を注いだ。

 

「あの、これから、どうするつもりですか?」

 

「そうだなぁ。北のキトに帰りたい。もうトレジャーハンターと遺跡探検はコリゴリだからさ。そういえば、ここはどこの島なの?」

「ここは東のアクラです」

 

 北のキトとは正反対の南のミンスクではないことにバレッタは安堵する。

 

「そっか。じゃあ、私は帰ろうかな」

 

「え、もう行っちゃうんですか?」

 

 アピアはせっかくの話相手を帰らせたくなかった。

 

「うん。私は冒険なんかじゃなくて平穏な日々が欲しいからさ」

 

「あの、紅茶なら出しますから。もう少しだけ」

 

「えー? 紅茶はもうお腹いっぱいだからいいよ。じゃあごちそうさま。機会があったらまた会おうねぇ」

 

 バレッタはすぐにでも自宅に戻りたくて、この家を出た。

 

 車はベオグラード遺跡に入る前、アクラの港に停めていたため移動は苦ではない。

 

 あっさり帰ってしまったバレッタに拍子抜けし、ゆっくり閉まる入口をぼうっと眺めていた。

 

「行っちゃった……」

 

 風のように去っていったバレッタともっと仲良くなりたいと思っていた。

 

 憧れの二十歳(ハタチ)は、もうそこにはいない。

 

「あー……友達になりたかったなぁ」

 

 アピアは紅茶の片づけをするためソファの前に戻った。

トレイを台所へ運び、ため息をつきながらカップを洗い始める。

 

 すると、背後に気配を感じた。

 

「バレッ――」

 

 そこには起きたばかりのベルンがいた。

急なことに驚き、一瞬だけ心臓が跳ね上がる。

 

「ベ、ベルン。もう大丈夫なの? ケガはない?」

 

「あぁ、ちょっと頭が痛いけど大丈夫」

 

 二人きりの空間。

 

 静寂からは二人の鼓動と蛇口から流れる水音だけが響く。

 

 その静寂を破ったのは。

 

「アピ――」「ベル――」

 

 同時だった。

 

さらに気まずい空気が濃くなる。

 

「さ、先にいいよベルン」

 

「その、助けてくれてありがとう。あそこにいた理由は……ちょっと答えたくない。ごめん」

 

「そっか。言いたくないなら訊かないけど」

 

「……僕、アピアに言わなくちゃいけないことがある」

 

「え?」

 

ベルンは急に床に膝をつき、俯いた。

 

「どうしたの、ベルン?」

 

「ごめん……僕は、アピアを助けられなかった……」

 

 手に入らなった――存在しなかった不老不死の歯車。

 

 アピアを助けられなかったことに責任を感じて、ベルンは精一杯の謝罪をする。

 

「助けられなかった?」

 

「ごめん……ごめん……ごめんよ……」

 

 ベルンは泣き崩れ、床に額を押し付けた。

 

「ねぇベルン。その靴のせいでしょ?」

 

「こ、この靴は」

 

「急にスリジャたちに強気になって、なにかあったんでしょ? わたし港の近くで見たんだよ、一瞬で鎧の姿に変身した人を。ベルンのも、あれと似た靴なんでしょ?」

 

 マセルたちがベオグラード遺跡に行く直前、アピアの目の前で変身したときのことだ。

 

「分かった……分かったよ。アピアに説明する」

 

 ベルンはついに観念し、アピアに全てを打ち明ける決心を固めた。

 

 浜辺で拾ったアスンシオンで変身できること。

盗賊団に誘われて危険な遺跡に向かったこと。

トレジャーハンターの連れていたバレッタと流されて一緒に辿り着いたこと。

アピアが港で見たのは、おそらくその時のトレジャーハンター――マセルではないか、ということ。

 

「盗賊団? 盗賊団なんて、なんでそんなのと一緒に……」

 

「それは、その……アピアを助けるためだよ」

 

 なるべく隠し事はしようと思わず、ベルンは正直に答えた。

 

「私を? 助けるため? どういうこと?」

 

「その遺跡、ベオグラード遺跡っていうんだけど。そこに不老不死になれる歯車があったんだ」

 

「不老不死……」

 

「でも盗賊団の人がそれに触れて、死んだ」

 

「死んだって……?」

 

「そうだ。不老不死の歯車なんてニセモノだったんだ。だから一つも持ち帰れなかった」

 

「あの、ベルン」

 

「ごめん。盗賊団なんて信じたのがバカだったんだ」

 

「ベルン、そうじゃなくて」

 

「違う方法を見つけるから、アスンシオンだってあるし、僕は頼りないかも――」

 

「そうじゃなくて!」

 

 アピアはめいっぱいに声を張り上げた。

 

 言葉だけでなく、しっかり感情を伝えるように。

 

「ベルンは、私なんかのためにそんな危険なことをしちゃ

ダメなんだよ……」

 

「でも、ソウル病だってなんとかなるかもしれないじゃないか」

 

「それは、それは私自身がなんとかすることだよ。ベルンが命がけでするようなことじゃない」

 

「僕は命をかけるよ。だって、アピアに死んでほしくないから!」

 

「私は! 生きたいよ……二十歳になって、立派な大人になって……」

 

 アピアの目に涙が浮かぶ。

 

「もっと私のピアノをたくさんの人に聴いてもらって……いつか、ベルンのバイオリンと一緒に演奏したいよ! でも、でも……私のためにベルンが死んじゃったら、もっと悲しいよ!」

 

「……」

 

「ごめん……私のために不老不死の歯車を探してきてくれたことは、嬉しいよ。ありがとう」

 

「いや、それはいいんだけど……」

 

 その言葉を境に、二人の間に長い沈黙が訪れる。

 

 世間話に繋げるわけにも、楽しい話をするわけにもいかず、ベルンは話題探しに奮闘する。

 

 ベルンはふと右の手の平を見た。

 

 ベオグラード遺跡で見た、付着していた血のことを思い出してしまった。

 

 頭の隅に追いやっていたはずなのに、よりによってこのタイミングで思い出してしまった。

 

 あの時の血は、アピアが死んでしまう未来を示唆していたのか、自分ではアピアを助けるのに力不足だということを伝えるためだったのか。

血がどういった意味を持つのか整理できない。

 

 がむしゃらにでも答えを見つけるため、アピアに相談することにした。

 

「なぁ、アピア

 

「うん?」

 

「僕の右手が、血で汚れていたら、どうする?」 

 

 “血”というワードに、アピアは一歩後退する。

客観的に見れば、おかしくなったと思われても不思議ではない質問だ。

 

「も、もしかして、誰かの命を……?」

 

「ち、ちがうよ。あの……ええと……」

 

 ベルンはアピアに妙な質問をしたことを後悔した。

当然、そんな質問を投げられて冷静に答えられるのは、それこそ血で汚れた人間くらいだろう。

 

「ごめん、なんか、頭がぼうっとしてて……変な夢を見たからかな」

 

 不気味に思われないよう、なるべくそれっぽい言い訳で引っ張った。

 

血のことは一旦忘れ――るのは難しいが――血の話から遠ざけられる話題を探した。

 

「そういえばアピア、さっきの人はどこ? 少しだけ起きたときに隣のベッドで見かけたけど」

 

「えっと、北のキトに帰るって言ってたけど」

 

「キトか」

 

バレッタさんがどうかしたの?」

 

「いや、あのバレッタって人、トレジャーハンターと一緒にいたから、なにかソウル病を治せるようなお宝を知らないかなって思ってさ」

 

「歩いて帰ったはずだから、今から追いかければなんとかなるかも」

 

「よし、じゃあちょっと聞いてみよう。行ってくる」

 

 バレッタを追いかけるために玄関に走り、扉に手をかけた。

 

 だがすぐにその足が前進することはなかった。

アピアがその裾を掴んで止めたからだ。

 

「待ってよベルン。今度はバレッタさんを巻き込んで冒険に行くつもりなの?」

 

「い、いや、そういうつもりじゃ」

 

「そういうつもり、なんでしょ?」

 

「……いや、ただ話を聞くだけだよ」

 

 だが本当は協力してくれるのなら頼むつもり――ということは、アピアにはお見通しだった。

 

今それを言って止めたところで、また誤魔化して進むつもり、ということも見透かしている。

 

「ベルンを信用しないわけじゃないけど、私も一緒に行く」

 

アピアも? どうして」

 

「だって、元はと言えば私の病気のせいなんだから。それに、ベルンがまた危険なことをするようなら、私はすぐに止めるから」

 

「あぁ。じゃあすぐに行こう」

 

 話を終え、二人は外に出た。

 

それでもアピアは完全に納得したわけではない。

 

 自ら危険に走るベルンを止めることもできず、そして自身も危険に踏み込もうとしている。

 

 アピアは今なにを優先すべきなのか、頭がパンク寸前であった。

 

 

 ――マセルサイド――。

 

 

 空の島――アルジェ遺跡に行くため、マセルたちはバレッタの家に向かった。

 

 バンの死亡によってリーダーになったリンベルの指示で船を動かせば目的地はすぐだった。

 

 マセルは自分とソフィアの無事を伝えるためにも、バレッタの家の扉をノックする。

 

 しかし何度ノックしても返事はない。

 

「まさか、いないのか?」

 

 むしろ海を流されて無事に辿り着く可能性のほうが低い。

家に戻っていないほうが自然だ。

 

バレッタと、あとあの制服の少年。あいつら、まさか死んだんじゃないよな?」

 

 マセルに嫌な予感が過る。

 

「おいソフィア、バレッタを探しに行くぞ」

 

「えぇ? 探すって、どこ?」

 

「いや、もしかしたら偶然にも浜辺に打ち上げられて、偶然にも誰かに助けられているってことがあるかもしれないだろ。ソフィアだって俺と一緒じゃなかったのに助かってたし」

 

「んー? じゃあ、どこ探しに行くの?」

 

「そうだな……もしかしたら、港に停めた車を回収しに行っているかもしれない」

 

「と、いうことは?」

 

「東のアクラだ。すれ違ったら面倒だな。行くぞ!」

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア19

お題「マイブーム」

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「えー? 普通の子だと思うけどなぁ」

 

 ソフィアは首を傾げる。

 

「頬っぺに太陽と三日月のマークがある子は普通じゃないわ」

 

 

「たしかに普通じゃないけど、何か心当りが?」

 

「実は、マセルくんやバンたちがベオグラード遺跡で遊んでいる間、空に凄い物を見つけたの」

 

「凄いもの? それって、まさか」

 

「そう、そのまさか。空に島があったの」

 

「そんなもの、どうやって見つけたの?」

 

「ここカストリーズ盗賊団の船には巨大な望遠鏡があるの。それで、おかしな雲があると思ったら、真っ白な島だったってわけ」

 

「真っ白な島? 大きさは?」

 

「大きな山が一つ分くらい。表面は平らな形っぽいけど、下からしか確認してないからよく分からない。でもかなり大きい」

 

「どこにあった?」

 

 トレジャーハンターとして、そんな遺跡を逃すわけにもいかない。

 

「このトキョー島の中心にある海のど真ん中の上空。雲のずっと上で雲に紛れてた。望遠鏡でよく見なかったら発見はできなかったわね」

 

「おかしいな。そんなところにあったらさすがに誰かが気づいているはずだろう?」

 

「確かにその通り。おそらく何かが引き金になって出現したと考えられる。つい最近ね」

 

「引き金か……そういえばあのとき」

 

 そこでマセルは、バレッタと始めて会ったときのことを思い出した。

 

 空に見えた、微かな異常。

マセルはその時の記憶を脳の隅から引っ張りだした。

 

「もしかして、ソフィアが関係するのか?」

 

「タイミング的にはピッタリだと思わない?」

 

「俺が空に異常な雰囲気を感じたのもソフィアに会った後だし、偶然にしてはできすぎか」

 

「ソフィアちゃんはジャメナン遺跡で見つけたんでしょ? ソフィアちゃんと大きく関係する島だと思う」

 

「うーん。なるほどそういうことか」

 

「どうするの? マセルくん。いや、渡り鳥」

 

 空にある島なら、前人未到のお宝が眠っていてもおかしくはない。

ソフィアについても同じことが言える。

遺跡から出現した少女など、並大抵のことではない。

 

 マセルはソフィアと空の島について、頭が痒くなるほど追求したくなったが、それでも空の上となると簡単に決断はできない。

 

 すでに海で三回は流されている。

雲の上から落ちれば、ウイントフックがあっても無事だという保証はない。

それでも、行かないわけにもいかない。

 

「ぐ、ぐぐぐ。どうしよう。参ったぞ。い、行きたいけどさ。やっぱり、空は……」

 

「空は嫌? 凄いお宝があったとしても?」

 

「う、ううう」

 

 悩みに悩み、頭をかきむしる。

行くかどうかというより、精神的に行けるかどうかの問題だ。

 

 そんなマセルの悩みを吹き飛ばすため、リンベルはある一撃を放った。

 

「マセルくん。少し話を戻すわ。訊かせたい話のことよ」

 

「空の島のことじゃないのか?」

 

ナウルのことよ」

 

 かきむしっていた手を止め、マセルは神妙な顔になる。

 

ナウルはね、いつか空にある島に行きたいって言ってたの」

 

「あ、あぁ。その話なら少しだけ聞いた」

 

「でも、ナウルは夢を語ってただけだったし、あの時はあの島のことなんて知っているはずもなかった。それでも、空に島があるなら行きたいって言ってた」

 

「……俺が代わりにナウルの夢を叶えればいいのか?」

 

「行くかどうかはマセルくんに任せる。ナウルのことがなくても、ソフィアちゃんの謎を解明するためにも行くべきだとは思うけど」

 

 「うーん」と腕を組み、マセルは立ち上がる。

 

 決心ができたわけではないが、リンベルに確認することはあった。

 

「リンベルさん。そういえば、バレッタと知り合いだったよね」

 

「そうだけど、バレッタちゃんに会ったの?」

 

 バレッタの家にあった六年前の写真。

 

 そこにはバレッタと一緒にナウルやリンベルも写っていた。

そしてバレッタはリンベルとも仲が良かったと言っていた。

 

「北のキトで偶然にもね。そこで六年前の写真を見つけた。造りかけの飛行機が写った写真だ」

 

「マセルくんは飛行機造りに関わっていなかったからバレッタちゃんと面識はなかったけど、まさか偶然会ってたとは思わなかったわ」

 

「けっきょく、あの写真にあった飛行機ってどうなったの?」

 

ナウルが死んでからも少しづつ造り続けて、今はたしか、えーと……そうだ」

 

 記憶を引っ張り出し、リンベルはポンと手を打った。

 

「そうだ。バレッタちゃんが持ってる」

 

「やっぱりな」

 

「まさか、あの飛行機で行くつもり?」

 

「その“まさか”さ。バレッタとソフィアを連れて、空の島に行く」

 

「無茶なこと言わないでよ。危険すぎるわ」

 

 マセルは口元を緩めながらウイントフックを指さした。

まるで「これがあれば大丈夫」とでも言うように。

しかし慎重なリンベルは、その意見には猛反対した。

 

「バカなこと言わないで。確かにマセルくんはベオグラード遺跡で生き残ったかもしれない。でもそれは運が良かっただけ。私たちが引き上げなければもう死んでいたのよ」

 

「それは、そうだけど」

 

「さっき言ってた中学生ってバレッタちゃんでしょ? ベオグラード遺跡に連れてったの?」

 

「いや、連れていくつもりはなかったんだが……」

 

バレッタちゃんに言われなかった? 無計画って」

 

 図星を突かれたマセルはその場で仰け反る。

 

「そ、それはそうだけど、じゃあどうやって空の島に行く?」

 

 リンベルは答えられず唇を噛む。

 

「でもバレッタちゃんを連れて行くのは反対。あの飛行機も古いからちゃんと動くかどうか」

 

バレッタが断ったら断ったでいい。無理に連れていくつもりはない。でもナウルのためにも行くべきだって言ったのはリンベルさんでしょう?」

 

 行ってほしい気持ちと行ってほしくない気持ち。

リンベルの中で相反する二つの感情がぶつかり、やがてそれは言葉として出ることはなかった。

 

「決まりだ。まずはバレッタを見つけて、飛行機を調達して、ソフィアを連れて空の島に行く。ソフィアはどうする? 無理して危険なところに連れていくつもりはないが」

 

「んー? でも、自分のことがちゃんと分かるんなら、行ってもいいかなぁ」

 

「分かった。じゃあ、助けてくれてありがとうリンベルさん。俺たちは外に出る」

 

 お礼を言い捨て、マセルはソフィアを連れて医務室を出た。

 

 だがマセルには、トレジャーハンターとしてどうしても訊かなくてはならないことがあった。

何も言えず俯くリンベルにマセルはふり返る。

 

「そういえば、その空の島には名前がないんだよね?」

 

「えぇ。まだ誰も見たことないからね」

 

「じゃあ俺が名づける。そこは今から“アルジェ遺跡”だ」

 

 

 ――ベルンサイド――。

 

 

 一方、運よく浜辺に流れ着いたベルンとバレッタアピアに発見され、家の中で休んでいた。

 

 二人は柔らかいベッドの中で、ぐっすりと寝息をたてている。

 

「う、ううん?」

 

 起きたバレッタは目を擦り、背伸びをして周囲を見渡した。

 

 四角い部屋にベッドが二つ。

隣のベッドにはベルンが眠っている。

 

「で、ここはどこ?」

 

 見知らぬ部屋。カーテンが閉じられ、シンプルなタンスが一つと扉が一つ。

 

 誘拐や監禁のような扱いではないことにほっとして、バレッタは部屋を出ることにした。

しかしそれより早く部屋に入ってきた者がいた。

ベルンとバレッタを助けたアピアだった。

 

 白いワイシャツに赤リボンという制服姿で、バレッタは少し前の高校時代を懐かしんだ。

 

「あっ、あの、起きたの?」

 

 アピアバレッタが年上だとは気づかず、ナチュラルにタメ口で話す。

 

「う、うん。なんとか、大丈夫だけど」

 

「よかった。浜辺に倒れていたからびっくりしたの。本当に無事でよかった」

 

 アピアはまるで自分のことのように喜んだ。

 

「ねぇ、ちょっと訊きたいことがあるから、下に来てくれるかな?」

 

「う、うん」

 

 バレッタアピアに事情を説明するため下の階へ下りた。

 

 純白のカーペットが敷かれた白い部屋。

暖かい雪原にでも来たかと勘違いしそうなほど白かった。

隅の大きなガラス棚には陶器のティーカップが並べられている。

その隣には、反抗するかのように真っ黒なピアノが鎮座していた。

 

「そこ、座ってて。すぐにお茶を出すから」

 

 アピアが台所の奥へ消えると、バレッタは「うん」と返事をし、白いソファーへ腰かけた。

 

 しばらくするとアピアは、トレイに湯気の立つティーカップを二つ載せて現れた。

 

「はいどうぞ、けっこう味には自信があるんだよ」

 

 テーブルに載せられたティーカップは花の香りを放っていた。

 

 普段は飲んだことのない香りに、思わずバレッタの顔が微笑みに変わる。

 

 その香りに背中を押され、勢いで一気に飲み干し、バレッタは幸福に包まれた。

 

「こ、こんなに美味しいものが存在したなんて……知らなかった」

 

「喜んでもらえてよかった。知り合いから頂いた茶葉を混ぜて作ったの。最近は紅茶の研究をするのが好きで。いいよね紅茶って」

 

 紅茶のことなど理解していないが、とりあえずバレッタは三回ほど頷いた。

 

「あ、ごめん。紅茶の話になると熱くなっちゃって」

 

「いいけど。それより、訊きたいことって?」

 

「その前にきみの名前を教えてもらってもいいかな? 名前が分からないと呼びづらいから」

 

「私はバレッタウェリントン。先に言っておくけど二十歳(ハタチ)だからねハタチ」

 

 自己紹介を聞いたアピアは急に立ち上がって口を押さえた。

 

「ご、ごめんなさい! 年下だと思って……ましたから。二十歳だったなんて」

 

「い、いくつに見えた?」

 

「え、えと。失礼ですけど、中学生、かと。敬語も使わなくてごめんなさい」

 

 いつもなら怒るところだが、そこまで申し訳なくされるとバレッタも怒りづらい。

 

「いやいや、よく間違われるから別にいいよ。敬語もいらないし。それより、あなたは?」

 

「私はアピアニコシアです。高校生になったばかりです」

 

「そっか。助けてくれてありがとうアピアちゃん」

 

「二人とも運ぶのは大変でしたけど、ちょうど両親がいないので頑張って両親の使っているベッドまで行きました。でもごめんなさい、年下だと思ってしまうなんて」

 

「もういいよ」

 

 バレッタは笑みを浮かべながら仕切りなおす。

 

「それで、訊きたいことってなに?」

 

「あの、上に寝てる人、ベルンって言うんですけど、私の友人なんです。どうしてバレッタさんはベルンと一緒にいたんですか?」

 

「え? ええと、なんでだろう」

 

 バレッタの最後の記憶はマセルに抱えられて海に飛び込んだときだ。

 

 運よく浜辺までたどり着けても、マセルと一緒なのが自然である。

水中で入れ替わったのか、一緒に倒れていたのがベルンだったのが意味不明だ。

 

「ごめん。よく分かんないや」

 

「じゃあ次の質問です。そもそも、どうして浜辺なんかにいたんですか?」

 

「ええ? それは、その。トレジャーハンターと一緒に遺跡に行ったから、かな。行くつもりはなかったんだけどね。生きて帰れただけでも吉かなぁ」

 

「すごいなぁ……私は、バレッタさんみたいに強くないから」

 

「そう? 私は強いわけではないと思うけどねぇ」

 

「いえ。二十歳ってだけで凄いですよ。憧れますから」

 

「憧れる?」

 

「はい。その、私は病気で、二十歳までは生きられないんです」 

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア18

お題「マイブーム」

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三章 アルジェ編

 ――マセルサイド――。

 

 何度目になるか、マセルはまたもや海に流された。

 

 そして何度目になるか、マセルはまたもや助かった。

 

 カナヅチにはカナヅチなりの幸運があるのか、それともカナヅチだからこそ何度も海に流されるのか、荒事が苦手な人間に限って何度も殺人事件に遭遇するのと同じだろうか、どちらにせよ助かったことは不幸中の幸いだった。

 

「う、どこだここは……?」

 

 マセルは朦朧とした意識でウイントフックの変身を解除した。

 

 隣に倒れているのはソフィアで、安らかに寝息をたてている。

立ち上がり、ずぶ濡れのソフィアを起こす。

 

「うううーん?」

 

 ゆっくりと目を開け、目を擦って周囲を確認した。

 

「どこー? ここ?」

 

「ソフィア、大丈夫か?」

 

「うん大丈夫だよ。ぜんぜん平気」

 

「マジかよ。けっこう深いところから流されたのに。っていうか、これで何回目だ……?」

 

「んー? なんだろ、頑張って息とめてたし」

 

「そういう問題なのか?」

 

「んー、それより、ここどこなんだろう?」

 

 二人は周囲を見回す。

 

 真っ白で機械的な倉庫のようなところだが、窓もないため外の様子が分からない。

 

 音もなく人もいないため、どこかの僻地に隔離されているのかとマセルは心配したが、その心配をかき消すようにすぐ扉から人が現れた。

 

「大丈夫?」

 

 そこにいたのは、リンベル・アルマトゥイだった。

 

「あれ、リンベルさん?」

 

「も、もしかして、マセルくん?」

 

 リンベルの弟であるナウルとマセルは親友同士だったため、マセルはリンベルとも面識があった。

 

 だがナウルが飛行機事故で亡くなった五年前から、マセルとリンベルは会っていない。

 

「なんでリンベルさんが? ここ、どこなの?」

 

「ここは、その、船の中。あなたたちを海の中から引き揚げたのよ」

 

「マジかよ……」

 

「ここは海から引き揚げた物が集まる倉庫みたいなところ。なんでカナヅチのマセルくんが海から出てくるの? また冒険? そっちの女の子は誰? 遺跡で拾ったの?」

 

 次々と来る質問に、マセルは一言で答える。

 

「俺、冒険が好きだからさ」

 

「五年ぶりだけど相変わらずぜんぜん答えになってない」

 

 そりゃそうだよな、とマセルは思い、一から説明することに。

 

 ジャメナン遺跡でソフィアに会ったこと。

老不死の歯車を探すためにベオグラード遺跡へ行くことになったこと。

そこで不老不死の歯車を見つけたもののニセモノだったこと。

そこで盗賊団と対決し、遺跡が崩落して脱出したこと。

運に身を任せて海に飛び込み、そして引き上げられたこと。

 

「盗賊団って、もしかして……」

 

「あ? カストリーズ盗賊団のバンジュールフリータウンだとよ」

 

「やっぱり」

 

「やっぱり? 知ってるのか?」

 

「だってここ、カストリーズ盗賊団の船よ?」

 

「リンベルさん、もしかして盗賊なの?」

 

「ワケあってね。でも詳しくは訊かないで」

 

「まぁ、いいけど」

 

「それで、あの人はどうなったの?」

 

 マセルはバンの訃報を伝えることに戸惑った。

 

 察したのか、リンベルは答えを促す。

 

「いいわよ別に。正直に言ってもらっても」

 

「死んだよ、あいつは」

 

 リンベルは顔色一つ変えない。

 

「ちなみに、死因は?」

 

「不老不死の歯車に触れて、しばらくは平気だったけどすぐに力を失った。そのまま遺跡が崩れ始めて、あとは知らない。でも助からないだろうな」

 

「そう。それと、男の子もいたでしょ?」

 

 ベルンのことだ。

 

「いたよ。あいつは大丈夫だと思うけど、ここにはいないのか?」

 

 リンベルはバンの訃報を聞いたときよりも少し悲しそうに首を横に振った。

 

「それより、あなたたちびしょ濡れじゃない? カゼひくよ」

 

 肯定するように、ソフィアはクシャミをした。

薄着で海の中を流されてカゼで済むのなら安いほうだ。

 

 リンベルは背中を向け「こっちよ」と医務室へ案内した。

だがマセルはそれについていかず、さらなる質問をぶつけた。

 

 どうしても、行方を知らなければならない人物がいたからだ。

 

「ちょっとまってリンベルさん、あの、中学生みたいなヤツいなかった?」

 

「中学生?」

 

「大きい帽子で、二本のベルトをクロスして、背の小さいヤツ」

 

「見てないけど」

 

「そうか……」

 

 マセルは自分に罰を与えるように胸を強く叩いた。

ナウルのように、自分が弱いせいで死なせてしまったかもしれないからだ。

 

 バレッタを抱えていたマセルの側にはソフィアがいるという事実。

運よくマセルとソフィアは一緒に引き上げられたが、だからといってベルンとソフィアが一緒にいるとも限らない。

そもそもベルンすらちゃんと助かったのか定かではない。

 

「マセルくん、とりあえずその子を連れてこっちに来て」

 

「あ、あぁ」

 

「それと、マセルくんに訊かせたい話もあるし」

 

「訊かせたい話?」

 

 リンベルは海から引き揚げたマセルとソフィアを医務室へ連れて行き、落ち着いた状況で話をすることにした。

 

 ほぼ白一色の室内には、白い棚に白いベッドが用意されている。

リンベルはこれまた白いタオルをマセルたちに渡し、三人は丸イスに腰かけた。

 

「それで、訊かせたい話って?」

 

ナウルのこと。もちろん覚えているでしょう?」

 

 リンベルは直球で質問をぶつけた。

 

「私、ちょっと困ってたのよ。私だけ事実が伝えられてさ」

 

「それは、その、ごめん」

 

 マセルはナウルの死亡を確認していた。

 

 それでも仲間に事実を伝えるべき理由も勇気もなく、リンベル以外には行方不明という報告をしていた。

 

 リンベルのほかにナウルが死亡したことを知っているのはバレッタのみである。

 

「今でもナウルのことは忘れない。マセルくんがトレジャーハンターになったときだって、どこでどんなことをしているのか心配してた。ナウルみたいになるんじゃないかって」

 

「俺は、大丈夫だよ」

 

「大丈夫? カナヅチのクセに海から引き上げられたのに?」

 

 それに対して言い返すことはできない。

 

「なんでよりによってベオグラード遺跡なのよ。せめて地上にしときなさい」

 

「仕方ないだろ。キングストン連中が行くっていうから、ヤツらに悪用されるわけには――」

 

 そこで「はっ」と気づき、マセルは立ち上がった。

 

 隣でチンプンカンプンな顔をしているソフィアの肩を掴む。

 

「おいソフィア、そういえばキングストン連中はどうした?」

 

「えー? 知らないよー」

 

「知らないって、ずっとヤツらと一緒にいただろう。ベオグラード遺跡の中では見かけなかったが」

 

「それがねー、四人でベオグラード遺跡に小さいお船で行ったらビューってもみくちゃにされて、気づいたら遺跡の中にいて気づいたら道がぐんにゃりで、気づいたら一人ぼっちでいたよ」

 

「ようするに、遺跡ではぐれてあの歪む道で偶然にもソフィアだけ辿り着いたってことか……」

 

「まーそういうことかなぁ」

 

 マセルはなんとなく納得し、またベッドに腰かけた。

 

「そういえば、ベオグラード遺跡は難攻不落と聞いていたが、ずいぶんと奇妙なトラップが多かったな」

 

「マセルくんたちが生き残っただけでも凄いわよ」

 

「道は歪んで別の道に変わるし、俺の分身が襲ってきて戦ったし、もうワケが分からない」

 

「なにか秘策があったの? あのバンでさえ死ぬところなのに」

 

「あ、あぁ。それが、別の遺跡で見つけたお宝のおかげだ」

 

「もしかしてその靴?」

 

 勘のいいリンベルはすぐに正解を言い当てる。

 

「そうだ。全身が鎧の姿に変身して、通常よりも何倍も強くなる」

 

「そういうのあるんだ。じゃあ、トレジャーハンターとしては怖い物なしってところ?」

 

「水と空以外なら、な」

 

 威張って言うことでもないが、マセルは自信満々に答えた。

 

「空、ねぇ……マセルくん。空にも遺跡があるって言ったら、どうする?」

 

「空に遺跡? おとぎ話とかじゃありきたりだけど、なるべくなら高いところは勘弁だな」

 

「あ、そう」

 

「え、なに? なにかあるの?」

 

 リンベルは無言でソフィアの鼻先を指さした。

 

 驚いたソフィアはその指先に視線が集中する。

 

「そっちの子、普通の子じゃないね……」 

 

 

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お題「マイブーム」

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「ふっ……」

 

 

 ベルンは鼻で笑う。

 

「あなたが不老不死になったって、どうでもいい。僕の目的は歯車を回収することです」

 

「そうか」

 

 途端にバンの表情が曇り、大きなため息。

 

「僕様が気に食わないことその九。それは恩返しのできない人間だ。残念だがベルンくんは、僕様の気に食わない人間だったようだね」

 

 バンはカバンから鈍く黒光りする拳銃を取り出し、バレッタへと銃口を向けた。

 

「きみたち、その靴に触れるなよ。もし触れれば、この中学生の命はない」

 

「お前、さっきからホントにぶっ壊れてるな」

 

 あえてバンを挑発した。

 

それにはマセルの作戦があったからだ。

 

「なんだ? 無様に変身を解除したトレジャーハンター」

 

「不老不死になっていい気になってるかもしれんが、お前は所詮その程度なんだよ」

 

 バレッタがごくりとツバを飲み込む。

 

「マセルさん、あんまり挑発しないほうが……」

 

「いいや、こいつにバレッタは撃てない。そうだよな、盗賊」

 

 バンは答えず、バレッタ銃口を向けたまま撃鉄を起こした。

 

 表情は変わらない。

撃つ以外の選択肢はない。

 

「まずは俺から撃つか? トレジャーハンターが嫌いなんだろ? 撃てよ」

 

「ききき、貴様……」

「撃てよ!」

 

 ――銃声。

 引き金が引き絞られた直後、銃口から無骨な弾丸が射出され、銃口から煙が上った。

しかし、鉛玉の到達点はバレッタでもマセルでもない。

 

 マセルが挑発してバンが目を離した隙に、ベルンはアスンシオンに変身していた。

 

 銃を叩き落として、腕を捻りあげて地に伏せた。

不老不死でも圧倒的な力には敵わない。

 

「僕が気に食わないんでしょう? 奇遇ですね。僕もずっと気に食わなかったんです」

 

「ふ、はははは! 気に食わなくて結構だよ。でもね、きみたちはもうすぐ海の藻屑となる」

 

 ベオグラード遺跡全体が、小刻みに揺れ始めた。

 

 地震

 

 バン以外の全員が同じことを思う。

 

 次第に地震は大きくなり、天井から石の破片が崩れ落ちてくる。

 

「残念だったなぁ! 不老不死じゃないきみたちは、みんなここでお終いだ!」

 

「マズい! 逃げるぞみんな!」

 

 マセルはウイントフックに変身。

すぐにバレッタとソフィアの両手を掴む。

 

「マセルさん! どうするんですか!?」

 

「どうするって、遺跡の外に逃げるしかないだろ!」

 

「だから、どうやって外に出るんですかぁぁ!」

 

「走りながら考える!」

 

 急いで下ってきた階段をかけ上がる。

 

 盗賊のことはベルンがなんとかするだろう、と心配していなかったマセルだったが、ベルンたちはまだ逃げる準備すらしていなかった。

 

「おいなにやってんだ! 逃げないと遺跡に潰されるぞ!」

 

 しかしバンの耳には届かない。

 なぜなら、バンが胸を押さえてもがき苦しんでいたからだ。

 

「なぜだぁ……僕様は、不老不死……この程度のことでは……痛みなど……」

 

 呼吸が浅くなり、やがて地震のせいでバランスを崩して地面に倒れ伏した。次第に不老不死であるはずの肉体が、死に近づいてゆく。

 

 そんな苦しむバンなど気にもせず、ベルンは袋を拾って歯車の側へ走った。

まだバンが触れていないほうの、もう一つの歯車へ。

 

「これがあれば、アピアを助けられる……!」

 

 ソウル病など気にせず、立派に二十歳まで成長できる。

そのために、わざわざベオグラード遺跡などに来た。

 

 地震で崩壊寸前だろうとも、ここで引くわけにはいかない。

 

 だが歯車を袋に入れようとしたベルンは、ふとバンの異常に気付く。

 

 不老不死の輝きは失せ、代わりに命を失った静寂だけが残っている。

 

 ベルンは悟る。

おそらくバンの命は歯車に吸い尽くされ、不老不死の歯車など噂だけで、本当は命を吸う歯車なのだと。

 

「まさか……ニセモノ……? 

 

不老不死の歯車なんか、最初からなかったって言うのか?」

 

 それでも諦めきれず、歯車を確認する。

 

 もしかしたら、もう一つの残ったほうは本物かもしれない。

 

 もしかしたら、バンが欲望に塗(まみ)れていたから歯車が拒絶したのかもしれない。

 

 そんな期待もあり、ベルンは歯車に手を伸ばす。

 

「ダメだ!」

 

 叫んだのはマセル。

 

 これ以上遺跡に残りガレキの下敷きにされれば、靴があっても厳しい状況だ。

 

「そんなものはお宝でもなんでもない! お前も早く逃げろ!」

 

 その忠告が届いたのか否か定かではなかったが、マセルは一気に階段を駆け上がる。

 

 途中で天井から小さな石が落ちたがマセルが全て払いのける。

いつ潰されるかハラハラしながらも、なんとかベルンと戦った場所まで戻ることができた。

 

 が、問題はそこからだ。

 

「どうするんですかマセルさん!」

 

 バレッタがマセルにしがみつきながら叫ぶ。

 

「どうするって! 最初から出口なんてわかるもんか!」

 

 難攻不落のベオグラード遺跡のアタックがあまりにも無計画だったため、バレッタは「二度とあなたにはついていきません!」と声高々に宣言する。

 

 しかしそれはここで生き残れればの話だ。

ウイントフックの脚力でも落ちてきたところへは戻れそうもない。

都合よく道が歪んで出口まで案内されることもない。

 

「あっ! あれ!」

 

 ソフィアが壁の一方を指さした。

釣られて二人が見る。

 

「おいおいおいおいおいマジかよ!」

 

 壁にマンホールほどの穴が開いたと思いきや、チーズのように同じ穴が連続で開いていった。

それだけならまだしも穴からは海水が流れ込み、階段の下は洪水状態だ。

 

 すぐに階段の半分は水でいっぱいになり、どこにも移動はできない。

 

 絶体絶命という言葉がお似合いな状況に、バレッタの我慢は限界を超えた。

 

「マセルさん! なにが帰り道は後で探す、ですか! これのどこに帰り道があるっていうんですかバカぁぁぁああ! この無計画ぅぅぅ!」

 

「待て! こういうのは賭けだ!」

 

「さっきからずっと賭けじゃないですか! ギャンブラーにでもなればいいんですよ!」

 

 マセルはそれに答えず、メットの左にある歯車を外した。

 

 右は剣が収納されていたが、左にはなにがあるのかまだ誰も知らない。

 

「マセルさん? それが脱出のカギ、なんですか?」

 

「それは分からん!」

 

 キッパリと言い切り、とりあえず歯車を思い切り振ってみることにした。

 

 すると――。

 

 歯車から、先にフックのついた細いワイヤーが飛び出した。

 

「これだ!」

 

 クモの糸のように伸び、岩があればどこかに引っかけてよじ登るのも不可能ではない。

 

 のだが、

 

「マセルさん! それで引っかけたって外に出れないじゃないですか!」

 

 数は三人。

人数的にも無理はあり、外に出たとしてもけっきょくは海の中である。

 

 ワイヤーよりも、むしろ浮き輪の方が役立つ状況だった。

 

「オーライ、マジかよ」

 

 ワイヤー作戦は諦め、マセルはいっそのこと開き直ることにした。

 

「壁には穴が開いている。そして水が出ている。そして俺はカナヅチ」

 

「えっと、つまり?」

 

「ここに来たときもそうだったろう? ウイントフックがあれば流されてもなんとかなる」

 

「じゃあウイントフックがない私とソフィアちゃんはどうすればいいんですか!」

 

 ウイントフックがあっても、バレッタたちを抱えて海の中を流されて地上に戻るのは無謀以外のなんでもない。

 

 しかも、現在ベオグラード遺跡のマセルたちがいるエリアはすでに海の奥深く。

カナヅチが上に上がるのは厳しい。

 

 しかし、ここである助けがやってきた。

 

「僕がいます」

 

 階段を上ってきたのはベルンだった。

その手には、歯車もバンもいない。

 

「僕が一人を抱えます。僕は泳げますけど」

 

「本当か!」

 

「それでも、地上まで行くのはかなり厳しいと思います」

 

「でもこうなったら、イチかバチか行くしかないだろ!」

 

 マセルはバレッタを抱え、肩に乗せた。

前方にお尻が向き、かなり恥ずかしい体勢である。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「行くぞバレッタ!」

 

 ベルンも同じようにソフィアを抱えようと右手を出した。

 

 時間がないので急がねばならないが――。

 

「右手……は、ダメ」

 

「え?」

 

 ソフィアは差し出された右手を拒んだ。

だがソフィアを抱えて飛び込まねば、海にかき回されて溺れる可能性は跳ね上がる。

というより、まず無理だろう。

 

「左手じゃなきゃ、私は行かない」

 

「どういう意味だ?」

 

 アスンシオンの力があれば、ソフィアくらいの小柄は右でも左でも大して変わりないだろう。

 

 だが、文句も贅沢も言う暇がない。

モタモタと無駄に時間を浪費していれば、それだけ助かる見込みは下がる。

 

「分かった。じゃあ左手で」

 

 左手の脇に挟むような形でソフィアを抱える。

 

 ここから先はまさに大冒険――四人は体全体に空気を取り込み、バケモノのような海の中へ飛び込んでいった。

 

 

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア16

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「ぐっ!」

 

「うわっ!」

 

 互いの勢いが合わさり、通常よりもダメージは跳ね上がる。

たまらずバランスを崩し、二人は背中から地面に倒れ伏した。

両者のメットは歪みも割れしない。

倒れはしても戦闘態勢は崩さず、ガッチリと両の足で立ち上がる。

 

「どうした? お前も盗賊団なんだろ? 動きは完全に素人みたいだがな。ほら、来いよ」

 

 挑発に乗り、ベルンは剣を構えて息を整える。

 

 再度来るベルンの一手に身構えていたマセルの目に、あるものが映った。

 

「ソフィア……?」

 

 ソフィアが棒になった足をさすりながら階段の前に立ち尽くしていた。

一緒にいるはずのキングストン連中の姿はなく、一人だけだ。

 

 呆気に取られて戦闘態勢が崩れたマセルに視線を合わせ、口を開いた。

 

「こ――」

 

 しかし放たれた言葉は最後までマセルの耳に届かず、気づけば距離を詰めたベルンの剣が襲ってきていた。

 

 マセルは全身全霊のそれを剣で押さえ込み、力と力の組み合いになる。

 

 ――剣が交差したとき、マセルたちにも解読不能な出来事が起こった。

 

「な、なんだ?」

 

 ウイントフックの剣に刻まれた赤い太陽のマークと、アスンシオンの剣に刻まれた青い三日月のマークが淡く光り輝きだした。

 

 同時に、ソフィアの左右の頬に描かれた太陽と三日月のマークも淡く光り輝く。

 

 それを引き金にしたのか、祭壇の頂上の中心にある不老不死の歯車に、ある異変が起きた。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

 バンは突然のことに興奮を抑えきれない。

 

 マセルたちも交えていた剣を離し、歯車にくぎ付けになる。

高速で回転を始め、バチバチと電撃を迸らせた

それがエンジンの役割でも果たすように、台座が前方にスライドする

その下には地下へ続く階段があった。

 

「これは隠し扉……!? そうか、この歯車はニセモノで、本物はこの下か!」

 

 バンはベルンたちのことなど忘れ、吸い込まれるように地下へ走り去る。

 

「ま、待てっ!」

 

 マセルはよそ見していたベルンを正面から蹴り飛ばし、同じく地下へ飛び込む。

釣られたベルンが追いかけ、その場には静寂だけが残った。

 

 バレッタは地下になど入る勇気はなく、ソフィアは自分に起こった異常事態を理解するのに精いっぱいだったが、答えは出ない。

 

 置いて行かれたバレッタは、何をしていいのか分からずソフィアに声をかける。

 

「あ、あの、大丈夫?」

 

 ソフィアは数回まばたきを繰り返し、首をかしげる

 

「え、あ、何が起こったの? よくわかんないよ」

 

 問われてもバレッタにだって分からない。

 

「えぇと……どうしよう。マセルさんたちも戻ってくるか分からないし……」

 

「じゃあ追いかけようよ、あの人たち」

 

「ええ?」

 

 悩んで答えを出そうとしていたバレッタの腕を掴み、ソフィアは階段を駆け下りる。

 

 もう二度と遺跡になど来ないと誓い、引っ張られるまま地下へ進んだ。

 

 小太りな人間なら二人は入れないような狭い階段。

ここも今までと同じように壁や天井が光り、照明には困ることはない。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! まだ心の準備が!」

 

 船が八つ裂きにされ嵐に飛ばされ海に落ち、影に襲われ高所から落下して今度は狭い階段から地下へ。

もうバレッタ疲労は限界だった。

 

「そ、ソフィアちゃんだよね?」

 

「えぇ? そうだよ!」

 

「えーと、どうしてここにいるの? あのキングスッポンって人たちは……? サンダルと、スリムと、オチャワンって人たち」

 

 正しくはキングストンのバンダルとスリブとガワンである。

 

「えっとねぇ。四人で小さいお船で近づいたらビューってもみくちゃにされて、気づいたら遺跡の中にいて、気づいたら道がぐんにゃりして、気づいたら一人ぼっちでいたよ」

 

「要するに、嵐で飛ばされて流れ着いて、今は迷子ってこと?」

 

「そーいうこと!」

 

 満面の笑みで自信満々に言われてもバレッタは安心などできない。

 

「それに、さっきソフィアちゃんのほっぺが光ったけど、あれはなに?」

 

「んー? 知らないよー」

 

「し、知らないって! だってこの遺跡と関係あるかもしれないんだよ!?」

 

「んー、でも知らないものは知らないしー!」

 

 明るい調子で出た答えに、バレッタの困惑はさらに大きくなる。

 

 ?マークと不安だらけになったが、勢いで駆け下りたおかげで最深部まで到達した。

 

 またもや四角形の広い空間で、奥には石造りの台座があり、二個目の歯車が浮いていた。

 

 いや、二個目だけではない。

台座の隣にはもう一つの台座があり、そこにも同じく歯車が浮いていた。

 

 大きさや色などは上にあったものと同じで、人が両手で抱えられる程度の大きさ。金とも銀ともつかない光を放ち、堂々とそこに存在している。

 

 歯車の美しさに見とれて笑っている男が一人いた。

バンだ。

 

 すぐ近くで剣を持ってにらみ合っている男が二人、マセルとベルン。

 

 お宝を目の前に争うトレジャーハンターと盗賊団――というより男そのものにうんざりしたバレッタは、マセルとベルンの間に入って争いを仲裁した。

 

「ストォォォォォォップ!」

 

 短い腕を左右に伸ばし、精一杯の声を響かせる。

それの効果があったのか、マセルたちの動きが止まった。

 

「なんでここに中学生がいるんですか? 邪魔しないで!」

 

 ベルンが下げた剣を構えなおして言う。

 

「ちゅ、中学生じゃなくて二十歳(ハタチ)ですってばぁ!」

 

 言いたいこととは別の言葉が出てしまい、バレッタは仕切りなおす。

 

「あ、いや、そうじゃなくて。もう争いなんてヤメてください! マセルさんたちが争う理由なんてないじゃないですか!」

 

「下がってろバレッタ。これは男と男の戦いだ。一歩下がれば負けなんだ」

 

「そうですよ。僕にはやらなければならないことがある。ここで引くわけにはいかないんだ」

 

 マセルとベルンの勝手な発言に、バレッタ怒りは沸騰する。

 

「もう! なんで男の人ってこんなのばっかりなんですか! いい加減にしてください!」

 

 今度こそ力一杯の叫びが効いたのか、マセルたちは剣を下げて変身を解除した。

全身を覆っていた鎧が消え、マセルたちは素顔で対面する。

だが仲直りの握手とはいかず、ベルンはバンの下へ向かった。

 

「もう戦いは終わりました。歯車を持って帰りましょう」

 

「は、ははは……あぁ、そうだな。はははははは」

 

 バンはカバンから大きな布の袋を取り出し、ベルンに渡した。

 

 そしてバンは光り輝く不老不死の歯車に、触れた。

そこでバンの体に、ある異常が起こる。

 

「ううう、なんだぁ! これは!」

 

 バンに感染したように、歯車の光が身体へ移っていった。

 

 触れた指先を起点に光が腕を進み、首と下半身へ枝分かれしてあっという間に全身が光に浸食された。

 

「ハハハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいよ!」

 

 全身を埋め尽くした光はバンにとっては心地が良いものであった。

光輝く身体に喜びを覚えるバンに、マセルたちは身動き一つとれない。

 

 不気味、という言葉が全員の脳裏をよぎる。

 

「見てくれよベルンくん! 僕様は不老不死だ! なんだかとてもいい気分だよ!」

 

「あ、あなた、なにをしているんですか? あなたは不老不死になんて興味ないって言ってたじゃないですか」

 

「なにをバカなことを言っているんだ! 僕様は最初からこれが狙いだったんだ!」

 

 両手を広げ、全身で不老不死の喜びを表現する。

 

「最初から不老不死が目的だなんて言ったら、気味悪がってついて来なかっただろう? きみがいなかったら黒いアスンシオンたちのところで死んでいたかもしれないしね」

 

「盗賊団はお宝をお金に換えるんじゃないんですか。そのためにここへ来たんでしょう」

 

「僕様にとって不老不死は、ただの不老不死とは違う! 僕様は史上最強の盗賊団だ! 強く逞しく賢く美しい! それを永遠に保てるなんて、これ以上のことはない!」

 

「お前、ぶっ壊れてるな」

 

 マセルが剣を向けて静かに言う。

 

「ああ? なんと言った? 薄汚いトレジャーハンター」

 

「お前の頭がぶっ壊れてるって言ったんだよ。頭にスパゲティでも詰まってんのか」

 

「そうかい? 不老不死なんて、どの人間でも求めてるものだろう?」

 

「俺はそんなものいらないね。死なないってことはスリルもないってことだ。たしかに溺れたり落ちたりはもうゴメンだ。でもなぁ、スリルを忘れたら、もう冒険なんかじゃねぇ」

 

 マセルは大きく息を吸い込み、二秒で考えた決め台詞を披露しようとしていた。

 

「それはもう……「ただの散歩ですっ!」

 

 決め台詞を奪ったのはバレッタだ。

鼻を鳴らし、自慢げに言った。

 

「おいバレッタ、俺の良いところを横取りするんじゃない」

 

「あ、ごめんなさい。なんとなく言いそうだったので」

 

「なんとなくだと? なんとなくで俺の大事な場面を横取りするなよ」

 

 マセルとバレッタが言い合いを始めるが、それこそ大事な場面で主役を奪われたバンは我慢ならない。

 

「黙れ! 下らないことをほざくんじゃあないぞ! トレジャーハンターめ!」

 

「下らないのはお前だろ。もっかい言ってやる。お前はぶっ壊れてるんだよスパゲティ野郎」

 

「き、貴様……」

 

 バンは歯車を離し、マセルに歩み寄った。

 

 歯車を離してもなおバンの体から光は絶えず、不老不死の効果は消えない。

マセルから視線は外さず、ベルンに手を伸ばす。

 

「ベルンくん。きみは僕様の不老不死をどう思う? 歓迎するかい?」

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア15

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「う~ん……あれ、あれれ?」

 

 バレッタは無事だった帽子を直し、マセルに対して二、三度、目をぱちくり。

 

「あの、マセルさん。私、死んでないですよね?」

 

「心配するな。無事に奈落の底に落ちてきたぞ」

 

「ウイントフックの力はすごいですけど、圧倒的に喜べる状況じゃないですよね」

 

 二人で周囲を見渡すと、そこは広い空間だった。

 

 サイコロの六の目のように六本の柱が左右に並び、天井まで数十メートル。

まさに、ベルンたちのいる広間と同じだった。

 

 しかし祭壇より遠く離れているうえにベルンたちとは反対の位置にいるため、落ちてきたマセルたちには気づいていない。

 

「いやバレッタ、そうでもないぞ。あれを見ろ」

 

 中央には長い階段のついた祭壇があった

バレッタが見上げると、それだけで首が痛くなるほどだ。

 

「あの先って、なにがあるんです?」

 

「この雰囲気ならあそこに不老不死の歯車があるはずだ。どーりでトレジャーハンターたちが帰ってこないわけだ。あんだけの高さから落ちたら、ウイントフックじゃなきゃ生きて帰れないしな」

 

「じゃ、じゃあさっそく上りましょうか」

 

 我慢できなかったマセルはウイントフックに変身し、バレッタを担いでニンジャの如く速足で階段を駆け上った。

 

「わ、わわわわ! いきなりなにするんですか!」

 

「なにって、普通に上ってたら日が暮れちまうぞ!」

 

「だからっていきなり担ぐことないじゃないですか!」

 

 文句を言いあいながらも、階段はすでに半分まで上っている。

 

「こっちのほうが早いんだ。我慢してくれ!」

 

 観念したバレッタはため息をつきつつ、ふと左にある一本の柱へ目をやる。

そこに小さな人影が見えた。

 

「マセルさん。あそこ、誰かいますよ?」

 

「なに?」

 

 マセルは足を止めて、指をさされた左方向へ目をやる。

 

 柱の影、何者かが隠れていた。

 

「ソフィア?」

 

 遠くからでも分かるエメラルドグリーンのロングヘアーは、誰の目から見てもソフィアだった。

 

 マセルたちに気づいたのか、ソフィアは柱の影に身をひそめた。

 

「あ、そういうことか」

 

 マセルはベオグラード遺跡をアタックする前に聞いたあることを思い出した。

 

「そーいやキングストン連中もベオグラード遺跡に行くって言ってたな」

 

「ということは……?」

 

「ソフィアがいるということは、キングストン連中もいるってことだ。あいつらの相手をするのは面倒だからな、まずは不老不死の歯車が先だ」

 

「え? いいんですか?」

 

「不老不死の歯車を見てからでも遅くない。行くぞっ!」

 

 マセルは再び踏み出し、残りの階段を駆け上り始める。

 

 普通なら気が遠くなるような距離の階段でも、ウイントフックがあればバレッタを担ぎながらでも大した苦ではない。

 

「うおおおお!! 歯車ぁあぁぁあ!!」

 

「私への恩返しも忘れないでくださいよ!」

 

 雄たけびと共に、マセルたちは祭壇の頂上へ到達した。

最後の一段で高く飛び、両足をそろえて着地する。

 

 そこは正方形で、ゾウが五頭は入れるほどの広い場所だった。

下を見れば鳥肌が立つほどの高低差があり、高所恐怖症のマセルなら確認しただけで何度目かの失神をするだろう。

 

 だからマセルは下を見ないようバレッタを降ろし、ただ中心に輝く不老不死の歯車だけに視線を集中させた。

 

「これが……」

 

 人間が両手で抱えられるほどのサイズで、石造りの四角い台座の上で歯車は浮いている。

そして金にも銀にも見える眩い光を放っていた。

 

 なぜ歯車の形状をしているのか、なぜ不老不死になれるのか、それを知るトレジャーハンターなどこの世に存在しない。

 

 おそらく初となる、不老不死の歯車へ到達したトレジャーハンターだ。

 

 その伝説へ、ついになった。

 

 はずだったが。

 

「それは僕様のだ!」

 

「は?」

 

 マセルの伝説への到達を、ある男が邪魔をした。

 

 バンはほぼ同時に到着したマセルの動きを声だけで封じる。

 

 いつになく興奮した様子で、鬼のような表情でマセルへ接近した。

 

「それに触るな! 汚らわしいトレジャーハンターめ!」

 

「な、なんだよお前!」

 

「まさか、あんな小さな船でここまで来たのかい? すごい度胸というか運というか、頭が悪いにもほどがあるなぁ!」

 

「なんで船のこと知ってんだ? いや、まぁいい……」

 

 マセルは嵐にかき回されて沈んだことを思い出し、船の件を頭の中から振り払った。

 

「ところで、きみもどこかでその鎧を手に入れたのか?」

 

 バンは盗賊団の目で、マセルの全身を品定めする。

 

「どうでもいいだろ俺のことは。で、お前は誰だ?」

 

「おいおいおい、僕様を知らないのかい? 僕様はカストリーズ盗賊団のボス、バンジュールフリータウン!」

 

「あ? カストリーズ盗賊団だと? 遺跡のお宝を奪って裏で金に換える下品な連中か」

 

 それには、バンは腹を抱えて大笑いを決め込む。

自分を下品だと思っているのが可哀そう、だと嗤(わら)ったのだ。

 

「下品! なるほど、トレジャーハンターは頭が悪い! 僕様が気に食わないことその八、それは美しさを理解できない人間だ。僕様という存在は素晴らしくて! それでいて美しい! 理解できないならば、貴様には下等生物代表という称号を与えよう!」

 

「そんな汚ねぇ称号はいらん。俺は帰る」

 

「帰るだと? そうやって僕様を油断させるつもりか。そんな女子中学生まで連れて」

 

 よくある間違いにバレッタは頬を膨らませて飛び跳ねる。

怒った姿もまるでウサギだ。

 

「ちゅ、中学生じゃなくて二十歳(ハタチ)ですってば!」

 

「どっちでもいいよ、邪魔者はここで消させてもらうからね」

 

 バンは自分が上ってきた階段へ目をやると、丁度のタイミングでベルンが到着した。

指をパチンと鳴らし、まるで召使いのようにベルンを呼ぶ。

 

「ベルンくん! 丁度よかった、こいつらを消し去ってくれたまえ!」

 

 頂上にやって来たばかりのベルンが状況を把握するには時間を要したが、すぐに目の前のマセルたちが敵なのだと理解する。

 

 それでも、自分と似たウイントフックの姿には驚きを隠せない。

その反応はマセルも同じで、あのとき落とした靴の所持者だと、トレジャーハンターの直感が言った。

 

「だ、だれですかこの人たちは。それに、その鎧……」

 

「ベルンくん。こいつらはトレジャーハンターだ。きみの欲している物を奪おうとしているんだ。さぁ早く倒してくれ!」

 

「――なんですって?」

 

 ベルンは戦闘態勢を作り、メットから剣を抜いた。

 

「きみは覚悟を決めたはずだろう? じゃあ、今がそのときだ」

 

 そうだ。

 

 今までイジめられていたベルンは、ついに力を手に入れた。

自分で勝ち取った力ではないものの、それは結果的にベルンを強くした。

 

 盗賊団との協力だろうとも、アピアを助けるためには、自分の使命を果たすしかない。

 

「あなたたちに恨みはありませんが、渡すわけには行きませんっ!」

 

「おいケンカ売るっていうか? ならしょうがねぇ。やってやるよ!」

 

 マセルは事情を説明しようともせず、同じく剣を抜いてマセルと対峙した。

 

 唐突に始まったマセルVSベルンに、バレッタは口を挟めず無言で立ち尽くすことしかできなかった。

 

 ウイントフックとアスンシオン――重なったのは偶然なのか必然なのか運命なのか、銃弾や高所からの落下に平然と耐えるほどの力で、常人を遥かに超えられる靴での勝負。

 

 止められる人間など、ここにはいない。

 

「勝負っ!」

 

 マセルが渾身の縦一閃を繰り出す。

激流を切り裂くような一撃を刹那的な反射神経でベルンは回避し剣が空を切った。

 

 剣先が床を叩き壊し、小さな穴が穿たれた。

その隙を見逃さず、ベルンはハイキックを肩に繰り出し続けて斜めに切り伏せる。

強烈な摩擦によってマセルの体から火花が散るが、それでもウイントフックは切り裂かれない。

 

「容赦はしませんよ!」

 

 もうすぐでアピアを助けられるとなれば、ベルンは本気で攻撃する。

 

 たとえ相手が見知らぬ人間だろうと、初対面だろうと、手加減という言葉はない。

ただ盲目的に、邪魔者を排除するのみだ。

 

「……もうすぐで……! もうすぐで、きみを助けるっ!」

 

 ベルンは剣を両手で握り祈るように真正面に構える。剣が蒼い輝きを帯び始めた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 

 輝きが頂点に達し、ベルンは片足を一歩後ろに下げる。

 

「行くぞ!」

 

 地を蹴り、怯んだマセルの正面から高速のショートジャンプで距離を詰める。

同時に空中で縦に回転し、命中した際の威力を爆発的に上昇させた。

 

 マセルもハイそうですかと正直にそれを受けるわけがなく、しかし逃げるという選択肢もなく、剣を構えた。

 

 バレッタの家の前でバンダルたちをカッ飛ばしたときの、バットのような構えだ。

 

「うぉりゃぁ!」

 

 マセルはベルンの一撃と真っ向から勝負をするつもりだった。

 

 狙い通り、剣と剣が激突し、周囲に絶大威力な爆風を生み出す。

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア14

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「ベルンくん、なにをぼうっとしている」

 

 バンには表情が見えなくてもある程度は心を読み取れている。

 

「あれ……?」

 

 気づけば、ベルンの手の平からは血が消えていた。

一滴どころか、跡すら残っていない。

 

「どうした」

 

「あ、いえ……銃の弾はまだありますか?」

 

 考えるのは後回しにし、今は戦闘に集中することにした。

 

「あぁ。心配いらない」

 

「せいぜい死なないようにしてください。こいつらは全部倒します」

 

 ベルンは剣を握りしめ突撃し、バンは銃で加勢した。

本人たちにそのつもりはないが、息のあった共闘である。

 

 次々と黒アスンシオンは滅されてゆき、敵は数秒たらずで全滅してしまった。

 

「どうやら、全部やっつけたみたいだね。じゃあ、次に進もうか」

 

「次? 次ってどこに行くんですか?」

 

「さぁね。この遺跡は気まぐれで僕様たちを消しに来るようだし、この先もなにか仕掛けてあるだろう。でもトレジャーハンターや盗賊団の帰り道なんて、いつも後で探すものなんだ」

 

「安心できない言葉ですし、敵と一緒に僕を撃つ人に言われたらもっと安心できませんね」

 

「そうか。ありがとう」

 

 ベルンはバンのことを疑いながらも進まないわけにはいかず、とにかく前進を続ける。

 

 黒アスンシオン集団が出現した広い空間を抜け、会話もないまま数メートルを進む。

だが依然として道の変化もなく、トラップもない。

 

 拍子抜けしつつも警戒を怠らないバンは、弾の入った銃をクルクルと回しながら、ベオグラード遺跡についての分析をベルンに話す。

 

「ベルンくん、これまで数々のトレジャーハンターが帰ってこれなかった理由が分かった」

 

「なんですか、いちおう言ってみてください」

 

ベオグラード遺跡は生きているんだ。侵入した者を排除するためにね。さっきの黒いアスンシオンたちはまだ挨拶代わりの攻撃だろう」

 

「このまま進めば、また別の試練があると思います。そもそも帰れるのかも怪しいですが」

 

「あれ、怖いのかい?」

 

「違いますよ。ただ、この調子で本当に不老不死の歯車を手にできるか、心配なんです」

 

「心配なんてしていてもしょうがない。男なら探求心で勝負をしないと」

 

「それともう一つ気になることが」

 

「なにかね?」

 

「侵入したトレジャーハンターはたくさん死んでいるはずですよね。どうしてここまで骨の一本もないんでしょうか?」

 

「それはどうだろう。ほら、ここに一つあるよ」

 

 一本道を進む道中、バンは壁と床の隙間に気になるものを発見した。

 

「これは……骨ですか?」

 

 人間か動物かまでは判別不能だが、壁の下には指が一本入るほどの隙間があり、そこから尖った骨が一本だけはみ出していた。

 

 まるで壁がシャッターのように閉じて挟まれているかのようで、二人は直接目にするまでもなくその先に空間があるのだと理解する。

 

 バンはその隙間に指をかけ、持ち上げようとした。

 

「ん? ダメだな。重すぎてまったく動かないよ」

 

 バンの力では足りないと分かり、役目をベルンに託すことにした。

アスンシオンに変身しているベルンなら開けられると予想して。

 

「しょうがないですね。僕がやります」

 

 アスンシオンに変身しているベルンがやると意外にもすんなりと壁は開き、またもや長い長い一本道が続いていた。

 

 しかしベルンは道よりも、下に転がる骸骨を見て一歩後退する。

 

「こ、これは人ですよね」

 

 何十年前からそこにいるのか、骸骨はボロ布を羽織っていた。

腰にナイフを備えていたものの、その人物を守る刃にはならなかったようだ。

 

「見慣れないか。死んでるってことは、こいつの命を奪ったトラップがあるということだ」

 

「解除できるんですか?」

 

「うーん。というより、すでに解除は済んでいるようだ」

 

 ベルンが床を見ると、一つのブロックだけが不自然に凹んでいるのを確認できた。

 

「この凹んでいる床はおそらくスイッチだったんだろう。で、この骸骨くんはこれを踏んで何かしらのトラップで死んだ。つまりもうトラップは終わっているということだ」

 

 ベルンがその言葉を信用に足るべきか吟味しているところで、バンは構わずに骸骨を跨いで進んでいった。

慎重さのなさすぎる行動にため息をつくベルンへバンはふり返る。

顎に指を当て、口をへの字に曲げて頭を回転させる。

 

「ベルンくん、先に行ってくれ」

 

「は?」

 

「五メートル先、ここには罠がある。でも避けることはできない」

 

「ど、どこにそんなものが」

 

 ベルンが目を凝らして見ても、五メートル先にそれらしいものはない。天井にも床にも壁にも、怪しい部分はない。

 

「僕には見えませんが」

 

「五メートル先の右の壁、僅かに出っ張っている部分がある。そこにセンサーのようなものがあるはずだ。それに触れればトラップ発動だろう」

 

「その僅かな出っ張りが根拠ですか」

 

「いいや、盗賊団としての、ただの勘だよ」

 

「そうですか。凄い信用できる言葉で安心できますね」

 

 大きなため息をつき、バンの適当さにうんざりする。

 

「で、肝心のトラップはどういうもので?」

 

「さぁ。それは分からないよ。おそらく炎か、鉄球か、圧縮か、それともカマイタチで切り刻むか。でもまぁ、生身の人間なら一撃で死ぬだろうね」

 

「生身じゃないからって僕で実験ですか」

 

アスンシオンがあれば余裕なんだろう? 拳銃も通じなかったんだ。心配ないさ」

 

「あれも実験だったんですね。このときのための」

 

 怒りを抑えるベルンのことなど気にもとめず、バンはカバンからライトを取り出した。

 

「ライトはいらなんじゃなかったんですか?」

 

「いいや、使うんだよ。実験にね」

 

 ライトから水電池(みずでんち)を一本だけ抜き、トラップが仕掛けてあるだろうエリアへ投げつけた。

回転しながら放物線を描き、二人が見守る中、五メートル先へ到達。

――直後、水電池は滝に投げつけたかのように跡形もなく消えた。

 

 さすがのバンも目を疑うが、直後に好奇心に変わる。

 

「面白いね! 見たことのないトラップだ! ベルンくん、この先は別の空間に繋がっているはずだ。行ってみようか」

 

 バンの勘は外れていた。

トラップではなく、別空間への入り口だったのだ。

 

「そうですか。面白いのならお先にどうぞ」

 

 バンは手を叩きながら進み、なんの躊躇も警戒もなく“見えない壁”の中に入っていった。

 

 それを見てもなお信用できないベルンは、身構えながら見えない壁へ進む。手を先に入れると、切断されたように手だけが見えなくなり、思わず手を引っ込める。

戻ってきた手がしっかり残っていて安堵し、意を決して全身を潜り込ませた。

 

 ――そこには、両手を広げて歓喜するバンがいた。

 

「ベルンくん! 見たまえ! ここは素晴らしい場所じゃないか!」

 

 二人が次に見たものは、これまた広い空間だった。

 

 壁や天井の光る模様は同じだったが、黒アスンシオン集団と戦った空間とは別格の広さで、一気に千人は入れるテーマパークを作れてもおかしくはない。

 

 サイコロの六の目のように左右に六本の柱が並び、天井までは余裕で数十メートルほどあった。

中央には長い上り階段の付いた祭壇があり、ベルンたちはその階段の真下へやってきていた。

見上げるだけでも疲れるような祭壇で、上るだけでも骨が折れそうな高さだ。

 

 バンは部屋そのものにも興奮していたが、階段を上りたくてウズウズしている。

 

「はやく上ろうよベルンくん!」

 

 急かすバンのテンションについてゆけず、ベルンは何度目かのため息をつく。

 

 ――マセルサイド――。

 

「えっ――?」

 

 とバレッタが階段の一段目を降りた、次の瞬間――。

 

 そこにあったはずの階段は幻のように跡形もなく消え去り、奈落へと続く落とし穴に変わった。

踏み出した体を戻す暇もなく、バレッタは重力に任せて落ちていった。

 

「またピンチかよバレッタ!」

 

 地を蹴り、マセルはバレッタを抱えて落下する。

 

「もう落ちるのはコリゴリだぁぁぁぁ!」

 

 ウイントフックに飛行機能が備わっているのなら話は別だが、そう便利なものが都合よく出るわけもない。

 

 ウイントフックの耐久性を信じ、目を回すバレッタを抱えて背中から落下していった。

 

 一秒、二秒、三秒、四秒、五秒、六秒が経過。

 

「うわあああああ!」

 

 何メートルの落下か把握できないが、マセルには空から落ちたほどの高さに感じられた。

地上とはどれくらい離れたのか、とてつもない距離を落ちている。

 

 ようやく地に激突。

マセルが失神直前の精神を叩き起こすと、ウイントフックの変身を解除して立ち上がった。

 

「あぁ……クッソ、ここ最近は落ちたり溺れたりばっかだな」

 

 落ちたのは約六秒。

 

 かなりの高さを背中から落下したのにも関わらず、マセルの体にはほとんど傷がなかった。

それよりも精神的ダメージのほうが大きく、嘔吐寸前だった。

 

 気分が悪くなったがそれどころではない。

マセルは目を瞑るバレッタを起こす。

 

「おいバレッタ、起きろよ。到着だ」

 

 バスで乗り過ごしたような起こし方をすると、バレッタはゆっくり目を開いて半身を起こした。

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア13

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「なんだか風が当たって寒いんですよ。海に落ちて濡れたままだったから。まぁカゼなんかひいたところで、関係ないですけどね」

 

「風か……」

 

 マセルはまだ諦めてなどいない。

 

「風邪、引きますけど、どうせ死にますし」

 

「いや、そうじゃない。どっかから風が吹いてないか?」

 

「え?」

 

 前後どちらも長い一本道が続いているものの、風などは吹いていない。

 

 とすれば、風は壁か床か天井のどこかから出ていることになる。

 

バレッタ、さっき風が当たって寒いって言ったな? どこからだ?」

 

 バレッタは立ち上がり、風の位置を調べる。

 

 天井には手が届かないので、壁と床を徹底的に調べることにした。

 

 数分の間、二人で調べると――。

 

「あ、ありました」

 

 壁の下に数ミリもないほどの隙間があり、そこから風が侵入していた。

 

 突破口になるかもしれない。

バレッタにも希望が蘇り、なんとなく壁を叩いた。

 

「ここ、少し壁が薄くなってませんか?」

 

 言われて、マセルはすぐに壁を蹴る。

思ったとおり一蹴りで壁に穴が開き、やがて粉々に崩れて道が開いた。

 

 そこには、地下へ通ずる階段があった。

 

 下に伸びていて、一寸先は奈落の闇に溶けている。

何メートルまで進めるのか未知数だ。

 

「どうするバレッタ? 行くか?」

 

「圧倒的に賛成です。少し、怖いですけど」

 

 とバレッタが一段目を下りた、次の瞬間――。

 

「えっ――?」

 

 そこにあったはずの階段は幻のように消え去り、奈落へと続く落とし穴に変わった。

 

 踏み出した体を戻す暇もなく、バレッタは重力に任せて落ちていった。

 

 ――――ベルンサイド――――。

 

 遺跡に足を踏み入れたからというもの、バンが望むようなトラップは襲ってこない。

 

 もちろんベルンとしては、平和に帰れればなによりだが……。

 

「僕様の心構え、それは命よりもスリリング。お宝よりも命。スリリングよりもお宝だ」

 

 同じ遺跡内部で別の人物が同じことを言っているとは、彼らは知る由もない。

 

「ベルンくん。トラップの気配はないから安心したまえ。でも、盗賊団は信用するな」

 

「裏切るって宣言するんですか?」

 

「どうかなぁ僕様は気まぐれだから」

 

 バンは不敵に笑い、ただでさえ低いベルンからの信頼をさらに落とす。

 

「まぁ、こんな一本道の遺跡をただ歩いていてもつまらない。雑談でもしようか」

 

「なんですか。勝手にやっててください」

 

「男同士の話でもしようか。じゃあ訊くけど、きみのガールフレンドのことだ」

 

「僕はしませんよ」

 

アピアちゃんとはどこまでいったの?」

 

「ぐほっ」

 

 不意打ちのようなアピアの話題に、ベルンは仰け反ってむせ返る。

 

「付き合ってるんだろう? まさか結婚はしてないだろうけど、手くらいは繋いだか」

 

「ば、ばかな」

 

 女の話題には滅法弱いベルンには、アスンシオンがあってもダメージが大きい。

 

アピアとはただの友達ですよ。それ以上の何かなんてありませんよ」

 

「そうか。つまらないなぁ」

 

「それより、アピアのこと調べてるって言ってましたよね。どういうことですか」

 

「あの子は一千万人に一人のソウル病だ。興味深いからね、調べないわけもいかないよ」

 

「それって、プライバシーの侵害じゃないですか」

 

「病気以外はあまり調べてない。きみが知りたいあんな情報やこんな情報は知らないよ」

 

「ぐほっ」

 

 たまらずベルンは仰け反ってむせ返る。

 

「じゃ、じゃあ次は僕から質問です」

 

 反撃のために体制を立て直す。

 

「お、乗ってきたね」

 

「あのリンベルって人、あなたのこと嫌ってますよ」

 

「あぁ、知ってるよ。信用されてないんだろう? 何年か前に弟が……たしか名前はナウルだったかな、そいつが死んだ悲しみを忘れたくて盗賊団に入った、とか」

 

「聞いたんですか? 直接」

 

「いいや。女は見ていれば分かる。僕様が気に食わないことその七。それは女を甘く見ている男だ。女はトゲのある花ってだけじゃない。時には毒にも薬にもなる。扱いを間違えれば痛い目を見るし、共に支えあえれば幸福だ」

 

「わけの分からないこと言ってないで、ハッキリ言ってください」

 

「つまり、だ。僕様にとってはリンベルは毒で、きみにとってアピアちゃんは薬なんだよ。大事にしなよ。大人になってもね」

 

 ――大人になっても。

 

 ソウル病で二十歳まで生きられないことを知っているうえでの発言だった。

 

 バンを殴りそうになる衝動を抑え、握った拳を理性で引っ込めた。

ここでバンを失えば、それこそアピアは大人になれない。

不老不死の歯車を手に入れるためにも、バンの協力は必要不可欠。

バンはそこまで計算して、わざわざ冗談を言った。

 

「もういいです」

 

 気分が悪くなったベルンは、アピアの話題から離れるために話を断ち切った。

 

 ふと、後ろを振り向く。

 

 一本道だったはずなのに――道がない。

代わりに目の前には広い空間が構築されていた。

 

 マセルたちの見たものと同じく、バスケットボールくらいなら余裕でできる空間で、壁や天井の模様までもがそっくりそのまま同じである。

物はなにも置いておらず、柱などもない。

 

「気を付けろベルンくん。床から何か出てくるぞ」

 

 広い空間の床、そこから影のようなものがむくむくと沸き上がって床を飛び出し、やがて人の形を構築し始めた。

 

 奇想天外な一部始終を、二人はただ黙って見ていることしかできなかった。

 

 ただしベルンは恐怖、バンは好奇心が心を駆り立てており、同じものを目にしながらも違う光景として瞳に焼き付いた。

 

「まさか、アスンシオン……?」

 

 作られた影は、赤いラインのない真っ黒なアスンシオンとなり、数は二十を超えていた。

それぞれが持つ剣先が、一斉にベルンたちへ向く。

 

 さながら、影の兵士。

肉体や心を求めるかのような、無表情の威圧だ。

 

「ベルンくん、用意はいいかい? 相手は人間じゃないようだから、思い切りやってくれ」

 

「そうは言っても、僕のアスンシオンと同じ姿なんですよ。色は黒一色ですけど、なんか不気味ですし。それに、この数じゃどうにもなりませんよ」

 

 ベルンはあくまで冷静に分析し、戦いを避けることを選んだ。

 

「そうか。逃げるのか。無理もないな……でもその前に試したいことがある」

 

 バンは敵が目の前にいるというのに、カバンから黒光りする銃を取り出した。

六発装填が可能の、シンプルなリボルバーだ。

 

 黒アスンシオンの一体に銃口を向けた。

躊躇もなにもなく、発砲。

 

 銃口から煙が上がり、放たれた弾丸は一体を貫いた。

煙を撃ったかのように、消滅。

 

「なるほど、やっぱりそうなったか」

 

 ニヤリと笑い、バンは続けて放った二発目で一体を撃ち抜いた。

 

 広い空間に銃声が鳴り響くが、聞きなれないベルンには不快な音でしかなかった。

 

「なにやってるんです――」

 

 パーン! ベルンに構わず発砲を続ける。

 

「あんなの相手にしたって――」

 

 パーン!

 

「それなら僕がや――」

 

 パーン!

 

 銃の弾が切れ、新たな弾を装填(リロード)する。

 ようやく与えられた静寂だが、ベルンはそれ以上なにも言わず、アスンシオンに変身して残りを斬り伏せた。

 

 ベルンの背後より二体。

 

 一体に気を取られたベルンはそいつを回し蹴りで仕留める。

背後より迫る二体のうち一体も回し蹴りでねじ伏せた。

だが残りの一体が猛獣のような跳躍を見せ、一瞬のことに隙が生じたベルンに剣を振り下ろした。

 

「こいつっ!」

 

 そこで再び銃声が轟き、襲い来る黒アスンシオンは消滅した。

 

 同時に、ベルンの胸に微かな衝撃が走った。

 

「なっ――?」

 

 ピンポン球をぶつけられたような軽い衝撃。

痛みより驚きが大きく、一歩後退する。

 

 目の前には、煙を吐き出す銃を持つバンがいた。

ふっと煙を吹き消し、満足げにほほ笑む。

 

「あなた、僕も一緒に撃ちましたね?」

 

「大丈夫だろう? アスンシオンがあるんだからさ」

 

 ベルンはバンへ接近し、胸倉を掴んだ。

 

 バンは手を上げて降参のポーズを取るが、ニヤリと口元を緩めており反省の色はない。

 

アスンシオンがあっても、撃つことないでしょう!」

 

「落ち着きなよ。まだ敵は残っている。全部で二十体いたけど、倒したのは十体だ」

 

 ベルンは怒りを抑えてバンを解放し、残りの黒アスンシオン集団へ剣を向けた。

 

「ん……?」

 

 ベルンは、自分の手にある異常が起こっていることに気づいた。

 

 絵具をかけられたような、べっとりと赤い“液体”が右の手の平に付着している。

 

「血……?」

 

 銃で撃たれたときのものだ、と胸を確認するが、血どころかアスンシオンには傷一つない。

 

「じゃあどこから……!?」

 

 体中をくまなく確認しても、出血などはまったくない。

バンの血だとしても手の平に付着するのは不自然であり、バン自身もそんな様子ではない。

 

 左手でその血を拭おうとしても、一滴たりとも手から零れ落ちない。どころか、左手に付着することもない。

 

 ベオグラード遺跡のせいでおかしくなったんだ。ベルンは無理にでもそう思い、残る敵へ視線を戻した。

 

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