日々を駆け巡るoyayubiSANのブログ

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親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

ブログ小説(8)暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

お題「マイブーム」

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「な、なななんあなんだぁぁ!?」

 

 寝ぼけ眼を擦り、窓から外を確認する。

 

 よく見ると、子犬を抱いた十歳くらいの少年が、金持ちそうな三人の男たちに囲まれている。

その側では、悲鳴を上げた若い女性が倒れていた。

 

「おいおい、なんだありゃ。ったく、俺の眠りを妨げやがって」

 

 大きな舌打ちをしたリンセンは、手袋を装着して宿を出た。

 

 状況などまったく飲み込めていなかったが、目の前で起こったトラブルを力で解決して、一刻も早くベッドの上から夢の世界へ行きたかった。

ただそれだけを考え、問題の現場へやってくる。

 

「おいてめぇら。ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー騒がしいんだよ、おい」

 

 子犬を抱いて震える少年。

土で服が汚れた女性。

その二人を偉そうに睨む偉そうな三人の男。

そしてそこに首を突っ込む無関係なリンセン。

明らかに場違いだ。

 

「なんだ貴様。この国の者か? いや、違うか」

 

 偉そうな男その一が言った。

 

 男は金髪に純白のコート

して金のネックレスとステッキを輝かせている。

横にいる二人も似たような恰好で、人を見下す冷たい目も同じだった。

 

「へっ! 俺がどこの国の人間かなんかどーでもいい」

 

「どうでもいい? じゃあなんのようだ。関係ないやつは引っ込んでいろ」

 

「それがよ、そうでもないんだよなぁ。俺はしっかり関係あるんだよ、悪いけどな」

 

「おい」

 

 それはリンセンに対して放たれた言葉ではなく、横にいた男たちへの指示だ。

 

 うなずいた男二人は指をポキポキと鳴らし、リンセンへ接近した。

 

「その二人は俺が雇った用心棒さ。金さえあれば、大体のものは買える。強さも力も、安全もな」

 

「ほう。じゃあ、その自慢の用心棒がどんなもんか、俺に教えてくれよっ!」

 

 ニヤリ――リンセンの顔つきを見やり、用心棒の一人が勝利を確信した。

 

 ――のも一瞬。

ほぼ同タイミングで、用心棒の腹にはリンセンの拳が叩き込まれ、目を開けたまま地面に突っ伏した。

 

リンセンに対する判断は、どうやら大きく間違っていたようで。

 

 弾かれるようにステップを踏んだリンセンは、流れるようなスピードでもう一人の男に回し蹴りをお見舞いし、一撃の下に撃退完了した。

 

 白いコートの男は、よだれを垂らして倒れる用心棒を見て腰を抜かし、リンセンに対する恐怖心が全身を支配していた。

 

「き! ききき貴様! なんだ! 高い金を出して雇った用心棒を、た、たったの一撃で!」

 

「あぁ? てめぇが雇った用心棒が弱かっただけだろうが」

 

 リンセンは白いコートの男との距離を詰めてゆく。

 

 胸倉を掴みかかろうとしたそのとき、ふと震える少年が抱く犬が目に入った。

 

 犬の足の付け根は大ケガをしていた。

 

固いもので何度も叩かれたかのように赤く腫れあがり、その部分だけ毛が抜けている。

 

「おい、今更だが、こりゃどういう状況だ、おい」

 

「は、ははは。こ、この女が悪いんだ」

 

「あぁ?」

 

 この女、とは。先ほど悲鳴を上げた女性のことだ。

 

「この女、商会のトップの息子であるこの俺にぶつかっておいて、たかが謝罪だけで済まそうとしたのだ。だから軽く突き飛ばしたまでさ」

 

「あぁ? 謝ってんならいいだろうがそれで」

 

「ふ、ふざけるな。貧乏庶民が俺にぶつかっておいて、タダで済まされると思うな!」

 

「それで、どうして犬がケガをするんだよ、おい」

 

 大まかな流れを予想できたリンセンの怒りはさらに沸騰した。

浮き出ている血管は今にも千切れてしまいそうだ。

 

「見せしめにこの女の弟であるこのガキを制裁してやろうと思ったのだがな。町中である故、俺にも体裁があるから、子供を殴るのは良くないことだ。だからこのガキが連れていた犬を制裁してやったのさ」

 

「あぁ……? おい、罪もねぇ犬を殴ったってのか……?」

 

 怒りに拳を震わせながら、呟くように再確認した。

 

「なんだ? なんと言った?」

 

「だーかーらー……てめぇがこの犬を傷つけたのかって訊いてんだって訊いてんだぁぁぁ!」

 

 獲物目掛けて駆けるトラのような初速で拳を振るい、男の顔面にめり込ませたっ! 

鼻、アゴ、歯などなど! 顔に存在するパーツというパーツに多大なるダメージを負わせた!

 

 ダンサーよろしく空中三回転を決め込んだ男は鼻血をまき散らしながら無様に倒れるっ!

 

「き、きき、貴様……俺は商会の次期跡取りだぞ……こんなことして、許されると思っているのか……」

 

「あぁ? あいにく俺はバカなんでなぁ。てめぇのつまんねぇ言葉は理解できねぇんだ」

 

「ゆ、ゆゆゆ、許さんぞ……このことは、父上に報告して、貴様を地獄に叩き落としてやるからなぁ! …… 絶対に、必ず、だ!」

 

「あぁそうかい。まぁ、お前が犬を傷つけた事実は、お前の立場を危うくさせるものらしいがなぁ」

 

 周囲を見れば、村人たちの目線はすっかり冷たいものになっていた。

ある人は少年と犬を労り、ある人はフライパンを手に男に睨みをきかせている。

 

「おい次期跡取りさんよぉ。俺は、てめぇみたいに動物に暴力を振るうクソ人類に心底ムカっ腹が立ちやがるぜ」

 

 胸倉を掴み、ヘビのような目力で次期跡取りの震える瞳を見据える。

 

 瞳の奥底にある濁った心まで見えたリンセンは、これ以上殴る価値もないと判断し、ふんと鼻を鳴らす。

 

「おととい来やがれ。俺がてめぇを必要以上にぶっ飛ばす前にな」

 

「わ、わわわ分かった! 分かった!」

 

「それと! 約束しろ」

 

 リンセンは人差し指をピンと立て、次期跡取りの額を小突いた。

この約束は、その腐った脳ミソにしっかり叩き込め、とそういうことだ。

 

「二度と動物を傷つけるな」

 

「は、はい……」

 

「てめぇが跡を継いでも、死んであの世に行ってもだ」

 

「は、ははははい!」

 

「よし! 消えろ!」

 

「はいぃぃぃぃぃぃ!」

 

 脱兎のごとく、とはこのことだ。

 

 男は自慢のステッキを放り投げ、彼方へ走り去っていった。

高額で雇った用心棒はほったらかしのまま、自分の身を守るためだけにただ走り去った。

 

 用心棒が成敗された段階で逃げるべきだったが……。

 

「へっ、腰抜けめ。ざまぁ見ろって感じで心がスカっとしたぜ」

 

 邪魔者を追い払ったリンセンは、すっかり満足して宿へ戻ろうとした。

 

 だが、犬を抱えた少年が恩人のリンセンを呼び止める。

 

「ま、待って!」

 

「あぁ? なんだぁガキ」

 

「その、助けてくれて、ありがとう」

 

 その弟の様子を見た姉は、服についた泥を払ってから弟の横に並び、ひたすらお礼の言葉を繰り返した。

 

「あ、ありがとうございました。ありがとうございました。ありがとうございました」

 

「お、おいおい。勘違いすんなお前ら。俺はただ、あの偉そうなヤツのせいで寝れなかっただけだし、犬まで傷つける腐った思考が許せなかったんだよ。だからやめろよ、くすぐったいんだよそういう言葉は」

 

 頬をポリポリと掻いて目線を外すリンセンだったが、二人はお礼の言葉を繰り返した。

気づけば周囲もその流れに乗り、住人たちが囲んで拍手をしていた。

 

「お、おい! だからやめろって!」

 

 気分を害したリンセンは、囲む住人たちの間をこじ開けて脱出した。

 

 これでは、気分が悪いままだ。

 

 自分の性格上、ニッポンにいたころも人に感謝なんてされていなかったことは、自身も薄っすらと理解できていた

 

感謝され慣れていないリンセンは、どうしても感謝というものを素直に喜べないでいるのだ。

 

 感謝をうまく利用すれば、住人たちの感謝に乗じてご馳走をいただくこともできなくはなかったが、あいにくとリンセンの頭の回転はそこまで良いものではないため、とにかく感謝の猛襲から逃れることだけを考えて、町を出ることにした。

 

 なんだかんだと文句を言いながらも、やはりクローナが一番やりやすく、そしてご馳走にもありつきやすいことに、リンセンは気づいてしまったのだ。

 

「やっぱりあいつ! クソ女だが、俺と相性いいのかもしれねぇ!」

 

 リンセンは手袋のパワーで変身し、前傾姿勢で馬車を追いかけた。

 

具体的な方向や距離など把握できていないが、無事に到着することに賭けた。

 

 常人をはるかに超えるスピードを誇る今のリンセンならば、馬車に追いつくことなどたやすいことだ。

 

 方向さえ間違っていなければ、だが。

 

 

 

「お嬢さん、どこまで行くんでしたっけ?」

 

 手綱を握るおじさんは、クローナにそう問いかけた。

一日眠っただけではまだ疲れが取れていないため、クローナは半分夢の中だ。

 

「えぇ? え、ええ。シリングの町までお願いできます?」

 

「そうでした! そうでした! うっかりしてましたぜ!」

 

 ガハハと笑うおじさんを見ていると、自然とリンセンのことを思い出してしまう。

未練があるわけではない。

ただ、危なっかしいあの男を放置してしまって、周囲に被害を及ぼさないかが心配なのだ。

 

 馬のコンディションと移動距離を考えると、そこまで速度を出すことができない。

到着にはある程度時間がかかるが、今後のことを整理するための良い時間だなとポジティブに考えた。

 

 ナイラ国に襲われたこと。

列車がストップし、能力を連発したこと。

そして、あのリンセンという男の報告――問題は山積みだ。

 

 さらに、本来ならば列車で別の町に向かい、能力を使ってサーカスの演出を手伝う予定だったのだ。

それがナイラ国の襲撃で中止になった今、その町に謝罪の手紙を送らなければならない。

それと、妹のクローネへも心配をかけさせないよう努めなければならないし、今後のナイラ国の攻め方によっては全面戦争へ発展する恐れもある。

 

 いや、その可能性は高い。

 

 このまま何も対策を練らず、クローナを見逃すわけもない。

 

 列車を丸々一つ占領し、人質まで使う非道な集団だ。

どんな手で攻めてくるか検討もつかない。

 

 やはり、リンセンは用心棒として雇っておくべきだったか――。

 

「あの、すみません」

 

「ん? なんだいお嬢さん」

 

「さっきのパタカまで戻れますか?」

 

「お? あぁ、構わないけど、どうした、忘れ物か?」

 

「えぇ、少しだけ。大丈夫です?」

 

「いいよいいよ。まだ大して進んでないしね」

 

「どうもありがとう。助かります」

 

「では、戻るよ――んん!?」

 

 馬車を方向転換させようとスピードを緩めたとき、正面から接近してくる何者かが見えた。

 

 リョウだ。

 

 鋼鉄のキモノに変身したリョウが立っていた。

 

 キモノとは本来は足首までの長いものであるが、この鋼鉄キモノは膝上までの短いものだ。

長さこそ違うものの、その模様、シルエットはキモノそのもの。

 

 まさに大和撫子戦士!(ヤマトナデシコソルジャー!)

 

「な、なんだありゃあ?」

 

 馬車を止めるべくスピードを落とすが、危機を察したクローナはそれを中止させ、前進するよう指示を出した。

 

「ダメです! 走り続けてください!」

 

「で、でも! 轢いてしまうよ!」

 

「ならば、横を通り過ぎればいいのですっ!」

 

 素早く馬に鞭を入れ、僅かに軌道を変更する。

 

 俊敏な四本の足が軽やかに指示に応え、リョウと激突しないルートを直進する。

 

 だがリョウは、鋼鉄の扇を構え姿勢を低く構える。

 

 変身したリョウはクワンザを三体同時に相手にできるほどのパワーを誇るっ! スピード、そして反射神経、極めつけにジャンプ力っ! どれも普通の人間を遥かに凌駕していたっ! これは圧倒的っ!

 

 

 

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ブログ小説(7)暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

お題「マイブーム」

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「ちっ。うまい交渉だな」

 

「理解したなら、それで」

 

「んじゃあ、さっそくメシだな。どこになにがあるんだ、案内しろよ」

 

「食事もいいけれど、宿も探さないといけないのよ。どうせなら、宿で食事をしましょう」

 

「あぁ? 今日はもうお休みかよ」

 

「そりゃあそうでしょう。あなたは底抜けに体力があるらしいけど、私は能力の連発と長距離の移動とで疲労が蓄積しているの」

 

「へっ、クソ人類ってのは脆いな。不便だぜ」

 

「一言多いのよ、あなたは」

 

「ま、メシが美味けりゃ宿でいいよ、宿で」

 

 そんなわけで、クローナたちは宿を探すことになった。

ここは一般的に都会と言われるほど栄えている。

数種類の店もあり貿易も盛んなので、馬車も手配できる。

 

 ナイラ国の追っ手に備えて新しい服も手に入れておきたいうえ、なによりリンセンにも服が必要だ。

 

 つまり今必要なのは、宿、馬車、服である。

その三つが必要だ。

 

 そんなこんなで、宿を取り、明日使う馬車に予約もいれた。

そして現在は服屋にいる。

 

「おいおい、服なんてなんでもいいだろーが」

 

「ダメよ。服はその人を象徴するの、しっかり選ばないと」

 

「はいはい。任せるよ」

 

 食べ物のことしか頭にないリンセンは、面倒くさそうな顔で服屋を出た。

 

 クローナは自分の服と共にリンセンの服を選ぶ。

小一時間迷った結果、クローナは動きやすく目立ちにくい焦げ茶色の服を選んだ。

 

 薄い生地で身軽なジャケット。

胸元には鳥の羽が刺繍され、クローナが求める自由を象徴するかのようだった

あとは顔を隠せるように、少し大きめのキャスケットを購入した。

 

 リンセンには少し大きめの黒いジャケットをチョイスした。

逞しい体つきに乱暴な言動を加えれば、まるでゴロツキと思われるだろうか。

どう文句を吐き捨てられても「任せる」と言われた以上は着させるつもりだったが。

 

「まぁ、これっきりの付き合いだろうし、後でもっと優秀な用心棒を用意すればいいかな。そろそろ宿に戻ろう」

 

 買い物を済ませてクローナは宿へと戻った。

 

だが、なにやらリンセンがブツブツと文句を言っていた。

部屋に不満があるらしい。

 

「おいクソ女、こいつぁ、この状況はどういうこった」

 

「どういうこと? どういうことって、どういうこと?」

 

 部屋はベッドが左右の壁際に二つ。

中央には家具の類もなく、代わりに安いカーペットと小さな窓があった。

ただし日当たり良好とは言い難いが。

 

 そして、

 

「部屋が狭ぇじゃねぇか! おい! どういうこった!」

 

「しょうがないでしょ。あなたはメシメシメシメシうるさくて、宿なんかお前が探せクソ女って言うから、ここにしたの」

 

「だからってよ! もっとマシな部屋があんだろ!」

 

「さっきの食事、どこかの貴族も来るくらいの高級料理だったのよ。部屋に関しては、お金がないんだから仕方ないでしょう。スイートルームで優雅に羽を伸ばせるとでも?」

 

 服に馬車に道中の食事代のうえにここの宿代だ。

クローナのサイフもすっかり軽くなった。

 

ちなみに高級料理というのは真っ赤なウソだ。

 

「任せるって言った以上は、我慢しなさい」

 

「あぁ!? 我慢しなさいだと!?」

 

「文句があるなら、自分で探しなさい。それも嫌なら外で寝なさい」

 

「ぐぐぐ。俺は犬か」

 

「さっきの話、もう忘れたの? あなたは用心棒として雇ったようなものよ。それなりの対価は支払っているの」

 

「ぐ……」

 

「屋根があって壁があってベッドがあるのよ。幸せでしょう」

 

「お前はいいのかよ」

 

「えぇ、狭くても結構。この状況で贅沢を言うほど愚かではなくって」

 

「そうじゃねぇよ。男と一緒の部屋で寝れんのかって聞いてんだよ」

 

「あら、そういうつもりがあるの?」

 

「ねぇよ!」

 

「なら、お互いに満足ね。私はもう寝るから騒がないよう、では」

 

 そう言ってクローナはさっさとベッドに潜ってしまった。

リンセンに対しては、まるで警戒していない。

 

「おいクソ女、ちょっと言いたいことがある」

 

「私はクローナエスクード

 

「うるせぇ。おい、なんか嫌な予感がしねぇか?」

 

「嫌な、予感?」

 

「……いや、なんでもねぇ。俺も寝る」

 

「そう、おやすみ、リンセン」

 

「あぁ、クソ女」

 

クローナ

 

「おやすみぃ!」

 

 

 

 翌日、疲れ知らずだと思われていたリンセンはぐっすり眠り、酷いイビキをかいていた。

片足がベッドからはみだし、お腹も丸出しだ。

 

 こんな状況でも規則正しく起床したクローナは、ニワトリの起床時間よりも少し遅いタイミングでベッドから出た。

 

 軽い準備運動、加えてストレッチ。

全身の血液の流れを良くするためにも必要不可欠なことだ。

規則正しく活動することで、寝るときはぐっすり、起きる時もバッチリなのだ。

 

 一通りの準備運動とストレッチを終えると、リンセンがよだれを垂らしながら目を覚ました。

 

「あぁ? おい、朝か……?」

 

「えぇ、おはようリンセン」

 

「あー、体が重いぜ、ったく」

 

「変な恰好で寝てるからよ。当然よ、具合が悪くても」

 

「いや、なんか、変な夢を見たんだよ」

 

「夢? なにを?」

 

「いや、なんか、古い記憶かもしれん」

 

「思い出した、というの?」

 

「いやなぁ、なんか風景が日本っぽくてなぁ。着物を着て刀を持ったサムライがたくさんいてよ。なんかすげぇ熱かった。あとは、女がいたな」

 

「熱い? 夏……? それに、女? 母親のことでは?」

 

「いや、俺よりは年下っぽかったな。誰かは知らんし、顔も分からんが」

 

「では、妹?」

 

「知らねぇよ。覚えてねぇ」

 

「……そう」

 

「お前は、いるのかよ兄弟」

 

「えぇ。少し年下の妹が。名はクローネ・エスクード。賢くて、とてもいい子なの」

 

「うー、そうかい。ま、とりあえずメシだな」

 

 質問するだけしといて、その回答には無視を決め込んだ。

そのリンセンの態度に、クローナは早朝一発目のため息。

 

「あなた、寝ても覚めても食べ物のことしか頭にないの? 食べ物のことしか」

 

「人間、食えるときに食うのが一番だろーが。メシなんて、どの生き物でも必要だろ」

 

 ほとんど味を感じないクローナには、理解に苦しむ話だった。

食事は栄養のため、空腹を満たすためでしかないため、楽しむという発想がないのだ。

 

 その点、リンセンのことが羨ましかった。

昨日は過酷な一日だったのに、それでも食事のことを考えて元気になれるのは、すごいことだな、と。

 

 宿が用意した食事は、なかなか良いものでリンセンも納得だった。

 

 サラダにスープに軽い肉料理に、とろけたチーズが躍るトースト。

実に朝に相応しいメニューだ。

 

 リンセンは他人の目など考えず、ひたすら口に詰め込んだ。

しかも手袋をつけたままだ。

恥ずかしくなったクローナは、少し席を離しながらスープに口をつける。

 

「リンセン、食べるときは手袋くらい外したらどうなの?」

 

「あぁ? うるせぇな。こいつは俺にとって魂みたいなもんなんだよ。外せるわけねぇだろ」

 

「その魂が、肉の油とチーズで汚れてるけど、それでも?」

 

「ったりめぇだろ。あとで適当に洗えばいいんだよ」

 

「簡単に洗えるなんて、使いやすい魂ね、安っぽくて」

 

「あぁ? そりゃどーも」

 

「それとリンセン。あなた、他人の目ってものが気にならないの?」

 

 ほかにも宿泊客はいる。

もちろん、行儀悪く食べるリンセンに対して嫌な顔を見せるのがほとんどだ。

 

「あぁ? いいだろ別に。それより、今日はこれからどうすんだよ」

 

「はぁ……まったく、あなたって人は」

 

「なんだよ」

 

「今日は馬車に乗って、私の故郷のフェルテに戻って家に帰る。

一日経過してもナイラ国の兵士は追ってこれなかったようだから、このまま帰っても大丈夫だと思うわ」

 

「ふーん、そうかい。じゃあ、俺は自由にやらせてもらうとするかなぁ」

 

「自由って、どうするつもりなの、あなた? まさか真面目に働くとでも?」

 

「あ? お前みたいなやつの用心棒やって、それで食ってくってのがいいかもな。悪党どもを十把一絡げに倒すのも面白いしな」

 

「あなた、頭の中は暴れることと食べることだけ?」

 

「あと、寝ることもな」

 

「夢の中でも戦ってたようだけど」

 

「年中無休なんだよ」

 

 最低限の食事を終えたクローナは席を立った。

だが、まだテーブルには食事が残っている。

 

「おい、どこいくんだよ」

 

「さっき言った通り、馬車に乗って家に帰るの。じゃあね、短い間だったけど、お世話になったわリンセン」

 

 クローナは軽く頭を下げた。

リンセンのことは正直気に食わなかったが、それでも命を助けてもらって、用心棒として雇ったのだ。

最後くらいは礼儀正しく去りたかった。

 

「私が残した分は食べてもいいから」

 

「あ? あぁ」

 

 店を出たクローナキャスケットを被り、馬車屋のもとへ向かった。

馬は元気にしっぽを振っている。

雲で太陽がほぼ隠れているので、馬車移動には最高の日だ。

 

 御者のおじさんが、クローナを見て手を振った。

 

「おぉ、昨日のお嬢さん。さっそく行くかい?」

 

「えぇ。お願いします」

 

「おや、昨日一緒に歩いていた坊主はどうした? あの、平たい顔の」

 

 平たい顔、つまりニッポン人という意味だ。

 

「彼は、ここでお別れです。別にケンカではないですよ。彼にも事情があるので」

 

「そうかいそうかい。ま、そういうことなら、さっそく行こうかね」

 

 屋根がつき、後ろには窓がはめ込まれた質の良い馬車に乗り込んでパタカの町を出た。

 

 そのとき、クローナが宿のほうへ視線をやったのは、リンセンのことが少しでも気になっていた証拠だ。

 

 この後に危機が迫ることを察してのことなのか、あるいは……。

 

 

 

 三章 リバース リ・バース

 

 

 

 そのとき、宿の中にいたリンセンは食事を終えて一人で部屋に戻っていた。

 

 二人分のベッドがある狭い部屋だったが、食後のストレッチくらいはできた。

 

 軽く手足を伸ばし、またベッドに寝そべる。

 

 クローナの用心棒として戦う仕事がなくなってしまった以上、これからの目標は特にない。

 

 しいて言うなら次の契約を結べる人物を見つけることだが、あいにくリンセンにはやる気がない。

腹が減らない限り、そこまでのやる気を発揮できないのだ。

 

「ふわぁあ……なんだか、眠くなってきたな」

 

 大あくびをかまし、ベッドの上で背伸びをする。

 

 リンセンにとって魂である手袋すらも外し、床にポイと雑に投げ捨てた。

 

「あの女、どうなるかなぁ」

 

 クローナのことが、気にならないわけではない。

 

 それでも、付き合いは短く、深い関係があるわけでもない。

 

一時的な協力者――一時的なやむを得ない協力者でしかない。

 

「美味いメシを食わしてくれんなら別だが、それならあの女じゃなくてもいいしなぁ」

 

 とりあえず、リンセンは空腹になるまで横になることにした。

 

 腹が鳴ったら、それが目覚めるタイミング。

そんな適当な気持ちで、ゆっくりと目を閉じた。

 

 満腹のせいもあってか、眠気はすぐにやってきた。

 

 これから夢の中へ招待されようとした直前、外から女性の悲鳴が聞こえ、リンセンはベッドから跳ね起きた。

 

 

 

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お題「マイブーム」

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「そのままの意味。この能力のせいよ。生まれたときから能力があるせいで、その代償として味覚がほぼないの」

 

「マジかよ。俺には耐えられねぇな。とてもじゃねぇけどよ」

 

「確かに、そう見えるけど」

 

「じゃあよ、その能力で味が分かるようにはならねぇのか?」

 

「能力はイメージ次第で大体のことはできるけど、これだけはどうにもならないの。どう頑張っても、通常の半分以下の味しか感じられない」

 

「ふーん。大変だな。メシを楽しめねぇってのは」

 

「そうね。私にとって、食事は楽しむものじゃなくて、あくまで栄養を摂取するものだから。この荒野を歩けるほどの栄養があれば大丈夫」

 

「そうかい。そりゃ、ご苦労なこった」

 

 あまり心配しているそぶりも見せず、リンセンはジョッキで水を飲みほしてテーブルに叩きつけた。

すでに注文した料理は全て平らげている。

 

「ふー食ったぜ食ったぜ! さて、じゃあ行くか」

 

「い、行くかって。まだ私は食べ終わらないんだけど」

 

「わぁってるよそんなこと。お前は食ってろ。俺は散歩してくる」

 

 散歩と言っても、外は灼熱の荒野だ。

 

「散歩って、いい加減にその恰好もなんとかしたら? 太陽の下じゃ厳しいでしょう」

 

 箱に閉じ込められていたときから、リンセンは上半身裸の状態だった。

 

この日差しが強い荒野でも、少しも動じずへっちゃらだったが。

 

「あ? ああ、そーいやそうだったな。別にいいけどよ」

 

 ひらひらと手を振り、リンセンは店を出た。

食後の運動というわりには、妙に活き活きした様子だ。

 

「あーもう。なんなのあの人」

 

 ピアストルにぽつりと愚痴をこぼす。

当然、ピアストルは気の利いた言葉など返せず鼻をヒクヒクさせるのみだ。

 

 これから先、どうしよう。

 

 この荒野をしばらく歩けば、荒野を抜けられる。

そこで別の町に到着して、馬車でも借りておけば家に戻れるだろう。

それまでは、あの男と行動を共にすることになる。

口が悪く態度も悪く、性格も悪い。

礼儀正しく真面目なニッポン人のイメージとは遠くかけ離れているが、果たして。

 

「あー、もう」

 

 ハンバーガーを半分まで食べたところで、その手は止まった。

今後のことを考えると、食が進まない。

 

「帰りたい……」

 

 全てはこの能力のせいだ。

 

 この能力さえなければ、こんな苦労をすることもなかったのに。

 

 普通の人間として、平和に暮らせたのに。

 

 味も、感じられたのに。

 

 クローナの夢は、味を感じることだった。

この目の前のハンバーガーやグレープジュースの味を、美味しいと思えるだけでよかった。

当たり前にできることが、当たり前にできない。

 

それが、クローナにとって苦しいところだ。

 

 もしも、自分の代わりに食事を楽しんでくれる人間がいるのならば、その人のために作ってあげるのも悪くはないと思っている。

自分の分まで楽しんでくれる人がいれば、それはそれでクローナにとって嬉しいことなのだ。

 

 ――食は進まないが、今後のことも考えて、しっかりと食事は平らげた。

 

 カウンターでマスターにお金を支払う。

リンセンはクローナの倍は食べていたが、助けてもらった恩を返すためにもきっちり支払う。

 

 リンセンの様子も気になり、再び太陽が照り付ける荒野へ出た。

 

「え? あの人、なにやってるの?」

 

 よく見ると、ガンショップの店員とリンセンがなにやら揉めていた

また厄介ごとか、簡便してよ。

と、クローナは頭を抱えながらガンショップへ向かう。

 

 木造のガンショップには、大量のピストルが並んでいた。

そっちの方面に詳しくないクローナだが、危険な臭いがすることは理解できた。

 

「ちょっとリンセン! なにやってるの!」

 

 リンセンはガンショップ店員の胸倉をつかみ、縦横無尽に振り回していた。

すでに店員の目はグルグル回っている。

 

「おっ! クソ女、ちょうどいいところに来たな! こいつをなんとかしてくれよ!」

 

「な、なんとかって。あなたが手を放せば済む話でしょう?」

 

「あぁそうか」

 

 解放された店員は虚ろな目で背中から倒れた。

すぐにクローナが駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか」

 

「あ、あああ。こいつ、いきなり服をよこせって乗り込んできやがった。うちはガンショップだっての、服なんか売ってるわけないだろよ」

 

「あ、そ、そんなことが」

 

 しかしリンセン、反省の色なし。

無色透明。

 

「ちょっと! リンセン! こっちに来なさい!」

 

 クローナはリンセンの背中を押し、ガンショップを出た。

力では到底かなわないので、僅かに能力を使ってリンセンの体重を軽くしたのだが。

 

「おいおい、なんだよ」

 

「あなた! どうしてそう人様に迷惑をかけるの!」

 

「あぁ? おめぇが言ったんだろ。服をなんとかしろって」

 

「服を買うなら服屋に行かなきゃダメに決まってるでしょう!」

 

「そういうもんなのか?」

 

「当たり前! 当たり前なの! 常識!」

 

 暑さでイライラするクローナにも限界が近づいていた。

日だけでもかなり能力を使用した。

そろそろぐっすり眠らないと、途中で倒れる。

 

「もう、あなたは面倒ごとを起こすんだから、勝手に動かないで」

 

「あぁ? 命令してんじゃあねぇよ」

 

「あーそう。いいのかしら? 荒野を抜けて町にたどり着けば、もっと美味しいご飯があると思うけども、いいのかしら?」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

 瞬時にリンセンの目の色が変わった。

 

 この瞬間っ!

 

 クローナはリンセンの操り方を覚えた。

困ったときは、食べ物で釣ればいい、と。

 

「な、な、な、なにがあるんだ!」

 

「そうね。この先のパタカに行けば、冷たいアイスキャンディがあるんじゃない? あとは、甘―いケーキ、とか、あるんじゃない? 服もそこで買えるだろうし」

 

「よ、よし。じゃあ行こうぜ」

 

 クローナはもう一度ガンショップの店員に頭を下げ、リンセンと共に歩き出した。

その辺の木の棒を能力で日傘に変身させれば、日光対策もバッチリだ。

体力を消耗するが、日差しに焼かれるよりはいい。

 

 だが、強い日差しは徐々に引っ込んでいった。

 

大きな太陽は雲に隠れ、二度くらい気温は下がった。

 

「あら、雨? 雨が降るの?」

 

 日傘をたたみ、手のひらを出す。

曇ってはいるが、雨は降っていないようだ。

 

「好都合ね。暑くもないし、雨も降らないし、好都合」

 

「だな。さっさと進んじまおうぜ」

 

 再び二人は並んで歩き出した。

 

 やはり日が出ていないだけでかなり楽ではあったが、道中のリンセンの文句は絶えなかった。

 

「おい、まだ到着しねぇのかよ」

 

「私に言われても、困るわ」

 

「いい街なんだろな? メシはホントに美味いんだよな? おい」

 

「だから、そうだって言ってるでしょう」

 

「さっきの町はよ、ただの休憩所だろ。ケチな小屋がちょっとあるくらいじゃねぇか。メシは美味かったけどな」

 

「褒めるのか、文句を言うのか、どちらか一方にしたら?」

 

「あぁ? 俺の勝手だろ。いいからさっさと町に到着しろよ」

 

 この道中、クローナは数十回もため息をついた。

 

ここまで乱暴な人間になど会ったことがなかったからだ。

精神的ストレス、身体的ストレス、その両方が重くのしかかる。

 

「リンセン、あなた、そんな性格だといつか損をするわよ、いつか」

 

「あぁ? そーかい? 周りの連中の目を考えて地味に動くよりいいだろ。俺は嫌いなんだよ。自由になれないことと曲がったことがな」

 

「そう。私も曲がってることが大嫌いよ。あなたの口とヘソみたいに曲がっているものが、大嫌いよ」

 

「違いねぇや! 直しとくぜ! ははは! 面白ぇな!」

 

 なにが面白いんだ。

 

 クローナは特大のため息を吐き出すも、もちろんリンセンは気づいていない。

 

「そーいうお前こそ、クソ真面目なのも考えものだぜ。なに食ってたらそうなるんだ」

 

「あいにく、グルメには関心がないから。もともとこういう性格なの」

 

「美味いもん食ってれば、いつかは味も分かるようになるだろ! たらふく食えよ!」

 

「あのね、自分の能力のせいで味が分からないんだって言っているでしょう」

 

「んなこと言ってるから味が分かんねぇんだよ! とにかく食いまくれよ」

 

「あー、ごめんなさい。もういいわ。その話は、もういい」

 

 この男と会話していても、支離滅裂な方向にしか進まない。

 

 そう悟ったクローナは、無理に会話をすることもなく、話題を振られても軽くあしらうようになった。

 

 吊り橋効果、なるものがある。

 

 危機的状況に立たされた男女ならば、自然とお互いがお互いを意識し、惹かれ合う。

そんな効果である。

 一方は敵国に攫われそうになり、一方は箱に閉じ込められ異国から連れられ、そして敵から逃げてすっかり疲労しきった体で荒野を歩くという状況。

まさに吊り橋効果だ。

 

 なのに、いまいち絆が深まらない。

むしろ、言葉を交わすたびにお互いの悪い部分ばかりが露わになる。

これは、仲間と呼べるものではない。

 

 もっとも、リンセンは気にしておらず、クローナはすでに諦めているが。

 

「ここよ」

 

 吊り橋効果は無残に砕け散り、町に到着。

 

 すでに荒野は抜け、短い草が生い茂るエリアに突入している。

町の中も例外ではない。

 

 高めの壁に囲まれ、立派な門が訪問者を迎える。

レンガ造りの建物は、まさに最新式、最先端の技術だ。

人も多く活気にあふれ、人々も笑顔だ。

この町が良い街である証拠だ。

 

「おお! でっけぇ町じゃねぇか! で、なんて町だっけか?」

 

「パタカよ。あなたみたいな荒くれものが騒ぐと追い出されるから、注意してね」

 

「はは! 冗談も言えるじゃねぇか! いいからさっさとメシ食おうぜ! なぁ!」

 

 リンセンはガハハと笑い、クローナの細い腕を鷲掴みにして歩き出した。

どこがどんな店なのか把握していないが、とりあえずガンガン進む。

 

「ちょ、ちょっと! 痛いでしょ! 引っ張らないで!」

 

「あぁ? いいだろ、別に。さっさとメシ食わせろよ」

 

 いい加減、怒りが限界に達した――いやもう突破しているが――クローナは、リンセンがつかむ腕を強く叩いた。

 

「痛っ! おいクソ女! なにしやがる!」

 

「あら、ごめんなさい。言葉で言っても分からないから、行動で示したの」

 

「て、テメェ。俺がいなかったら、列車で攫われてただろうが! それにさっき悪党どもから助けてやったんだからその態度はねぇだろ!」

 

「だから、それはさっきの食事で返してあげたでしょう。あなたこそ、その態度は非道よ」

 

「へっ! そうかいそうかい! そうかいそうかいそうですかい!」

 

「なに、怒ったの? あなた、怒ったの?」

 

「俺はなぁ、腹が減ると機嫌が悪くなるんだ。悪ぃな。機嫌が悪くて」

 

「そう。じゃあ、私がいなくてもその機嫌を直せるのね」

 

「あぁ? どういうこった」

 

「あなた、お金ないんでしょう。ニッポンでもエンギルダ国でも、お金がないと食事はできないはずだけど」

 

「ぐぐ、て、てめぇクソ女。金があるからって調子に乗りやがって」

 

「そんなつもりはないわ。あなたが乱暴に引っ張ったりしなければ、私も同行したっていいの。私だって、あなたを抜きにして進むのは危険だと思うわ」

 

「へっ、金とメシで釣って、用心棒として雇うってか? いいご身分だな」

 

「互いに利益のある話だと思うけど?」

 

 

 

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ブログ小説(5)暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

お題「マイブーム」

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「けっ、勝手にしろ。クソ女」

 

 早々に、しかもこんな場所で仲間割れになってしまった。

いや二人が仲間だったかどうかは謎だが、少なくとも協力関係は脆くも崩れただろう。

 

 歩き出して五分。

クローナの消耗は激しかった。

まともな準備もせず、方角も曖昧で、水もない。

ピアストルにも厳しい状況だ。

 

 振り返る。

すっかりリンセンの姿など見えなくなっていた。

調子こいてここまで来てから、ようやく後悔する。

意地なんか張るんじゃなかった、と。

 

「私、なんてバカなんだろう。焦ってるのかな」

 

 なるべく使いたくはないが、もしものときは能力を使って水でも出しておこうと思った。

意地を張って死ぬのは格好が悪すぎるというものだ。

 

「おいお嬢さん。一人か?」

 

 いつの間にか二人の大男が立ちはだかっていた。

どう見ても善人ではない。

盗賊や山賊の類だ。

 

「お嬢さぁぁぁん? 危ないよ、こんな荒野を一人で歩いていたら、悪人に捕まっちゃうよ。危ないよぉぉぉ?」

 

「な、なんなの、あなたたち。なんなの」

 

「いい質問だ。俺たちがまさに、悪人だよぉぉぉ!」

 

 下品な声をまき散らし、二人の男はクローナに襲い掛かった。

咄嗟のことに能力を使えなかったクローナはその場に倒れこむ。

 

 その時、颯爽とヤツが現れた。

 

「うるせぇ!」

 

「げぼぉぉぉおおお!!」

 

 これは痛いっ!

 

 男たちの顔に何者かの足が食い込んだっ! 歯が数本はじけ飛び、倒れ伏す。

これは何者かっ!? 颯爽と現れたこいつは、何者かっ!?

 

「テメェら、俺の目の前から消えねぇと、十把一絡げにぶっ飛ばすぞ!」

 

 男たちは小動物のように速攻でとんずらを決め込み、地平線の彼方へ消えた。

 

「あ、あなた!? どうしてここに?」

 

 そこにいたのは、もちろんリンセンだった。

 

「理由は三つ。俺は弱っちいやつを放っておくことが気に食わない。お前はともかく、そのハリネズミに罪はない。そして俺は、やっぱり美味いメシを食いたい!」

 

 こうして、たった五分の別行動は終結した。

 

 お互いに納得のいかないところはあったが、別行動をしても得をすることはない。

仲良くとはいかないが、二人は再び歩き出した。

今度は、お互いに横に並んで。

 

 この二人、反りが合わないように見えるが、不思議な化学反応がある。

いつか何かを成し遂げるような、そんな化学反応が。

 

 

 

 一方そのころ!

 

 リンセンたちを逃したラッツは、その無様な報告をするため本部へと戻っていた。

ボスがいる部屋は真っ暗で、目の前にいる男以外はほぼ見えない状況っ!

 

 これほどまでの失敗をすれば、失敗の責任を取るため命を奪われるだろう。

ラッツの額からは滝のように汗が止まらなかった。

危うしラッツ!

 

「ラッツ、貴様、失敗したな」

 

「は、はい……クローナエスクードとニッポン人は、逃がしてしまいました」

 

「そうか。そうか。ククククク」

 

 ラッツの目の前では、全身真っ黒スタイルの格好をした男が偉そうに足を組んで座っていた。

片手にはワイングラスがあり、金の指輪とネックレスが輝いている。

その膝には細い眼をした性格の悪そうなペルシャ猫が一匹。

こいつも偉そうだ。

 

 この男、グールドという名前以外はほぼ謎に包まれている。

ラッツも当然、その真実の姿や詳細を知らない。

 

「ぐ、グールド様! なんなりと、なんなりと罰をお与えください! この私に!」

 

 罰。

つまりそれは、死刑とほぼ同じようなものだ。

 

「罰か。罰ね。罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰。ククク、その必要はないよ、ラッツ」

 

「そ、それはどういうことで……?」

 

「あのニッポン人。たしかサムライの国から連れてきたそうだねぇ」

 

「え、えぇ。その通りでございます。現在あのニッポンは、カタナと呼ばれる剣を腰にぶらさげるサムライなるものがいるそうです」

 

「うーん。それとそいつが持つ手袋も、面白いねぇ」

 

 ラッツから手袋については聞いていた。

 

 ただでさえズバ抜けた身体能力を有するリンセンが手袋を使って変身し、棍棒一本で電車を食い止めたことは、この男も驚愕した。

さすがに驚愕したっ!

 

クローナエスクードと一緒に逃がしたのはかーなーりの失態だけどねぇ。でもねぇ。それはそれで面白いよぉ、ラッツ」

 

「お、面白い、と言いますと」

 

「その隣の箱を見てごらん」

 

「は、箱ですか?」

 

 確かに、よく見るとラッツのすぐ横に棺桶ほどのサイズの箱があった。

 

 恐る恐るラッツはその箱を開ける。

 

「こ、これはっ! これはっ!?」

 

 箱を開けた直後、ラッツは飛び上がって腰を抜かした。

ガイコツか? 死体か? その箱の中身とはいったい!?

 

「ラッツ、恐れることはないよ。それは、きみの仲間さ」

 

「な、仲間……?」

 

 箱の中には、一人の少女が眠っていた。

クローナとそう変わらない、十七・八くらいの歳だろう。

 

花柄のキモノに、歩き辛そうなゲタを履いている。

まさにニッポン人の服装だ。

 

 その手には、リンセンと同じような手袋がつけられていた。

 

 ただし、獅子の模様が刻まれていたリンセンに対し、こちらは鷲の模様だったが。

 

「それはね、別に回収したニッポン人だ。そっちもリンセン同様に兵器として使ってやろうかと思ったけどねぇ。いやはや、性格に難があり、困っているんだよ」

 

「せ、性格に難が?」

 

「そうさ。やんちゃな性格でねぇ。ちょっと見てみようか」

 

 グールドがパチンと指を鳴らすと、箱で眠る少女が目を覚ました。

上体を起こすと、美しい黒髪がなびく。

 

 箱から出て立ち上がる。

その華奢な身体はどう見ても戦闘に適した体格ではない。

華奢で、小柄で、まるで子供だ。

 

「お、お言葉ですがグールド様。このような子供が、仲間と申されましても」

 

「まぁ見ていたまえ」

 

 壁のシャッターが開き、クワンザが三体も姿を現した。

これから始まる戦いを待ち望むかのように、無骨な関節を軋ませる。

 

「この少女の名はリョウ。リンセンに対抗できる、すごい子だよ」

 

 グールドがリモコンを取り出してボタンを押すと、クワンザの目が赤く光り、一斉にリョウに向かってジャンプした。

 

 その絵面っ! ハタから見ればただの殺しっ!

 

「あ、あああ! クワンザが飛びかかってきたら、ひとたまりもない! ひとたまりも!」

 

 ラッツが再び腰を抜かす。

 

 三体のクワンザはリョウに覆いかぶさり、小柄なリョウの姿は完全に消えた。 

 

 死んだ、さすがに死んだ。

 

 ラッツはそう思った。

 

 だが。

 

 突如、クワンザたちが爆風を受けて三方向に吹き飛んだっ! ラッツは目を疑う。なんだ、これは、と。なんなんだぁぁぁ!? これはぁぁぁ!? と。

 

 爆風の中心には、リョウがいた。

だが、さっきとはまるで姿が違う。

 

 頭部には桜が散りばめられた桃色のメットが装着され、キモノ風デザインの花柄鋼鉄スーツが全身を覆っている。

だが足元までの長いキモノではなく、膝少し上あたりまでの短いタイプだ。

 

 そしてクワンザたちを弾き飛ばしたのは刀でも槍でもない。

 

 その小さな手にあったのは、扇だ。

一撃で敵を粉砕する、鋼鉄製の扇。

 

 シノビか? サムライか? ゲイシャか? いや、どれも違うっ! リンセンと同じく、変身したのだっ!

 

 クワンザは諦めず再起動し、再びリョウに飛び掛かった。

リョウが鋼鉄の扇で軽く薙ぎ払うと、クワンザたちをたちまち一刀両断した。

 

「こ、これはっ!? これはなんだ!?」

 

「ラッツ、驚いただろう。こいつは我がナイラ国の兵器さ。鋼鉄のキモノを身にまとい、鋼鉄の扇を振り回す。まるで、超技術で作り出したスーパーテクノロジーキモノだよ。こんなものがニッポンにあるなんてねぇ。すごい国だ。サムライの国とは」

 

「こ、これは科学力なのですかっ!? ニッポンの」

 

「さぁ、それは分からないが」

 

「ぐ、グールド様。この少女がいれば、リンセンやクローナエスクードなど必要がないのではないでしょうか? これほど強ければ……」

 

「ラッツ。私はね。完璧を求めるのだよ、私はね。一つを手に入れたら、三つ集めないと気が済まない。そういうことだよ」

 

「で、では私の任務は、このリョウという少女とともに、クローナとリンセンを捕まえることで?」

 

「ザッツライト! その通りさ。じゃあ頼むよ。ザッツライト!」

 

「は、はっ! 直ちに! ザッツライト!」

 

 失敗したのに、命があっただけでもラッキーなものだ。

しかももう一度チャンスをくれるとはラッツは運がいい。

 

「でもね、ラッツ」

 

「は、はい?」

 

「次はないよ」

 

 ラッツは深く頭を下げ、グールドの部屋から退出した。

次は、ない。

 

 

 

「ここが町か」

 

 クローナとリンセンは、一時間をかけて町に到着した。

 

 木製の建物がいくつか並び、荷物を運び入れる馬車が何台も通過している。

だがほとんどの建物は使用されておらず、残っているのは寂れた酒場と小さなガンショップのみ。

 

「おい、どこが町なんだよ。ただの廃墟じゃねぇか、廃墟。建物よりも馬車のほうが多いしよ」

 

「そう? 確かに寂れているけど、悪い人はいないのよ。活気もあるし、気温が高いことを除けばいい場所なの。夕方になればガンマン同士がモデルガンで決闘を始めるし、さらに活気が出るの。チンピラだらけの町だったら、わざわざここに来ないわ」

 

「へっ。そうかい。まぁメシが食えればそれでいい。さっさと入るぞ」

 

 リンセンは舌打ちをしながらも、両開きの扉を開けて中に入った。

だが意外にも、人はほとんどいなかった。

 

 四人掛けの丸テーブルが四つ。

しかし店にいるのはマスターを含めて六人のみ。

 

「おいおい、これのどこが活気に溢れてんだよ。どこが」

 

「おかしいわ。いつもなら飲めや歌えやの大騒ぎなのに、おかしいわ」

 

 マスターに事情を尋ねると、今日は特別に暑いから、ということらしい。

確かに酒を飲むために気軽に立ち寄れる気温でもない。

 

「まぁ、うるせぇよりはいいか。おいクソ女、さっさとメシを注文しろ。美味い飲み物もな」

 

「……もう少し、頼み方ってものはないの?」

 

 ハンバーグ、骨付き肉、ステーキ。

とにかくカロリーの高そうなものばかり注文し、リンセンはその全てを平らげるつもりだった。

自称、無限の胃袋。

らしい。

リンセンの手にかかれば、メシなどたちまちに吸い込まれていく。

 

「おいおいおいおい! 美味ぇじゃねぇか! おいクソ女、お前はそれしか食わねぇのか?」

 

 クローナのテーブルにあるのは、少し大きめのハンバーガーとグレープジュースのジョッキのみ。

後はピアストルが飲む水が入った小さな皿だけだ。

荒野を一時間も歩いたにしては少々足りない量だが。

 

「わ、私は、遠慮しておくから」 

 

「ここで食っとかねぇと、後で大変だろ、おら食えよ」

 

 リンセンはフォークで突き刺したステーキの切れ端を、強引にクローナの口に放り込んだ。

 

「あふっ!」

 

「おら、美味ぇだろ! な! な!」 

 

 まるで自分が作ったかのようなテンションでリンセンは喜ぶ。

 

 だが食べなければ後が大変なのも事実だ。

クローナはしぶしぶステーキを咀嚼して飲み込んだ。

 

「私は、美味しいとか、そういうのは興味ないから」

 

「は!? 美味いメシに興味ねぇのかよ?」

 

「私は、味がよく分からないの」

 

「あぁ? どういうこった?」

 

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ブログ小説(4)暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

お題「マイブーム」

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「おい、クソ人類の女。なにへばってんだよ」

 

 リンセンはクローナに容赦のない言葉を浴びせる。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。私は、今、すっごく疲れているんだから」

 

「あぁ? どういうことだよ。河に落ちずに済んだのは俺のおかげだろうが」

 

 大いに勘違いをしている。

これはクローナの能力によるものだ。

 

 そもそもこれは――

 

「バカ言わないでよっ! あなたが急に気が変わって飛び込まなければ、こんなところに来なくてよかったのに!」

 

「しょうがねぇだろうが! あいつをぶちのめそうとしたら急に腹が減ったんだからよ!」

 

「な、なんなの!? そんな理由なの!?」

 

「へっ。命があっただけマシだと思え。俺がいたおかげで死なずに済んだんだからな」

 

「ち、違うわ。ここまで来たのは、私の能力があったから。力を振り絞らなかったら、今頃は水面に叩きつけられて死んでいたはず」

 

「あぁ? 意味分かんねぇよ。いいからさっさと歩けよノロマ」

 

「の、ノロマっ!?」

 

 一瞬だが、怒りのせいで全身に力が漲った

だがすぐにそれは痛みに代わる。

 

ノロマだろうが。いつまでもグダグダグダグダ、女は貧弱だから困らぁ」

 

「あ、あなたね。そういう言い方は、どうなの?」

 

「いいからさっさと歩けよ。置いてくぞ」

 

「あ、歩きたくても歩けないの! あなたなんか不要だから、どこへでも行きなさい!」

 

「そうかい。じゃあ、そこで寝てな。ゆっくり寝てなよ」

 

 リンセンは良心のカケラもなく、ぷいっとクローナから背を向けた。

 

「ちょ、ちょっと待って! 待ってよ! ちょっと!」

 

 すかさず呼び止める。

疲れ切った体を晒していては、野生動物たちに上質な生肉を「はいどうぞ召し上がれ」と差し出しているようなものだ。

 

 地面が乾いていたから泥がつかなかったのが幸いか。

 

「あぁ? あんだよ、どっちだよ女」

 

「そ、その……おぶって。近くの町まで」

 

「俺を召し使いにするつもりじゃねぇだろうな? 悪いがそれは無理な相談ってもんだぜ」

 

「あなた、お腹すいているでしょう。私がご馳走するから」

 

「お、おい。本気か? 本気なのか、おい」

 

「そ、そうよ。あなたには助けてもらったんだから、お礼はするから。口は悪いけど……」

 

「一言余計だな、断る」

 

「う、ウソウソウソ! ウソだから! いいから、今だけは助けて! お願いぃ!」

 

 わずかな力を涙に注ぎ込んだ。

 

ここまで来たらヤケだとばかりに、子供のように涙を流した。

 

「わぁったよ! 近くの町までだぞ。またグズグズ文句言ったら捨てるからなクソ女」

 

「た、助かるわ!」

 

「そりゃいいけど、あのハリネズミはどうした」

 

「え?」

 

 リンセンの質問に答えるように、草むらからピアストルが姿を現した。

 

「ぴ、ピアストル! 無事だったのね!」

 

「そいつも連れてくんだろ、早くしろ」

 

 その場でしゃがみ込み、リンセンは背中を向けた。

乗れ、ということである。

 

「あ、あなたは優しいのか厳しいのか、よく分からないわね」

 

「あぁ? ゴタゴタ言ってると連れてかねぇぞ、おい」

 

「ご、ごめんなさい。分かったわ」

 

 ほとんど倒れるように、クローナはリンセンの背中におぶられる。

不服ではあったが、それはクローナを助けるための正義感ではない。

 

 

「お、重くない?」

 

「どうだかな。もうちょっと痩せてから言えよな、クソ女」

 

 やっぱりここで待っているべきだった。

 

 クローナの頭にはそんな後悔があった。

だが回復までどれだけの時間を要するのか未知数だ。

こんなところで待機するのは危険極まりない。

 

「んで、どこをどう進むんだよ」

 

「さっきの駅から見て、おそらくここは……名前は忘れたけど、知っている河よ」

 

「頼りにならねぇな」

 

「ううう」

 

「それで、どうすんだよ」

 

「ついさっきは山の上にある線路から落ちてきたの。だからあそこまで戻るのは厳しい。かといって河を登っても山しかない」

 

「つまり、下か。河を降りるのか、お前をおぶって」

 

「申し訳ないけど、そういうこと。下には荒野があって、進めばすぐ町に到着するから」

 

 それから、リンセンは文句を言いながらも河をひたすら降り続けた。

体力だけは無限のようにあるため疲れたとだけは言わなかったが、「面倒」や「やってられねぇ」といった文句は絶えなかった。

 

「ところで、さっきは手袋で変身したけど、あれは使えないの?」

 

 一撃で列車の動きを停めるほどの姿に変身できるあの手袋さえあれば、山くらいはひとっ飛びで楽勝にクリアできるはずだ。

だがリンセンは首を横に振る。

 

「あの箱ん中にいたせいか知らねぇが、いまいち力が出ねぇ。さっきは勢いだったからな、勢いでなんとかなった、勢いで」

 

「そ、そう」

 

 お互い、特別な能力を持ちつつも、それを使う余裕がない。

もし敵が出現すれば、厳しい勝負だ。

 

 クローナの体力も少し回復してきたころ、ついに河が終着した。

森だったエリアも次第に乾いた砂が混じるようになり、気づけば周囲には赤茶けた裸の山や砂の大地が広がっていた。

 

 雲一つない空から大きな太陽が照り付け、地上の水分という水分を全て奪う。

 

いくらか植物も生えていたが、申し訳程度のものでしかない。

本当なら、馬でもいなければ厳しい場所だが、進むしかない。

 

「おいおい、どこに町があるんだよ」

 

「あそこ見て、大きなとがった山があるでしょう」

 

 確かに、地平線の彼方にとがった山があった。

ひときわ高い山で、異常に目立っている。

 

「あの真下には町があるの。あそこを目指せば大丈夫だから。一時間くらい進めばいいから」

 

「あぁ? てめぇ、さっきはすぐ町があるって言っただろ」

 

「ここはコルナ荒野。一時間なんて近いほうよ」

 

「くそ、騙しやがったなクソ女」

 

「いいの? 町に到着すれば美味しいご馳走があるはずだけど。いいの?」

 

「ぐっ」

 

 滴る肉汁。

 

 輝く骨付き肉。

 

 そしてこの乾いた大地に必要不可欠の、冷たい水。

 

 ご馳走を想像すると、リンセンの口元から一筋のヨダレが流れた。

 

「あなた、お金なんか持ってないでしょう」

 

「わ、わぁったよ! 行けばいいんだろ行けば! ずる賢いぜ、クソ女」

 

「それと、そのクソ女っていう下品なのもやめて。私はクローナエスクードっていう立派な名前があるの。立派な名前が」

 

「はいはい。分かりましたよお嬢様。ご招待いたしますよ」

 

 舌打ちをしつつ、リンセンは荒野を歩きだした。

 

 この、一時間という時間。

クローナは絶好の機会だと思った。この謎の男について、質問する実にいい機会だと。

 

「あなた、あの変な箱に入っていたけど、何者なの? ニッポン人っていうのは分かるけど」

 

「あぁ? 俺もよく知らねぇよ。過去のことなんぞ分からん」

 

「そ、そう。じゃあ言葉が通じるのはなぜ? ニッポン人とは言語が違うはずだけど」

 

「なんだか分からねぇが、この国の言語を詰め込まれたよ。方法は分からんけどな」

 

 このエンギルダ国で兵器として使うためリンセンを連れてきたのだ。

言葉がわからなければ指示も出せないだろう

おそらくそのためにリンセンは言語を脳内に叩きこまれたのだ。

あくまでクローナの予想でしかないが。

 

「じゃあ、逆にニッポンのことは分かる? 家族のこととか、自分のこととか」

 

「さぁな。曖昧なんだよ。そんな感じがある」

 

 箱に閉じ込められるついでに記憶も抜き取られた。

そんなところだろう。

 

「その手袋については?」

 

「これなら覚えてる。サムライ魂を持つ男の頂点に立ったやつだけが扱える手袋……だったかな。まぁ、それは俺らしいがな」

 

 それも、あくまでリンセンの予想でしかないが。

 

「つまり、よく覚えてない、と? そういうこと?」

 

「だな。まぁどうでもいいけどな。それより、なんで質問する? 俺のこと知ってどうする」

 

「知っておいたほうがいいでしょう。こんなことになった仲なんだから」

 

「そうか。じゃあ俺からも質問がある。いいだろ」

 

「いいけど、べつに。どんな質問?」

 

「そもそもお前、なんであんな列車なんか乗ってたんだよ」

 

「私、能力があるから、いろいろなところに招待されるの。戦争などではなく、人を楽しませるためにね」

 

 能力があれば、軽いサーカスや舞台の演出などもお手の物だ。

 

 噴水を利用して水を噴出させたり、炎を操って派手に演出させて人を楽しませる。

それがクローナの仕事だ。

 

「楽しませる? その能力でか」

 

「そうよ。私なりにできる精いっぱいのことをしたいの」

 

「でもよ、そんなことしてたらすぐに周囲にバレるだろ」

 

「大丈夫よ。人前に出るときは仮面と帽子があるから。有名人にはならないの」

 

 こんな能力があるのだ。

クローナを悪魔と罵る人だっている。

悲しいが、人間とは異質なものに恐怖を抱くのだ。

だから無駄なトラブルを避けるため、仮面と帽子は欠かせない。

 

「ふーん、そういうもんか」

 

「そういうもの。私は普通じゃないから、普通

じゃないなりに生き方があるの。そうやって色々やっていたのに、ナイラ国は私を攫って戦争に利用しようとしたの」

 

「たしかに、俺をあんな箱に閉じ込めやがったあいつらなら、戦争に使いそうだ」

 

「あなたは、私のこと不気味だと思わないの? この特殊な能力とか」

 

「あぁ? 別に思わねーよ。クソ人類なんぞ興味ねーからな」

 

「……そう」

 

 理由はどうあれ、能力を不気味だと思われていないことに安堵した。

もちろん場所によっては、クローナを悪く言う人だって少なくない。

ンセンの無関心が、逆に心地いいものになっている。

 

「もう一個質問がある」

 

「はい?」

 

「能力のことに決まってんだろ。河に落ちるとこだったのに、なんであんなことできるんだ」

 

「能力については、あまり語りたくない」

 

「んだとおい!」

 

 背中を思い切り反り、おぶっていたクローナを背中から振り落とした。

 

不意に背中から地面に叩きつけられたクローナの頭の上からピアストルがボール状になって転がる。

 

「きゃっあ! ひ、非道じゃない! ちょっと、あなた非道よ!」

 

「てめぇ、俺は自分のこと説明したぞ。お前もちゃんと説明しろクズ女」

 

「ちょっと! さっきはクソだったのに、クズになってるじゃない!」

 

「クズはクソより下に決まってんだろ、カス女」

 

「カっ……」

 

「おいどうした、そこで寝てるか? この太陽の下で寝てたらステーキになるんじゃねぇか? ウェルダンになるまで寝てるか?」

 

「な、なによ! 私だって、もう立つくらいなら」

 

 僅かだが、力を込めることはできた。

 

 ピアストルを再び頭に乗せ、腰についた砂を払った。

 

「お、おい! 立てるじゃねぇか!」

 

「もういい。ここでお別れね。さようなら、ニッポン人」

 

 そう言い捨て、クローナはリンセンから見て左手に進んだ。

だがその先、町など見えない。

 

「おい、どこ行く」

 

「こっちに三時間進めば、別の町があるの。そこまで行く。一人でね」

 

「一人で行くだぁ? そんな細っこい体で行けんのか? 五分と歩けないだろぉが」

 

「だ、大丈夫よ。平気だから。大丈夫」

 

「歩くなんて面倒なことしてないで、体力が戻ったなら能力とやらを使えばいいだろ」

 

「できるだけ頼りたくないの。歩いて行くからいい」

 

 もうほぼ完ぺきと言っていいほど意地だった。

正直、たった一人でたどり着ける自信はなかった。

だがクローナも子供であり、リンセンに意地を張ることばかり考え、先が見えていないのだ。

この荒野、ナメたら本気で死ぬ。

ナメるの厳禁!

 

 

 

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ブログ小説(3)暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

お題「マイブーム」

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真正面からクワンザと組み合い、リンセンの全身にパワーが漲る。

 

 その力の迸り、さながら無限大のエナジー宿る生命の奔流っ!

 

「うごおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 血管ぶち切れ寸前のリンセンは、それでもクワンザを力で押し込む。

さすがのハイパワーに、ラッツは驚愕せざるを得ない。

 

「あ、あいつめ! あのクワンザを力だけで押すとは! あの手袋にも興味あったが、こいつはすごい! この男自身も想定外の強さだ! だが!」

 

 ラッツはリモコンで指示を出した。

 

 クワンザの顔にあるランプが激しく明滅し、関節から蒸気を吐き出した。

 

「やれ! やるんだクワンザ! そいつをぶっ飛ばせ! このラッツ様を守れ!」

 

 クワンザの両腕がでたらめに動き回り、まだ目覚めたばかりで全力を出せないリンセンにど派手なアッパーカットを炸裂させるっ!

 

「あがぁぁああ!!!」

 

 バネで飛ばされたかのように天井をぶち抜くっ! 人型の穴が開通してリンセンは列車の前に放り出された! これは痛い!

 

 同タイミングで駅に到着した列車は急停止し、リンセンと列車が向かう合う形になる。

 

「素晴らしい! クワンザ! 素晴らしいぞ! どれ、見てみよう!」

 

 ラッツは、なんとか無事でいられた仲間を引き連れ、列車の最前列にまで向かった。

ウキウキとした気分で、晴れやかな気持ちだ。

 

「見ろ! あそこに倒れているぞ!」

 

 ラッツが興奮気味に窓から覗くと、満身創痍のリンセンが線路上に倒れていた。

 

「よし! もう一度だけ列車を動かして、目の前のニッポン人を轢け! あれほどの強さなら、列車で轢いても瀕死で済むだろう!」

 

 操縦席にいる仲間に指示を出した。

もちろん、運転手もナイラ国の人間である。

運転手は意気揚々と敬礼し、ほどなくして列車が再始動した。

 

「あなたたち! なにしてるの!?」

 

 異変に気付き駆け付けたクローナが、ラッツたちの背中に叫ぶ。

 

「おぉ! クローナエスクード! いつの間に目隠しとロープを外しているか!」

 

 ラッツの仲間たちがクローナを捕まえた。

能力を使用しすぎたせいで疲労が蓄積されたクローナには、抵抗する力など残されていなかった

 

「逃げ出そうとしたのだろうけどね、甘いね。あなたは我が国に来てもらうし、あのニッポン人もボロボロにしてまた箱に入れて連れていくつもりだ。諦めなさい」

 

 動く列車の数メートル先には、力なく倒れるリンセンがいる。

よろよろと立ち上がり、ニヤリと口元を緩めた。

 

「な、なんだあの余裕は! もういい! 腹が立つ! 殺しても構わん!」

 

 ラッツの指示で運転手はスピードを上げた。

 

「へっ! その程度でこの俺を仕留めようってのか! 甘ぇんだよ!」

 

 何百倍ものサイズ差がある列車を前にしても怯むことなく、リンセンはやはり余裕の表情を崩さない。

 

 そこで驚愕っ! リンセンは気高き獅子の模様が刻まれた例の手袋に触れた!

 

「おおお!? あのニッポン人! まさかあの手袋を使う気か!」

 

 手袋に触れた一瞬。

 

 リンセンの肉体を赤黒い鋼鉄が覆った。

それはまさにスタイリッシュな武者と表現しよう。

変身だ! スタイリッシュ武者の姿に、肉体が変身している! その姿に興奮するのはラッツ! 驚愕するのがクローナ

 

 瞬時にリンセンの体は、完全にスタイリッシュ武者の体となり果てた。

 

 カタナを持たない、武者の姿に。

彼は、なった!

 

 武者の鎧に孫悟空のような棍棒とは、これは実に不釣り合い。

だが外側のカッコよさよりも内側の強さを求めるのが、彼、リンセンなのだ!

 

「ぶち抜く衝動、貫く鼓動! 百戦錬磨のォォォ! 俺の一発ゥゥゥ!」

 

 力が! 力が! 溢れる! 彼の全身を流れるのは好奇心だとか探求心だとか、そういった生易しいものではない! 流れているのは、がむしゃらな強さだ!

 

 急加速で接近する列車の前、線路上から一歩も出ず、リンセンは棍棒を構えた!

 

 これは、なにをする気なのかっ!?

 

「うそ! あの人、列車とやり合おうっていうの? そんなまさか! 無理よ!」

 

 その、まさか! リンセンは真正面から列車とやりあうつもりだ!

 

 死者を減らしたいために今すぐ列車を下りてリンセンを助けたいクローナだったが、もちろん列車が急に停止することなどない。

たとえ助けに来られても、リンセンには不要だ。

 

「てめぇらクソ人類どもをォォォ! 十把一絡げにィィィ! 大・成敗! してやるっぜェェェェェ!」

 

 爆発的なエネルギーが棍棒に収束され、迫る列車に真正面から突きをぶっ叩き込んだ! 最前列から衝撃が伝わり、順々に車両を襲ってゆく!

 

 ナイラ国の兵士も乗客も、ラッツもクローナも、突然襲ったそのパワーには成すすべなく、容赦なくに後方へ押し出されたっ!

 

 これは怪物! これは怪物である!

 

 弾かれたビリヤードのボールであったり、蹴られたサッカーボールなどとは比べ物にならないほどの絶大威力で列車は急停止! 列車の全エネルギーを受け止めたリンセンは、それでも崩さない、余裕の表情を! 決して崩さない!

 

 列車のボディには突きによる穴が穿たれていた。

鉄球か? ドリルか? それを見た人間ならば、そう思うだろう。

 

「あ、あのニッポン人め! なんてことだ! 走る列車と真正面からやりあっても平気だと! あいつはまさしく兵器だ! 面白いが、この手で殺す!」

 

 ラッツは懐から拳銃を取り出し、すかさず列車を下りた。

 

「きーさーまー! 目覚めたと思ったら、とんだじゃじゃ馬だ! 消えろ!」

 

「ああ? なんだか知らねぇが、ここはどこだ。お前らは誰だ? ああぁ?」

 

「黙れ! 撃ち殺す!」

 

 拳銃を構えつつ、懐から先ほどのリモコンを取り出した。

 

「ふはははは! クワンザならお前を倒せるはずだ! 次は三体だがな!」

 

 大ジャンプで列車の天井を突き破り、三体のクワンザが姿を現した。

バッタのような跳躍力で、颯爽とリンセンの前に着地する。

 

「へっ! さっきはよくもここまで殴ってくれたな鉄クズども! クソ人類が作ったガラクタなんぞ、今すぐ鉄クズのガラクタクズにしてやらぁ!」

 

 三体のクワンザが三角形の陣形を組んで一斉に襲い掛かった。

 

 てっきり回し蹴りかなにかで撃退するのだろうと思っていたラッツの予想は大きく外れ、リンセンは数メートル高く飛び上がった。

逆光をバックにクワンザたちを見下ろし、またもや余裕の表情でニヤリとほほ笑む。

 

「あれは! あの手袋で変身すれば、あれほどのパワーと跳躍力を得ることができるなんて、ニッポン人は恐ろしっ! だが殺す! クワンザで殺す!」

 

 回避されたことにより、クワンザたちはもみくちゃに激突した。

 

上空から落下したリンセンは棍棒を振り下ろし三体のクワンザを一網打尽に撃破するっ!

 

 首や腰の関節から黒い煙を吹き出し、さらには火を吹き出しクワンザたちは沈黙した。

 

 その圧倒的な強さに、ラッツは腰を抜かす!

 

「こ、こいつ! 変身前はクワンザに殴り飛ばされたのに! なんだこれは! あの手袋、何十倍の強さにこいつをっ!」

 

「俺が知るかよ、んな下らねぇことをよ」

 

 そのときっ! 不意にっ!

 

 隙を見て列車を下りたクローナが、駅に向かって走り出した。

だが体力を消耗した後では逃げることもできず、あっさりナイラ国の兵士に捕まってしまう。

 

 兵士により拳銃を突き付けられたクローナがラッツの前に連行された。

 

 ラッツはリンセンから銃口を離さず、反対の手でクローナの頬を撫でた。

 

「ほーう。ほうほうほうほうほう。愚かにも逃げ出そうとしたか、だが残念。すぐに捕まったなぁ、クローナエスクードよ」

 

 手近に目隠しがなかったため、ラッツは手を使ってクローナの目を隠した。

ラッツの手が見えているため能力をラッツに使うことはできるが、どのみち体力がなければ無理だ。

 

クローナ、妙なことを企んでみろ、このリンセンというニッポン人の命はない。拳銃で撃ち殺すからだ」

 

「そ、そんな赤の他人、人質になるの?」

 

「なにを言う? あなたは人に優しすぎる。お人よしすぎるお人よしだ。できれば誰にも死んでほしくない、と、そう考えているね」

 

 図星だった。

まさにその通りだ。

 

「そしてこっちのニッポン人。お前もだ。妙なことをしてみろ、この女の命はない」

 

「あぁ? 誰だその女。面倒だからさっさとやっちまえよ」

 

 その言葉にはクローナも驚いたが、ラッツのほうが焦る。

 

「なっ!? 貴様、こいつがどうなってもいいのか!?」

 

「どうなってもいいとか言われてもよ、そんな女は知らねえし興味もねぇ。俺がしたいことは一つ、俺をあんな箱に閉じ込めてこんな場所に連れてきたクソ人類をぶちのめすこと、たったのそれだけなんだよ」

 

 銃口を向けられてもひるむことなくリンセンは前進する。

仮に撃たれたとしても、棍棒一本で列車を停止させるリンセンには通用しないが。

 

 だがそこで、リンセンが見たあるものにより精神を揺さぶる衝撃が走る。

それはクローナの白い肌でも美しい金髪でも細身の体でもない、頭上で鼻をヒクヒクさせるハリネズミだ。

 

「お、おい! なんだその、ちっこい動物は!」

 

「な、なにって、ハリネズミよ。この子の名前はピアストル」

 

「ふーん。ハリネズミ、へぇ。なるほどなぁ。気が変わったぜ、この女、守らせてもらう!」

 

 急すぎる心変わりに、ラッツと兵士たちは驚愕する。

その心変わり、まさに三百六十度も違うと言ってもいい。

 

「お、おい貴様! さっきはどうでもいいと言っていただろう!」

 

「っるっせぇ! いいから、俺にぶちのめされやがれ!」

 

 発砲された弾丸をものともせず、拳銃をはたき落とし、ラッツの体に蹴りを叩き込んだ。

立てないほどの威力を貰ったラッツは、朦朧とする意識でリンセンをにらみつける。

ほかの兵士たちは職務など放棄し、一目散に逃げた。

 

「貴様……この、このラッツに、よくも恥を掻かせたな……」

 

「勝手に掻きやがれ」

 

 リンセンは変身を解除する。

纏っていた鎧は瞬時に姿を消し、本来の姿が現れた。

 

 恐ろしい能力を持つ手袋はそのままに、クローナの手を握った。

 

「えっ、あのっ」

 

「あぁ? 黙ってついてこいよ」

 

「だ、黙ってって……なにをするつもりなの!?」

 

「こうするんだよぉぉぉ!」

 

 手を引いて走った先は河っ! リンセンは河に飛び込むつもりだっ!

 

「ちょっと! その先! 河でしょ! ま、まさか飛び込むつもりなのっ!」

 

「急に気が変わったんだよぉぉぉぉ!」

 

 絶大な跳躍で線路から飛び出すっ! 数十メートル下に見える河に飛び込んで着水し、それでも生きていれば奇跡っ!

 

 クローナは手足をバタつかせて必死の抵抗を試みるも、リンセンの耳やら髪の毛やらを掴んで全力で耐え忍ぶ。

 

 腹を押さえながらラッツが立ち上がり、線路の下を確認した。

だがすでに、二人の姿は川底に消えた後であった。

 

「く、クソ……クローナもリンセンも逃がした……これはとんでもない失態だ。上になんて報告すればいいんだ!」

 

 線路を力任せに殴り、鬱陶しく輝く太陽に叫んだ。

そのラッツを見守るのは、悲しく沈黙し鉄クズになりはてたクワンザたちだけだ。

 

「あいつらめ! 必ず捕まえて、殺さずに兵器として使い倒してやる! いや、やはり気分次第では殺す! いや、だが殺してしまっては上への報告が……だがあの男は殺す!」

 

 

 

二章 ホットアンドクール

 

 

 

 クローナエスクードの能力について。

 

 ・能力は、イメージ次第で大体のことはできる。

 

 ・能力は、目に見えるものにしか使えない。

透視したとしても、直接見ていないものには使えない。

 

 ・能力は、凄まじく体力を消耗する。連続使用は危険だ。

 

 ・能力とは、謎である。

 

 ・能力を使う人間は、あるものを犠牲にしなければならない。

詳細は後ほど。

 

 

 

 その後。

 

 二人は川になぞ落ちてはいなかった。

 

 クローナの能力により、水面ギリギリで浮遊し近くの森の中に不時着したからだ。

 

「はぁはぁ……ぐ、ううう……」

 

 能力の連続使用により、疲労困憊。凄まじい消耗だ。

 

 胸が苦しい。

関節に力が入らない。

立つこともままならず、しばらくは行動不能だ。

 

 

 

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ブログ小説(2)暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ

お題「マイブーム」

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「あなたは、ニッポンという小さな国をご存知で?」

 

「えぇ……礼儀正しい人種が多く、人の愛を大事にするとか」

 

「ニッポン国に調査に行ったんだがね、そこにはサムライというものがいるそうだ」

 

「サムライ……」

 

 クローナにとって、聞きなれない四文字だった。

 

「そのサムライたちには、選ばれしものだけが使える強力な武器があったそうだ。それは剣でも拳銃でもない」

 

「カタナ? ニッポン人の魂とも呼ばれる」

 

「いいや違う。そこの手袋。それこそが強力な武器なのさ」

 

 男が身に着けている獅子の模様が彫られた手袋が、武器?

 

 クローナには何がなんだかわからなかった。

 

「この手袋が武器とは、どういうことです? いったい」

 

「なぜこの男がそれを持っているのかは分からん。分からんしどうでもいい。だがこいつにはな、肉体を変化させる特殊な力がある。ニッポンの歴史を調べたが、大昔はその手袋で変化させた肉体で魔物を討伐した伝説もある」

 

「肉体を、変化……? まさかあなたたちナイラ国は、この人と手袋を使って戦争をするつもりなの?」

 

「またまた三度目のま・さ・か。ご明察。それとあなたの能力もね」

 

「異国の者まで使って、そこまでして勝利したいの?」

 

「そりゃあそうでしょう。どうせ戦うのなら勝つべきだ。あなただってそうでしょう。無意味にジャンケンをするとしても、やはり勝ちたいと思うのが普通だ」

 

「非道ね、どこまでも非道よ」

 

「好きなだけ言ってください。わはは! 非道! けっこう! 一日で十五回くらいは言ってもらいたいぐらいだね!」

 

 ラッツは不気味な笑い声をあげながらクローナの手を引いて部屋を出た。

 

ただ、あのサムライを見せて自慢したかった。それだけのためにこの部屋へ招待したのだ。

 

「さてクローナエスクード。まだ到着しないみたいだから、もう一つ見せたいものがあるんだ」

 

「まだ兵器を用意しているの? それとも異国人?」

 

「見れば分かる。この隣の部屋だ」

 

 隣の部屋にも同様、大きなカギがついていた。

 

「また能力を使って開けさせたいところだが、ここであなたに倒れられては困る。申し訳ないが、目隠しをさせてもらうよ」

 

 ラッツは懐から取り出した黒い布を、クローナの顔に巻き付けて目を隠した。

見ることができなければ能力も発動できないので、隙をつかれないようにする策略だ。

 

「じゃあ、こっちはカギを使って開けよう」

 

 ドアにカギを滑り込ませ、開いた。

 

 そこには、二メートルほどの人型の機械が五体も並んでいた。

無口無表情で無骨なそれは、インテリアには向かないデザインだ。

 

「ラッツ、あなた、私にそれを見せたいのでしょう? なら目隠しを取らなければ、意味がなくって?」

 

「申し訳ないね、そんなことをして密かにこいつを暴走されちゃ困る」

 

 暴走――。

 

 つまり、暴れまわると危険なもの、ということだ。

 

「じゃあなぜここに連れて来たの? 意味がないでしょう」

 

「それはどうかな、この臭いで、何か分かるのではないか?」

 

 わずかではあるが、油の臭いが充満している。

料理などに使う油ではなく、列車や機械に使われる類の油だ。

 

「油……まさかナイラ国は、自律兵機(クワンザ)を開発したっていうの?」

 

 人以上の運動性能を持ち、命令次第でどこまでも突き進み破壊しつくし、死を恐れない最強の兵士。

 

 

 それは兵士であり、機械であり、究極の戦闘マシンなのだっ!

 

 究極の戦闘マシーンっ!

 

「まーたまたまたまたまた大正解の、ま・さ・か。だ」

 

「ば、バカなことを。こんな技術が現代で可能なわけが……」

 

「可能なのだよ、それが。まぁ、あなたには見せてやらないけどもねぇぇぇぇ!?」

 

 ラッツは再びカギを取り出してから、ドアに手をかけた。

 

 だが、このままクワンザを見逃すクローナではない。

 

 目に見えるものにしか効果がない能力だが”見えていれば”効果は発動する。

 

 つまり今は、目隠しが“見えている”のだ。

 

 (クワンザ、本当にあるのか見てやる……)

 

 能力を集中させ、目隠しを透視する。

 

 薄い布の向こうには、確かにクワンザが見えた。

 

 焦げ茶色と青のカラーリング。

体全体を装甲が覆い、関節部分には無骨な骨組みが見えている。

両手にはバルカンのような筒が装備され、頭にはランプのような目が一つだけある。

 

 そこで、扉は閉められた。

 

 一瞬ではあるが、確かに見えていた。

ウソであってほしかったが、確かにクワンザは存在した。

 

「さて、これで以上だ。あとは目隠しをつけたまま、到着するまで待機だな」

 

「そ、そうね……」

 

「どうした? 息が切れているようだが、おいおい、能力を使ったのか?」

 

 先ほど目隠しを透視したことにより、クローナの全身を疲労が襲った。

 

 ここでバレては面倒なことになる。

クローナは、必死の言い訳を脳内で構築する。

 

「この能力は見えるものにしか効果がないの。使えるわけないでしょ」

 

「じゃあ、その疲れた様子はなんだ。妙だな」

 

「目隠しをされて、手を縛られて、拳銃を突き付けられて、クワンザのことまで知ったんじゃ、それは疲れるのが当たり前でしょう」

 

「ほう。女だからと少しは気を使え、と」

 

「そういうこと」

 

「心配無用。戦争が始まればいくらでも気を使ってやる、丁重にな」

 

 それが冗談ということくらい、クローナは理解している。

悪質な、とても悪質な冗談だということを。

 

 突如、列車内を大きな揺れが襲った。

 

 重力を一瞬だけ反転させたかのような、上に強い揺れだ。

クローナたちの足も、僅かの間だがふわりと宙に浮きあがり、脳を揺さぶった。

 

 目隠しをされた状態でバランスを崩したクローナは、姿勢を維持できずしりもちをつく。

 

 だが情けない悲鳴をあげたりはしなかった。

ラッツという敵の手前、多少なりとも弱い部分を見せたくなかったのだ。

 

「おっと! クローナエスクード、大丈夫かな?」

 

「……」

 

 無言を貫く。

大丈夫といった意味もあり、心配無用といった意味もあり、黙っていろといった意味も込められた無言の威圧だ。

 

「これはこれは。山を登り始めた合図だな。このまま高く登り、あとは山を下りれば駅はすぐそこだ。そういう合図だ」

 

「もうすぐ、到着」

 

 クローナはなんとかバランスを保ちながら立ち上がった。

 

「そうさクローナエスクード。駅に到着すれば、あなたの負け。戦争はスタートし、あなたは兵器の仲間入り。すばらしいね」

 

「そんなに嬉しいの? 戦争で大勢の人が亡くなって、たくさんの人が悲しむのが」

 

「戦争は人を殺すためじゃない。人を生かすためにあるんだ。そのためには多少の犠牲もつきものではあるが」

 

「そんな下らないことで楽しめるなんて、いい性格してるのね」

 

「ふん。相変わらず強気だな。だがそれも今だけだ。さぁ、出口で待機していようじゃないか。一番前の車両まで来い」

 

 ラッツはクローナの背後に立ち、拳銃を突き付けながら前進させた。

目隠しをされながら歩くのは楽ではなかったが、列車内なので直進だけなら難しくない。

 

 なにか、作戦をたてなければ。

 

 自分に今できることは、この能力のみ。

 

 目隠しをされた状態では、“直接”見ることができるのは、目隠しのみだ。

能力は直接見たものにしか効果はなく、一度に色々なことをすると体力の消耗も多くなる。

 

 瞬時に目隠しをほどいてラッツの首を絞めることも可能だが、拳銃を持った相手の前で能力を披露して体力を消耗するのは危険だ。

かと言って何もせずただ兵器として連行されてしまうと最悪最低バッドエンドだ。

 

 最前列の車両まで到着したとき、ラッツの仲間が慌てた様子でやってきた。

 

「ら、ラッツ! ヤバい! ヤバいぜ!」

 

「おいおい、どうした。誰かが鼻血でも流したか?」

 

「あ、あいつが! あいつが動いた! 暴れてる!」

 

「あいつ? 誰のことだ」

 

「だからあいつだよ! あの箱に閉じ込めて連れてきたニッポン人だ! さっきの衝撃で箱が壊れて、中のサムライ野郎が暴れてやがる!」

 

「な、なんだっとぉぉぉ!?」

 

 ラッツはクローナを座席に突き飛ばし、仲間と一緒に後ろの車両に戻っていった。

 

 無人になったこのタイミング。

黙って待っているわけにもいかず、クローナは能力を使って目隠しを外し、後ろに縛られた手を器用に足の下から通して前へ向けた。

そちらも能力で引きちぎり、見事に自由を取り戻した。

 

 だが、疲労が激しい。

数分だけ座席で息を整えるが、連続で能力を使ったために頭痛も酷い。

 

「ど、どうしよう。ここで待つべきか、行くべきか……」

 

 自分は囚われの身。

 

 敵が来なければ、駅に到着してすぐ逃げることも可能だが、この列車には他の乗客もいる。

 

 例のニッポン人が暴れ、他の乗客を襲う可能性も考えられる。

 

 もしも罪のない乗客が襲われ、死者が出たら? 

クローナは自分を責めるだろう。

 

 この能力があれば、助けられるかもしれない。

 

 クローナは完璧に回復していない体のまま、後ろの車両へ駆け出したのだ!

 

 

 

 そのとき、ニッポン人が暴れる車両では。

 

「オリャア! クソ人類ども! こんな箱になんぞ閉じ込めやがって! てめぇらだろうが! おい!」

 

 罵声をまき散らしながら暴れまわり、ラッツの仲間であるナイラ国の兵士たちを次々となぎ倒していく。

 

「こ、こいつ! 目覚めたばかりなのに、なんてパワーだ! あぁああ!」

 

 兵士たちが拳銃を抜き放つ隙もなく、あっけなく突き飛ばされ壁にたたきつけられる。

 

 そのニッポン人は、まさに怪物とも言える怪力だ。

 

「この俺様を! リンセン様を箱に閉じこめるたぁいい度胸してるじゃねぇかクソ人類どもがぁぁあっぁぁ!」

 

 座席に重なり合い、身動きがとれない兵士たち

圧倒的な力に蹂躙され、無数の兵士たちは手も足も出ない。

 

「おい! こいつを押さえろ! 殺すな! 捕まえて箱に戻せ!」

 

 加勢してきた兵士たちが一斉にホルスターから拳銃を抜き放ち、無骨な弾丸を撃ち込んだ。

 

 だがリンセンと名乗るニッポン人は、手袋から孫悟空が持つ如意棒のような棍棒を取り出した。

手袋の手の平あたりから、ぬぬぬっと。

どこか別の空間に直結しているのか、まるで袋から取り出すかのように……。

 

 そしてっ!

 

 暴れ始まったっ!

 

 棍棒をがむしゃらに振り回しっ! 次々と撃ち込まれる弾丸を、余すことなくはじき返してやった! 弾かれた弾丸たちは窓を突き破り! 座席にめりこみ床を抉り兵士たちの足を貫通ぅぅぅ! した!

 

「へっ! てめぇら、俺をあんなもんに閉じ込めた報いは受けて貰うぜ! 十把一絡げに、全員まとめて大・成敗してやるっ!」

 

 そのとき、リンセンの背後の車両からラッツが現れた。

 

 縦横無尽になぎ倒された兵士たちを見て、さすがに動揺!

 

「ま、まずいぞこれは! これはまずい! アレを使わねば!」

 

「あぁ? んだお前、お前も俺の敵だな? お前も、俺の、敵なんだな?」

 

 棍棒を構え、睨みつける。

 

 獣のような眼光にラッツは一瞬怯むが、あくまで反撃するつもりだ。

 

「くっ……こうなったら」

 

 懐にあったリモコンを操作すると、リンセンの隣の部屋にいたマシン――一台のクワンザが起動した。

カギのかかった扉を突き破り、ラッツたちのいる車両まで即座に駆けつける。

 

 クワンザには少々狭いが、暴れる空間がなければ不利なのはリンセンも同じだ。

 

「やれ! クワンザ! この出来損ないのニッポン人を捕まえろ!」

 

 先頭に立つクワンザがゆっくりだが力強い一歩を踏み出した。

関節から蒸気を吹き出し、油の臭いをまき散らしながら、鉄をもひしゃげさせる怪力をリンセンに振るうっ! これが猛威! 破壊的怪力っ!

 

「鉄クズ! お前もぶち壊して粉々にしてやるぜぇ!」

 

 

 

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ブログ小説 暴風荒ミスティ・ミラージュ ラスティ1

お題「マイブーム」

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一章 ハイスピードスローモーション

 

 彼女は、まさにピンチと呼べる状況だった。

人生における、最大のピンチとも言える。

 

 ある能力を有する少女、クローナエスクードの額には無骨で冷たい銃口が突き付けられていた。

額にゼロ距離で密着しクローナを焦らせる。

 

 金髪ロングヘアーで碧眼のクローナの瞳は、それでもなお強く輝いている。

純白のドレスに、風さえ吹けば優雅になびくロングスカートは華奢な体にマッチしている。

戦いには向かない格好だが。

 

 何両も連なるこの列車は、山岳地帯に敷かれたレールを進むせいで不規則な揺れを繰り返していた。

この部屋にある木箱も微妙な振動を繰り返し、カギのかかった鉄の扉もガタガタと軋んでいる。

 

 だがクローナに逃げる隙などない。

 

「ラッツ、あなたスパイだったのね?」

 

 クローナは目の前にいる“元”秘書の男にそう言い放った。

長髪で黒いスーツを纏った細身の男だ。

 

「あなたの能力はとても危険だ。イメージ次第でなんでもできるからな。やろうと思えばできるのではないか? この銃口を瞬時に溶かすことも」

 

 クローナの能力、それは目で見たものに限り、イメージ次第で様々なことが可能となる能力だった。

 

 当然、金属をひしゃげることは簡単で、列車を空に飛ばすことも可能だった。

だがその能力を使えば凄まじく体力を消耗してしまうため、今ここで使用すれば隙だらけになってしまうだろう。

能力の規模などによっても体力の消耗具合は変わる。

 

 仮にラッツを能力で封じたとしても、別の場所に仲間がいる可能性もある。

能力があるとはいえ迂闊に行動するのは危険だ。

 

「恐ろしい小娘だ。まだ十七そこらの年齢なのに、そんな悪魔のような能力があるとは」

 

「ラッツ、なにが目的なの? 一週間前に新しく秘書になったと思ったら、いきなり裏切るなんて、なにが目的なの?」

 

「決まっているでしょう。我々ナイラ国は、あなたの能力が欲しい」

 

「この能力でなにをするつもり? まさか、戦争に使うだなんて」

 

「そのまさか、だ。ナイラ国はあなたを奪い、あなたたちのいるエンギルダ国を滅ぼすのが目的さ」

 

「そう……分かりやすくて助かるような理由ね」

 

「あなたたちエンギルダ国の地下には、豊富な資源がたくさんある。油や金属、温泉も湧き出るそうじゃないか」

 

「そう。そこまで私の能力が欲しいなら、その拳銃で脅して連れて行けばいいでしょう?」

 

 クローナはあくまで強気だった。

 もしも足を撃たれるようなことがあれば、能力で反撃するつもりだったからだ。

 

「それとも、私の足を撃って弱らせてから連れて行く?」

 

「そんなことをしてもムダでしょう。あなたが強いことは知っている。一週間も秘書をやっていたのだから」

 

「じゃあ、どうするつもりなの?」

 

「こうするつもりさ」

 

 ラッツがパチンと指を鳴らすと、カギのかかった鉄の扉が外側から突き破られた

その向こうには斧を持った大男がいて、もう一人の男が十歳くらいの少年を人質にとっていた。

 

 卑劣な手口に唇を噛むクローナ

 

「さぁ、どうするクローナエスクード?」

 

「こ、こうなったら……」

 

「能力、使いますか? 使っちゃいますか? いいんですかぁ?」

 

 まず能力でラッツを弾き飛ばし、その後に二人の大男を行動不能にさせる。

強引な手段ではあるが、それがクローナのイメージだった。

 

 たとえ相手が敵であっても、クローナは殺害をしない。

人を殺めてしまえば、それはもう悪魔と変わりない存在だと考えているから。

 

 殺害するかはともかく、ここで事態を好転させるには、他に策がない。 

 

 だがクローナは動かなかった。

 

 ここまで能力を使わせたがるには、なにか目的がある、と。

 

「おっと、気づいたかクローナエスクード

 

「ま、まさか……」

 

「ほうほう、二度目のま・さ・か。ですね。そのまさかだよ。この列車内には爆弾を仕掛けた。もしあなたが能力で俺達を始末したら、さてどうやって逃げる気かな?」

 

「せ、戦争なんかで私の能力が使われるくらいなら、ここで死んだ方がっ……!」

 

「あなたはよくてもね、この列車にはたくさんの乗客がいることをお忘れなく。しかも、数十メートル後方には別の列車もある。ここが爆弾でふっ飛ばされたら、後ろの列車も巻き込まれるでしょうなぁ」

 

 成すすべは、ない。

 

 クローナの能力は、目に見えるものにしか使えない。

 

 どこにいくつ爆弾がセットされているのか不明ならば、爆弾を消滅させるという荒業も不可能である。

 

「どうするクローナエスクード。抵抗するなら大歓迎だが?」

 

 諦めたクローナは、両手を上げたままゆっくりと立ち上がった。

人質にされた少年は、涙目でクローナを見つめることしかできない。

 

「ラッツ、その前に、一つだけ質問が」

 

「おおう? なにかね」

 

「そこの子供と、この列車と後ろの列車、全てに手を出さないという保証は? 爆弾を解除するという保証は?」

 

「うーん。なかなかいい。なかなかいい考えだクローナ。そこまで周囲を優先するか。自分よりも他人を守るか、実にいい」

 

「いいから、はやく答えなさい」

 

「我々は戦争に勝ちたいだけであって、テロリストではないんだ。無益な殺傷はしないし、無意味に目立つつもりもない」

 

「そう。じゃあ手錠でもなんでもかけて、それで満足したらそこの子供を解放して、すぐに爆弾を止めなさい」

 

 クローナが後ろに手を回すと、大男の一人が細いロープで手を縛った。

 

「よし、約束だ。そのガキを解放しろ」

 

 ラッツに命令された斧の男は少年を解放した。

泣き叫ばないだけ、勇気があると言えようか。

 

「意外と素直なのねラッツ。この一週間、あなたのことは気に食わなかったけど、初めて感心したわ」

 

 それはクローナの僅かな反撃だった。

 

 だがラッツの怒りの導火線には小さな火がついた。

自由を奪われたクローナの細い首にラッツの手が伸びる。

 

 首を絞めたっ!

 

「貴様なんぞ、能力さえなければただの細腕だ。戦争に勝って用済みになったら適当なところに売り飛ばしてやる。お前のような上玉は高く売れるからな。調子に乗れるのは今のうちだぞ」

 

「……ぐ……そ、そう。楽しみね」

 

「貴様っ」

 

 クローナの頬にビンタが叩き込まれた。

鋭い痛みと共に、破裂音が響く。

 

 手でバランスを取れないクローナは、床に尻餅をついた。

口からは一筋の血が真っ赤な線を描いている。

それでもなおクローナは、ラッツを睨み続ける。

 

 そのとき、部屋にあった木箱の隅から、一匹の小動物が現れた。

 

 ネズミほどの大きさだが、背中に無数のトゲをはやした、ハリネズミだ。

 

「ピアストル、ここにいたのね……」

 

 ピアストルと呼ばれたハリネズミは、クローナの背中を器用に走り、頭上へ到達した。

 

「なんだその小動物は」

 

ハリネズミ、知らないの? 私の大事な仲間よ」

 

「ふん。ネズミが仲間か」

 

「いいでしょ、ハリネズミの一匹くらい」

 

「好きにしろ。はやく立ち上がれ」

 

 強気の姿勢を崩さぬまま、クローナは立ち上がった。

 

「それで、どこに連れて行くつもりなの? まだ列車は動いているようだけど」

 

「心配するな。次で停まる。あとは仲間と合流して、我がナイラ国に連れて行って、戦争をおっ始めれば目的は果たせる」

 

「そう」

 

 表面上は冷静さを失っていなかったが、心臓の鼓動は破裂しそうな勢いだった。

 

 おそらく、護衛などはすでに殺されている。

この先いつ能力を使われても良いように、きっと手も打ってある。

このままでは、思惑通りに戦争が始まってしまう。

 

 本当は、泣き叫びたいほど恐怖していた。

 

 けれども涙の一つでも落とせば、完璧に負けを認めることになると思っている。

それがクローナの心境だった。

 

「でも、列車が停まるまではまだ時間がある。だからクローナ、あなたには見てもらいたいものがあるんだ」

 

「見てもらいたい、もの? それは?」

 

 後ろにラッツが立ち、クローナの背中にピタリと銃口を合わせたまま場所を指示する。

 

 能力があるとはいえ、手を縛られていればただの少女だ。

拳銃には勝てない。

 

「後ろから見てるとよ、なかなか綺麗な髪の毛してるじゃないか。知っているか? 髪の毛ってのは綺麗なら売ることもできるんだ」

 

「やっぱり能力を使うだけ使って用積みになったら売るのね」

 

「俺はあなたのような子供には興味ないが、な。ほれ、そこを右だ、その扉に入れ」

 

 銃口を向けたまま通路を歩くと、右手にひと際大きな扉があった。

客室の扉に比べて大きなカギがついている。

 

 異質! そういった雰囲気を、クローナは感じざるを得ない!

 

「それを開けろ」

 

「開けろって、カギがかかってるけど」

 

「あなたならできるだろう。能力で、な」

 

 確かに、クローナにならカギの一つや二つくらい造作もないことだった。

開けるだけでなく、完全に消し去ることもできる。

 

「いいの? この能力であなたを消すこともできるのよ」

 

「脅したって無駄だぞ。その能力は目に見えるものにしか効果がないんだろう」

 

 それに、能力を発動すると凄まじく体力を消耗する。

 

 そう。

抵抗し辛いように、ラッツはあらかじめ体力を削らせるつもりでいたのだ。

 

「……今後は秘書にも能力について秘密にしておくべきね」

 

「今後があれば、な。はやく開けろ。はやくだ」

 

 クローナは目の前にある頑強なカギを見据えた。

 

 クローナの目が黄金に輝き、能力を発動する。

 

 触れてもいないはずだが、カギは生きているかのように“痙攣”している。

 

「ほほう。これが能力か。面白いじゃないか。戦争に使うのもいいが、サーカスに出すのも面白いな」

 

 砂にでも生まれ変わらせたかのように、カギはその場に零れ落ちる。

 

「うっ……」

 

 クローナの息が切れ、その場にへたりこんだ。

三百メートルほどを全力疾走したのとそう変わらないほどの消耗だ。

 

「ど、どう……はぁはぁ……これで、分かった? 能力が」

 

「うんうんうんうんうん。面白いね。面白いね。しかし困ったな、あんなカギ程度を消すだけでこれほど消耗するのなら、敵の兵隊を一度に消し飛ばすほどとなると、死ぬのか?」

 

「ば、場合によっては、気絶するかもね」

 

 これくらいの消耗なら数分で回復できるが、酷ければ何日も休息を要するときがある。

強力すぎるほどの能力だが、もちろんそれ相応の消耗もするのだ。

 

「そろそろ立てるだろ、ほら開けろ」

 

 拳銃で背中を小突かれ、クローナは扉に能力を使い開いた。

 

 念のため、そっと開く。

重苦しい鉄の扉が、口を開けた。

 

「なに、これ」

 

 そこにはクローナの想像を絶するものがあった。

 

 時代や世界観を越えたような、SF小説にでも登場しそうな――。

 

「驚いたかね。こいつはニッポンという小さな国で見つけたのさ」

 

「み、見つけたって……」

 

 そこには紫色の液体が詰まった透明な箱があり、中で上半身裸の男が横たわっていた。

 

 歳はクローナとほぼ同じでまだ若いが、逞しい体つきであり、誰が見ても納得する屈強な身体だ。

 

「あ、あなたたちは人を、こんな風にっ!」

 

「こいつはね、あなたと一緒に兵器になってもらうのだ。見ろ、こいつの手を」

 

「手?」

 

 男の手には、複雑な模様が彫られた手袋があった。

紫色の液体につけられているためクローナには確認し辛いが、その模様は気高き獅子の模様であった。

 

「この手袋が……なに?」

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア27(最終回)

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 バンに問われた言葉がそのまま重くのしかかる。

自分だけでは答えを出せない。

 

「靴……アスンシオンは……」

 

 自分へのいら立ちや迷いを隠すため、ベルンは拳を強く握った。

 

 こうなれば、正直に話すほかない。

 

 ベルンは得た情報をアピアに伝えた。

 

 数千年前にアスンシオンの装着者が反乱を起こして大量に命を奪ったらしいこと。

 

 しかしそれがなければ戦う力がなくなってしまうこと。

 

 そして、ベルンは今アスンシオンについて迷っていること。

 

「僕は、この靴を使っちゃいけない。もう、血で汚れた右手は見たくないんだ」

 

「だから、私は助けられないって?」

 

「そうだ。僕には、アピアを助ける権利なんてないんだ」

 

「本気で言ってるの?」

 

 アピアはベルンの頬に触れた。少し身長差があってベルンを見上げる形になる。

 

「過去の人が何かしたからなに? それって、ベルンが悪いことしたわけじゃないでしょ? 右手に血が見えたからってなに? それって、ベルンが誰かを殺しちゃったの?」

 

「違う、けど」

 

「じゃあ、気にしなくていいんじゃない? 私がベルンだったら、ふーん。で済ませるけど」

 

「え、そんな軽い?」

 

「考えすぎだって。ベルンは、なにも心配しなくていいと思うよ」

 

 その説得だけで、ベルンの心に巣くっていたモヤモヤが一気に消え去った。

さっきまで悩んでいたのがバカバカしくなるほど、意外にもあっさりと解決できたことにベルンも驚いている。

 

「そ、そうか。心配しすぎなんだ……」

 

「うん、だから進もう? 私を、助けてくれるんでしょ?」

 

「ああ……もちろん」

 

 ベルンは拳を強く握り、再び勇気を取り戻した。

あとは進むのみ、そしてアピアを助ける手段を見つけて帰るのみ、簡単なことだ。

 

 ベルンは出口を塞ぐバンに視線を向けた。

 

 ――しかし。

 

「いない?」

 

 アピアも同時に視線を向けたが、やはりそこには誰も立っていない。

 

 バンの背後にあった鉄格子も開いており、ここの試練は乗り越えたのだと確信し、前に進んだ。

 

 今度は、アピアと共に歩きながら。

 

 と意気込んで進んだものの、さっそく行き止まりに当たってしまった。

 

 アピアは壁の一部が出っ張っているのを見つけた。

 

「これかな?」

 

 触れる――すると、ゴゴゴと重い音を響かせながら、壁がスライドして道が出来上がった。

 

 そこには、マセルとナウルが剣と剣を交えながら死闘を繰り広げていた。

 

「おいベルン! こっち手伝え!」

 

 呆気にとられるベルンに無茶な要求が投げつけられる。

 

 だが放ってもおけないベルンはナウルに狙いを定めてはね上がり、空中でアスンシオンに変身。

剣を構えて斬りかかった。

 

 ナウルは不意打ちを巧みにかわし、ベルンはマセルと並んだ。

 

「マセルさん、大丈夫ですか?」

 

「へっ……俺を誰だと思ってやがる。この程度でくたばるわけないだろ」

 

 マセルには勝機しかない。

体は傷だらけでも、動きさえすればどこにも問題はない。

 

「マセルさん、察しましたよ、こいつを倒せばいいんでしょう?」

 

「分かってんじゃねぇか!」

 

 二人の戦士。

剣を向ける対象はただ一つ。

ただ一つを崩せば、それで決まりだ。

 

「貴様らは、靴がなければここに辿り着けなかった弱者だ。だがその努力は認めよう」

 

 マセルたちとナウルは、ジリジリと距離を保ちつつ円を描く形で歩く。

だが目は離さない。

 

 僅かに変わる間合い。

継続する睨み合い。

 

その隙にマセルは作戦を立てる。

 

「ベルン、よく聞け。一度だけ言うぞ」

 

「……?」

 

 マセルはナウルの耳には入らない程度の声で言った。

 

「目標はお前のガールフレンドを助けることだが、あのナウルの口ぶりからしても助ける方法はここにあるみたいだ」

 

「えぇ。僕のほうにいた男からもそう聞いています」

 

「最初の試練、黒い影を思い出せ」

 

 槍と盾を持った、霧のように消える敵のことだ。

 

「あいつの弱点は背中だった。おそらく、あいつも同じだ」

 

「そこを狙えば……」

 

「保証はない。俺の勘だがな」

 

「あなたは本当に、勘や運任せですね……分かりました。行きますっ――!」

 

 ベルンは踏み込んだ。

背後を取るためスピード重視に動く。

 

 だが普通に背後を取りに行っても、防がれるのは目に見えている。

ならば、多少の変化球を交えて動かなければ一筋縄ではいかない。

 

 そして、跳躍。

体全てをバネに変え、ベルンはナウルの頭上を飛び背後に回った。

直後にナウルが水平に斬り、すかさずベルンは剣で防ぐ。

 

 マセルとベルンで挟み撃ちしている状況だが、ナウルはマセルに背中を向けているわけではなく、両者を左右に置いている状況だ。

これでは完全に背後を取ったことにはならない。

 

 ナウルが剣を持つ右手はベルンの攻撃を防いではいるが、押し負けることなく余裕の表情だ。

 

「マセルさん! こいつは左に武器を持ってません! はやく!」

 

「あぁ。そのまま押さえてろ!」

 

 たとえ背中を向けていなくても、一人が押さえている間に背中を攻めればいいだけのことだ。

 

 大きくステップを踏み込んで距離を詰める。

剣を持つ手に力が入る。

 

「そのナウルの皮、はいでやる!」

 

 今なら空いている左から攻められる。

左右なら正面よりは勝機がある。

 

 マセルが高く飛ぶ。

ベルンのように背後に回らず、ナウルに向かって飛び掛かるようにだ。

 

 だが、やはり甘くない。

 

 渾身の一撃はナウルの刀身を滑って受け流され、そしてマセルの鼻先に剣先が突き付けられた。

 

「お前たち、命を欲しているんだろう。なら差し出そう、アピアニコシアのために」

 

ナウル、どういうつもりだ」

 

「俺はこの遺跡の試練。人の記憶から姿を借りて試練を与えるんだ。もちろん、それ相応の褒美も用意している」

 

「お前、まさか命があるのか?」

 

「命はない。だが、人に命を与えることはできる」

 

 その言葉を耳にし、ベルンの腕に力が溢れる。

 

「本当なのか……?」

 

「お前らがそれにふさわしい強さを持っていればな」

 

「そうか……じゃあ……!」

 

 ベルンの持つ剣が光を放った。

闇すらも切り裂けるほどの強烈な光だ。

当然、ただの光ではない。

剣の威力、斬れ味が格段に増している。

 

「はぁぁぁああああ!」

 

 ベルンが疾風の如き敏速で一歩後退し、ナウルに破壊的威力を誇る突きを繰り出した。

 

 ギィィィィィン!

 

 剣と剣が火花を散らし、甲高い金属の音が周囲を揺らす。

 

しかしナウルは剣で払い、いともたやすく突きを防いだ。

 

「マセルさん!」

 

「分かってる!」

 

 マセルが懐に飛び込む。

バットのスイングのように、ナウルの腹に剣を叩き込んだ。

 

 が――。

 

「だから甘いと言っている!」

 

 確かに攻撃は命中した。

だが、キャビクレイに変身していることもありそう簡単には貫けない。

 

「どうしたマセル? 背中を狙うんじゃないのか?」

 

「なに言ってやがる? 背中を狙ってんだろーが」

 

 マセルはメットの下で不敵に笑った。

 

「お前ら二人は動けない。誰が背中を狙うつもりだ?」

 

「俺にはな、まだ一緒に冒険に来てる相棒がいるんだよ」

 

「――なんだと」

 

 そのとき、その場に新たな人物が乱入した。

マセルでもベルンでもソフィアでもアピアでもない、ずっとそこにいた、あいつが――。

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 駆けてきたその人物は、大きな金属の破片を手にし、隙が出来たナウルの背中を強打した。

弱点である背中をやられ、ナウルの体から力が抜ける。

 

「マセルさん! 今です!」

 

「あぁ!」

 

 マセルは背後に剣を放り投げ、ナウルの正面から正拳突きを打ち込んだ。

 

「ぐあっ!」

 

 拳を叩き込んだ部分からバチバチと電撃が迸り、纏っていた鎧が徐々に消滅していく。

キャビクレイの変身が解除されたのだ。

 

 ナウル本来の姿が露わになり、マセルたちとまともに戦う力は失われた。

 

「ぐ……なんだ、背中を攻撃した、お前は……」

 

 ナウルの背後、そこにいた人物は――。

 

「私のこと圧倒的にナメてもらっちゃ困ります!」

 

 そこにいたのは、紛れもなくバレッタ

圧倒的に、バレッタウェリントンだ!

 

 手にはかつてアテネ号の一部だった金属片がある。

フルパワーで振ったせいで肩が痛んではいたが、バレッタにとっては些細なことだ。

 

ナウルさんの皮を被った幻、気づかなかったの? 私、ずっっとみんなの後ろにいたの!」

 

「俺は気づいてたぜ」

 

 マセルは胸を張って言った。

 

「まぁ気づいたのはついさっきだがな。結果的になんとかなったならヨシとするか」

 

「適当ですねマセルさんは」

 

「その適当でなんとかなったのも、お前のおかげだけどな」

 

 二人はハイタッチをした。

 

 アピアもソフィアも駆け寄り、マセルたちの後ろに隠れる。

 

ナウルがキャビクレイに変身できない以上、脅威は去ったと見てもいいが、まだ油断はできない。

 

「素晴らしいな。試練を突破し、ついに俺を打ち倒した。その功績は誉めてやる。約束は守る」

 

 ナウルは光の粒子のようなものを空中から出現させ、そこからペンダントを出現させた。

金のように輝いていて美しい。

金の鎖の先には月と太陽のマークが刻まれたメダルがついていて、首から下げられるようになっている。

それを、アピアの目を見据えながら差し出した。

 

「これは俺の命の結晶。肌身離さず首にかけていれば病気なんてどうってことないさ」

 

 アピアとしては半信半疑ではあったが、疑うのは今さらだな、とも思った。

 

 変身できる靴に空飛ぶ遺跡、そこまで不思議なことがあるなら病気くらいなら治せるはず。

そう期待しつつ、アピアはペンダントを受け取った。

 

「本当に、これでソウル病が治るの? 二十歳まで……生きられるの……?」

 

「厳密には、きみの生命力を高めることで病気を消滅させることができる。このマジュロ遺跡の力を甘く見るなよ」

 

 ペンダントに力を与えて渡したことにより、ナウルは存在を保つ力を失ってしまった。

そのせいか、体から小さな光の粒子が溢れ出てきた。

 

「すまない。これでおわかれだ」

 

 ナウルの足先が消え、幽霊のような姿になった。

時間切れということだ。

 

スコピエ文明のためにソフィア王が戻ってきてくれなかったのは残念ではあったが、まぁ君たちのように強い人間がいれば王も必要ないか」

 

 溢れた光の粒子が頭の先にまで到達し、ナウルの体は完全に消滅。

物理的な姿は失われた。

 

 二人は変身を解除する。

訪れたのは静寂――アピアについてもソフィアについても、得る物は得た。全て解決だ。

 

 と思われたが、まだ大きな問題は残っている。

 

「ところでバレッタ、質問だ」

 

 マセルが背伸びをしながら言う。

 

「帰る方法、見つかったか?」

 

「あっ」

 

 ベルン、アピア、ソフィア、六つの目がバレッタに集中した。

 

「ここは空の上。飛行機もなしじゃ帰れない。お前は方法を考えると言って残ったはずだが」

 

「そ、そう言われても……でもほら、結果的に私がいたから勝てたじゃないですか!」

 

「そうなんだが、そうなんだが……どうする?」

 

 飛行機は大破。

遺跡が海に落ちる気配もない。

変身して落ちるにしても高さがありすぎる。

 

 まさに、打つ手がない。

 ソフィアはブンブンと首を横に振るばかり。

取り戻した記憶の中には答えはなかったようだ。

 

 さて、どうしようか。

みんなで答えを考えあぐねているとき、またトラブルが増えた。

 

 ドン! という音と地響きがやってくる。

音の位置は、上だ。

 上――すなわち、地上から何かが来るということだ。

 

「上……? まさか、こんなところに人が来るっていうのか?」

 

 マセルの疑問にバレッタが答える。

 

「いや、実際に私たちが来てるじゃないですか。他にも誰か来てたっておかしくないですよ。でも、誰かって、誰でしょう?」

 

 いつもいつも色々な場所に出現する相手。

なぜマセルたちのいる場所が分かるのか、なぜそこにタイミングよく現れるのか、いつも意味不明な敵。

 

 ――ここに来るとすれば、あいつらしかいない。

 

「まさか!」

 

 天井を破って現れたそいつらは、例によって例の如く、

 

「っほほほほほほほほ! このバンダル様を忘れてもらっちゃ困るわよぉぉぉ!」

 

 マジュロ遺跡の手前でマセルに撃墜されたはずのキングストン連中だ。

なぜそこにいるのか、どうやって襲来したのか、なぜ場所が分かるのか、細かいことは気にしてはいけない。

 

 とにかく、そこにヤツらはいるのだ!

 

 プロペラのついたヘリコプターのような小型のマシンに、窮屈そうに三人で乗っている。

 

 コクピットの下に武器らしきものはない。

どうやって天井を壊したのか考えてはいけない。

 

「お前ら! また懲りずに来やがったな!」

 

「懲りないのは悪党の専売特許よ! スリブ! ガワン! アレを用意しなさいな!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 スリブとガワンのコンビが意味ありげなレバーを引いた。

コクピットの下から巨大な大砲のような筒が現れる。

 

 それだけでマセルたちは察した。

 

「これでも食らいなさい! マセル坊やとその他のお嬢さん方!」

 

 バンダルはレバーの横にあった意味ありげな真っ赤なボタンを叩いた。

 

 そこからの展開はお察しの通り。

 

 大砲が火を噴く。

イカほどの鋼鉄の弾丸が放たれ、マセルたちのいる地面に、命中。

 

「や」「や」「や」「や」「や」

 

「「「「「ヤバい!」」」」」

 

 五人の声が重なる。

弾丸は爆発、周囲に爆風と熱をまき散らし、壁を破壊してマセルたちを吹き飛ばす。

 

 地から足が離れ、空に放り出されてしまった。

 

 下一面は海。

ただの海ではない、雲とほぼ同じ高さにあるマジュロ遺跡から落ちる海だ。

生身で落ちようものならまず命があると思わないほうがいい。

 

 マセルとベルンは変身。

マセルはメット左からワイヤーを取り出して四人に巻き付けた。

 

 バラバラに落ちていた四人はワイヤーに絡み取られて纏まった。

纏められていれば身動きをとることはできないが、海に落ちたときに離れ離れになることはない。

そこからはベルンがワイヤーを外して陸まで上がってもらう。

そういった計画をすぐに構築したうえでの判断だった。

 

「ベルン! そっちは任せた!」

 

「は、はい!」

 

 風向きも不安定な状況でベルンたちとの距離が離れ、すぐに豆粒のように小さくなる。

下からの風圧に耐えるだけでもやっとの状況に、お互いに場所を捉えることができない。

 

 バラバラに飛ぶという一つの問題は、まぁなんとなくではあるが片付いた。

 

 だが大きな問題は残っている。

 

「マセル坊やぁぁぁぁぁ! 逃がさないよぉ!」

 

 キングストン連中は落ちるマセルに狙いを定めた。

謎の乗り物で降下し、無防備に落ちるマセルを追撃する。

 

「お前ら! よくもやってくれたな!」

 

「やるに決まってるでしょ! そら、もう一発食らいなさいな!」

 

 コクピット下の大砲が再び火を噴く。

落ちるマセルに、無慈悲な弾丸が直進する。

 

 ダイレクトに命中すればひとたまりもないが、マセルはこの程度では怯まない!

 

「おらぁっぁぁぁ!」

 

 寸前、剣を垂直に振り下ろし、弾丸を真っ二つに切り裂いた。

切り裂かれた弾丸は左右を通り過ぎ、背後で爆発。

爆風で背中を押され、キングストン連中の乗り物へ前進しコクピットの下に張り付いた状況になる。

 

「コシャクなマセル坊や! これだからトレジャーハンターは!」

 

「うるせぇ!」

 

 剣を逆手に握りなおし、コクピットのど真ん中に下から突き刺して貫通させる。

電撃が迸り、乗り物のプロペラは活動を停止した。

 

「ひぃぃ! スリブとガワン、なんとかなさいな!」

 

「ムリですぜ! 下から剣が飛び出してますし、計器類は動かないですぜ!」

 

「もう落ちるっちょ! 終わりっちょ!」

 

 プロペラの付け根が爆発。

コクピットも火を噴き、ただの鉄の塊と化す。

 

 だがマセルは離れない。

離れれば、海に落ちたときに浮上しづらくなるからだ。

 

「離れなさいなマセル坊や!」

 

「お前らが粉々に爆発したって絶対に離れねぇ! だって俺は泳げねぇからな!」

 

 無力になった四人は、ただ落下を続けることしかできない。

海へ真っ逆さま――下に落ちたところで、助かる確率は絶望的だ。

 

 ――あの日から水と空に恐怖を抱くようになった。

 

 飛行機が燃料切れを起こし、友人のナウル・アルマトゥイが死んだあの日。

それでも遺跡を見つけ、冒険をした。

でも結局は海への落下という結末になってしまうのは、呪いなのか。

 

 見てたか、ナウル

 

 俺は、伝説って言ってもいいくらいのトレジャーハンターになったよ。

 

 

 

 それから三日後。

 

 ソフィアはバレッタとともに暮らしている。

だんだんといつものような笑顔も取り戻してきた。

 

度々海のほうを確認しているが、まだマセルは帰ってこない。

 

 ベルンもアピアも同じ気持ちだ。

命の恩人を放っておけるわけもなく、いつもバレッタの家の前に来ては海を見ていた。

 

 帰還を願うように、ベルンはバイオリンを奏でた。

 

 美しい音色が夕日の光る海に寂しく響き、どこまでも広がった。

 

「ねぇ、ベルン。私さ、なんだか前より元気になった気がした」

 

「元気? 薬は飲まなくていいの?」

 

「うん。目眩もしないし、薬を飲まなくても平気。きっと、このペンダントのおかげだと思う」

 

 ナウルから貰ったペンダントが夕日を受けて輝いた。

生命力を高めるという話はウソではなかったようだ。

 

 二人の間に、ソフィアがやっ

てきた。

 

 記憶を取り戻したソフィアは前のような無邪気さはなかったが、王という立場に縛られることなく、少なくとも安心した生活を送れていた。

 

「マセル、帰ってこないね」

 

 それに答えたのは後ろから入って来たバレッタ

 

「帰ってくるよ、渡り鳥だもん」

 

 渡り鳥。

 

 無鉄砲に突き進み、お宝を探す冒険バカのことである。

 

 脱出方法なんて後回し。

高いところが苦手でカナヅチで、トレジャーハンターになんて向かないような男。

だが勇敢で、困っている人は助ける、ちょっと不器用だけど根は優しい人。

 

「それって、俺のことか」

 

 どこからか声がした。

帰ってきた彼の声だ。

 

 バレッタは駆け寄り、どこからか帰って来た渡り鳥の胸に飛び込んだ。

 

 涙が夕日に輝き、頬を伝った。

 

「まだ、恩を返してもらってませんよマセルさん、圧倒的に……」

 

「じゃあ、また冒険にでも行くか」

 

 彼がどこから帰って来たのか、これからどこに行くのか、それはどこでもいい。

 

 お宝があって仲間がいれば、そこが冒険の舞台になるから。

 

 渡り鳥――という男をご存じだろうか?

 

 空から空へ飛びまわり、遺跡から洞窟から縦横無尽に駆け回って宝を集める、いわゆるトレジャーハンターである。

 

 そんな彼の名は「マセル・エレバン

 

 ということでマセルたちの冒険の幕は、まだまだ閉じることはないのである。

 

 技巧鎧 ミスティ・ミラージュ ギア 完

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア26

お題「マイブーム」

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記憶を取り戻したソフィアは、あまりの衝撃にしりもちをついた。

 

 思い出さなければよかった。

ソフィアから出た感想はそれだった。

 

「ソフィア、大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫……」

 

 マセルもソフィアと一緒に過去の記憶を見たものの、かなりの衝撃を受けた。

 

 ウイントフックはともかく、ベルンの持つアスンシオンについては言葉にできない。

 

 ベルンはいくつもの命を奪ったアスンシオンを使っている。

その事実を知れば、彼はとても受け止められないだろう。

 

「……知らなければよかったかもしれない」

 

「そう、かもしれないな」

 

 ソフィアはその場で膝を抱えて俯く。

少なくとも過去の記憶は、楽しい物語ではなかった。

 

「あんなこと思い出さずに、普通に暮らしていればよかった……苦しいだけだよ、あんなの」

 

 膝に頭を埋めて丸くなったソフィアになんと声をかけていいのか分からず、マセルは立ち尽くした。

共に記憶を見たとはいえ、ソフィアの感じる重みはマセルとは大きく違うものだ。

 

「マセル」

 

 重い空気に追い打ちをかけるように、ナウルがやってきた。

今はキャビクレイに変身しておらずナウルの姿だ。

 

ナウル、なんの用だ」

 

「もう満足したか? 自分の過去、罪、歴史、それらを思い出してどう思った? “元”王様」

 

「う……」

 

「過去を知りたいと思ってここまで来たのはいいことだ。それで絶望するのも勝手だ」

 

「う……う……」

 

「王の血筋があっても、もう王ではない。だがこのマジュロ遺跡やベオグラード遺跡、ジャメナン遺跡を司っているのは王の血筋だ。記憶を取り戻したのならやるべきことがあるだろう」

 

 ソフィアを追い詰めるナウルに、さすがのマセルも待ったをかけた。

 

ナウル、何が言いたいんだ」

 

「もう一度王に戻ってスコピエ文明を復活させてくれ。あのときから逃げたままでいいのか?」

 

ナウル――いや、お前はナウルの姿を借りたただの幻か。お前らは王に帰ってきてほしいと思っているかもしれんがな、肝心の本人が否定しているんだ」

 

「……ふん。やっぱりこうなるか」

 

 ナウルは片足を上げ、靴に触れる。

 

「ミラージュコーティング」

 

 瞬時にキャビクレイに変身した。

漆黒のマントが揺れ、マセルを睨む。

その姿を睨み返し、マセルもウイントフックに変身した。

 

 互いにメットから剣を抜き、互いに剣先を突き付ける。

すすり泣くソフィアを前にして、微動だにしない沈黙の勝負が繰り広げられる。

 

 しばしの沈黙の後、それを破ったのはナウルだった。

 

「文明は王がいてこそ成り立つ。王がいなければ、滅びたも同じだ」

 

「……でも、もう私は王様なんてイヤなの……あんな、あんなこと……」

 

「でも、あの真実を知りたくて、わざわざこんな空の上まで来たんだろう? なのに知ったら知ったで、また逃げるのか? 今度は何年だ?」

 

「もう……もう……」

 

 涙で顔がぐちゃぐちゃになるソフィア。

答えも出せず、その場から逃げる気もない。

というより、逃げる気力がない。

 

「――いい加減にしろよ」

 

 マセルの剣を握る手が怒りで震える。

 

「もう、スコピエ文明なんて古代の話は終わったんだよ。過去の時代でしかない」

 

「……」

 

「王や文明に縛られるなんてイヤだね。自由に冒険して、時には運任せでスリリングで爽快感があって面白いのがいい。王なんていなくても、世界は動くんだよ。まぁ、俺は王だとか文明だとかよく分からんけど、楽しく冒険ができないのは勘弁してほしいな」

 

「そうか、じゃあ勝負といこうかマセル」

 

「それしか、ないんだな」

 

 部屋の中、刃と刃が交差する甲高い音が轟いた。

 

 冒険のためか文明のためか――男同士の戦い、親友同士の戦いが、幕を開けた。

 

 

 

 その頃、バンと対峙しているベルンは――。

 

「なにもないな……」

 

 試練の部屋に辿り着いたベルンは、警戒しながらその部屋をざっと眺めた。

踏み込んだ直後に鉄格子が下りて退路を断つ。

しかし前の部屋と違い、塞がれたのは入口だけで、奥の出口はそのままだ。

退路を断たれた以外にこれといった変化はない。

 

「でも、鉄格子があるってことは、なにかをクリアしないとダメってことだよな」

 

 恐る恐る一歩を踏み出す。

 一番隙を突かれやすいのは、さきほどの黒い影のようにどこからともなく出現されることだ。

特に背後から攻められると、アピアに直撃する可能性が高い。

 

「ん……?」

 

 ベルンの目の前に、今度は白い光が集まり始めた。

 

 ぼんやりとしているが、人の形を形成している。

 

「敵……?」

 

 白い光は武器を持たず、歓迎するように両手を広げている。

あいにく表情はないため、敵意の有無も判別できない。

 

 高身長、細身な体系。

帽子を被った貴族のような風貌。

その姿に見覚えがあった。

 

 ――バンジュールフリータウン

 

 カストリーズ盗賊団のボスで、ベオグラード遺跡の歯車に命を吸われ遺跡と共に海の藻屑と消えた、あの男だ。

 

「僕の心を見透かして、幻を見せているのか?」

 

 ベルンの疑問に呼応するかのように、白い光は徐々に色を成し、人らしい肌とバンらしい白い服が現れ始める。

 

 やがて、完全にバンそのものになった。

幻や影とは違い、確かにそこに立ち、動いている。

 

「やぁベルンくん。久しぶりだね」

 

 その声も、バンとそっくりそのまま同じだ。

 

「あなたは死んだはずですよ。本物じゃない」

 

「失礼だなベルンくんは……僕様は本物だ」

 

 本物――その声や姿がどこまで本物なのか、ベルンには分からない。

 

 しかし、このアルジェ遺跡が生み出した試練だと理解している。

 

「ところでそっちの女の子、アピアちゃんじゃないか。ソウル病で死んじゃったとか?」

 

「く……」

 

 ベルンは唇を噛み、怒りを抑える。

 

アピアは生きている。少し眠っているだけだ」

 

「ははは……そうか。ここに連れてくれば助けられると思っているのかい?」

 

「分からないけど、アピアだってそれを望んで覚悟をしている。だったら僕がアピアを守って、助けるしかないだろう」

 

「賭け、か。なんだかトレジャーハンターらしい思考になってきたじゃないか」

 

 そんな褒めの言葉をぶつけられても、ベルンはちっとも嬉しくない。

 

「もういい。僕は先に進ませてもらう」

 

 どうせこのバンは幻だ。

そう決めつけ、バンを手で払ってどけようとした、

 

 しかし、バンに触れた手は幻を払うこともなければ、空を切ることもなかった。

確かに、物理的に触れたからだ。

 

「っ!」

 

 一歩後退し、メットから剣を抜く。

その鋭い剣先は、ほかならぬバンに向けられた。

 

「おいおいベルンくん。そんな風に怒るなよ」

 

「あなた、ここを知っているんでしょう? なぜここにいる? なぜ生きている?」

 

「僕様が生きているって? バカバカしい。すっごく苦しくて痛かったんだから、もちろん死んだよ。今は魚のエサにでもなっているだろうね」

 

「じゃあどうして目の前にいるんだ!」

 

「ここが、命を司る遺跡だとしたら?」

 

 それは、ついさっきもマセルに言われたことだった。

 

ベオグラード遺跡が死の遺跡で、このアルジェ遺跡が命の遺跡……? それって?」

 

「本当らしいね、だから僕様はここにこうして存在している。まぁ、きみの記憶から一時的に作り出された実体のある幻でしかないが」

 

「存在しない人間を実体にできるのなら、病気くらいなら治せるっていうのか?」

 

「さぁ。死人のカンオケはあっても、命ある人間のカンオケはないだろう? それと同じさ」

 

 バンはバンらしく、比喩表現で誤魔化した。

 

「僕様が気に食わないこと……えーと、いくつだったかな」

 

「あなたからはその下らない話をもう九回も聞いた覚えがある」

 

「僕様が気に食わないことその十。それは歴史から目を背ける人間だ。歴史は人間が積み上げた最高の塔だよ。その塔を登らない人間は、歴史に存在する価値はない」

 

「で、けっきょく何が言いたい?」

 

「つまり、この先にはアピアちゃんを助けられる秘密が、あるかもしれないってことさ」

 

「……本当だな?」

 

「本当さ。それと、血で汚れたきみの右手と呪われた靴についても、ね」

 

「なんだって――?」

 

 以前、ベオグラード遺跡の中で見た、右手に付着していた血――最初は黒アスンシオンを撃ち抜いたバンの弾丸が命中して出血したと勘違いし、その後もアピアの家で血のことを思い出し、ずいぶんと混乱させられた。

 

「あったよね、ベオグラード遺跡で見た血をさ」

 

「……覚えている。確かにあのとき、血が見えた……」

 

「どういう意味か、分かるかい?」

 

「意味……?」

 

 当然、ベルンには血の本当の意味など分かるはずもない。

 

「きみが変身しているアスンシオンはね、数千年前に、大勢の命を奪ったんだ」

 

「――え?」

 

 無数の血を吸い、無数の亡骸を積み上げた呪われた右手。

呪われた靴という強力な力を手にし、反乱を起こしたコロールという男。

それがアスンシオンの真相だ。

 

「反乱を起こし、いくつもの命を奪った。王の記憶ではそうなっている」

 

「そ、そうやって騙すつもりか?」

 

「騙す? 今頃きみのお友達は見たんじゃないかな? そのときの記憶を」

 

「そんなことが……」

 

「きみがイジメっ子を殺しそうになったのも、ベオグラード遺跡を冒険したのも、アピアちゃんを連れてここまで来たのも、全てが呪われた靴のおかげだ」

 

「や、やめろ……」

 

「やめろだって? その血塗られた靴のおかげでここまで来れたんだろう? その靴でここから先に進んでアピアちゃんを救うんだろう?」

 

「そ、それは……」

 

「さぁどうする? それでも先に進むかい? 血で汚れた手でアピアちゃんを助けるかい?」

 

「ぼ、僕は……」

 

 ベルンに迷いが生じたとき、背中で寝息を立てていたアピアが目を覚ました――。

 

 ゆっくり目を開き、周囲の状況を確認する。

 

「あれ……?」

 

アピア? 起きたか」

 

「え? え? うう……ここ、どこ? 飛行機は……?」

 

 アピアをその場に下ろすと、寝ぼけている二本足で立ち、鈍った体で背伸びをする。

 

 ベルンはアスンシオンの変身を解除し、アピアの両手を握った。

 

アピア、よく聞いてくれ。飛行機は壊れた。みんな無事だけど、バレッタさんは外で残ってる。きみは飛行機が壊れて以降ずっと眠っていたんだ」

 

「そういえば……飛行機から飛んだよね……」

 

アピアはコメカミをぶつけて血を流した。幸い大したケガではなかったけど」

 

 アピアのことを優しく抱きしめた。嫌がる様子もなく、ゆっくりとベルンの背中に手をまわす。

だが次第に恥ずかしさが姿を現し、目を合わせずに離れた。

 

「べ、ベルン、これからどうするの? 飛行機は壊れちゃったんでしょ?」

 

「ああ……帰り道に関しては、まだよく分からないけど……ここを進めば、アピアの病気も治せるかもしれない」

 

「ホントに?」

 

「ああ」

 

 本当はそこまでの確信はなかった。

遺跡の内部のことなど保障できるわけはないが、ここで頷いておかないと余計にアピアの不安を煽るだけになってしまう。

 

「その靴があれば大丈夫だよね? ベルンは、死んじゃったりしないよね?」

 

「く、靴」

 

 靴が過去にどんなふうに扱われていようが、血に染め上げられていようが、これから自分の身を守ることには変わりない。

そして、アピアの命を守れる力であることにも、変わりはない。

 

 だが本当にそれでいいのか。

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア25

お題「マイブーム」

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「うーんとね。昔ここにいたこととか」

 

「オーライ、マジかよ……」

 

「昔って言っても、うんと昔だからよく覚えてないけど」

 

「お前、どんな時代の人間なんだ」

 

 最初にジャメナン遺跡でソフィアを見つけてから、マセルはずっと疑問に思っていた。

遺跡の内部にいたことを考えれば、現代の人間ではないことくらい理解できていた

下手をすれば、超古代の人間かもしれない、ということも。

 

「あとは……うーんと。なんか、すっごい色んな人に見られていたような」

 

「色んな人に見られていた? となると、劇団とかそういうのか?」

 

「うーん。よく覚えてないけど、そんな感じだったような」

 

 ソフィアはまだまだあやふやにしか思い出せていない。

 

 無理に思い出させるのも厳しいと思い、マセルはそれ以上の追及はやめた。

 

 そのとき、ちょうど次の試練らしき部屋の前にやってきた。

 

 道が左右に伸びていた。

その先は曲がり角で、少し進んでみなければ先は見えない。

 

 右の壁には赤い太陽のマークが描かれている。

 

同様に、左には青い月のマークがある。

 

マセルとベルンは、同時にソフィアに視線を移す。

 

「? どうしたの?」

 

 ソフィアの頬にある太陽と月のマークと同じだ。

これでより遺跡とソフィアの関連性が深まったことが分かった。

 

 太陽と月、と言っても、モデルが同じの違うマークというわけではない。

ソフィアの頬のマークからそのままコピーしたような、まったくと言っていいほど同じマークだ。

 

「ベルン、俺はソフィアを連れて太陽の道へ行く」

 

 ウイントフックのボディは青だが、剣のマークは反対に赤い太陽のマークだ。

アスンシオンのボディは赤で剣のマークは青い月のマーク。

それならば、自分の剣と同じマークの道に進むのが当然だろう。

 

「じゃあ僕は、アピアを連れて月の道ですね」

 

 両者頷き合い、左右に分かれた。

 もしもそこで、新たな試練として敵が出現すれば、お互いにソフィアとアピアを守りながら戦わねばならない。

 

 しかもアピアは、まだベルンの背中の上で夢の中だが、果たして――。

 

 

 

 部屋に足を踏み入れたマセルは、ある人物と相対していた。

 

 ナウル・アルマトゥイ。

 

五年前に飛行機事故でこの世を去った、マセルの親友。

 

 命を司るこのアルジェ遺跡で、ナウルは一時的にだが蘇り、実態を成してマセルと五年ぶりの再会を果たした。

 

 入口も出口も鉄格子で塞がれ、道はない。

もちろん引き返すつもりもないが。

 

「信じらねぇよ、ナウル

 

 ウイントフックの変身を解除したマセルがため息と共に言う。

 

「信じても信じなくても、俺はここにいる。しかし、よくこのマジュロ遺跡に来れたもんだ」

 

マジュロ?」

 

 このアルジェ遺跡とはマセルが勝手に命名しただけだ。

本当の名前はマジュロ遺跡と言う。

 

「まぁ、せっかく登場してもらって申し訳ないんだが、そこを通してくれ」

 

 ソフィアの手を引き、ナウルを横切って進もうと試みる。

 

 しかし、

 

「なぁマセル。どうして、俺のこと助けてくれなかったんだ?」

 

「え――」

 

 目の前のナウルは作り者だ。

そう認識できていても、声も姿も本物であれば心に響く。

 

「あのとき、どうして飛行機が堕ちたか知っているか?」

 

「当たり前だろ。あれはただの燃料切れ。飛ぶ前に確認して水を補給しとけばよかった話だ」

 

「ふん。俺は無様だよなぁ。飛行機乗りが、たかだか燃料切れ程度で死ぬとはよ」

 

 自分の死について語るナウルだが、どこか楽しげな会話になっている。

 

「ところで姉さんは元気か?」

 

「リンベルさんか。お前を喪ったショックを忘れたかったからか、盗賊団になったよ」

 

「盗賊団……?」

 

「リーダーが死んだから解散かもしれんが。もしやリンベルさんがリーダーになるかもしれん」

 

「まぁ、元気にやっているならいいよ」

 

 そこからしばし沈黙が流れた。

親友同士の思い出話というわけにもいかず、所詮はこの世に存在しないまがい物でしかないのだと、マセルは改めて実感する。

その張り詰めた沈黙を破ったのはマセルだった。

 

「ここ、命を司る遺跡なんだよな」

 

「そうだな。俺もここにいるわけだし」

 

「同行している仲間に助けたい友人がいるんだ。この奥に命を救えるような何かはないか?」

 

「たしかに、この奥に辿り着いた者だけが手に入れられる物があるし、この遺跡とその女の子の秘密も知ることができる」

 

「え?」

 

 その女の子とは、ソフィアのことである。

本人も目を丸くしていた。

 

「俺はお前の記憶とこの遺跡の力で実体化している。だから、この遺跡についても詳しいんだ。まぁ、ちょっとした試練も出すがな」

 

 ナウルの足には、いつの間にかウイントフックと似たような靴が出現していた。

 

「お前、俺とやろうってのか」

 

「命を司る遺跡だ。それくらいの刺激はないとつまらないだろう?」

 

 ナウルは右足を上げ、滑らせるように靴に触れた。

 

「ミラージュコーティング」

 

 足先からマセルと同じシルエットの鎧が現れ始めた。

シルエットこそ同じだが、色は白を基調としていて装飾部分は黒い。

だがこちらには黒いマントが付けられている。

 

「悪いな。弱いやつを通すわけにはいかないんだ」

 

 表情こそ窺えなかったが、そのメットの下では確かに笑みを浮かべていた。

 

「名づけて……そうだな、キャビクレイとでも名乗っておこうか。カッコいいだろ? マセル」

 

「オーライ、カッコいいぜ」

 

 マセルも負けじと、ウイントフックに手を触れる。

 

「ソフィア、端にいろ」

 

「う、うん」

 

 どんな争いになるか予想はできないが、ソフィアが隠れる場所もない。

 

 ウイントフックに変身――メットから剣を抜くと、同じくナウルもメットから剣を抜いた。

 

「おっと、マセル。その前に、その子の過去について知っておけよ」

 

「お前を倒さないと通してくれないんじゃないのか?」

 

「俺とお前の仲だろう。命のことはともかく、その子についてなら先に見せてやってもいい」

 

 キャビクレイに変身したナウルの表情はうかがえないが、声色からウソはないとマセルは判断した。

 

「それを見たら、お前と決着か」

 

「それでもいいぜ。お楽しみは最後だ」

 

 マセルは変身を解除しないまま、端で丸くなるソフィアの手を取った。

 

「どうするソフィア?」

 

「えっと……」

 

 自分の失われていた過去を知る――。

 

 それは二つ返事で決断できることではない。

それに答えた直後、返事は決意へと変わることになる。

 

 壮絶な過去を生き抜いた奇跡の子供である可能性――実は大罪人で、存在してはいけない存在である可能性――いつもは考えるのが苦手なソフィアだが、今回ばかりは様々な可能性が頭に渦巻いてしまう。

それでも、なにも知らない自分は気味が悪い。

 

「行くよ。マセルが、守ってくれるんでしょう?」

 

「あぁ」

 

 ソフィアが立ち上がる。

二人が出口へ向くと、そこに確かにいたナウルが消えている。

 

 幽霊か、幻か、多少は蘇った可能性も考えて喜んでいたマセルだったが、やはり現実はそう甘くないな、と前向きに受け止めることにした。

 

 鉄格子も上がり、二人は前へ進んだ。

それからしばらくは、なにもない四角い通路だった。

 

隣の部屋にいるベルンのことも気になったが、戻ったところで手伝えることはない。

 

 足を動かし続けていると、やがてソフィアが何かに気づいて立ち止まった。

 

「思い出してきた……ここ、やっぱり見たことある」

 

 ソフィアはマセルの手を離れ、飼い主を見つけた犬のように一直線に駆け出した。

 

「ソフィア待て!」

 

 無鉄砲に走ればトラップに引っかかりかねない。

 

どうにかして捕まえようと、マセルは駆け出して手を伸ばした。

 

 が、その必要はなくなった。

ソフィアが奥に到着し、足を止めたからだ。

 

 辿り着いたのは、四角く狭い部屋。

通路と同じく石で出来た不愛想な部屋だったが、金色に輝く石板が中心に浮遊していた。

大きさはスケートボードほど。

ソフィアはそれに見覚えがあるらしく、震える手で触れようとする。

 

「待てソフィア」

 

 マセルは不用心に触れようとするソフィアの手を掴んで止める。

 

「これ、知ってるんだよな?」

 

「うん……これ見て、なんとなく思い出した。これは私の記憶を詰めた箱」

 

「これで思い出せるんだな?」

 

「うん。たぶん……」

 

 ソフィアに確信はなかったが、その自信を確認に変えるためにも記憶は必要だった。

 目を瞑り、二人の手が石板へ伸びる。

 そして、記憶が流れ込む。

 

 

 

 今から数千年前――。

 

 ソフィアはスコピエ文明における王だった。

 

 スコピエ文明は、超人的な力を手にすることができるウイントフックとアスンシオンを作り出し、その使用者にダッカとコロールという男を選んだ。

 

 鉄の槍や剣などはウイントフックとアスンシオンの前なら紙同然のもの。

肉弾戦ともなれば、どんな屈強な戦士が相手だろうと赤子の手をひねるようなものだ。

 

 靴の開発が滞りなく進んでいたとき、ダマスカスという盗人の男が捕まった。

 

男は五人の兵士に拘束され、ソフィアの前で地に押さえつけられる。

 

 ダマスカスは元医者で、隣の村にいるソウル病の十歳の少年を治療できると豪語した。

 

 だがここでソフィアにある取り引きを持ち掛ける。

 

 九年間の解放を条件にソウル病の少年を治療するか、自分を盗人として処刑し少年を見殺しにするか、どちらがいいかと。

 

 ソフィアを王として試したというわけだ。

仮に拷問をされたところで絶対に屈しないと自信たっぷりであるダマスカスを、ソフィアは半信半疑ながらも頼ることにした。

 

 それでもソフィアは命の天秤に悩んでいた。

罪人の男か罪なき子供か――正しい判断で子供を殺すか、誤った判断で子供を救うか――まだ子供のソフィアには、難しすぎる判決だ。

 

 それから半年後――ウイントフックとアスンシオンは完成し、ダッカとコロールを自分を守るための最強の兵士とした

町の治安なども靴の力で容易に維持し、悪党の数も激減した。

 

 だがダマスカスだけは捕まえることができなかった。

もし捕まえれば、ソウル病の子供を絶対に助けないと宣言したからだ。

 

 判断を見誤った――ソフィアは改めて自分の力不足と経験不足を呪う。

 

 さらに半年後――悪党と呼べる悪党はほとんどが処刑され、罪人はダマスカスのみとなった。

スコピエ文明の秩序と平和は、ソフィアのおかげで完全に保たれたのだ。

 

 だが、一年も迷い続けていたソフィアに隙が生まれた。

 

 ダマスカスを野放しにしたソフィアへのメッセージとして、コロールがアスンシオンで反乱を起こしたのだ。

 

 罪人を信じた罪。

それがどれほどのことなのか、身をもって――多くの犠牲という形でソフィアに思い知らせた。

 変身していなかったダッカも背後からや

られてしまい、止められる者はいない。

コロールとアスンシオンにより、市民たちは蹂躙され、町は血の海となった。

 

 そんなとき、一年ぶりにあの男――ダマスカスがソフィアの前に現れてこう言った。

 

「医者ってのは本当だが、よくもまぁあんな嘘に簡単に騙されたもんだ」と。

 

 ダマスカスは、ソフィアの王としての資格を試すと同時に、自分が罪から逃れるための嘘をついたのだ。

 

 一年の半信半疑は、確信へと変わった。

 

 当然、スコピエ文明の王であるソフィアにもコロールの魔の手が迫る。

 

 しかし、逃げてもいいものか。

 

 王として最強の武器に殺されるか、それとも市民を見捨てて自分だけ逃げ惑うか。

 

 いくつもの命を奪ったコロールがソフィアの目の前に現れる。

ソフィアの側近が、回収したウイントフックで抵抗する。

 

 そして、相打ち。

 

 ソフィアは死亡した二人から靴を外し、それからマセルと出会ったジャメナン遺跡まで逃げた。

そこで靴を箱に封印し、永き眠りについて王としての記憶を失った。

 

 ――それから、マセルと出会うまでの数千年間、今度は正しい決断のできる王に出会えると信じて、ソフィアはじっと孤独に待ち続けることになる。

 

 もう同じ悲劇を繰り返さないような、王に出会うため……。

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア24

お題「マイブーム」

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「階段の前に待機だ。ソフィア、アピアを頼む」

 

 この円形状のエリアに踏み込めば、何かが来る。

 

 入口と出口は完全にシャットアウトして、道を閉ざしたうえで、なにかが攻めてくるはず。

 

とマセルは予想した。

 

「ベルン、準備はいいか」

 

「大丈夫です」

 

 マセルたちは、円形状の空間に一歩を踏み出した。

 

 ――直後、マセルの予想通りに、入口と出口は封鎖されてしまった。

下りてきた冷たい鉄格子が退路を奪い、ソフィアたちとの間に壁を作る。

あまりに予想の範疇すぎて、マセルの心拍数が変動することはない。

 

 ここまで予想通りなら、この先も的中するはず――マセルたちはメットから剣を抜いた。

 

「来たぞ、ベルン」

 

 十メートルもある天井にブラックホールのような黒い靄が出現し、人型の影がゆっくり下りてきた。

 

 黒ウイントフックでも黒アスンシオンでもない、シンプルに、右手に丸い盾、左手に細身の槍を持った戦士のような風貌。

だが色は黒一色で、表情も生気も一切存在しない。

 

「マセルさん、こいつも遺跡を守るためのものですよね」

 

「だろうな。さっさと倒して次に進むぞ!」

 

 黒い影は槍を構え、戦闘態勢に入った。

 

二体一は少々卑怯ではあったが、相手の力量を把握できない限りそうも言っていられない。

 

 アルジェ遺跡の防御システムともなれば、まず拳銃などで対抗できるものではないだろう。

 

 マセルたちは挟み撃ちを狙い、左からマセル、右からベルンが回り込んだ。

黒い影は後退しつつ、槍と盾をそれぞれに向けて戦闘態勢を崩さない。

 

 ――マセルは地を蹴って飛び込んだ。

矛先は向いていたが、構わず特攻する。

 

「もらった!」

 

 突き出される槍を剣で絡め取り、巧みに受け流した。

訪れた隙を逃さず、黒い影の頭に右足で回し蹴りを叩き込む。

 

 盾は右――ベルンの方へ向いている、防がれることはない。

 

 が――。

 

 蹴りは黒い影を貫通――命中の感触はなく空を蹴る。

黒い影は武器ごと霧散し、その場から姿を消した。

 

「マセルさん、どうなっているんですか!?」

 

「武器も体も霧、でもあっちから攻撃はできる。そういう特殊なやつらしい」

 

「厄介な相手ですね……」

 

「たしかにそうだが、この状況も厄介だ」

 

 霧散してからというもの、黒い影はその場から姿を消したままだ。

かといって鉄格子が開くわけでも別の通路が現れるわけでもなく、部屋そのものに目立った動きはない。

 

 ――どこから来る……?

 

 ――いつやってくる……?

 

「ベルン、後ろだっ!」

 

 ――ふり返る――。

 

 目と鼻の先から槍が迫り、ベルンのメット横をかすめた。

 

寸前で直撃は免れたものの、バランスを崩したベルンに隙が生まれる。

 

 反撃する暇も、ない。

黒い影は槍を引っ込めて盾を突き出した。

鋭利ではないものの範囲は広く、またも大きな隙が生まれてしまう。

 

 盾を引き、連動するように槍を出す。

だがここでまんまとやられるベルンではない。

 

「させるか!」

 

 高速で迫る槍を、ベルンは両手でガッチリとホールドした。

 

「ベルン! 今行くぞ!」

 

 攻撃を受け止めて動きを封じることが出来れば、逆転に繋げることだって不可能ではない。

 

 黒い影はアスンシオンと同等――それ以上のパワーであり、押し負けるのは時間の問題だ。

 

 マセルは疾風の如く駆け、黒い影を正面から水平に薙ぎ払った。

 

 ――だがこれも失敗。

黒い影はまた霧散し、剣は空を斬る。

 

「あいつ、また隠れやがった……」

 

 どういった原理なのか、おそらく科学的に考えたところで答えを出せる者はいないだろう。

遺跡やお宝に科学的なことを追求するのは愚かなことだ。

この黒い影についても同様で、原理や現象など、人類に解明はできない。

 

「どこだ……?」

 

「どこに……いる?」

 

 二人は背中を合わせる。

ゆっくりと時計回りに回転し、警戒を三百六十度に行きわたらせる。

 

 ――来ない。

 

 逃げたのかと思えるほど、気配という気配はその場から消失している。

そもそも影に気配があるのか、という疑問もあったが。

 

「マセルさん、気になることがあるんですが」

 

「後にしろ」

 

「いえ、今でなければ――」

 

 ――出現。

 

 会話中の隙を狙ったのか、黒い影は頭上から現れた。

 

 背中合わせになっているマセルとベルンに落下しながら振り下ろされた槍を、マセルは一歩踏み込んで防いだ。

 

「こいつっ! 影のクセに、パワーはハンパねぇ! 拍手をくれてやるぜ!」

 

 土の地面なら何センチかは沈んでいただろう。

一本の槍から圧しかかった衝撃は凄まじい。

 

「ベルン! こいつを攻撃しろ!」

 

「いえ、ダメです。またさっきみたいに逃げられるだけです」

 

「じゃあ……どうしろっていうんだよ……!」

 

「さっきの話です。マセルさん、そいつを引きつけながら壁に背を向けてください」

 

「な……に……?」

 

 わけの分からないマセルだったが、説明を聞く暇も、疑問に思う暇もない。

 

 槍を剣で押さえ込みつつ、黒い影の体に触れぬよう壁に押し出した。

火事場のバカ力ならぬ遺跡のバカ力で、血管が切れる寸前でフルパワーで壁際へ押し込む。

 

 ジリリ、ジリリ、足から地面が離れず、しかし確実に前へ進む。

 

 また霧散して逃げぬよう慎重に、大胆に、しかしいつでも逃げられるよう気は抜かない。

 

 ベルンの作戦通り、マセルは黒い影を壁際まで追い詰めた。

 慌てて振り返り、ベルンに確認する。

 

「ベルン! これでどうだ!」

 

「違います! そいつを引き付けてマセルさんが背を付けるんです!」

 

「む、無茶を言うな!」

 

「ようするに、そいつの背中を僕のほうに向けてください!」

 

 無茶な作戦だとしても、今はやるしかない。

 

 位置を反転しつつも、黒い影に押されないようにしながら絶妙な加減で力を緩める。

壁の方向に向いたとき、さらに力を緩めて壁際まで押し込ませた。

 

「ベルン! これでいいか!」

 

「やっぱりか……!」

 

 ベルンは、まっしぐらに剣を構えて突進する。

 

 黒い影に気配を察知する能力があるのか不明ではあったが、なるべく静かに、かつ素早く前進し、黒い影の背後を狙う。

 

 動くな――動くな――動くな――。

 

 ベルンはただそれだけを祈り、足を動かす。

 

 ――そして。

 

 黒い影の背中に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

だが以前のように霧散して逃げることはなく、黒い影は原型を保ったままその場で力を失う。

当然だが、生物や固形物に刃を貫通させた感触ではなく、どちらかと言うと水に剣を突き立てたような感覚であった。

そのことに多少なりとも安心する。

もしも肉のような感触があれば、敵とはいえあまり心地の良いものではない。

 

「もらった!」

 

 力が抜けた隙を突き、マセルが黒い影を水平に薙ぎ払った。

 

 声も上げず、苦しむこともなく、黒い影は武器を離し、光に飲み込まれたかのようにゆっくりとその色を失って、やがて――消滅。

 

 霧散ではない。

つまり逃亡ではなく、撃退することができたのだ。

 

 勝利の報告のつもりなのか、入口と出口の両サイドを塞いでいた鉄格子が上がり、ようやく次に進めるようになった。

 

「倒した、よな?」

 

「大丈夫だと思います」

 

 一悶着を終え、二人は変身を解除した。

 

 さてソフィアたちを連れて次へ、というわけにはいかず、マセルは疑問を口にする。

 

「おいベルン、さっきのどういう作戦だったんだ?」

 

「いえ、戦っている最中に話そうと思っていたんですが……あの黒い影、僕らに一度も背中を向けていなかったんです」

 

「そうだっけ?」

 

 人間の常識で推測するのなら、敵に背中を向けずに動くのは当然のこと。

だが相手は剣を入れたところで命中せず、ニンジャのように別の場所から自在に攻めてくる。

命中しないのなら、そもそも背中を守る意味もない。

そこにベルンは注目した。

背中を向けないのは、おそらく背中に弱点があるからだ、と。

 

 それに関しても推測の域を出ることはなかったが、このまま無意味な空振りばかりするよりはマシ、というある意味賭けのようなものではあった。

まぁ結果オーライである。

 

「背中に弱点があったんですよ。あんな真っ黒な身体でしたけど、背中にだけ白く丸い模様があったんです」

 

「やるじゃねぇかベルン」

 

 二人の戦士は静かにハイタッチを交わした。

 

「でもマセルさん、まだ終わりじゃないみたいですよ」

 

「……あぁ、そうみたいだな」

 

 まだ一本道が続いている。

次も似たようなトラップが待ち受けている――というよりは、むしろ試練と言った方が適切かもしれない。

 

「あぁいう敵が出てくるとなると、やっぱり奥にはなにかが隠されていますね」

 

「もしかしたら、アピアの病気を治せるような何かもあるかもしれない」

 

 それが不老不死の歯車のような、名ばかりの呪いのお宝でないと祈るしかないが。

 

 だがベオグラード遺跡とアルジェ遺跡は、共にソフィアとの関連が強い。

アルジェ遺跡のお宝も、ベオグラード遺跡と同様に呪われたお宝が待ち構えている可能性が高いと懸念している。

 

「僕は行きますからね。どれだけ危険な道だろうとも」

 

「当然だ」

 

 マセルはソフィアの手を引き、ベルンはアピアをおぶった。

 

 奇跡を目指して、希望を目指して、次へ歩くのみ。

 

「しかし、妙だな」

 

 道を進みながらマセルが言う。

 

「妙? 何がですか?」

 

「さっきの黒い影だ。あいつ、そもそもなぜ襲ってきた?」

 

「それは……遺跡を守るため、なんじゃ?」

 

「それはなぜだ?」

 

「さぁ、そこまでは分かりませんよ。遺跡に関してはマセルさんのほうが詳しいのでは?」

 

ベオグラード遺跡は、おそらくトレジャーハンターの探求心をかきたてて前に進ませる必要があったからだ。俺やお前のような、あとあの盗賊みたいな強い人間だけをふるいにかけてな」

 

「なるほど」

 

 強い人間だけを奥に進ませるようにし、そして不老不死の歯車が強い人間の命を吸う

その頂点に立ち、犠牲になったのがバンだったわけだが。

 

「じゃあこの遺跡の目的は?」

 

「あっちが死を司る遺跡なら、こっちは生を司る遺跡だ。強い人間のみが辿り着いて命を与えるのかもな」

 

「命を与えるのなら、強い人間である必要はないんじゃ?」

 

「遺跡を作った連中……おそらくソフィアの親戚かなにかだと思うが、そいつらの意図は分からん。けど、なにか秘密があるのは間違いないだろうな」

 

「なるほど」

 

「なぁソフィア、なにか見覚えないか?」

 

 マセルはぼうっとした様子のソフィアに質問する。

 

「ここ、知ってるよ。だってここ、来たことあるから」

 

「は、え、え、ちょっと。ソフィア、お前、知らないって言ってなかったか?」

 

「言ったけど、なんか少しずつ思い出してきた気がするよ」

 

「たと、えば……?」

 

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ブログ小説 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア23

お題「マイブーム」

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アピア! おい! 返事をしてくれ!」

 

 ベルンは足を滑らせ、着地の際にアピアを離してしまった。

 

 ゴロゴロと転がるアピアは小さな石にコメカミをぶつけ、そこから血の線が伸びていた。

 

 何度も呼びかけていたが、呼吸をするだけで目を覚ます気配はない。

ただでさえソウル病で短い命の灯が消えるのを黙って見ているほど呑気じゃない。

 

アピア……アピア……!」

 

 呼吸はまだ続いているが、ここに医者はいない。

最善の策が、見つからない。

 

「ベルン!」

 

 叫んだのは反対側から来たマセルだった。

 

 ここで医者が駆けつけてくれたらどんなに心強いか、軽く残念に思うベルンだが、仲間が助けに来た感謝は忘れていない。

 

「ベルン、大丈夫か!」

 

「僕は大丈夫です。でも、アピアが」

 

「とにかくバレッタたちのところに運ぼう」

 

「運ぶって……どうするつもりですか?」

 

「俺に医療知識なんてない。でもとにかく血を止めて、呼びかければなんとかなるかもしれん」

 

 他に策もなく、ベルンはアピアを抱っこして移動させた。

少しでも煙に当たらないよう移動し、バレッタたちのところへ辿り着く。

 

 どうにか、どうにかしてアピアを救わねば。

幼い頃から世話になっているアピアを今ここで助けられなければ、ベルンは生きている意味の半分を失う。

わらにもすがる思いで、ベルンは助けを求めた。

 

「お願いします! 誰か、誰かアピアを!」

 

 ――その後、バレッタたちの助けもあり、辛うじて出血は止めることができた。

本格的な消毒や止血はできず、ほぼ自然に止まったようなものだったが、幸いにも大したケガでないだけでも皆は安心した。

 

 呼吸も安定し、眠っているのとそう変わりない。

しかし無防備なアピアだけをここに置き去りにするわけにもいかず、ベルンはアピアを背中におぶることにした。

 

「とりあえずは、大丈夫そうだな」

 

 マセルは額の汗を拭い、一息つく。

 

 だが本番はここからだ。

 

 まだ遺跡の入り口にすら立てていないことを忘れてはならず、そもそも入口があるのかどうかも定かではない。

 

「やっぱり……アピアは連れてくるべきじゃなかった」

 

 ベルンは力づくでも止めなかったことを後悔した。

 

 マセルたちは周囲を見渡し、アルジェ遺跡の確認に徹する。基本は短い草の生い茂る平面だが、突き出た岩がいくつか目立っていた。

 

 それだけならまだ地上にもありそうな景色だったが、一番の違いは空の上にあるということと、中心に四角形のブロックで囲まれた階段があったことだ。

 

「俺、ちょっと見てくる」

 

 マセルがそれだけ言い残して階段へ歩を進める。

だがその足は、バレッタに腕を掴まれたことによって止まった。

 

「待ってくださいマセルさん」

 

「なんだよバレッタ

 

「また無計画に行くつもりですか?」

 

 いつもの癖を突かれ、しばし迷いが生じる。

 

だがそれはマセルにとって小さなことで、今は何より前に進むことが目的となっている。

足を止めるわけには、いかない。

 

「俺は確かに無計画だ。でもここで止まってたって道は拓けない。ここまで来た以上は、進むか残るかの二択だ。バレッタ、お前はどうする?」

 

 バレッタはそれに質問で返した。

 

「……マセルさんは、いつもそうやって冒険しているんですか?」

 

「ウイントフックがないときからそうだった。トラップやらなにやらは自分の力で解除して、出口なんて後回しだ。そもそも遺跡なんて調べてどうにかなるものじゃないしな」

 

「それ、カッコつけてるつもりですか?」

 

「トレジャーハンターも盗賊も、ほとんどが運だ。実力だけじゃ生き残るなんて無理なんだよ」

 

「じゃあ、このアルジェ遺跡にも出口があるとは限らないですよね」

 

「絶対とは言い切れないな」

 

 高所のため、地上に比べて薄い酸素。

深呼吸をしても効果は薄いが、けれどもバレッタは落ち着かない深呼吸を繰り返した。

 

 死ぬ可能性は高い――バレッタはアルジェ遺跡への突入を反対こそしなかったが、やはり胸の中は薄黒い不安が充満していた。

 

 かと言ってここに残るのも心細く、安全とも限らない。

 

「でもバレッタ

 

 バレッタから答えが出るより早く、マセルは次の質問へ移行した。

 

「お前は来るな。危険だ」

 

「き、危険なのは分かってますけど……」

 

「お前はここまで俺らを運んできてくれた。それだけでも凄く感謝している。ベオグラード遺跡のときに、もう俺とは行きたくないって宣言したのに、それでも来てくれた。お前は凄いよ」

 

「わ、私は……」

 

 バレッタの目が、次第に涙目になる。

 

「どうする、バレッタ

 

「……残ります。私なんかが行っても役にたちそうもないですから」

 

「そうか。分かった」

 

 バレッタはマセルの手を離し、進めなかった一歩を踏み出した。

 

 まだ迷いの残るバレッタを背にして、階段を目標に地面を踏みしめる。

 

 油断すれば遺跡ごと落ちるのではないだろうか、そんな不安を抱きながらもマセルは前進をやめない。

振り返ることもしない。

振り返れば、きっと涙を浮かべたバレッタがいるはずだから。

 

 階段は人二人が横並びに歩いて丁度いいほどの広さで、左右は小刻みに草の生えた黒い石壁に挟まれていた。

 

 誰かが丁寧に点検しているのか、階段は石造りながらも綺麗に整っており、崩れたり割れたりといった目立った外傷はない。

 

階段の下、奥には同じような石の壁があり、おそらくあれが扉だろうとマセルの勘が告げる。

 

 まさか侵入してすぐに海水が流れ込むなんてことはないだろう、床が抜けて海へ真っ逆さまなんてことならあり得るが……。

 

半信半疑で階段を下りる。

 

 扉らしい壁に手をかけると、睨んだ通り真ん中には扉らしく細い隙間があった。

 

ウイントフックに変身し、隙間に指を入れて左右に力をこめる。

 

 だが、叩いても斬っても扉は口を開けなかった。

 

 ソフィアを扉の前に連れてきた。

具体的にどうするかはさておき、ここにいれば扉が開くだろう、といったマセルの予想でしかない。

 

「なぁ、ソフィア、なんとかならないか?」

 

「えー? わかんないよ」

 

「なんでもいいから」

 

 ソフィア自身にどうにかする算段などなかったが、とにかく何かをすることにした。

 

 とりあえず扉に触れてみる。

 

 ――すると。

 

「マジか!」

 

 二枚の扉に赤い太陽のマークと青い三日月のマークが浮かび上がり、重い音を響かせながら左右に開いた。

 

 中は太陽光が届くような場所ではなかったが、ベオグラード遺跡と一緒で壁や天井に不規則な模様が刻まれており、はっきりと通路が見えるほど光っていた。

 

 マセルの推測は当たっていた――ソフィアとベオグラード遺跡とアルジェ遺跡、この関連性は濃いものだと、いま証明されたのだ。

 

 未踏の遺跡に挑戦するつもりのマセルだったが、その前に確認するべきことがあった。

 

「なぁソフィア、お前、この遺跡のことは知らないんだよな?」

 

「分かんないよー」

 

ベオグラード遺跡についてもか?」

 

「べおぐらーど?」

 

「海に飛び込んで脱出した遺跡だ」

 

「うん。あそこも知らないところだよ」

 

「お前は知らないかもしれないが、その頬に描かれた太陽と月のマークは無関係とはいえない」

 

 本当に、ソフィアには何も分からない。

これほどの関連性を見せておきながら、ソフィアの脳内には欠片も情報がない。

 

「俺とお前が会った、ジャメナン遺跡の記憶もないか?」

 

「うーん。気づいたらあそこにいて……」

 

「気づいたらキングストン連中と一緒にいたのか?」

 

「うん。あそこにいるより前のことはサッパリ分からないよ。でも、なんか、大きな決断をしたような気がする……いいや、よく覚えてないや」

 

「なぁ、もしもこの遺跡でお前の謎が解けるとしたら、どうする?」

 

「うーん。知ることができるなら知りたいかなぁ」

 

「分かった。ソフィアがそう言うなら、進むしかないな」

 

 戻るにしても頼みの綱であるアテネ号は完全に大破した。

いつものマセルのように、帰り道は後で探すほかない。

となると、どんなことになろうとも遺跡を進むしかない。

 

「ベルンを連れて、アルジェ遺跡を探索する。でもソフィア、ここからはどんな危険があるか分からない。この入口を見る限りは、お前の存在は必要不可欠になると思うが」

 

「……よーするに、一緒に来てほしいってこと?」

 

 話の分かるソフィアで助かった、とマセルは頷いた。

 

「マセルさん、どうですか?」

 

 まだ扉の件を知らないベルンが進捗具合を確認しにマセルたちの下へやって来た。

 

 背中には眠ったアピアをおぶったままだ。

 

「あっ」

 

 すぐに状況を理解し、冷静な表情で階段を下りる。

 

「どうやって開いたんですか?」

 

 マセルがソフィアを連れてきたとき、ベルンは扉については聞いていた。

 

「ソフィアのおかげだ」

 

 それには冷静さを保てなくなり、さすがのベルンも目を丸くする。

 

「その子、いったいなんなんですか?」

 

「俺にもソフィア本人も分からん。それを探るためにも遺跡に入る必要がある。ベルン、ここからはおそらく危険な冒険になる。アピアを連れてでも行くか?」

 

「もしもアピアが眠っていなければ、絶対に行くというはずです。そのために同行してますし」

 

「その子のことはお前が守るんだぞ……って言われなくても分かるか。じゃあ行くぞ」

 

「その前に一つ」

 

「なんだ? 手短に頼む」

 

バレッタさんはどうするんです?」

 

「あいつは行かないって言った。十分に活躍してくれたよ、ここまで連れてきてくれたんだ」

 

「そうですね。危険ですし」

 

「じゃあ、今度こそ行くぞ」

 

 マセルたちは意を決して、アルジェ遺跡内部へ一歩を踏み出した。

 

 どのトレジャーハンターも盗賊団も知らぬ未知の領域。

 

 どれほど危険なのかも予測できない、謎だらけの場所へ――。

 

 

 

 ベオグラード遺跡と違い、不意に道が歪んだりはしなかった。

マセルはその点を少し残念に思ってはいたが、仲間の支えがあって順調に進めるのは幸運だった。

 

 長い階段――一本道でも用心し、すでにウイントフックとアスンシオンには変身している。

 

けれでも、何も起こらないのが逆に不安を募らせる。

 

「マセルさん、トレジャーハンターとしての勘でいいんですけど、ここってどんな危険がありそうですか?」

 

「この様子だと、行けば何かが正面から襲って来ると思う」

 

「なにか、とは?」

 

「獣か、石でできた兵士か、予測できんな」

 

 どこからなにが襲撃しても対処できるよう、上下前後左右に警戒センサーを張り巡らせる。

一番に守るべきなのは、ソフィアと眠っているアピアだ。

 

 ――だが警戒の甲斐もなく、階段はそこで終わった。

 

「マセルさん、なにもありませんでしたね」

 

「喜べ、傷一つつかずに進めたことをな」

 

 階段から下にはこれまた広い空間があった。

 

 黒ウイントフックたちが出現したベオグラード遺跡の空間と違い、円形状で縦長。

高さは十メートルほどあり、見上げても天井と壁しかない。

正面には先に進める道があり、まだまだ長い一本道が続いている。

 

「マセルさん、素人の僕にも分かります。これ、なにかトラップがありますね」

 

「だろうな。すんなり進めるとは思わないほうがいい」

 

アピアたちはどうします・・・?」

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア22

お題「マイブーム」

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距離があるおかげでアテネ号には直撃しないものの、弾丸を受けて無傷とはいかない。

 

「二人とも! 頭を下げてください!」

 

 バレッタは視線を逸らすことなくアピアとソフィアに指示を出す。

 

 それでも操縦は怠らず、速度も高度も落ちることはない。

 

 だがそれも時間の問題だ。

 

 もし燃料タンクや羽が破壊されれば、五人も乗った飛行機は耐え切れず墜落は間違いない。

 

 しばらく耐えるとバルカンは止んだ。

だが弾切れというわけではなく、オーバーヒート防止のために長時間の発射を控えただけだ。

 

 マセルは、ここから追撃する決断をする。

やられる前にやるしか、助かる道はない。

 

「ベルン! 俺らであいつらを落とすぞ!」

 

「どうやるんですか!? こっちには銃も爆弾もないんですよ!」

 

「銃も爆弾もないが、ウイントフックとアスンシオンがあるだろが!」

 

「でも、どうやってあんな距離にいる敵を倒すっていうんですか!? まさか、飛んで戻ってくるなんて、言わないですよね」

 

「勘が良いじゃないかベルン。その、まさかだ」

 

「無茶だ……ここはあなたの嫌いな空中ですよ。正気ですか!」

 

「だったら、お前のガールフレンドを守る作戦がなにかあるのか?」

 

「それは、ないですけど!」

 

「なにもないのか? そりゃ名案だな!」

 

 マセルは軽く準備運動をし、背後から迫るキングストン連中へ向く。

 

「俺が落ちたらバレッタたちを頼む」

 

「なにを……?」

 

 迷いもせず、マセルは陸上のようなクラウチングスタートの体勢になる。

 

 心の中で数字を数え、

 

 一――。

 

 二――。

 

 三――。

 

 蹴る。

 

 アテネ号の上を全速力で駆けだした。

かなりの短距離で助走を作り、飛行機の端に到達したところで両足をバネにする。

 

 下を見ない下を見ない下を見ない下を見ない下を見ない。

 

 下を見た瞬間、失神する。

それだけ注意し、とにかく前へ前へと突き進むことだけを考える。

 

「とどけぇえっぇぇ!」

 

 手を伸ばし、足を伸ばし、それでもまだ距離はある。

 

 だが相手の飛行機も前進を続けているため、確実に距離は詰められているが。

 

「無駄なあがきよマセル坊や!」

 

 冷却が終わったバルカンを連射し、空中にいるマセルを問答無用で襲う。

 

 それが幸か不幸か、マセルのおかげでアテネ号に命中しないのも事実だが、ウイントフックも無敵というわけではない。

 

「ぐおおおお!」

 

 生身ならハチの巣は間違いない威力と命中率――。

 

 だがこんなところで止まるわけにもいかない。

 

 マセルはメットから剣を抜き、弾丸を弾きつつ目標へ突き進む。

 

 剣を掲げ、弾丸などなんのそのと速度は落とさず、飛行機に片足が到達した。

プロペラと操縦席のギリギリのラインを足場にして踏ん張る。着地の勢いと組み合わせ、マセルは大きく振りかぶった。

 

「食らええええ!」

 

 真下に剣を突き刺して船体を貫通させると、破裂音とともに煙と火が噴き出す。

 

「やめなさいよマセル坊やぁぁぁぁ!」

 

 涙目になるバンダルに「じゃあな」と手を振り背を向けた。

 

 墜落前に飛行機を蹴り、アテネ号へ戻るための跳躍を試みた。

 

 だが行きと違い、アテネ号は前進をし続けてぐんぐん距離が離れてゆく。

 

 その差、約十メートル。

 

 一度のジャンプだけで届くのか――否、届かなければならない。

 

 ――爆発。

 

 背後では不規則な爆発とともにキングストン連中の飛行機が海へ墜落していく。

 

 それが助力となったのかマセルの背中は爆風で押し出され、それこそ爆発的な加速を見せた。

 

「届きやがれぇぇぇぇぇ!」

 

 ウイントフックのジャンプでもまだ届かない。

それでも容赦なく距離は離れてゆく。どうすればいい、どうすれば、アテネ号に辿り着ける……?

 

「こうなったら、一瞬の賭けだ……!」

 

 メットの右に剣を戻し、今度は左の歯車を外す。

ベオグラード遺跡の脱出の際に見たワイヤーを思い出したのだ。

 

「おりゃぁぁぁぁぁ!」

 

 鉄球を投げんとする勢いで歯車を振ると、フックのついた細いワイヤーが飛び出す。

 

 伸びる、伸びる、伸びる――。

 

 だが届かない――。

 

 あと数センチ、というところでワイヤーは終わり、マセルの頭の中が真っ白になった。

 

 これ以上の策は、ない。

 

 ――もしも仲間がいなければ、の話だが。

 

「落ちないでっ!」

 

 ベルンが手を伸ばし、ワイヤーを掴んだ。

 

 急に重力が逆流したように感じたマセルは、何事かと見上げる。

 

「こ、ここで落ちるような人なんですかあなたは! 引っ張り上げます! だからくれぐれも下を見ないで!」

 

 ワイヤーを掴んだベルンは、綱引きの要領で引き始める。

 

 アスンシオンのおかげで幾分は力に余裕があるものの、前方から吹く風で押し出されてしまい一筋縄ではいかない。

 

「うおおお! だから高いところは嫌なんだぁ!」

 

 マセルの叫びなど、大空では風に流されて空しく消えるのみである。

いくら叫んだところで前進するわけもなく、マセルはただ耐えるのが精々だ。

すぐ目の前に陸地があれば別だったが、あいにくとそんなものはない。

しかも高所だと、どうしてもマセルは本気を出せない。

 

「弱音を吐いている場合ですか!」

 

 ベルンは引きながら、マセルの行動力を尊敬していた。

 

 帰り道の算段は立てていなかったにしろ、アテネ号を死守するためにキングストン連中の飛行機を自ら接近戦で落としに行くという勇気に。

 

「うぉりゃぁ!」

 

 大型魚の釣りの如く、マセルを空中から救い出した。

 

 綺麗な線を描きながらマセルは天高く舞い上がり、アテネ号に背中から叩きつけられる。

 

 ジャンプ、落下、停止、急上昇の空中コンボを体験したマセルの目はグルグルと回転し、もはや地上なのか把握できていない。

 

「マセルさん、マセルさん」

 

「おおお……どこだここは……」

 

アテネ号の上ですよ。もう空中じゃありません」

 

 マセルは辺りをキョロキョロと見回し、直後に口を押さえ、頬が膨れ上がる。

 

「うう……気分が悪い……」

 

「マセルさん、あなたは凄いですよ」

 

「えぇ? なにが?」

 

「さっきのです。おかげでみんな助かりました。マセルさんがいなかったら、あいつらに撃たれて堕ちていましたよ」

 

「あ、あぁ……」

 

 無我夢中で飛び出し、今は体調不良の四文字が頭の中を支配している。

ベルンの言葉などまともに耳に入らず、その場にぐったり気絶するように仰向けになった。

 

 

 

「マズいですよこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 バレッタの悲痛な叫びによってマセルは叩き起こされる。

 

ただならぬことを察したマセルは、すぐ前方を確認した。

 

「マセルさん! 見えましたよ!」

 

 前方数十メートル先には、不自然にも空中に浮遊した地面が見えた。

すでにアルジェ遺跡よりも高度は高く、目視だけでも地表が確認できる。

 

バレッタ! 速度を下げて着陸だ!」

 

 下にいるバレッタへ向けて叫ぶ。

 

「そ、それが! さっきの攻撃でダメになったみたいで……」

 

「ま、まさか……!」

 

「速度と高度の調節がうまくいかないから着陸できません!」

 

 慌ててマセルがチェックをすると、羽の付け根から細い煙が噴き出している。

 

 まだ火が出ていないだけマシではあったが、とても安全と言える状態でもない。

 

「おいバレッタ! とにかく突き進め! とにかく地面に到達することだけを考えるんだ!」

 

「分かってますけど! 分かってはいますけど!」

 

 羽の煙は次第に大きくなり、やがて火を吹き始めた。

 

 もうシャレにならないところまで来てしまい、マセルはがむしゃらモードに入る。

 

 満身創痍のアテネ号は確実に高度を落とし、しかし速度は不規則に上下している。

もしアルジェ遺跡に到達できたとしても、胴体着陸できれば運が良いほうだろう。

 

「おいベルン、俺に作戦がある」

 

 崩れ落ちそうな心を無理やり引っ張り、そう提案する。

 

「どうするつもりですか」

 

「あと一分と何秒かで着陸――いや、地面に突っ込むだろう。俺は羽の下に行ってバレッタとソフィアを抱える。お前は」

 

アピア、ですよね」

 

 ベオグラード遺跡の脱出の際も同じ構図だったのをベルンは思い出し、素早く理解する。

 

 抱えて着地して無事かどうかの保証などないが、アテネ号ごと爆発されるよりかはマシと判断し、二人はその作戦で行くことにした。

 

 もう時間はない――。

 

 マセルは下の羽に下り、説明することなく、有無を言わせずソフィアとバレッタの首根っこを掴んだ。

 

 ベルンは、丁寧にアピアの手をとってからお姫様抱っこの体勢になる。

 

 少々乱暴ではあったが、できるだけ安全に状況を打破するにはこれしかない。

 

「マセルさん! なにを!」

 

「黙れバレッタ! 覚悟しとけよぉぉっぉ!」

 

 真下にはアルジェ遺跡の陸地がある。

だが操縦者を失ったアテネ号は止まることを知らず進み続ける。

羽から噴き出した煙も手が付けられないレベルまで炎上し、もはや飛行機と呼べない鉄クズになり果てていた。

 

「ベルン、三、二、一、で飛ぶぞ!」

 

「はい!」

 

 アテネ号――だった鉄クズが直進する先には大きな岩。

 

 激突すれば大爆発することくらい、子供にでも分かる状況だった。

 

 三――。

 

 二――。

 

 一――。

 

「飛べっ!」

 

 マセルを合図に、二人は斜め前方に飛んだ。

 

 うまく着地できたとしても、抱えているバレッタアピアを死守できなければ無意味だ。

しかし、ただ落ちる他に選択肢はない。

 

 ――直後に爆発。

 

 アテネ号だったものは岩に激突し、火炎と砕けた岩の粒をまき散らしその役目を終えた。

 

これでまたもや帰る道は消え去った。

 

 Y字に枝分かれた二人はなんとか着地したが、足を滑らせてしまいお世辞にも成功とは言えない着地をする。

 

抱えていたバレッタたちは腕から離れ、二、三回は転がって、ようやくまともに立つことができた。

 

「おい、大丈夫か」

 

 マセルはウイントフックを解除し、倒れたバレッタとソフィアを揺り起こす。

 

「う、ううう」

 

 軽く頭と肩を打ったバレッタは、頭を押さえながら立ち上がった。

 

 ソフィアも足を負傷したが、めげずに立ち上がる。

 

「大丈夫、みたいだな」

 

「はい」

 

「うん」

 

「それで、ベルンは?」

 

 マセルはバレッタたちを残して、爆発を挟んだ反対側へ向かうことに。

 

 黒い煙が立ち上る残骸――もはやアテネ号は原型を留めていないが、ここまで連れてきたことを考えればかなりの功績だ。

 

 だがお別れの挨拶をしている暇はない。

 

 煙を潜り抜け、マセルはベルンの下へ急いだ。

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア21

お題「マイブーム」

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 マセルの予想通り、バレッタは港にある車を回収しに行っていた。

 

バレッタもマセルのことを忘れていたわけではなく、ちゃんと心の隅では心配をしている。

 

 しかし、まだバレッタはマセルのアジトなど知らないため探すこともできず、トレジャーハンターならそこまで心配する必要もないだろう、と考えていた。

 

 車のカギを開き、扉に手をかけた。

後は家に戻り、危険な冒険とは無縁の生活をするだけ。

 

 だがバレッタの冒険は、まだ終わらない。

 

バレッタさーん!」

 

「ん? アピアちゃん?」

 

 アピアとベルンは大急ぎで走り、ようやくバレッタに追いついた。

車に乗られていたらアウトだった。

 

「どうしたの? そんなに急いで」

 

「よかった……まだ、帰ってなかった……」

 

「何か用事?」

 

「その、実はお願いがあって来たんです」

 

 ベルンが言った。

 

「え? 私に?」

 

「たしかトレジャーハンターと知り合いでしたよね、あの人はどこです?」

 

「どこ? どこって言われても。だって、遺跡から流されたから、無事かどうかも分からないし……大丈夫、だとは思うけど。あの、それでどんな用事なの?」

 

「いえ、トレジャーハンターと知り合いなら、アピアの病気を治せるお宝とか知ってるかなって思ったんですけど」

 

「うーん。分かんないけど……もしかしたら、マセルさんなら何か知ってるかもしれないなぁ」

 

「せめてその人の家が分かれば――」

 

 ベルンたちが立ち尽くしていると、遠くからバレッタを呼ぶ声がした。

 

 まさに噂をしていたマセルの声だった。

 

「おーい! バレッタ!」

 

「もしかして、ま、マセルさん?」

 

 マセルはソフィアと一緒に走り、バレッタの下へ到達した。

 

 息を整えるより早くバレッタの肩を掴む。

 

バレッタ! 無事、無事だったんだな」

 

「マセルさんもソフィアちゃんも、無事だったんですね。大丈夫だとは信じてましたけど」

 

「当たり前だろ……あれ、お前もいたのか」

 

 マセルに視線を向けられ、ベルンは顔を背ける。

先ほどまで剣を交えていたのだから無理もない。

 

「それときみ、アピアだったかな。こいつと知り合いだったとはな」

 

 アピアは悠長にあいさつなどせず、堂々とマセルの前に立って手を取った。

 

 マセルも困惑するほど輝かしい瞳で目を見据える。

 

「お願いがあります、マセルさん」

 

「ああ? なんだよ急に」

 

「不老不死の、いえ、病気を治せるようなお宝って知りませんか?」

 

「いや、さすがにそこまでの物は分からないが……」

 

「もしあるのなら、私だけ連れて行ってください。どんな危険な場所でも必ず行きますから」

 

「いや、落ち着けよ。なにを焦っているかは知らないが、心あたりならある」

 

「ホントですか!?」

 

 一番驚いていたのはアピアだったが、ベルンとバレッタも目を丸くする。

 

「そこでバレッタ、お前の出番だ」

 

「え、私ですか?」

 

「新しい冒険に出発する。飛行機を用意してくれ」

 

 

 

「ちょっと古いですけど、こんな飛行機です」

 

 マセルたち五人はバレッタのガレージへやってきた。

 

 車を収納するガレージの下にはリモコンで上下する別のリフトがあった。

 

 ハイテク機能で隠されていた飛行機は、少し塗装が剥げていたがオンボロとまではいかない。

 

 六年前の写真のように歯車がむき出しではなく、しっかりとボディが出来上がっていてプロペラも健在。

羽は左右と、その上にも細い柱を挟んでもう二枚つけられているため上に乗ることも不可能ではない。

 

 白とオレンジのツートンカラーで、大きな席が二つという、トレジャーハンターにはたまらない逸品である。

 

 高いところが苦手でなければ。

 

「なぁバレッタ、この飛行機は乗ったことあるのか?」

 

「いえ、まだちゃんと乗ったことはないですけど」

 

「操縦はできるか?」

 

「まぁ、少しなら大丈夫ですよ。必ず、たぶん、きっと、おそらく、多少は」

 

 少しづつ失われていく自信の無さに、他の四人の表情が曇り始める。

そんな薄暗くなった空気を割いたのはベルンだった。

 

「そもそも、これに五人も乗れるんですか?」

 

 席は大きめなのが二つで、かなりムリをして乗っても三人が限界だろう。

 

 しかしメンバーはマセル、バレッタ、ベルン、アピア、ソフィアの五人。

どう考えても席は二人分足りていない。

 

「いや、問題はない」

 

 マセルはキッパリと言い切った。

 

「俺とベルンは変身して羽の上に立つ。落ちても、まぁ死にはしないだろう」

 

 その言葉にアピアは黙っていなかった。

 

「ちょっと待ってくださいよ! ベルンをそんな危険なところに立たせるなんて!」

 

「僕は大丈夫。僕は盗賊団と遺跡に行ったんだ。飛行機の上くらいがなんだ」

 

「……」

 

「俺がトレジャーハンターとして訊きたいのは一つ。ベルン、行くのか? 行かないのか?」

 

「もちろん行きますよ……それはいいんですけど、そもそもどこに行くんですか?」

 

 まだアルジェ遺跡について説明していなかったことにマセルは気づき、四人に説明をした。

 

 空の上に島があるらしいとのこと。

出現時期がソフィアと関係しているらしいこと。

もしかしたら、そこに病気を治療できる何かがあるかもしれないということ。

 遺跡に疎いベルンたちでも、さすがに空の島には驚愕した。

ましてやそこに行くとなると、ますますアピアの不安は膨れ上がる。

 

「俺はトレジャーハンターとしての好奇心で行くんじゃない。ソフィアのため、アピアのため、それと……」

 

 マセルはバレッタの頭にポンと手を置いた。

 

 といっても帽子越しではあったが、唐突のことに上目使いになって頬が赤く染まった。

 

「まだバレッタに、助けてもらった恩返しをしてない」

 

「そ、そうですよ! 安物のバッチじゃなくて、本物の金銀財宝じゃないと許しませんから!」

 

 恥ずかしさを隠すように、バレッタは叫んだ。

 

「そ、それより問題なのはどうやって乗るかですよ。大きい席が二つなら私たち女子メンバーが乗るのは……まぁムリをすればいけますけど。マセルさんは本当に羽の上でいいんですか?」

 

「俺らはさっき大丈夫って言ったはずだぞ」

 

「いや、私が言ってるのは高さのことですよ」

 

 高所恐怖症+カナヅチのマセルに、海の上を飛んでいけるのか、ということである。

 

「俺だって平気ではないがな。やるしかないだろ」

 

「じゃあ、これから整備を始めますから、ちょっと待っててください」

 

 マセルたちの手伝いもあり、飛行機の整備はすぐに終わった。

 

 六年もまともに起動していなかったが、特に目立った異常はなくパーツの不足もなかった。

 

 さて出発、というとき、マセルはどうしても確認しておきたかったことを質問する。

 

「なぁバレッタ、この飛行機、燃料である水はちゃんと入っているか?」

 

「はい。燃料の重さとかも考えてマックスではありませんけど」

 

 マセルは安心した顔もせず、「そうか」とだけ返した。

 

「どうしたんですか? 神妙な顔で」

 

「いや、重要なことだろ。燃料切れで落ちたらシャレにならないし」

 

「そう、ですけど」

 

「それともう一つ、この飛行機、名前はなんという?」

 

「ないですけど、飛行機に名前なんて必要ですか?」

 

 マセルは「男のロマンだ」と言わんばかりに頷く。

 

「こいつの名前は、アテネ号だ」

 

 

 

 アテネ号による飛行は順調だった。

 

 天気や風についてもこれといった問題はなく、故障なども見られない。

 

 ただ、やはり問題になったのは搭乗に関してだ。

 

 大きな席とはいえ、二つの席に女子メンバーが三人は快適とは言えない。

前で操縦しているバレッタは一人だが、後ろにはアピアとソフィアが密着しながら無理やり乗っている。

 

 それでも二人は文句一つも言わない。

それよりも問題なのはマセルである。

 

 飛行機は左右の羽の他に、細い柱を挟んでさらに上に二枚がつけられており、マセルとベルンはそこに立っていた。

 

 意気込んで出発したものの、下を覗きこむだけで失神寸前だ。

トレジャーハンターの素人であるベルンに心配されるほどである。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 お互いが靴で変身しているとはいえ、怖いものは怖い。

 

「うう、大丈夫だ。到着すれば陸地そのものだし」

 

「それについて訊きたかったんですが、空の島だなんてどういうことですか?」

 

「どういうこともなにも、行ってみなきゃ詳しくは分からないよ」

 

「まったく……盗賊団といいトレジャーハンターといい、どうしてこう無計画なんだか」

 

 両手をあげて、やれやれ、といったポーズを取るベルン。

 

「調べようにも下からじゃ見えないんだ。お前のガールフレンドの病気を治せる保証もないし」

 

「分かってますよ。僕らだって、ほぼ賭けみたいなものですから」

 

「お前はしっかりガールフレンドを守れ。バレッタとソフィアは任せろ」

 

「ガールフレンドって……またそれか。言われなくても守りますよ」

 

 マセルは無言で肩に手を置く。

頼んだぞ、という意味だ。

 

 しかし。

 

「うっ……すまん。気分が悪くなってきた」

 

 顔色も悪くなり、マセルは口を押さえて空を仰ぐ。

このまま下を覗きこめば嘔吐は間違いない。

 

「ちょっと! 大丈夫なんですか? そんな調子で」

 

「大丈夫だ! 男はお宝を目の前にしたら目の色が変わるんだ」

 

「目の色より顔の色をなんとかしてくださいよ!」

 

 それでも無事に到着できれば誰も文句はなかったのだが、やはりトレジャーハンターたちの冒険はそう一筋縄にはいかない。

 

「マセルさぁぁぁん!」

 

 バレッタが飛行機の音に負けないくらいに叫ぶ。

 

「どうしたバレッタ!」

 

「う、後ろから別の飛行機が接近してます!」

 

「なななななにぃ!?」

 

 すかさず振り向く。

 

 そこには、マセルに見覚えのある連中がいた。

 

「おほほほほほほ! 久しぶりね、マセル坊やとその他大勢!」

 

「久しぶりっちょ!」

 

「久しぶりですぜ!」

 

「お前らは、キングストン連中!」

 

 どこから用意したのか、小型のプロペラ機に無理やり三人で乗ったキングストン連中が、悪魔のような形相で追跡をしていた。

 

 アテネ号よりも数メートル後ろから同じくらいのスピードで接近中である。

 

「マセルさん、だ、誰ですかあれは?」

 

「あいつらはお宝を悪用する悪党どもだ。俺にしつこく付きまとってきやがる」

 

「盗賊団みたいなものですか?」

 

「まぁ似たようなもんだ」

 

 危機を察し、マセルはキングストン連中を観察した。

その飛行機には、明らかに危険な物がぶらさがっていた。

 

「おい、あれはまさか、バルカンか?」

 

 遠くてマセルたちにはよく見えていないが、キングストン連中の飛行機の羽の下からは小型のバルカンが現れていた。

 

 バンダルは大きく口を開け、高く手を挙げる。

 

「落ちなさい! マセル坊やとその他大勢!」

 

 バンダルの手が発射スイッチを叩く。

直後に豆粒のような弾丸がバルカンから連続で吐き出された。

 

「あいつら! 撃って来やがった!」

 

 

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