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親指に関すること(関しないことも)を追求するブログ。親指はあんまり出ません。 毎週日曜に更新!

水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア9

 

お題「自作小説」

 

 

 

「憎い、というより、よく分かんないです。罪を償えとも思いませんし、なんなんでしょう。憎むとか恨むとか、もういい気がします」

 

「え、五年も思ってたんだろ? そんなあっさり?」

 

「私は、渡り鳥であるマセルさんに一つだけ確認したいことがあります……マセルさんは、良い人なんですか?」

 

 マセルはコメカミのあたりをボリボリと掻く。

 

「さっきはバンダルを倒すために嘘ついちまったけど、俺はお宝を悪用しないし裏に流すこともしない。困っている人はなるべく助ける。それしか言えることはない」

 

「……でも、もしもまた騙すことがあったら、絶対に信用しませんよ」

 

「分かったよ」

 

 再びアクセルを踏み込み車を走らせるバレッタ

あとは気分を変えて音楽でも流そうかと思った矢先、新たなトラブルがやってくる。

 

「危ないっ!」

 

 踏み込んだ足はすぐさまブレーキに移り、急停車する。さすがのマセルも対応できず、シートベルトがお腹に食い込んだ。

 

「い、いきなりどうした!?」

 

「だって、人が来たんですもん!」

 

 マセルが視線を正面へ向けると、そこには五人の人間がいた。

 

 制服を着た麦わら帽子の金髪少女……を連れたキングストン連中が歩いていた。

 

 バンダルとソフィアはともかく、自力で辿り着いたスリブたちも同行していた。

 

バレッタ、ちょっとここで待ってろ」

 

「は、はい!?」

 

 マセルは車を飛び出し、五人の前に立ちはだかった。

腰に手を当て、仁王立ちである。

 

 

「おいヘッポコキングストン、その子を放せ。ソフィアもだ」

 

「ゲゲゲッ、マセル坊や」

 

 あからさまに嫌な顔をするバンダル。

 

 少女は腕を掴まれているわけでもなく、マセルに助けを求める様子もない。

 

 バンダルよりも前にいて、捕まえるというよりは道案内をしているようだった。

 

「その様子だと、その子を脅迫してどっかに道案内させてるな?」

 

 と、マセルは少女を見る。

怯えた様子もなく、逃げるタイミングを計ってもいない。

 

「きみ、どうなんだ」

 

「は、はい。港まで案内してくれと頼まれて。ごめんなさい、ちゃんと車を見てなくて」

 

「案内だと? そう言えって脅されてるんだな?」

 

「ち、違いますよ」

 

「残念だが道案内はここで終了だ。きみは今すぐそいつらから離れろ。そいつらは悪党だぞ」

 

「悪党?」

 

 少女はバンダルたちを見据え、直後に表情が険しくなる。

 

「あの、もしかして故郷に帰るために船に乗るっているのは嘘なんですか?」

 

 なにを口実に案内を頼んだのか、少女は真実を探る。

 

 それにはソフィアが、開かなくてもいい口を開いた。

 

「嘘だよ! 本当はね、海に浮かぶベオグラード遺跡ですっごいお宝を見つけて、すっごい力で世界征服しようって企んでるんだよ! 秘密だから誰にも言わないでね~」

 

 事実をいとも容易くバラしたソフィアに、キングストン連中があわあわと慌てふためく。

 

 少女の疑問が確信に変わり、すぐさまマセルの下へ走り腕にしがみついた。

 

 女子高校生が密着し、マセルの頬がほんのり赤くなる。

 

「せ、世界征服って。どういうことですか? 本当に悪い人たちなんですか?」

 

「いや世界征服はやりすぎかもしれんが、大体その通りだ。ところできみ、名前は?」

 

 マセルは金髪の制服少女の名を訪ねた。

 

「あ、アピアニコシアです。あの、私、どうしたらいいんでしょう?」

 

 制服を着た金髪の少女――マセルたちに面識はないが、それはベルンの幼馴染、アピアニコシアだった。

 

 数分前、ベルンから離れて家に戻ろうとしたところ、飛ばされたキングストン連中と遭遇し、港への道案内を任されていたのだ。

 

「きみは逃げろ。こいつらは俺がなんとかする」

 

「なんとかするって、大丈夫なんですか? 悪い人たちなんですよね?」

 

「大丈夫だ。俺にはこいつがある」

 

 “こいつ”とは、ウイントフックのことだった。

 

 お宝とは無縁のアピアにウイントフックのことをバラしていいものか、とマセルはバラしてから後悔したが、もう遅い。

 

「これって……」

 

 アピアはウイントフックを目にし、ベルンの履いていたアスンシオンを思い出した。

 

 変身した姿をまだ見てはいなかったが、ベルンを変えるような力が隠されていることには薄々感づいていた。

 

 ウイントフックからは、同じ気配を感じている。

 

「とにかく、きみは離れていろ」

 

 アピアは近くの電灯の後ろに隠れ、様子を窺った。

 

 キングストン連中がどうなるのか、マセルは大丈夫なのか、そういった心配ではない。

 

 あの靴はベルンの靴と同じようなものなのか。アピアはその真相を知りたかった。

 

 マセルはウイントフックに三度目の変身をし、メットの歯車を外して剣を伸ばす。

 

 バンダルに向け、一歩ずつ距離を詰めた。

 

「さっきベオグラード遺跡と言ったな。ソフィア、ベオグラード遺跡にはなにがある?」

 

「うーん、知らないよ~」

 

 ソフィアが言うなら本当か、とマセルは納得する。

 

 だがバンダルは、まだ諦めていなかった。

秘策があるのだ。

 

「し、仕方ないわ。じゃあソフィアはそっちにあげる。うるさいし邪魔だから」

 

 バンダルはソフィアの背中を押し、マセルはソフィアの手を握る。

 

 これで邪魔者はいない――構えたバンダルは、秘策を発動する。

 

「じゃあ、スリブ、ガワン、一目散に全速力で逃げるよ!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 三人で同時に駆け抜け、あっという間にマセルの目の前から消えていった。

 

 変身しているうえに剣まで持っているのでは、敵うはずもない。

 

 目の前にいないのなら相手する必要もないと脱力したマセルは、ソフィアを連れて車に戻ろうとした。

 

 が――。

 

「あれ」

 

 握っていたはずの手はそこにはない、右にも左にも、後ろにもない。

 

「またついていったのかソフィア!」

 

 ソフィアはバンダルの腰にしがみつき、共に逃亡を果たしていた。

 

 なぜそこまでキングストン連中と一緒にいたがるのか、マセルには理解できないが、しかしいない者はどうしようもないので、変身を解除してアピアの下へ戻った。

 

「きみ、アピアといったな? ケガはないか?」

 

「え、えぇ。大丈夫ですけど」

 

 アピアの目にはウイントフックしか映っていない。

 

 その場で瞬時に鎧を装着し、瞬時に解除できる靴――夢か幻か、目を疑うとはこのことだ。

 

「それより、あなたのお名前は?」

 

「え? あぁ、俺はマセル・エレバン。南のミンスクに住んでるトレジャーハンターだ」

 

「トレジャーハンター? じゃあ、その靴も遺跡かなにかで?」

 

「そうだ。あ、いや、あんまり他人には言わないでくれよな」

 

 お宝にはそういう力もあるのかな、とアピアは無理やり納得する。

 

 だがもしベルンの靴もお宝ならば、同じく危険な力があるのかもしれない。

だから尋ねずにはいられなかった。

 

「……あの」

 

「うん?」

 

「その靴がもう一つあるって言ったら、どういう反応しますか?」

 

 マセルがジャメナン遺跡で海に落としたもう一つの箱のことなのか否かマセルには判別できないが、何か訳があってそう質問しているのは容易に想像できた。

 

「どういう反応って、もしかして、この靴のことを知っているのか?」

 

「い、いえ。もしもの話ですよ。もしもの話」

 

 アピアはベルンの持つアスンシオンについては黙っていた。

 

 まだベルンの靴がウイントフックと似たものだと確信もなかったうえ、今度はベルンが悪党に狙われる可能性も危惧していたからだ。

 

「あの、助けていただいてありがとうございました。私はこれで」

 

 アピアはぺこりと頭を下げ、そそくさとその場から退散した。

 

 妙なことを質問されたマセルは首を傾げつつも、バレッタの車に戻る。

 

「すまないな。待たせちまって」

 

「なんか、凄い活躍じゃないですか。女の子を助けるなんて」

 

「普通だろ? さぁ行くぞ」

 

「じゃあ、あとは橋を渡って南のミンスクまで行けばいいんですね」

 

 アクセルを踏み込もうとしたバレッタに、マセルは待ったをかける。

 

「いや、残念だがバレッタ、道は変更だ。ミンスクには行かない」

 

「え? 行かないって、ミンスクに戻らないんですか?」

 

「すまないな、トレジャーハンターのスケジュールは変動が激しいんでね」

 

 ――ベルンサイド――。

 

 ベルンを勧誘したカストリーズ盗賊団のボスであるバンジュールフリータウンは、ベルンを自身の船に案内した。

 

 色はほぼ白一色で、ちらほらと銀や黒が混ざっている。

尖った船頭に、薄く無駄のない船体。

サイズはテニスくらいなら大げさにプレーできるほど。

 

 中は白を基調としたカラーリングに、小さなキズ一つないツヤのある壁や天井。

天井には、白い船内に反発するように黒い歯車が回転している。

 

 コの字型に囲まれた計器類の前に五人の男女が座り、それぞれモニター類を見ながらキーを叩いている。

中心にはバンが立つ小高い足場があり、船内を見回せるようになっていた。

 

「す、すごい」

 

 ベルンは目の当たりにしたことない場所に瞬きを繰り返す。

 

「みんな、こっちを見てくれたまえ」

 

 バンが言うと、男女五人が一斉にバンへ向いた。

 

「右からルアンダ、ビクトリア、リンベルの女性メンバー。そこからキガリとタリンの男性メンバー。とっても頼りになる。ベルンくんも仲良くね」

 

「よ、よろしく」

 

 人前に立つのが得意ではないベルンは、誰一人の目を見ることなく挨拶をする。

 

 緊張を察したバンはベルンの肩を掴んで後ろを向かせ、耳元で囁く。

 

「ベルンくん、これから行くところ、どこだか分かるかい?」

 

「え?」

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア8

 

お題「自作小説」

 

マセルはウイントフックの変身を解除し、風呂あがりの上半身裸の姿に戻る。

 

 疲れて力が抜けたバレッタに手を差し出した。

 

「ホラ、立てよバレッタ

 

 差し出された手を無視し、バレッタはマセルのお腹に強烈な拳を叩き込んだ。

だが、まともに鍛えていないパンチなど受けてもマセルには意味がない。

 

「あのソフィアって子はどうするんですか! 助けるんじゃなかったんですか!」

 

「あっ、やべぇ」

 

 ソフィアはバンダルと一緒に吹き飛ばしてしまった。

 

 交渉だけでこちらに連れていける状況ではなかったが、一緒に飛ばすのはやりすぎたとマセルも反省している。

 

 しかしポジティブに考えれば、ソフィアはキングストンを引っ掻き回すのが得意分野のようで、邪魔をしてくれればマセルとしても万々歳ではあった。

 

 バレッタは腕を組み、プイっと頬を膨らませる。

そして肝心なもう一つの大事なこと。

 

「さっきのアレ、なんなんですか。なにが五十万エンのバッチですか。二十エンなんてお菓子を買って終わりじゃないですか」

 

「いや、あれは作戦なんだよ。バレッタを怒らせてバンダルを油断させたんだ。じゃなかったらわざわざバッチの真実を言わないだろ」

 

 バレッタは僅かながら納得する。

怒らせる意味はほかにない。

 

「だったら、お風呂に入ったんですから、キッチリと恩を返してくださいよ」

 

「あ、あぁ」

 

 と言われても、五十万エン相当のお宝など手元にない。

 

「じゃあ、俺のアジトに来てくれ、指輪とかネックレスならある」

 

 なんとかバレッタを宥(なだ)め、マセルは服を着るためにバレッタの家に戻った。

まだしっかり乾いていない服を取り、それを着る。

 

 そういえば、と落ちていた写真について尋ねなければいけないことを思い出した。

 

 歯車がむき出しの小型飛行機を背景に、大勢の人間が映った写真。

 

その中には、今は亡きマセルの友人であるナウル・アルマトゥイと、帽子を被っていないバレッタが含まれている。

 

「なぁ、バレッタ、この写真――」

 

 見せた瞬間にバレッタがひったくり、質問は中断された。

 

 友人のことを聞くチャンスだったが、今のバレッタはどうやっても答えないだろう。

 

「そこに俺の友人が写っているんだ」

 

「本当ですかねぇ……?」

 

 目を細め、真実かどうか探っている。

 

「本当だって。ナウル・アルマトゥイっていう男だ。機械好きで、良いやつだった」

 

「だ、だったって……?」

 

 バレッタの疑いの眼差しは、マセルの一言で困惑に切り替わる。

 

「あいつは五年前に死んだよ」

 こればかりは、マセルの言葉が嘘だと信じたかった。

 

「頼むよ、ナウルとどういう関係だったんだ。それはいつ撮られた写真なんだ?」

 

「こ、答える義理はありません」

 

 写真はバレッタのポケットへと消え、背を向けた。

 

 これ以上聞き出すには、信用が足りない。

そう諦めたマセルは「すまなかった」と謝り、出口に手をかける。

 

 だが質問があったのはマセルだけではないようで、バレッタは背中に問いかける。

 

「マセルさんは、トレジャーハンターなんですよね。じゃあ、渡り鳥って知ってますか」

 

「そりゃもちろん」

 

「決してお宝を悪用せず裏で取引もせず、組織と取引して報酬を受け取りもしない一匹オオカミらしいですけど……渡り鳥はこの写真に写ってるナウルさんと親友同士だったとか」

 

「そうそう。目の前にいる俺が渡り鳥だ」

 

「え、そ、そうなんですか?」

 

 バレッタの目はキラキラと輝くわけでも嬉し涙で溢れるわけでもない。

疑いの眼差しがより強くなる。

 

「じゃあ、あなたがナウルさんを殺したんですね……?」

 

 ――ベルンサイド――。

 

 靴を取り返しに来たベルンは、アスンシオンに変身しスリジャたちを返り討ちにした。

 

 逃げ遅れたスリジャはベルンに捕まり、ナイフで刺そうとしたが失敗。

ベルンに首を掴まれ、危機一髪となった。

 

「靴を返せば手加減するとは言ったけど、ナイフを持ち歩くような悪人は許せないんだ」

 

「ゆ……許せないって……な、なにを……」

 

「いま、お前の命をどういう風に終わらせるのかを考えている」

 

 ベルンはメットの右に付けられている黒い歯車に触れた。

マセル同様、人が握れるほどの太さの棒が飛び出す。

それを握り、歯車を外す。

ブンと腕を振ると、歯車の中に収納されていた刃が出現した。

 

 アスンシオンの体と同じく、黒い刃。

そこに刻まれているのは三日月のマークで、ソフィアの左頬にあった青い塗料と同じだった。

 

「おいベルン、じょ、冗談だろ……? 冗談だよなぁ……?」

 

 右腕を引き、剣先をスリジャに向ける。

 

 本気で死を覚悟したスリジャは、鋭く光る剣先を見てツバを飲み込んだ。

 

「悪いなスリジャ、僕は手加減が苦手なんだ」

 

「やめろ、やめろ、やめろぉぉぉぉ!」

 

 ベルンの腕が容赦なく襲撃し、剣は深々と突き刺さった。

 

 ――スリジャの断末魔が“いつもの場所”に轟いた。

 

 ゆっくりと、スリジャは力を失くしてその場に倒れた。

 

「――ふん」

 

 アスンシオンの変身を解除し、ベルンは取り返した靴に履きなおした。

ため息をつき、ベルンはつま先をとんとんと整える。

 

 ベルンはその場を後にしようとしたが、直後に見知らぬ男が立ちふさがった。

 

 警察? バレた? アピアが通報した?

 

 あらゆる可能性に背筋が凍りつくベルンに、その男は指を突き付けて言った。

 

「僕様が気に食わないことその一、それは弱い人間だ。弱い人間がいい武器を手にしてもナマクラにしかならない」

 

「な、なんですか?」

 

「きみ、見ていたよ。すっごい度胸だねぇ。きみは強い人間だ」

 

 見知らぬ男。

背は百八十ほどで、白い服に白い靴、極めつけに白い帽子。

腰まで伸びた金髪を結んでいる。

まるで貴族のような風貌だった。

 

 唐突に出た賛美の言葉に、ベルンは不気味さを感じた。

決定的証拠であるスリジャを目撃されていたものの、ここで言い訳をしないわけにもいかない。

 

「いやぁ、とぼけなくてもいいよ。そいつを、いや、そいつらを返り討ちにしたんだろう」

 

「まさか、ずっと見ていたんですか。僕を人殺しで通報しますか」

 

「え? おかしいな、誰も死んでないみたいだけど」

 

「……」

 

「まさかギリギリで、剣を壁に突き刺すとはね」

 

 スリジャに刺し傷の類は一切なく、ただ死を覚悟したショックで気絶しただけだった。

代わりにレンガの壁には、剣による穴が深々と空いていた。

 

 ベルンの情け――甘さ――がなければ、剣がスリジャを貫通していたことだろう。

 

「それで、僕にどんな用ですか。あなたは誰なんですか」

 

「ごめんね。紹介を忘れていた。僕様の名はバンジュールフリータウン。盗賊団、カストリーズのボス、と言っておこうかな。まぁ、気軽にバンとでも呼んでくれよ」

 

「盗賊団? カストリーズ?」

 

カストリーズを知らないかいベルン・ロゾーくん。まぁ盗賊と言っても人から奪うわけではない。遺跡のお宝を見つけて、裏で流してお金を貰う」

 

「それって、犯罪なんじゃ」

 

 どれだけの値打ちがあっても、お宝を売ることは違法だ。

 

「僕様が気に食わないことその二、それは使えない人間だ。ただ酸素を二酸化炭素に代えるしか能がないなら、観葉植物の方が役に立つ」

 

「まさか、盗賊団と一緒に遺跡発掘でも行くのですか?」

 

「その、まさかだ」

 

 ――マセルサイド――。

 

 「――じゃあ、あなたがナウルさんを殺したんですね」

 

「確かに俺はナウルを殺した。でも直接ではなくて間接的だ」

 

「間接的?」

 

「……ところであれはいつの写真だ?」

 

「六年前です。私が十四歳、まさに中学生のときです」

 

「あの写真の一年後、俺は親友のあいつと飛行機に乗ったんだが、空中でトラブルがあって海に落ちたんだ。俺は飛行機の残骸にしがみついて助かったけど、ナウルは離れた場所に落ちて助けられなかった」

 

 バレッタは黙って聞いている。

 

「俺はナウルの死を周囲に聞かせたくなかったから、事実はナウルの姉だけに伝えた」

 

「リンベル・アルマトゥイさんですよね。あのときはお世話になりました」

 

「だから、リンベルさん以外には、ナウルは行方不明ってことにしてた。お前は真実を知らない方がよかったかもしれないな」

 

「いえ……ナウルさんが飛行機に乗る前、渡り鳥って人と乗るって聞いてましたけど、それが誰なのか分からなくて。渡り鳥のこと、心の中で責めてました」

 

「俺が渡り鳥だと知って、俺が憎いか?」

 

 バレッタは目に涙を浮かべ、車を停めた。

 

 

 

 

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水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア7

 

お題「自作小説」

 

――なんだこれは。

 

「丁度いいところに! マセルさん、助けてください!」

 

「は? なんだよバレッタ。っていうかなんでキングストンがいるんだよ」

 

 暴れまわっている機械の上でバンダルをもみくちゃにするソフィアを見つけ、マセルの疑問符が増えた。

 

「そ、ソフィアじゃないか! 無事だったんだな!」

 

 と安堵している場合ではないと気づいたが、マセルは事の重大さを理解するのに時間がかかった。

 

「つまり、ソフィアがバンダルを操って、バレッタに襲い掛かかろうとしているのか」

 

 うんうんと頷くが、すぐに事態が急展開を迎える。

 

 ――機械のアームが、バレッタの上に振り下ろされようとしていた。

 

 バレッタは咄嗟に避けられない。

バンダルは制御不能

 

 だがここにはいる。

 

 ――渡り鳥が。

 

「危ねぇ!」

 

 マセルは俊敏な動きでバレッタに飛び、抱きかかえてアームの到達地点から回避させた。

 

 コンマ数秒のタイミング。

マセルの抜群の瞬発力がなければバレッタは危うかった。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

「礼なんていい。ただそこにいたから助けただけだ」

 

 自身についた砂を払い、バレッタの手からウイントフックを預かる。

 

 海に落ちるとき、僅かに見えたウイントフックの力をもう一度発動できる保証はないが、賭けてみる価値はあると直感が叫ぶ。

 

 ウイントフックの右の踝(くるぶし)にあるボタンに手をかけ――。

 

「ウイントフック!」

 

 急にコスプレのような鎧を身にまとい、さすがにスリブとガワンもバレッタも驚きを隠せない。

まるでマジック、もしくは夢だ。

 

「あ、あ、あ、圧倒的にすごい技術です! その頭の歯車、カッコいいです!」

 

 バレッタは感激のあまり涙を流す。

 

「おいバレッタ、ちょっと離れてろ」

 

 マセルは百メートル走のように、クラウチングスタートの姿勢になる。キングストン連中との距離は数メートルだ。

 

 ウイントフックの肘、膝、首の付け根から細い蒸気が噴き出し、口元がニヤリと歪んだ。

 

 マセルが地面を蹴り、弾丸の如く駆け出した。

 

 バンダルはようやっとソフィアを押しのけ、まともな操縦に戻る。

 

「その靴、もらったぁ!」

 

 伸縮自在の右アームが正面から襲撃する。

 

「よっ!」

 

 マセルは俊足のサイドステップでひらりと避け、速度を緩めることなく前進を続ける。

 

「まだまだ! 腕は二本あるのさ!」

 

 その流れで左アームが襲撃。

動きを読んだマセルには造作もない。

 

 天高く跳躍し、アームの上に足を揃える。

細いアームを一気に駆け抜け、バンダルとの距離を詰めた。

 

「おいソフィア、俺と来い。逃げるんだ」

 

 ソフィアに手を差し出し、比較的やさしく言った。

 

 だが。

 

「えぇー? あたし行かない。バンダルたちと一緒にいる~」

 

「あぁ?」

 

 マセルは頭をポリポリとかき――メット越しなので厳密には無理だが――首をかしげる

 

 少女の外見をしていても、遺跡から出現した人間なのだ。

マセルの予想から外れていてもおかしくはない。

 

「おいおい、こいつらは悪党だぞ。一緒にいてもつまらんだろ」

 

「えぇー? そうかなぁ? 面白い機械に乗せてくれたし、助けてくれたし」

 

 それにはバンダルも黙ってはいない。

 

「乗せたんじゃなくてあんたが勝手に乗ったの。助けたんじゃなくて攫ったの」

 

「もっといっぱい楽しい機械に乗りたいよぉ~」

 

「いいや、俺と冒険するほうが楽しい」

 

「ダメ! この人たちの方が面白い!」

 

「面白くない!」

 

 マセルとソフィアのイタチごっこにうんざりしたバンダルは、コクピットを拳で殴りつけた。

完全に忘れ去られている。

 

「マセル坊や! ちょっと、こっちを忘れないでくれる? こっちにはね、人質がいるのよ」

 

「あ?」

 

「後ろを見なさいな。マセル坊や」

 

 マセルが振り返ると、目の前に涙目のバレッタがいた。

 

 胸から下をアームで掴まれ、両手で帽子を押さえている。

さきほどのアームはマセルを襲撃するためでもあり、同時にバレッタを捕まえる動作でもあったのだ。

 

「なるほど、人質ってことね」

 

 またもやマセルはメット越しに頭をかき、ため息をつく。

 

「さぁどうするマセル坊や? この帽子の中学生を握り潰されたいか、その靴を置いてソフィアを連れてここから立ち去るか、どっち!」

 

「二十歳(ハタチ)です! っていうか手荒なマネしないって言ったのに! 卑怯者!」

 

「黙らっしゃいな! 卑怯は悪党の特権よ!」

 

 究極の選択。

 ほぼ初対面のバレッタを助ける義理などマセルにはないが、助けてもらった恩はある。

 

 かと言って、ソフィアとウイントフックを手放すワケにもいかない。

 

 マセルは決断を、すぐに済ませた。

 

「すまんバレッタ、お前は助けられない」

 

「えっ――」

 

「さっきあげた金の歯車のバッチだが、あれは一緒に墓に入れてやるよ」

 

 バレッタは帽子につけていたバッチを外し、強く握りしめた。

 

「そのバッチ、よく見ろよ」

 

「え?」

 

 バレッタはバッチをつまみ、裏までよく確認した。

 

 そこにはハッキリと“ミンスク商店街”と書いてあった。

 

「こ、これは……」

 

「さっきは五十万エンと言ったな。悪いな、あれは嘘だ」

 

 バッチを渡したとき、マセルは適当なことを言っていた。

本当は商店街で二十エンで買った安物のバッチだったと言うのだ。

 

「な、な、な、な、な、な、な」

 

「だってよ、ああでも言わないと入れてくれないだろ」

 

「こ……こ……こ……この……この男は……」

 

 温度計のように、真っ赤な怒りがバレッタのつま先から頭の先まで伸びあがる。

 

「最低です! もういい! 今すぐ私を握り潰してください!」

 

 さすがのバンダルも唖然とする。

 

 それもそうだ、人質を解放しろと頼むわけではなく、人質本人もはやく殺せと願っている。

もう、バンダルの頭はパンク寸前だ。

 

「え、あの、けっきょくどうするの? 人質は、いいの?」

 

「あぁ。自分でもこう言ってるんだ。好きにさせてやれ」

 

「マセル坊や、あんた、なんか凄い嫌なヤツだったのね……人質をとっている私たちが言うのもアレだけど、あんた最低ね」 

 

「オーライ、そりゃどうも。で、どうするんだ? やるのか? やらないのか?」

 

「え? でも、なんかちょっと」

 

 そう言われては、人質をとった本人たちもやりづらい。

 

「そうか。だったら第三の選択肢といこうか」

 

「第三の選択肢?」

 

 マセルはコメカミのあたりに手を当てた。

 丁度、メットの左右に付けられている、半分に切られた茶色い歯車のあたりだ――その歯車から、人が握れるほどの太さの棒が飛び出した。

 

 マセルはそれを握り、歯車を外す。

 

「どうやら、ウイントフックにはこういうものもあるらしいぜ」

 

 右腕を横に伸ばすと、歯車の中に収納されていた刃が出現した。

 

 ウイントフックの体と同じく、焦げた茶色の刃。

刃の長さは一メートルほど。

石のように見えても、鉄を遥かに凌駕する強度だ。

刃に刻まれているのは太陽のマークで、ソフィアの右頬にあった赤い塗料と同じだった。

 

 ソフィアは剣を見て大興奮。

バンダルはめちゃくちゃな行動をとるマセルに困惑。

バレッタはアームで掴まれたまま暴れて泣いて怒っている。

 

 めちゃくちゃな状況だが、その中心でも落ち着いているマセルは、怯むことなく地を蹴って高く飛び上がった。

 

「これが、俺の第三の選択!」

 

 落下を利用したパワーで剣を振り落とす。

バレッタを捕らえていたアームの付け根は火花をまき散らしながら切断された。

解放されたバレッタは泣きながら落下し、ようやっと自由になる。

 

 一瞬の出来事に困惑に困惑を重ねたバンダルは、つい操縦レバーから手を放した。

 

「飛んでけこんチクショーー!」

 

 剣をバットのようにスイングし、ボディに叩き込む。

ソフィアとバンダルたちは、重力を無視して弾き飛ばされ、空の果てまでホームランでカッ飛ぶ。

 

「リ、リーダァァァァァァアア!」

 

 スリブとガワンが手を伸ばすも、すでに目視は不可能な距離へ消えていた。

 

「き、貴様! よくもリーダーをふっ飛ばしてくれたっちょね!」

 

 怒りが煮えたぎり、二人はマセルに近づく。

だがマセルは剣を突き出して風を切った。

 

「許さない? どう許さないんだ?」

 

 威嚇すると、スリブとガワンのテンションがガタガタと落ちていく。

前進する足を止め、そのまま回れ右。

 

「に、逃げるっちょ!」

 

「逃げるですぜ!」

 

 訪れる静寂――二人は全速力でその場から消え去った。

 

水曜ラノベ 技巧鎧ミスティ・ミラージュ ギア6

 

 浜辺を出たベルンはスリジャたちに呼ばれたいつもの場所へ向かっていた。

 

 いつもの場所とは、町の隅っこの廃墟になっている建物の裏である。

 

 ほとんど人は近づかないだろう。

つまりスリジャたちにとって、お金を奪う絶好の場所なのだ。

逆に言えば、ベルンがスリジャたちをボコボコにできる絶好の場所でもあるのだが。

 

 目的地が見えたところで、目の前にある人物が立ちはだかった。

 

「ちょっとベルン、どうするつもりなの?」

 

 幼馴染であるアピアニコシアだった。

 

 当然アスンシオンのことは知らないため、また殴られたらどうするの? という意味の問いだ。

 

 言わんとすることを察したベルンは横を通り過ぎた。

 

「ベルンはバイオリンが得意だから、それで見返したりできるかなって思ったの! わ、私もピアノで一緒に演奏するから、ね?」

 

 その背中に説得を試みるも、ベルンは無言で歩き去った。

 

 それでも、アピアはめげずにベルンの腕を掴んで止める。

 

「敵うわけないって! 相手は三人もいるんだよ!」

 

「うるさい!」

 

 言葉に押されて、アピアは掴んだ腕を放す。

 

「なんでいちいち報告しなくちゃいけないんだ。お前は母親か? 姉か? 違うだろ。確かに昔はアピアによく助けられた。でも、今はもう高校生だ。力になるって? なに下らないこと言ってるんだ。そんな細い腕で何ができるっていうんだ」

 

「べ、ベルン……?」

 

「僕は生まれ変わった。もう弱くない。誰にも僕に偉そうなことなんか言えない。僕を踏みつける人間も徹底的に叩き潰す。もしまだ邪魔をするなら、アピアでも容赦はしないぞ」

 

 ベルンから漂う雰囲気に、いつものひ弱な部分は一つもなかった。

 

 アピアも様子が違うことに気づき、一歩後退する。

 

 いや、それはただの後退ではない。

 

「あっ……」

 

 アピアの視界がぐらりと揺らぎ、空や地面が捻じ曲がったような感覚に陥る。

二十歳まで生きられないというソウル病による目眩のせいだ。

 

アピア。だ、大丈夫?」

 

 ふと、ベルンの足を見る。

いつもの靴がそこにはなかった。

 

「だ、大丈夫。ただの目眩だから。それよりベルン、その靴、なに?」

 

 アピアにはアスンシオンがちょっと変わった靴にしか見えていない。

それが凄まじい力を持っていることなど、想像もできない。

 

「……靴がなかったから代わりに履いているだけだ。それより、話は終わりか?」

 

「……分かった。もう、邪魔しないから」

 

「そうか」

 

 泣いて頼めば立ち止まってくれただろうか。

ビンタでもすれば解決しただろうか。

 

 去っていくベルンの背中を見て、アピアには諦めてしまった後悔と引き留められなかった無念だけが残った。

 

 すでに集まっていたスリジャ、ワルダ、ナプラの前にベルンは立ち止まった。

 

 いつもの場所は、レンガの壁で囲われたコの字型の狭い場所だった。

 

屋根はないものの、あまり太陽も入らず暗くジメジメしている。

 

「よーベルン。ちゃんと持ってきただろうな。三万エンはよ」

 

 それには答えず、ベルンは右足の踝(くるぶし)にあるボタンに手をかける。

 

 全身を覆う、露出ゼロの鎧。マジックのように現れたアスンシオンのスーツを目にしスリジャたちは目を丸くする。

 

 力を証明するため、ベルンは片手でレンガを拾って、そして。

 

 レンガは見るも無残に砕け、破片がスリジャたちの胸元に飛び散る。

額から冷や汗が落ち、歯が震え肩に伝染し、やがて全身が子犬のように震えだした。

 

「なぁ。頼むよ。僕に人殺しをさせないでくれ。だからさ、返してよ僕の靴」

 

 手袋で覆われた手のひらを突き出しながらジリジリと前進する。

 

 スリジャたちの喉からは、言い訳や謝罪や命乞いといった言葉が出てこない。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 

「返せよ、僕の、靴をっ――!」

 

 ベルンの手のひらが拳に切り替わり、スリジャの顔の数センチ横、レンガ造りの壁を殴りつけた。

粘土のように、レンガにはクレーターが出来上がる。

 

 恐怖が限界に達し、スリジャたちはベルンの横を走り抜け、全速力で逃げる。

 

「待てよ」

 

 しかしスリジャは首根っこを掴まれ、逃走劇は二秒で終わる。

 

「わ、わ、わワルダ、ナプラ、お前ら、助けろ! こら!」

 

 逃走に成功したワルダとナプラは一瞬だけふり返るも、すぐに見捨てる決断を下してその場から消え去った。

 

「黙れ」

 

 スリジャは前方から壁に押し付けられた。

アスンシオンの怪力の前では為す術がない。

 

「お、お、俺が悪かった、く、く、靴は返す。そこだ。そこの端っこ」

 

 スリジャの指の先には、靴が左右セットできちんと揃えられていた。

 

 ベルンはスリジャを乱暴に放し、靴を回収しにいった。手に取ってよく確認する。

 

「よし、たしかに本物だな」

 

 紛うことなき本物、手袋の上からでも分かる。

色も質も同じだった。

 

「おい、スリジャ」

 

 そのまま逃がすわけもなく、腰が抜けて行動不能のスリジャを睨みつける。

メットの上からでも、威圧は通じた。

 

「靴は返ってきた。僕はお前らを殺しはしない。ただし二度と僕に近づくな。学校にも現れるな。来たら今度こそ容赦はしない。アピアにも近づくな」

 

「わ、分かった。分かったよ」

 

「そうか。なら今すぐここから消えろ」

 

 震える足で小鹿よろしく立ち上がり、次にスリジャは上を指さした。

 

「な、なぁベルン、あ、あれを見てくれないか?」

 

 そう言われ、ベルンは上空を見上げる。

 ――そこには、なにもない。

 

「オラァ!」

 

 スリジャは愚かにもポケットに隠していたナイフを低く構え、ベルンに襲い掛かった……

だがナイフを目視することなく、ベルンはその刃を鷲掴みにする。

 

「うわ!」

 

「なんだ、ちょっと厳しくしたらビビって、優しくしたら牙をむいて」

 

 ベルンは二本指のチョップでナイフを根本からへし折り、スリジャの首を掴んだ。

 

「靴を返せば手加減するとは言ったけど、ナイフを持ち歩くような悪人は許せないんだ」

 

「ゆ……許せないって……な、なにを……」

 

「いま、お前の命をどういう風に終わらせるのかを考えている」

 

 ――マセルサイド――の続き。

 

「名乗る必要は、ない! そーれスリブ、ガワン、あの小娘から靴を奪いなさいな!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 あまりに唐突な事態に、バレッタは状況をうまく呑み込めない。

 

 性格の曲がった突然の来訪者に渡された靴を狙って、マセルを上回る妙な三人組に狙われてしまう散々な今日。

 

 どうしよう――と頭を回転させる。

 

 ここで、バレッタに一つの作戦が浮かび上がった。

 

「そ、そこのアナタ、凄い逸材ですよ! 美貌、スタイル、白いワイシャツに白と黒のネクタイ、とってもオシャレ!」

 

 そこのアナタとは、バンダルのことである。

 

「そ、そ、そう?」

 

「しかも、その機械もすごい出来栄え! 同じ機械好きとしては尊敬しますよソンケイ」

 

 とにかく褒めまくる。これが、バレッタが二秒で考えたとっておきの作戦だった。

 

「お前たち、こんなセンスのあるお嬢さんに手荒なマネするんじゃないよ」

 

「「しょ、承知でガッテン」」

 

 見事に作戦に引っかかったバンダルたちは、ガラっと態度を変えた。

 

「お嬢さん、私はバンダルよ。そっちの細くて長いのがスリブで太くて短いのがガワン」

 

 スリブとガワンは敬礼する。

 

 このまま丁重にお帰り願おう、とバレッタが次の作戦をひねり出そうとしたとき「はーい!」というヤケに明るい声が機械の中から響いた。

 

 コクピットの中から、黒いワンピースを着た、深く青い瞳と透き通るほどの白い肌を持った少女がエメラルドグリーンのロングヘアーを靡(なび)かせながら現れた。

 

 マセルが遺跡で出会い、海への落下中にキングストン連中に攫われた少女である。

が、マセルと出会ったときと違い、妙にハキハキしている。

 

「ソッフィアッだよー! 呼んだかなぁー?」

 

 大きく手を振り、太陽にも負けない笑顔でコクピットの上に立ち上がった。

 

 数分前、バンダルたちは、まず海へ落下するソフィアを攫った。

 

 その後ソフィアは「あなたは誰?」とマセルにした質問を、バンダルにもした。

正直に名前を名乗ったキングストン連中だったが、ソフィアは「そうではない」とあっさり却下。

 

 バンダルはなんとなくノリで「私はあなたのリーダー」と言ったところこれが正解だった。

 

 表情は満面の笑みに変わり「ようやく来てくれたんだね!」とバンダルに抱き着いた。

それからバレッタのところへ到着するまではしゃぎまわり、言うことも聞かず今に至る。

 

 遺跡にいたからお宝だと信じて同行しているものの、もうバンダルは限界だった。

 

 不意に、バレッタの持つウイントフックが、ソフィアの目に入った。

 

「あー! その靴! バンダルバンダル、あの靴を取り返して!」

 

「え、えぇ?」

 

「はやく! 急いで急いで急いで急いで急いで急いで急いで急いで~!」

 

 ソフィアは身を乗り出し、バンダルの頭を前後左右縦横ナナメに揺らした。

 

「やめなさいってこの小娘が!」

 

 釣られてバンダルの腕が操縦レバーを傾け、バレッタたちに前進する。

 

「リ、リーダー! 待ってくださいですぜ!」

 

 そんな言葉がソフィアの耳に入るわけもなく、機械はアームを振り回し縦横無尽に動き回り、止めるに止められない状況となる。

 

 そんなハチャメチャな状況に、風呂上がりで上半身ハダカのマセルが現れた。

 

 

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――マセルサイド――。

 

 波の音――。ザラザラした砂の感触。

 

 無残にも海に落っこち、カナヅチらしく流されて運よく浜辺に辿り着いたのは、トレジャーハンターのマセルである。

 

 薄く目を開き、太陽を取り込む。

なんとかメガネは無事だった。

 

「マジかよ……」

 

 海へ落ちる直前までは、天国へ飛び上がるか、海の底から地獄に直行かどちらかを心配していたものの、中間であるどこかの浜辺に流れついた。

 

「まさか、海に落ちて助かるとはな」

 

 きょろきょろとあたりを見回す。

見えるのは浜辺と植物。

それだけでは東西南北どの島なのか判別できない。

背後にはさっき落ちてきたジャメナン遺跡がある。

 

 しかしその上には、なにか違和感。

 

 マセルは空にある微かな異常が気になっていた。

いつもと少し違うような、そんな感覚。

 

「いや気のせいだ」

 

 マセルは疲れのせいだと決めて空にある違和感を振り払った――。

 

「しょうがない。少し歩くとするか」

 

 海水でぐちょぐちょな靴――ウイントフック――を箱に戻し、浜辺から離れた。

 

 マセルの目の前には横一本に道路が伸び、正面にはレンガ造りの小さな建物があって、周囲にはいくつかの木が適当に生えていた。

建物にはガレージのようなシャッターが付けられ、車かなにかが収容されているのだろう、と推測する。

 

 周囲に人の影はなく、いるのは空を渡るカモメらしき鳥たち。

道路を進んで町に出ればもう少し人はいるのだろうが、そこまで進む気力はない。

 

「とりあえず、ここでいいか」

 

 妥協し、建物の扉をノックする。

すると、住人らしき少女が扉を開いた。

 

「はい? どなたですか?」

 

 まん丸と大きな瞳。

低い身長を誤魔化すための大きな帽子が黒髪に乗っかっている。

クロスした二本のベルトに歯車型のバックルは、なぜだか都会っぽさを漂わせていた。

水色のジャケットを羽織り、黒いショートパンツの下には黒いタイツでキめ、大人っぽく見せようとする努力が伺える。

 

「女子中学生?」

 

 マセルはつい思ったことを口にした。

 

「二十歳(ハタチ)です! それより、あなた誰ですか?」

 

「オーライ、俺はマセル・エレバン遺跡から飛び出して海に落ちてとっても楽しい目にあったトレジャーハンターだ。よろしくな」

 

 まだ海水でベタベタする握手を突き出すと、少女は一歩後退して警戒する。

 

「本当にトレジャーハンター? まぁいいですけど。具体的にどう助けてほしいんです?」

 

「服を乾かして、できれば風呂に入って、遺跡で見つけた妙な靴を調べて、南のミンスクのアジトに戻って次の遺跡にアタックする」

 

ミンスク? だったら正反対じゃないですか? ここは北のキトですけど」

 

「オーライ……マジかよ」

 

 東がアクラ、西がチュニス、南がミンスク、北がキト。

 

 橋を渡れば徒歩でチュニスかアクラに行けないこともないが、その頃には太陽は姿を消しているだろう。

 

「まぁいい。それより、頼むから助けてくれ」

 

「って言われても、うら若き乙女の家に初対面の男性(オトコ)を入れるのはちょっと」

 

「そうだな、仕方ないな。まだ中学生だもんな」

 

「二十歳(ハタチ)ですってば!」

 

「仕方ない。じゃあこうしよう。俺のジャケットの胸元を見てくれ」

 

「へっ?」

 

 少女は胸元を見る。金の歯車のバッチが輝いていた。

 

「いつだったか、遺跡で見つけた。助けてくれたらこいつをプレゼントしてやる。特別だぞ」

 

「それって、もしかして圧倒的なお値打ちで?」

 

 少女の目の色が変わる。

 

「まぁ遺跡のお宝は売ることはできないが、もしお金に換算するんだとしたら、ざっと五十万エンはいくだろうな」

 

 ちなみに五十万エンとは、宝くじでも結構な額である。

 

 少女は数秒だけ迷い、決断した。

 

「……部屋はあんまり荒らさないでくださいよ」

 

 マセルはバッチを外して指ではじき、少女の家に入った――そこで、マセルはふり返って少女を指さした。

 

「ところでお前、名前はなんという?」

 

「バ、バレッタウェリントンです」

 

 歯車のバッチをうっとり眺めながらバレッタは言う。

お宝の魔力に魅入られて命を落とす人間も、こういう目をしている。

 

「そうか」

 

 バレッタの部屋の中は非常に散らかっていた。

 

 棚には歯車仕掛けの妙な機械が乱雑に置かれ“あらゆる衣服”が適当に干されていた。

床にもテーブルの上にも下にも、洗濯機ほどの大きな機械から炊飯器ほどの機械まで、マセルの理解の範疇を越えた機械が散らばっている。

 

「これ、お前が全部作ったのか?」

 

「そうですけど」

 

「じゃあ、ちょっと見てほしいものがあるんだが」

 

 箱から例の靴、ウイントフックを取り出す。

 

「なぁバレッタ、この靴、なにか知らないか? ウイントフックっていうらしいんだが」

 

「ウイントフック……」

 

 顎に手をあて、バレッタは「うーん」と唸る。

 

「ちょっと聞いたことないですね。ごめんなさい」

 

「そうか。まぁここに置いとくから好きに調べてくれ」

 

 テーブルの上の機械の上の機械の上に、ウイントフックの箱が乗っけられた。

 

 マセルはキョロキョロと辺りを見回す。

 

「それより、風呂はどこだ」

 

「え? えーと、そこ入って右です。ほとんど掃除してないですけど」

 

 右――というものがマセルの目に入らず、壁にあった冷蔵庫らしき機械の箱をずらしてようやく扉を見つけた。

まるで隠し扉だ。

 

「じゃあ俺はここで脱ぐ」

 

「はい!?」

 

「言っただろ。服を乾かすんだ。そこの壁から伸びてる変なロープに干す。いいだろ」

 

「じゃ、じゃあ後ろ向いてますから、圧倒的に急いでください」

 

「はいはい」

 

 マセルはベタベタで脱ぎにくくなった服を脱ぎ、壁から伸びているロープに服をかける。

 

「ん? なんだこれ」

 

 全てを脱ぎ終わったところで、マセルはふと床に落ちていた一枚の写真を手に取った。

 

 歯車がむき出しの小型プロペラ飛行機を背景に、大勢の人間が映った写真。

その中には、今は亡きマセルの友人であるナウル・アルマトゥイと、帽子を被っていないバレッタが含まれていた。

 

「あの中学生……あいつの知り合いだったのか。これ、ナウルが生きている頃に撮った写真か? いつのだろう」

 

 バレッタの容姿もそう変化がなかったため、古い写真ではないのか、それとも今も昔もバレッタの容姿に変化が見られないのか、どちらにせよ正確なことは分からない。

 

「なぁバレッ――」

 

 重要なことなのですぐに質問しようとしたが、質問は中断された。

 

「あの! まだですか? あの、早くしてほしいんですけど」

 

「あぁ、今から入るよ」

 

 とりあえず写真はその辺の機械の上に置いておき、マセルは風呂に入ることにした。

 

 その頃、バレッタは外でウイントフックを調べていた。と言っても、分解や改造などはできないため、ただ観察するだけである。

 

「なにもないなぁ。普通の靴っぽいし」

 

 ボタンを押してみても、それっぽい反応はない。

靴を履こうにも、サイズが合わない。

 

 やっぱり中で調べたほうが確実かもしれない。

そう思い、扉に手をかけた瞬間――。

 

「おほほほほ! お嬢さん、その靴をこっちに渡しなさいな!」

 バレッタの背後に、さきほどと同じ機械に乗ったキングストン連中が現れた。

 

「だ、だれ!?」

 

「名乗る必要は、ない! そーれスリブ、ガワン、あの小娘から靴を奪いなさいな!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 あまりに唐突な事態に、バレッタは状況をうまく呑み込めない。

 

 性格の曲がった突然の来訪者に渡された靴を狙って、マセルを上回る妙な三人組に狙われてしまう散々な今日。

 

 体中のエネルギーを脳に総動員させ、小さな頭を回転させる。

 

 ここで、バレッタに一つの作戦が浮かび上がった。

 

 ――ベルンサイド――。

 

 そんなバレッタのピンチはいったん置いておき、ところ変わって東のアクラ。

 

 マセルが海に落っことした靴の箱――アスンシオン――を東のアクラの浜辺で拾ったベルン・ロゾーのその後である。

 

 高校入学祝いに買ってもらった靴を、イジめっ子のリーダーであるスリジャに奪われ“いつものところ”へ三万エンを持って来いと命令されてしまった。

 

 命令通りにお金を渡すつもりもなく、用意もできない。嫌なことを忘れるために向かった浜辺で拾った靴の力を開放させ、偶然にも赤と黒の鎧、アスンシオンを装着することに。

 

 それは、常人を遥かに上回るパワーを誇っていた。

石を握って粉々にできるほどのパワーを使い、三人組への復讐を決意する――。

 

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 どこからともなく鎧などが現れ、サイズもピッタリに身に纏うことができた。

これは、どんな技術を用いても成しえないことだ。

 

 もう一度箱を開き、アスンシオンを取り出す。

 

 ゴクリ。

唾を飲み込み、足を入れる。

右のボタンを押すと、声は鳴らなかったが、また全身を鎧が覆った。

 

「やっぱりそうだ。凄い力を感じる」

 

 試しに近くにあった手のひらサイズの石を手に取る。

もし握っただけで粉々にできれば、アスンシオンは本物だ。

 

 思いのほか、あっさりだった。

多少の力を加えただけで、石は粉々にはじけ飛んだ。

 

「……本物だ。これが、あれば……」

 

 アスンシオンがあれば、スリジャたちを三人纏めて相手にしても勝機がある。

もう、アピアに余計に心配されなくて済む。

もう、大事な靴を奪われることなく、スリジャたちに怯えることもなく平穏な日々を過ごせる。

 

「やってやる……! こいつで、あいつらを、叩きのめしてやる!」

 

 ――マセルサイド――。

 一方、窮地に立たされたマセルは。

 

「ど、どうするっ!? どうすりゃいいんだ俺は!」

 

 少女と穴から落ちて泳げもしない海を渡るか。

見知らぬ少女を守りつつ二人を倒すか。

 カバンの中には、お宝とは縁遠いような靴があった。

もしお宝だとすれば、そして凄まじい力が隠されているのだとすれば、イチかバチかそれに賭けてみるのもトレジャーハンターとしてはアリかもしれない。

 

 マセルはそう考え、海を泳ぐよりも“勘”を頼ることを選んだ。

 

 カバンから、例の靴を取り出す。

 

「く、靴? なんで靴だっちょ?」

 

「さぁな。俺には分からんよ。俺には価値が理解できないからな。お前らのリーダーに任せる。そうだ、一応安全だってことを証明するために履いてやるよ」

 

 マセルは二人の様子を窺いながら、靴に足を入れた。

 

 ――で、これからどうすれば?

 

 履いてから何をするべきかまでは、計算していなかった。

 

ほ、ほら。安全だろ」

 

 誤魔化しつつも靴を調べる。

よく見ると右の踝(くるぶし)あたりにボタンが付いている。

 

 マセルはそのボタンに触れようと手を伸ばす――。

 

「待つですぜ! お前、なにかするつもりですぜ!?」

 

 異変に気付いたガワンが、マセルに飛びついた。

釣られてスリブも飛びつく。

 

 作戦が見破られたマセルは巧みに回避するものの、すぐさま二人の標的は少女へ移った。

 

 不気味な笑みを浮かべ、二人は少女の腕を掴む。

絵面だけ見れば犯罪そのものだ。

 

「いっひひひ、捕まえたですぜぇ」

 

「靴は後で頂くっちょ」

 

 少女はこれといって抵抗はせず、表情も出していない。まるで感情がないようだ。

 

「動くなっちょ。その靴に触れたら、このガキんちょは海の底に落ちることになるっちょ!」

 

 壁に空いた大穴から海に落ちれば、連中はともかく、少女は無事では済まないだろう。

 

「お、お前ら、その子がお宝とか言ってたじゃないか! 命はどうでもいいのか!」

 

「どれくらいケガをするかは保障はしないですぜな!」

 

「でもこいつはお宝だっちょ、なるべくなら傷つけたくはないっちょ!」

 

「どっちだよお前ら! 相当なバカだが卑怯な連中だ……」

 

 状況は打破できない……が、さらに拍車をかける事態が発生してしまう。

 

「おほほほほ! 水はチャージ完了、今度こそ追い詰めたわよマセル坊や!」

 

 機械に搭乗したバンダルが現れた。もう力づくで突破するのも厳しい状況だ。

 

「その笑い方、やめとけよ。ババ臭いぞお前」

 

「黙らっしゃいな! まだ十代の前半だわ!」

 

「リーダー! ホントは二十代の後半だってことは黙っておきますぜ!」

 

「黙れバカ! 二十代前半じゃい!」

 

 キングストン連中のコントに苦笑いしつつも、マセルは諦めずに作戦を練っていた。

 

 靴のボタンに触れれば、少女は海へドボンされる。

 

 靴の凄まじい力――未知数だが――それさえ解放できれば勝機はあるだろう。

が、少女が人質になっている以上は失敗は許されない。

ならば、相手に隙を作るしかない。

 

「おいバンダル、そーいやお前、なんかこの前より太ったんじゃないか? パンケーキの食いすぎか? それとも体がパンケーキで出来てるのか?」

 

 マセルの単純な挑発によって、バンダルの怒りの導火線に火が点いた。

 

「な、ななな――」

 

「ホラ、来いよ。その自慢の機械(おもちゃ)で、俺を倒してみな」

 

「ななななな! なぜパンケーキのヤケ食いのことをぉぉ!」

 

仕掛けた挑発に乗った……というより乗りこなしたバンダルは、機械のボディに収納されていた腕を出現させた。

 

 長く伸びる細い腕。

ドラム缶くらいなら余裕で掴めるサイズの五本指のアーム。

その指で握りこぶしを作り、真上からマセルを殴りつけた。

 

「おっと!」

 

 素早い身のこなしで垂直にジャンプし、見事にアームの上に乗っかる。

 

 アームの上でしゃがんだマセルは、着地と同時に右の靴に触れていた。

 

【ウイントフック キドウ キドウシャ カクニン】

【ウイントフック キドウ キドウシャ カクニン】

【ウイントフック キドウ キドウシャ カクニン】

 

 靴から謎の男の声が響き軽く動揺する。

しかし引き下がるわけにもいかない。

 

 マセルはバンダルに背を向け、少女に向かって一直線に飛んだ。

少女を抱きかかえて、あとはもうどうにでもなれ。

一緒に海へドボンだ。

 

「「「逃げたっ!」」」

 

 キングストン連中が目を丸くし、口をあんぐり開く。

豆鉄砲で撃ち抜かれたハトの状態だ。

 

 要するに、以外すぎる行動に驚いたのである。

 

「俺は泳げねぇ! けど、この変な靴のパワーに頼ってやる!」

 

 すでに遺跡からは飛び出し、マセルと少女は落下している。

だが高所恐怖症のマセルは落下中にもかかわらず失神寸前だ。

 

「あぁあぁぁあぁぁああぁああああああ!!!」

 

 なんとかしろ、なんとかしろ、なんとかしろ、変な靴!

 

 必死の願いは虚しく届かず、代わりにバンダルが上からアームを伸ばしてきた。

 

 落下中に少女を奪い取る算段だ。

だが失神寸前のマセルに少女を守る曲芸はできない。

 

 腕が迫る。

五本指のアームが開き、高速でマセルたちを狙う。

 

「も、もうダメだぁ……」

 

 失神五秒前。

不意に、少女が口を開く。

 

「ソフィア」

 

「あ?」

 

 微かに、マセルの耳に声が届く。

 

「名前は、ソフィア」

 

 その自己紹介を合図にしたのか否か定かではないが、マセルの足を始点に全身を鎧のようなものが覆い始めた。

 

 指先から肘にかけて、茶と青のツートンカラーの手袋。腰までは青いラインの入ったウェットスーツのような茶色いスーツ。

 

ヘソの下あたりには青い宝石が光り、胸は青を基調として茶色いラインの入ったプロテクターが付けられていた。

 

 極め付けに、頭には全体を覆うヘルメットがある。

頭の形に合わせた茶色いメットで、口元は銀、鼻先から後頭部にかけて青い一本のツノが付けられていた。

メットの左右には、ベルンと同じく半分に切った茶色い歯車。

 

 まさにベルンと同じ状況である。

 

 急にコスプレ衣装のようなものを身にまとい、さすがのマセルも驚きを隠せない。

 

 全身にパワーがみなぎる。

起死回生のチャンスだ。

マセルは心の中でガッツポーズを取る。

それでも容赦なくバンダルの腕は伸び続け、少女に迫る。

 

「こいつで、こいつでこの子を守る! ソフィアを! うぉぉぉぉおおお!」

 

 気合の入った雄たけびを残し、マセルは落下しながら失神した。

むしろ気合を入れたからこそ、マセルは限界に達して失神してしまった。

 

 ソフィアはバンダルの腕に捕らえられ、マセルとは正反対に徐々に高度を上げていく。

 

 糸の切れた人形のように、マセルは真っ逆さまに深い海へ消えていった……。

 

 

 さて、ここでひとまず世界観の説明をしておきます。

面倒だっていう方は、無視しても問題はありませんよ。

 

 まずこの国のことをプライアランドと言い、大きく分けて四つの地域に分かれています。

 

 東がアクラ、西がチュニス、南がミンスク、北がキトです。

全部まとめてトキョー島という名前になっています。

 

 それらはそれぞれ二本の大きな橋で繋がっていて、中心には海があり、トレジャーハンターがウズウズするような遺跡がたくさん存在します。

島の外側にも海の中にも島の上にも遺跡はたくさんあります。

 

 まぁほとんどは古代の人が仕掛けたトラップだらけで危ないんですけどね。

 

 次に技術に関してです。

火や光や電気は存在していますが、火力や工学や電気技術といった類の技術はあまり発達していません。

が、車や飛行機やカメラや携帯は普通に存在します。

 

 じゃあ、それらはどうやって動かすのか。

それはズバリ、水をエネルギーにしています。

 

 液晶だとか電波なんかは電気とかを使っているらしいですが、電池やバッテリーは水を利用し、乗り物にも水を入れて動かすのです。

おかげで悪いガスが出ることなく、海に変なオイルが漏れることもありません。

 

 建物などに関しては、現代ヨーロッパあたりをイメージしてくれたらいいと思います。

 

 あ、最後になりますが、トレジャーハンターに関してです。

 ハッキリ言って泥棒です。

狙いが人の物か、遺跡の中か、が違うだけで。

遺跡は侵入するだけでも危ないですし、お宝は手に入れたとしてもお金には代えられないらしいのです。

どれだけ値打ちがあっても法律で禁止されていて、合法的には裁けないようになっています。

 

 でも裏でお宝を流す組織もいるようで……。

 

 美術館とかお金持ちのマニアとかに依頼されれば、お宝を持ってきた報酬を出すこともあるそうですが、それはあくまで“依頼の報酬”なのでギリセーフらしいです。

それにもいろいろな面倒な手続きが必要みたいですけどね。

 

 とまぁ大まかに説明はしておきましたが、どうでしょうか?

街並みもなかなか綺麗で空気も美味しくていいところだと思います。

 

 ……あ、そろそろ長くなってきたのでヤメにしましょうか。

 

 え? 私が誰だって? しがない地の文です。

忘れてください。

 

さて続きは、海に落ちたカナヅチのマセルがどうなったのか・・・。

 

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「あっ! 待つですぜ!」

 

「そいつは渡さないっちょ!」

 

 湖の部屋を出てすぐ右へ曲がり、遺跡の入口へ突き進む。

トラップなら全て解除済みだ。

少女を連れていても問題なく進める。

 

 はずだったが。

 

「なにっ!?」

 

 天井から壁が落ち、道は呆気なく塞がれた。

 おそらく遺跡の緊急防壁か、もしくは少女を連れたことで発動するタイプのセキュリティか――マセルは自分なりに分析しつつも次の逃げ道を頭の中からひねり出す。

 

 あとは二つの箱があった部屋か、もう一つはキングストンが激突して開けた大穴か。

 

「おいおい、マジかよ」

 

 箱があった部屋は行き止まり。

隠し部屋もない。

さきほど空いた穴から飛び出すならば、手始めに海へ落ちなくてはならない……つまり、高所から落ちるということ。

つまり、海へ落ちて自力で泳いで陸までたどり着かなくては命がないということ。

つまり高所恐怖症+カナヅチを組み合わせたマセルにはあまりにも無謀な冒険だということだ。

 

 それも、少女と一緒に、だ。

 

 そんなこんな迷っている最中にも、スリブとガワンは迫る。

 

「ど、どうするっ!? どうすりゃいいんだ俺は!」

 

 ――ところ変わって、とある少年ベルンの視点――。

 

 マセルが苦悩している一方、遺跡から少し離れた陸地にある町”アクラ”の路地裏では、別の意味で苦悩している少年がいた。

 

 少年の名はベルン・ロゾー。歳は高校一年生で、性格はマセルとは正反対のひ弱な少年だ。

短い金髪、平均的な身長。

バイオリンが得意ということを除けばこれといった特徴はない。

 

 ベルンは今、三人の少年によって攻撃を受けている。

つまりイジめられているのである。

 

「おいベルン、今日は持ってきただろうな」

 

 ベルンの制服の胸ぐらを掴んで壁に押さえつけたのは、ガキ大将のスリジャ。

その後ろにいる腰ぎんちゃくが、ワルダとナプラである。

 

「きょ、今日は持ってきてないよ。お金なんて」

 

「はぁ? たったの二万エンでいいんだぞ。親から盗んで持ってこいよ」

 

 二万エンもあれば、そこそこ身なりの良い服装を整えられる。

高校生にとっては、はした金などではない。

 

「そ、そんなの無理だよ……二万なんて……」

 

「だったら――」

 

 スリジャは拳を固く丸め、ベルンの顔にお見舞いした。

 

「うっ!」

 

 アザが生まれ、口と鼻から血がタラリと流れる。

それでも飽き足らず、スリジャは胸倉を掴

んで放り投げた。

 

「しょうがねぇな。たったの二万エンも持ってこれないんなら、こうしてやる」

 

 スリジャが二人に「やれ」と合図すると、ワルダとナプラはベルンの靴を脱がした。

 

「や、やめてくれ」

 

「これよ、良い靴らしいな。金持ちがよく履いてる靴なんだろ」

 

 ベルンが高校入学祝いに買ってもらった、黒い革靴。

それを盗まれるくらいなら、もう一発顔を殴られたほうがマシだった。

 

「か、返してくれよ。それは……」

 

「あ? なんだよ。返して欲しかったら二万エン持ってこい。いや、どうせなら三万エン持ってこいよ。そしたらこの靴を返してやる」

 

「そ、そんな」

 

「悪いなベルン、俺は手加減が苦手なんだ。用意できたらいつもの場所に来いよ」

 

 スリジャたちは靴を奪い、倒れるベルンを放置してその場を後にした。

 仕方なく、裸足のままベルンは立ち上がる。口と鼻から流れた血を拭い、路地裏から出た。

 

「……海に行こう」

 

 言われた通り三万エンを用意するのは不可能で、力づくで取り返すのはもっと無理だ。

迷ったときはとりあえず海に行く。

打開策が出るわけではないが、海に行くと心が安らぐのだ。

 

「あれ、ベルンだ。どうしたの?」

 

 海。ベルンの傍に来たのは、幼馴染である少女アピアニコシアだった。

 

 晴れ渡った空に引けを取らない白い素肌は、太陽にも負けず焼けることを知らない。

うるっとした瞳は、ベルンと同じく高校生ながらも大人びた印象を持ち、多少ベルンの世話を焼きすぎることとブレザーの制服を着ていることを除けば大人そのものだ。

 

 麦わら帽子の下に伸びる金のロングヘアーが風になびき、アピアは髪を押さえた。

 

ベルンは、その横顔が好きだった。

 

「ねぇ、ベルン、またスリジャたちに殴られたでしょ」

 

 ハッキリと顔を見たわけでもないのに、あっさりと見破られてしまった。

 

 できればベルンは傷について触れてほしくなかったのだが、バレてしまっては仕方ない。

 

「え、う、うん。少しだけだよ」

 

「ホント、卑怯だよね。三人で寄ってたかってさ。ベルンもガツンとやり返してやりなよ」

 

 と、言われても、ベルンにそんな度胸はない。

 

「私から言っておこうか?」

 

「ダメだ。危ないよあいつらは」

 

 口では強気でも、内心では女子に助けられることが何より嫌だった。

心を見透かされたくなくて、ベルンは話題を変える。

 

アピアはどうしてここに来たの?」

 

「どうしてって、海が見たくなったから。もしかして一人になりたかった?」

 

「い、いや、別に」

 

 本当なら一緒にいてほしいところだったが、傷だらけの自分を見せるのも気が引けた。

 

「分かった。一人になりたいのね」

 

 言葉の裏にある本心に気づき、アピアは背を向ける。

 

 どうしてこんなに自分は弱いのか。

 ベルンは答えのない疑問に対する答えがほしかった。

 

「病気、大丈夫?」

 

「うん。今はなんともない」

 

 アピアは幼い頃から病気だった。

二十歳までしか生きられないという、ソウル病だ。

生まれたとき、一千万人に一人だけが発症するという難病である。

 

 発見はできるものの、今の時代では治療できない。

ときどき軽い目眩がやってきて定期的に薬を飲み続けなくてはならないという点と余命以外には、これといった異常はない。

 

「そっか、じゃあまた今度」

 

 今度こそ、アピアはその場をあとにした。

 

「あれ? あれ、なんだろう」

 

 ふと、浜辺の端を見る。そこには見慣れないなにかがあった。

 

 小さな箱が石の隙間に引っかかっている。ベルンが近寄って手に取ったが、なぜかカギが差しっぱなしになっていた。

 

「もしかして、あの遺跡から来たのかな?」

 

 その遺跡とは、今まさしくマセルが決断を迫られている、目の前のジャメナン遺跡のことである。

 

 この国”プライア”では、未踏の遺跡がいくつも存在する。

いつから存在し、誰が作ったのか不明で危険も多い。

それこそ、マセルのようなトレジャーハンタ―でもない限り、足を踏み入れた直後にトラップの魔の手で八つ裂きにされてお終いだろう。

 

「でも、もしも箱が遺跡から来てたら、これはお宝なのかな?」

 

 ベルンは差さっているカギを回す。

 開いてみる――。

 

「なんだこれ?」

 

 幾何学的な赤い模様が描かれた黒いブーツが入っていた。

サイズはベルンに丁度よく作られていて、そして偶然にもベルン自身も裸足だった。

 

 何もなければそれでよし。

イチかバチか、ベルンはその靴を履いた。

 

「ん……?」

 

 予想通りサイズはピッタリだったが、お宝の呪いなどは特に感じなかった。

 

「なんだ……ただのボロ靴か」

 

 その靴を脱ごうと手をかけたが、靴に付いたボタンのようなものが目を引いた。

 

「これ、なんだろう……」

 

 右足の踝(くるぶし)のあたりにあるボタンを押すと、突然、誰の声が響いた。

 

アスンシオン キドウ キドウシャ カクニン】

アスンシオン キドウ キドウシャ カクニン】

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「うわっ!」

 

 靴から謎の女の声が流れ、腰を抜かす。

 立ち上がろうと自分の足元を見ると、その足が自分の足でないことに気づいた。

 

「な、なななななんだよこれ」

 

 足の先からみるみるうちに黒く変化していく。

いや変化というよりは、靴を始点に服の上から別の服が出現しているのだ。

 

 なすすべなく、ベルンの全身に別の服が纏わりついてくる。

 

 海に写った自分を確認すれば、黒と赤のツートンカラーの手袋に、腰までは赤いラインの入ったウェットスーツのような黒いスーツが出現していた。

 

 ヘソのあたりには赤い宝石が光り、胸は赤を基調として黒いラインの入ったプロテクターが付けられている。

極め付けに、頭には全体を覆う黒いヘルメット。

口元は銀、鼻先から後頭部にかけて赤いVの字のツノが付けられていた。

メットの左右には半分に切られた黒い歯車がある。

 

 まるで漫画かなにかに出てくるような、コスプレ。

 

「たしか、靴から流れた声はアスンシオンって言ってたかな」

 

 詳しくは理解できなかったが、まずはアスンシオンとやらを解除したかった。

 

右でこうなるなら、と、左の靴のボタンを押すと、アスンシオンは無事に解除されてベルンはいつも通りの姿に戻った。

 

 恐ろしくなり、すぐに靴を脱いで箱に戻してカギをかけなおす。

 

「いったいなんなんだよ、これ」

 

 箱や靴のことは忘れて、まずは自分の靴を取り返す算段を練ろう。

そう自分に言い聞かせて、深呼吸をしてから、その場を後にした。

 

 のだが、すぐに戻ってきてしまった。

 

 アスンシオンが全身を覆ったとき、大きな力のようなものを感じていた。

 

 恐怖と、恐怖を凌駕する力――。

 

「もしかして、これって凄いものなんじゃ」

 

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 仕方がないので、箱はカバンに戻して遺跡の奥へ進むことにした。

穴の開いた壁には背を向け、走り抜けた道を引き返す。

 

 分かれ道は二本。

左は先ほど二つの箱を見つけた道。

箱以外にお宝はなく、隠し扉のようなものもなかった。

 

 右を真っすぐ進むと遺跡の入り口へ続く長い長い道。

階段や様々なトラップもあり、戻るのも簡単ではない。

入口への道に真っすぐ進まずにさらに右へ曲がると、そっちはまだ未踏の部屋だ。

 

どんなお宝が待っているのか知る者はいない。

逆に言えばどんなトラップが待ち受けているのか、誰も知らない。

 

 箱を落としたショックを引きずりながら、希望を求めて未踏の部屋へ歩きだした。

 

 奥に辿り着いたとき、ショックなど忘れて目を疑った。

もちろん、いい意味で、だ。

 

 そこは軽くスポーツくらいならできそうなほどの広い部屋で、湖のように水が張っている。水は光る天井によってキラキラと輝いていた。

 

「天井から照明みたいに光が出てるだけでも驚きだが、こんな湖みたいなものもあるとは」

 

 泳いで奥を調べるのは不可能だが、水に触れるくらいならカナヅチのマセルでもできる。

 

 しかしマセルには違和感があった。

ここに到達するまでは様々なトラップが行く手を阻んでいたのに、この湖の部屋にはなにもない。

トラップがないことが逆に怪しい。

 

 マセルは警戒しつつ、水に触れて確認する。

 

「ほどよい温かさだな。お湯とまではいかないけど、入っても問題なさそうだ」

 

 靴を脱いでカバンを降ろし、湖に足だけ入れてみる。

とくにこれといって異常はない。

 

 足で床を探ると、すぐ先が一部だけ深くなっていることに気づいた。進めば水の底にドボンは確定だが、そんなことで諦めるわけにもいかない。

 

「うううう、なんでよりによって水なんだよぉ」

 

 意を決して――厳密には決していないが――深いところへ――。

 

「あ?」

 

 進もうとしたところ、目を凝らすと水の底から何かが浮き上がってくるのが確認できた。

 

「まさか、水の中にあるお宝が浮いてきたのか?」

 

 ワクワク半分、ドキドキ半分で、マセルはその浮いてくる物体を見ていた。

 

 すると――。

 

 水の底から、少女が飛び出した。

歳は小学校高学年ほど、身長は百五十ほどの小柄である。

 

 大地を吸収したような見事なエメラルドグリーンのロングヘアー。

海を凝縮したような深い青の瞳。

空を張り付けたような、透き通るほどの白い肌。

右の頬には赤い塗料で太陽のマークが、左の頬には青い塗料で三日月のマークが描かれている。

小柄な身体の上に黒いワンピースは美しさを引き立てていた。

 

 マセルに“そっち”の趣味はないが、マセルから見ても美しい少女だった。

 

 驚きのあまり腰を抜かし、尻と手が水に浸かってしまう。

 そして驚くことに、少女は水の上に立っていた。

 

 マセルがずれたメガネを直してよく確認すると、少女はゆっくりと目を開き、しっかりとマセルを見据えた。

 

 そして一言。

 

「あなたは、誰?」

 

 質問の意味は分かっていても、質問の意図が掴めない。

 

「お、俺はマセル・エレバン。トレジャーハンター。渡り鳥って呼ばれている。高いところと水の中はキライだが」

 

「いいえ、そうではない。あなたは、誰?」

 

「は? 意味わかんねぇよ」

 

 再度マセルが質問をぶつけようとした、そのとき――。

 

「そのお宝、頂いたわよマセル坊や!」

 

 どこからか聞き飽きた声が響く。

天井の一部が丸く崩れ、先ほど海へ落ちたはずのキングストン連中が、また同じ機械に乗って出現した。

 

 二本の脚の先が丸く開き、機械はアメンボのように水の上に浮かび、背中からホースを伸ばして水を吸い始めた。

 

 この世界の火力や工学や電気技術というものはあまり発達せず、機械は全て水と歯車で動く。

水なくして機械は動かないのが、この世の常識である。

 

 という細かい説明は後回しでいいとして、とにかく下から上から現れるお客さんのせいで、マセルの頭はパンク寸前だった。

 

「その少女は頂いたわよ! そいつはきっとお宝よ! もしくはお宝の秘密を隠してる!」

 

 後ろのスリブとガワンも、うんうんと頷く。

実に根拠のない自信過剰である。

 

「っていうか、お前らはどっから来たんだ! さっき海へ落ちたんじゃないのか!」

 

「そんな細かいことはどーでもいいの。悪役は神出鬼没なのよ! 覚えときなさいな!」

 

「オーライ。そりゃ、今後も楽しみだね。次は水たまりからお出ましか? それともツボからジャジャジャジャンか? よろしくなゴキブリトリオ」

 

 あくまでジョークで返すマセルは、余裕の表情だ。

 

「余裕ぶってるのも今のウチよ! スリブ、ガワン、あの少女をこっちに連れてきなさい! できるだけ“丁重に”ね!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 スリブとガワンが機械から降り、少女に背後から近づく。

 少女の存在を知る人間はここにはいないが、なにか大きな秘密があることは、出現した場所からも想像ができた。

少女がキングストンに攫われるのはマズいということは理解できる。

たとえ少女でなくとも、キングストンの手に渡るのは阻止せねばならない。

 

 今は亡き、親友のためにも――。

 

 マセルは少女の手を引き、カバンを手に取って裸足のまま一目散に逃げた。

 

 

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一章 冒険野郎と復讐少年 編

 

 さっそくだが彼はピンチである。

 

 渡り鳥――という男をご存じだろうか?

空から空へ飛びまわり、遺跡から洞窟から縦横無尽に駆け回って宝を集めるトレジャーハンターである。

 

 そんな彼の名は「マセル・エレバン

 

 丸いメガネに茶のジャケット。胸元には金に光る歯車のバッチが付けられている。

 

 ボサボサの黒髪に黒いスカーフは彼なりのオシャレのようだ。外見だけなら知的で優しそうな好青年だが、中身はまるで違う。

 

 正義感こそあるものの、とにかく冒険好き。そして何より危険ととなり合わせになるのが大好物という、変わった性格である。危険の種類にもよるが……。

 

 繰り返すが、マセルはピンチである。マセルにとって命の危機なんてものは、トーストからマーガリンがこぼれるくらいどうってことのない日常茶飯事なのだが、まぁ暖かい目で見守ってあげてほしい。

 

「またあいつらしつこく来やがって! 俺のトレジャーハンターライフを邪魔するな!」

 

 ここは海の上に存在する遺跡で、名はジャメナン遺跡。マセルがいる場所は海面より数十メートルは高い部分にある一本道である。遺跡の天井はなぜか光っていて照明の心配はない。

 

 半分に切ったタマゴに足が生えたような二メートルほどの機械が背後から迫っている。これがピンチの正体である。

 

「マセル坊や、今度こそその首とったげるわ!」

 

 機械に搭乗するわ悪のトレジャーハンター――その名も”キングストン”の”バンダル””スリブ””ガワン”

 

 リーダー格の女であるバンダルは偉そうにマセルを指さした。

 

 片目を隠した金のロングヘアーに、隠されていない目は切れ長。白と黒が縦に別れたカラーリングのネクタイでクールに決めている。化粧が濃く口調が古いため、二十代前半でありながら二十代後半に間違われることもしばしばなのがたまにキズ。どうやら大人の階段を駆け上りすぎてしまったようだ。 

 

「やってしまいなさいお前たち! あの坊やの持ってる箱を奪うのよ!」

 

「「承知でガッテン!」」

 

 狭いコクピットからむくむくと現れたスリブとガワンは、いわゆるバンダルの腰ぎんちゃくというか部下というか、家来である。

 

 スリブは細身で長身、ガワンは小太りで小さい。どちらも黒いジャケットにサングラスに黄色いネクタイという、非常に分かりやすい悪役らしい恰好である。よくいる悪役コンビだ。スリブの口癖が「ちょ」で、ガワンが「ですぜ」なので、それで覚えればよい。

 

「危ないですぜリーダー!」

 

「不安定なんですから、大人しくしててちょ!」

 

 調子に乗ったバンダルを二人で止めようとするもバンダルは止まらない。そんな三人を、マセルは後ろ向きに走りながら両手で指をさす。

 

「おいおいお前ら、よくも飽きずに俺の邪魔できるな!」

 

「あんたが邪魔したくなるようなところにいるからイケないのよ! 邪魔されたくなかったら、邪魔されないようにどっかに行ってなさいな!」

 

「リーダー! 発言が支離滅裂ですぜ!」

 

 マセルが向き直り真っすぐに走り続けると、その先はまさかの行き止まり。キングストン連中に押しつぶされれば絶体絶命だ。

 

「いや、まだ終わらねぇ!」

 

 マセルは天井を確認する。

 天井まで二メートル以上。この絶好の場所を利用しないわけが、ない。

 

「おほほ! マセル坊や、そのまま壁とキスして潰れちまいなさいな!」

 

 キングストンの機械が背後から迫る。当然、ブレーキをかける気もスピードを緩める気もなく、前進を続ける。

 

「そうかい、じゃあ、そうさせてもらおうかな!」

 

 マセルは垂直の壁に足をかけ、その流れで壁を登った。キングストン連中の目が点になり、口があんぐりと開かれる。

 壁を蹴って後ろへ一回転し、マセルがキングストン連中の真上まで飛び上がった頃、ようやく三人は壁と激突することに気づいた。

 

「リーダー! 前! 前! 激突するっちょぉぉぉ!」

 

「はやくブレーキしなさいな!」

 

「しまったですぜ! ブレーキをつけ忘れたんですぜぇえええ!」

 

 マセルは余裕の表情で背後に着地。後ろからキングストン連中に手を振った。

 

「また遊ぼうぜぇ! キングストン!」

 

 壁と激突――。

 そのまま倒れるだけならまだ良かったものの、壁を突き破り真っ逆さまに海へと落下していった。

 

「「「あぁああああああ!!」」」

 

 数十メートルは落下し、それぞれが着水完了。いくつかの大きな水紋が現れる。

 

 マセルが壁に空いた大きな穴から下を覗くと、全身に鳥肌がたった。

 

「うぅぅ……高っけぇ……そして海か、気の毒なキングストンだな」

 

 マセルにはトレジャーハンターとして決定的な弱点がある。それは空と海、すなわち高所恐怖症でありカナヅチ(泳げない)なのだが、怖いもの見たさでつい確認してしまうのだ。

 

「あーあ、空と海の遺跡だけは死んでも行きたくないね」

 

 それでも海や空を越えないと辿り着けない場所だってある。遺跡の中にいてもトラップとして水が流れることもあれば、地下遺跡かと思いきやトラップが動き出して天まで伸びることだってある。勘弁してほしいと思いつつも、お宝を求める探究心は収まらない。

 

 そんなこんなでまたもや危機をかい潜ったマセルは、遺跡の奥で発見したメロンほどのサイズの箱を二つカバンから取り出した。一緒に見つけたカギもポケットから取り出す。

 

「えーと、これこれ、これだな」

 

 箱に鍵を差し込もうとした、次の瞬間――。

 

「あっ」

 

 と口を開けた直後、手が滑り、片方の箱がカギが差し込まれたまま穴の穴へ飛んで行った。

 

「待て待て待て!」

 

 追いかけて穴から下を覗くも、時すでに遅し。せっかく見つけた箱は真っ逆さまに海へ吸い込まれていった。

 

 泳ぎが得意ならば飛び込んで回収するのも手ではあるが、あいにくマセルにそんな芸当を求めるのは野暮というものだ。

 

「ちくちょー……」

 

 仕方がないので、マセルは涙を浮かべながら残った箱に鍵を差し込んで回す。小気味の良い音が鳴る。フタを開くと、マセルの予想から外れたお宝が姿を現した。

 

「なんだ、これは?」

 

 中にあったのは、一言で言えば靴。

 

 膝下まで長いこげ茶色のブーツで、マセルの服とほぼ同じ色だった。青い宝石(のようなもの)で縁取られていて、サイズもマセルに丁度よさそうなものだった。

 

 なぜ、海の上に高くそびえる遺跡の中に靴があるのか? マセルの頭は疑問符で溢れる。

 

「とりあえず履いてみるか……?」

 

 履いた瞬間に呪われて脱げなくなるか、履きたい欲求こそがトラップの引き金となって足をもぎ取られるか、どちらかかと予想する。

 

 とりあえず、マセルは履くのは諦めることにした。箱にしまってカギをかける。そして、大きくため息。

 

 ハズレを引いてしまった。

 

 海に落としてしまったもう一つのほうは、きっと金銀財宝だったのだろう。そんな後悔をしても、箱は一つしかない。

 

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